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本編(表)
ーー 傍観者を気取っていました02
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「えーわかんないなー。あ、橙野さん、わかる?」
「え?」
急に声を掛けられて、びっくりした。
彼女の事も(どのキャラのルートにいくんだろう)と傍観しているだけで、普段は親しくしていなかったからだ。ちなみに彼ら三つ子の見分け方は、長男が微かに一番前に立つ。次男はその少し後ろで右足が若干後ろに引いている。三男は、ほんの少しだが頬が赤くなる―である。(公式攻略本参照)
「じゃあ、どっち?」
「どっちだ?」
う……。
双方の瞳がこちらをじっと見てきた。しかも、今日は“三男”が来ている。
正解は、右が『陸』左が『空』
どうしよう……。確か彼らのゲームは『正解』すると好感度が上がるのだっけ? なんとしてでも外さなきゃ。
私が攻略キャラたちとの接触に焦っていると、桃園さんがこっそりと耳打ちしてきた。
「私はー、右が『空くん』でー、左が『陸くん』と思っているよ?」
「え? 右が『陸くん』で左が『空くん』でしょ?」
あ゛っ
思わず大きな声で言って口を押えるが後の祭り。
おそるおそる清流の二人を見ると、目を見開いた後に、すぐさま鋭い目つきに変わってこちらを睨みつけている。
「……橙野先輩? でしたよね?」
「……ちょっと、来てもらえる?」
有無も言わさずに、片方の手を一人ずつ掴んで、私は引きずられるように連れて行かれた。
ヒロインである桃園さんの方をみると、彼女はニコニコと手を振りながら何かを言っている。それは、口パクで「頑張って」と、私だけに。
まさか―ハメられた?
誰もいない教室に連れられ、ガチャリと鍵をかけられた。
「どうして、『空』の事、知っているの?」
「僕の事は、誰も知らないのに」
殺気立って、詰め寄る二人に後ずさりしながらも、なんとしてでもごまかさなければならない。
「……ま、まちがえた~。てへ」
「……」
「……へぇ」
あわわわわ。怖い。確かドSキャラは白兼生徒会長だけど、この清流の三つ子もドSなのだ。っていうか、ヤンデレは基本ドSだよね? 自己中心的だし。思い通りにならなかったらすぐにキレるし。殺そうとするし。監禁するし。子どもじゃん。暴力的な子どもじゃん。ヤンデラーではあるけれど、関わるのはごめん。“YESヤンデレNOタッチ”なのだから! もはや逆切れ状態。
「だって、名前が! 陸海ときたら空! 陸海空! その三つがないとおかしいって思っていたから、思わず声に出ちゃっただけだし……」
我ながら苦しい言い訳だと思う。でも、その言葉に空が反応した。
「おかしい……」
「空……」
なによそれ。
その日は名前とクラスとメルアドをしっかり白状させられて教室に帰された。
そして私は――三つ子ルートに入ってしまったようで。
あの日以来、教室に三つ子が入れ替わり立ち替わりやってくる。登下校、休み時間、昼休み、そして休日。一瞬の隙も逃すつもりはない監視体制。必ず三つ子の誰かが、私の傍にいて離れない。家に送られる度に、真顔で家を睨みつけられているなんて見てはいない。
怖い。連携プレイ超怖い。そして、何をしても“フラグ”が折れない。ピンチである。
◇
いつものように無理矢理、清流家に連行された。
目の前の三つ子、右から陸・海・空と扇状に並んで私を取り囲んで座っている。私を見つめる六つの瞳。三つの美少年顔。至福の眺めのはずなのに、怖い。超怖い。
「舞ちゃんってば、プルプル震えちゃっていて、可愛いなぁ」
「本当に、ウサギちゃんみたい! うちで飼いたい!」
「それがいいね! 僕らの誰かは必ず家にいるし。ずっと、ずっとずぅーと、一緒にいられるね!」
ヒィィィ。勝手に盛り上がらないで。今日こそは、はっきりと言わなくちゃ。この世界で私はモブで、君たちの相手はヒロイン(桃園さん)という事を。
「あの……桃園さんはどうしたの? それに、私……ファンクラブとかに目をつけられたら怖いし。それに毎日……一緒じゃなくても」
「ファンクラブなら、解散させたよ? 桃園先輩? あれ? もしかしてヤキモチ? うわぁ……めちゃ可愛いんだけど。可愛い。可愛い。可愛い」
「不安だった? ごめんね。これからはもっと一緒にいてあげるね。舞ちゃんって、ほんと可愛い」
「舞ちゃんに何か言ってくる奴なんて、ころ……近づかせないから! 安心してね!」
ヒィ! 今『ころ』って言った! 変換したら『殺』じゃないよね? ね?
