血と死神と女子高生

橘スミレ

文字の大きさ
上 下
19 / 22

第十九話 成長

しおりを挟む
「ねえ、駄目?」
 姉さんは手を下ろし、上目遣いでこちらをみてくる。これは、ずるい。恋焦がれる人にこんなことされたら断れないじゃないか。
「……わかったわよ」
 死神ちゃんはゆっくりと姉さんに近寄り、Tシャツに手をかける。ゆっくりとめくりあげ、脱がす。同じくキャミソールもゆっくりと脱がす。日に焼けていない真っ白な肌が見える。あんまり見るとおかしくなってしまいそうだ、と彼女は思う。だがもう一枚……脱がさなければならない。彼女は意を決して残され物を取り払い、すぐさまテーブルに置いておいた着替えを着せる。ふと姉さんの方をみると、心なしか少し顔が赤い。
「姉さん……?」
「やっぱり、ちょっと恥ずかしいね」
 姉さんは俯きつつ言った。
「姉さん、どうするの?」
「自分で着替えるよ。あ、死神ちゃん……顔真っ赤」
「姉さんだって真っ赤だわ」
 お互いに顔を見合わせ、そして笑った。
「ご飯持ってくるから、その間に着替えておいてね」
 私はテーブルに置いておいた着替えをソファーに持っていく。
「着替えはこれよ」
「ありがとう。やっぱり死神ちゃんは優しいね」
 姉さんから何気なく発せられた言葉。だが、死神ちゃんの胸に突き刺さった。
「あたしは、優しくないよ」
 死神ちゃんは小さな声で呟いた。
「え?」
「なんでもないわ。ほら、早く着替えて!」
 死神ちゃんはそそくさとキッチンへ向かう。冷蔵庫からフルーツ缶を取り出す。中身はちゃんと固まってゼリーになっている。ゼリーをお皿に取り出して、スプーンも持ってリビングに向かう。
 姉さんはもう着替えおわったようだ。
「姉さん。ゼリー食べない?」
「死神ちゃんが作ったの?」
「うん。血はかかってないけど」
 死神ちゃんは姉さんにおそるおそる差し出した。
「ありがとう。ちょっと、食べてみる。これがいい」
 姉さんはみかんのゼリーを指さした。
「これね。ちょっと待ってね」
 死神ちゃんはテーブルにお皿を置き、スプーンでみかんのゼリーを一口分すくって差し出します。
「あーん」
「……美味しい! 食べれた! 血が入ってないけど、食べれた」
 驚きつつも、嬉しそうな顔をしている。
 彼女はようやく血の入っていない、普通の食事ができるようになったのだ。
「よかった。もう一口食べる? それとも別のフルーツがいいかしら」
「別のでお願い。あとどれだけ食べられるかわからない、から」
「わかったわ。じゃあ次はももにしましょう」
 姉さんはにっこり笑って答えた。
「死神ちゃんに任せるよ」
しおりを挟む

処理中です...