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本編(裏)

ーー 嗤うクラスメート02

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「僕と千夏はもう付き合っているんだよ? 部外者が余計ないれ知恵して波風立てるって、何?」

 放課後の屋上。
 メールをつかって、桃園を呼び出した。「ごめんね。六勝さんと一緒に帰るのを邪魔した?」と心にもない事をいってやると「愛は保健室でまだ寝ているから、大丈夫よ」と、薄っぺらい笑みで返してきた。今日の桃園は何が楽しいんだかずっと機嫌が良くて笑っていて……。やっぱり、こいつって吐き気がする。
 僕の醸し出すピリピリした空気感に気付いたんだろう。
 向こうも猫かぶりをやめて、覚めた目をして僕を見た。
「単刀直入に聞くけど……桃園さんも転生者? 自分がヒロインって自覚あるんでしょ? だから、攻略対象者を他の女子に充てがって? 自分は高みの見物?」
 白兼会長は、例の彼女とくっついた。
 清流の三つ子は、ツインテールの彼女とくっついた。
 赤松先生は、……きっと彼女を捕まえるだろう。
 桃園は人を馬鹿にした表情を浮かべる。
「……緑川くんは、その必要はなかったけどね」
「そう、だから僕の千夏に近づかないで?」
「念には念を。って思ったのよ」
 肩をすくめて手を上にした。
「あなたって、嫉妬深いキャラなの。嫉妬させればさせる程、相手にのめり込んで離さない……でしょ?」
「……まぁ、外れてはいないけどね。転生者ってのを認めるんだ」
「それが何? そりゃ、前世ではこの世界の元になったゲームの大ファンだったみたいよ? でも、現実では嫌よ。どうして、現実で“ヤンデレ”なんかと恋が出来るの? ありえない」
「だから、攻略対象者に他の女子を?」
 問いに、桃園は僕から視線を外す。

「白兼聡は、ヒロインの幼馴染。彼は嫉妬深く、自傷行為をしてヒロインを脅して、最後には発狂させ壊すの」

「清流の陸と海と空は、ヒロインの後輩。彼らの監禁は強固な物で、歪んだ愛情をヒロインに注ぎ、決して逃がさない」

「赤松純也は、古典教師。ヒロインの受け持ちではないけど、白兼聡経由で話すように。彼は、暴力でヒロインを支配し、脅すの」

「緑川拓海は、ヒロインの同級生。彼も嫉妬深い。彼の世界はヒロインと自分だけ。他はいらない。攻撃性は外部へ発展し、ヒロインの大事な人たちを壊していく」

 そんな相手、愛せると思う?
 フェンスに背をやり、顔は校庭を見下ろしていた。柔らかそうな髪は、風でなびき、表情は儚げだ。傍から見ると、それは絵になっただろう。
 でも、僕には自己心酔しているただのムカつく女にしか見えない。
「……桃園さん、『緑川拓海』の項目にこれも追加してくれないかな?」
「……なにを?」
「『他人のシナリオ通りに進むのが心底嫌だ』ってね」
「……」
「よかったよ。千夏は僕が見つけた恋人で。お前なんかにあてがわれなくても、僕は千夏を選んでいた。そして、僕は絶対にお前なんかを選ばない」
「それは、光栄だけど?」
「さて、桃園さん。おかしいと思わない?」
「何が?」
「僕は、今日。君をメールで呼び出した。でも、どうして君のメールアドレスを知っていると思う?」
「!?」
「ごめんね。見ちゃった」
 僕は、桃園のスマホを指差し、哂った。
「待ち受け画面、男だよね。誰? 恋人?」
「……あんたには関係ないでしょ」
「桃園さんって、お義兄さん、いるよね?」
「!?」
 あー、吃驚している。知らないのかな? 知らないよね? だって、さっき彼女『現実で“ヤンデレ”なんかと恋が出来るの? ありえない』って言っていたし。
「桃園さんって、前世で結構早く死んだ? 可哀想に」
「何を……」
「この世界のゲーム。大好きだったんでしょ? やりたかったでしょう? “続編”」
「え?」
「『“続編”では、なんと!! “本編”でチラリとスチルに描かれていたプレイヤー待望のヒロインの義兄も攻略対象者に入りました!!』っていうのが、僕の前世での姉の言葉」
「なっ!!」
「ついでに『攻略対象者も新たに三名加わりました!』だって」
「嘘よ! だって、愛の端末には『ノーマルエンド』ってちゃんと出ていた! ゲームは終わったはずよ!」
「うん。今(・)のは確か……二年のクリスマスまでだっけ? 『続編』のはね……『ノーマルエンド』を迎えたヒロインが、そのクリスマスの後から卒業までの期間なんだって」

 良かったね? 今世で“続編”が出来て。

 僕の素敵な情報に、桃園は「嘘、嘘よ」と首を振り続ける。その時、彼女の手の中のスマホが無機質なメロディを奏で始めた。
「……あ……い?」
「ふふ。六勝さん、気付いちゃったんじゃないのかな?桃園さんの企み」
「……え?」
「大丈夫? 続編はサポートキャラなしでする? そうなったら、大変だね? 誰が新たな攻略対象者か分からない中、過ごさないとね?」
 日が暮れるのが早くなった空が、赤く染まりだしてきた。
「僕たち(・・・)以外にも、いるんだよ? この世界には攻略対象者がまだ」
「そ、そんな……そんな」
「残念ながら、僕“続編”も詳しく知らないけど、この世界のゲームは共通点があったよね?」
「……あぁ……あ……」
「攻略対象者は全員“ヤンデレ”って」
 ガシャンッ
 崩れ落ちるヒロイン。
 全身が夕日の赤でまるで血の色に染まったみたいだ。
「やっと、終わったと思ったのに……嘘よ……お義兄……さんが……そんな……」
 嗚呼、愉快。もうひとつ、僕からのプレゼント。
 彼女のスマホから、彼女のお義兄さんのメールアドレスを知ったので、匿名のメールを送っておいた。
 ―《桃園葵は、男を手玉にとっている》
 サービスで他の攻略対象者とのショットを添付付き。
 うん。嘘はついていない。手玉にとって、女をあてがっていたしね。そのメールをどう受け取るのかは、彼女のお義兄さん次第。
 焦点も合わせずに、冷たいコンクリートの床に座り込むヒロイン。ずっと鳴り続けているスマホを握りしめている。彼女、明日……学校に来るのかな? いや、来られるのかな? ……僕には関係ないけれど。
 動けなくなったヒロインに背を向けて、僕は愛しの彼女が待っている教室に向かった。
「千夏……怒っているかな?」
 僕がこんな女とでも、二人きりで居たと知ったら怒るだろうか。
 まぁ、たまには僕もヤキモチを妬いて欲しいから、教えてみようかな。ふふ。

(そして、もっと僕に夢中になればいい)

 ―僕たち(・・・)は、ただ人より、ほんの少しだけ愛情と独占欲が強いだけ。

 屋上では、無機質なメロディが鳴り響いていた。
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