血と死神と女子高生

橘スミレ

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第十七話 家族

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「ほんと?」
 死神ちゃんが私に珍しく見た目通りの幼く弱々しい声で問う。私は抱きしめる力を一層強くして答える。
「ほんと、だよ。嘘じゃないよ。私はあなたが大好き。本当に愛してるよ。嫌いになるなんてありえない」
 幼い彼女に私があげれる精一杯の愛情を伝えるしばらくの間、ずっと抱きしめていた。ずっと抱きしめていたかった。
「暑い」
 死神ちゃんにこう言われたので仕方なく離れる。
「あたしは洗い物してくるからあなたはもうちょっと寝てて」
 いつものお嬢様みたいにして武装した彼女に戻ってしまった。でもそんなところでさえ愛おしい。
「はーい、お母さん」
「あたしはお母さんじゃない」
 どこか嬉そうな声で怒られた。
「そうね、可愛い妹に言われたんだからお姉ちゃんは大人しく寝るわ。おやすみ」
 私はソファーに寝転んだ。

「妹でもないんだよな……」
 死神ちゃんは姉さんに聞こえないように吐き出した。彼女は姉さんと恋人になりたいのだ。
 彼女が生み出されたときからそうインプットされているから好き、というだけでなく優しい姉さんが、暖かい姉さんが、どこか儚い姉さんが、大好きなのだ。愛してるのだ。嫌われたくないのだ。
 彼女は明日告白すると決めている。最初で最後のチャンス、自身の存在がかかった一大事。最大限の準備をして臨むつもりである。
 朝ごはんを食べたときのように横に座って彼女の手を握って、ちゃんと彼女顔を見て告白する。きっと、きっと上手くいく。そう信じている。いや、信じるしかない。
「姉さん」
 祈りにも似たような声が漏れる。姉さんは汗をかきつつ、眠っている。
「姉さんの着替え、とってこよう」
 昨日綺麗にしたクローゼット、ラベルを貼らなかった意味が生まれるといいな、とまた祈る。
 神が神に祈るなんて不思議な話かもしれないが限りなく人間に寄せられた彼女は祈っていた。
 階段を登り、黒の着替え一式をとっておりる。それらはテーブルの上に置いて、彼女はキッチンで姉さんの夕飯の準備を始める。
「姉さんに甘いものも食べさせたいから、買ってきたんだよね」
 死神ちゃんが持っているのはフルーツ缶とゼラチン。そう、彼女が作ろうとしているのはフルーツゼリーだ。
 フルーツ缶はみかん、もも、メロン、パイナップルの四種類。姉さんに色々食べてもらって余った分は死神ちゃんが食べようと思っているらしい。
 シロップをお鍋に移してゼラチンを入れて温める。溶けたら缶に戻して冷蔵庫で冷やす。
 姉さんが喜ぶ顔を想像しながら死神ちゃんはもう一品作ろうとする。
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