それに、ヤキモチじゃないし! フェェェ。あの日の自分が憎いよぉ。
喉がカラカラになって、目の前にあるジュースを飲み干した。
ジュースを飲み干して五分程たつと、ゆらゆらと揺れる視界。彼らの瞳が鈍く光って、私を取り囲む。三人揃って、怪しく微笑んでいた。
あれ……このシーン、どこかで見た気が……? これ、もしかして……監禁ルートのス……チル……じゃな……い?
そして私は意識を失う。
このゲームをしていた時に、ヤンデレの出す飲食物をむやみに口にするヒロインってバカじゃない? なんて思っていたはずなのに……。
目を覚ますと、五、六人は眠れそうなベッドの上でフカフカとまどろんでいた。それを囲む、上半身裸の三人。
「……ん」
フラフラする頭を抱えると「大丈夫?」と心配されるが、まだ上手く身体が動かない。
「さて、舞ちゃん。子作りをしようか?」
「僕たちも初めてだけど、ちゃんと勉強をしたから安心してね」
「もちろん、舞ちゃんも初めてだよね?」
初めてじゃなかったらその相手を殺しちゃおう。ねー。そうそう。
――なんて明るく言っているけど……。
「何を言って……」
「舞ちゃんが何かあった時に、『ストック』がいないと大変でしょ?」
「いっぱい、子ども作ろうね」
「『ストック』は、沢山いた方が安心だもんね。うふふふふ」
(ストック? え? 三人?)
えええええええええ!!
――“ヤンデレ乙女ゲーム”の世界に転生したら無闇矢鱈に傍観せず、速やかに転校する事をオススメします。
「え?」
急に声を掛けられて、びっくりした。
彼女の事も(どのキャラのルートにいくんだろう)と傍観しているだけで、普段は親しくしていなかったからだ。ちなみに彼ら三つ子の見分け方は、長男が微かに一番前に立つ。次男はその少し後ろで右足が若干後ろに引いている。三男は、ほんの少しだが頬が赤くなる―である。(公式攻略本参照)
「じゃあ、どっち?」
「どっちだ?」
う……。
双方の瞳がこちらをじっと見てきた。しかも、今日は“三男”が来ている。
正解は、右が『陸』左が『空』
どうしよう……。確か彼らのゲームは『正解』すると好感度が上がるのだっけ? なんとしてでも外さなきゃ。
私が攻略キャラたちとの接触に焦っていると、桃園さんがこっそりと耳打ちしてきた。
「私はー、右が『空くん』でー、左が『陸くん』と思っているよ?」
「え? 右が『陸くん』で左が『空くん』でしょ?」
あ゛っ
思わず大きな声で言って口を押えるが後の祭り。
おそるおそる清流の二人を見ると、目を見開いた後に、すぐさま鋭い目つきに変わってこちらを睨みつけている。
「……橙野先輩? でしたよね?」
「……ちょっと、来てもらえる?」
有無も言わさずに、片方の手を一人ずつ掴んで、私は引きずられるように連れて行かれた。
ヒロインである桃園さんの方をみると、彼女はニコニコと手を振りながら何かを言っている。それは、口パクで「頑張って」と、私だけに。
まさか―ハメられた?
誰もいない教室に連れられ、ガチャリと鍵をかけられた。
「どうして、『空』の事、知っているの?」
「僕の事は、誰も知らないのに」
殺気立って、詰め寄る二人に後ずさりしながらも、なんとしてでもごまかさなければならない。
「……ま、まちがえた~。てへ」
「……」
「……へぇ」
あわわわわ。怖い。確かドSキャラは白兼生徒会長だけど、この清流の三つ子もドSなのだ。っていうか、ヤンデレは基本ドSだよね? 自己中心的だし。思い通りにならなかったらすぐにキレるし。殺そうとするし。監禁するし。子どもじゃん。暴力的な子どもじゃん。ヤンデラーではあるけれど、関わるのはごめん。“YESヤンデレNOタッチ”なのだから! もはや逆切れ状態。
「だって、名前が! 陸海ときたら空! 陸海空! その三つがないとおかしいって思っていたから、思わず声に出ちゃっただけだし……」
我ながら苦しい言い訳だと思う。でも、その言葉に空が反応した。
「おかしい……」
「空……」
なによそれ。
その日は名前とクラスとメルアドをしっかり白状させられて教室に帰された。
そして私は――三つ子ルートに入ってしまったようで。
あの日以来、教室に三つ子が入れ替わり立ち替わりやってくる。登下校、休み時間、昼休み、そして休日。一瞬の隙も逃すつもりはない監視体制。必ず三つ子の誰かが、私の傍にいて離れない。家に送られる度に、真顔で家を睨みつけられているなんて見てはいない。
怖い。連携プレイ超怖い。そして、何をしても“フラグ”が折れない。ピンチである。
◇
いつものように無理矢理、清流家に連行された。
目の前の三つ子、右から陸・海・空と扇状に並んで私を取り囲んで座っている。私を見つめる六つの瞳。三つの美少年顔。至福の眺めのはずなのに、怖い。超怖い。
「舞ちゃんってば、プルプル震えちゃっていて、可愛いなぁ」
「本当に、ウサギちゃんみたい! うちで飼いたい!」
「それがいいね! 僕らの誰かは必ず家にいるし。ずっと、ずっとずぅーと、一緒にいられるね!」
ヒィィィ。勝手に盛り上がらないで。今日こそは、はっきりと言わなくちゃ。この世界で私はモブで、君たちの相手はヒロイン(桃園さん)という事を。
「あの……桃園さんはどうしたの? それに、私……ファンクラブとかに目をつけられたら怖いし。それに毎日……一緒じゃなくても」
「ファンクラブなら、解散させたよ? 桃園先輩? あれ? もしかしてヤキモチ? うわぁ……めちゃ可愛いんだけど。可愛い。可愛い。可愛い」
「不安だった? ごめんね。これからはもっと一緒にいてあげるね。舞ちゃんって、ほんと可愛い」
「舞ちゃんに何か言ってくる奴なんて、ころ……近づかせないから! 安心してね!」
ヒィ! 今『ころ』って言った! 変換したら『殺』じゃないよね? ね?
それに、ヤキモチじゃないし! フェェェ。あの日の自分が憎いよぉ。
喉がカラカラになって、目の前にあるジュースを飲み干した。
ジュースを飲み干して五分程たつと、ゆらゆらと揺れる視界。彼らの瞳が鈍く光って、私を取り囲む。三人揃って、怪しく微笑んでいた。
あれ……このシーン、どこかで見た気が……? これ、もしかして……監禁ルートのス……チル……じゃな……い?
そして私は意識を失う。
このゲームをしていた時に、ヤンデレの出す飲食物をむやみに口にするヒロインってバカじゃない? なんて思っていたはずなのに……。
目を覚ますと、五、六人は眠れそうなベッドの上でフカフカとまどろんでいた。それを囲む、上半身裸の三人。
「……ん」
フラフラする頭を抱えると「大丈夫?」と心配されるが、まだ上手く身体が動かない。
「さて、舞ちゃん。子作りをしようか?」
「僕たちも初めてだけど、ちゃんと勉強をしたから安心してね」
「もちろん、舞ちゃんも初めてだよね?」
初めてじゃなかったらその相手を殺しちゃおう。ねー。そうそう。
――なんて明るく言っているけど……。
「何を言って……」
「舞ちゃんが何かあった時に、『ストック』がいないと大変でしょ?」
「いっぱい、子ども作ろうね」
「『ストック』は、沢山いた方が安心だもんね。うふふふふ」
(ストック? え? 三人?)
えええええええええ!!
――“ヤンデレ乙女ゲーム”の世界に転生したら無闇矢鱈に傍観せず、速やかに転校する事をオススメします。
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