チューニングミス 〜彼氏に浮気されてからロボメイドとともに立ち直るまで〜

橘スミレ

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嫌いになれない

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 彼にフラれてから一週間が経った。
 学校にいる間はできる限り彼を視界に入れないようにして過ごした。
 だがどれだけ頑張っても同じクラスなので限度がある。
 そのときのために私は二つの対策を編み出した。

 一つ目、移動していない彼が視界に入ったときは脳内で杏仁豆腐で上書きする。
 そして食べる。美味しい。幸せ。
 これで彼の存在する不快感を消し、イマジナリー杏仁豆腐の美味しさで幸福へと上書きする。

 二つ目、移動している彼が視界に入ったときはあのでかいやつはパンダだと思い込む。
 パンダが動いてる。可愛い。幸せ。
 これで彼を見なかったことにし、イマジナリーパンダで開きかけた心の傷口を縫い直す。

 さらに、一人で寂しい昼休みを乗り越える方法を手に入れた。読書だ。
 私は「アルファポリス」でよきWeb小説を探し出し、読むことにしている。
 何が良いってWeb上に面白い小説がゴロゴロ転がっているのだ。
 しかも書籍化作品が一部タダで読めたりする。
 常時金欠高校生にはありがたいお話だ。おかげで昼休みは読書漬けになっている。
 読んでも読んでも面白い作品が出てくるんだもん。

 とりあえず私はこの三つで「うるとらぱーふぇくと」な学校生活を送った。

 その後、お家に帰ったらクッキーとフウカが淹れてくれる今日のお紅茶で優雅なひとときを過ごし、課題withクソ野郎を封印して寝る。
 なんやかんや健康的な生活を送っている。
 少し太ったが誤差だ、誤差。

「お嬢様、ちょっと気にして何度も体重計に乗っていましたよね」
「別に気にしてないし!」
「そうですか。話は変わりますが、今晩はランニングにでも行きませんか?」
「話変わってないじゃん。まあ行くけどさ」

 まあこんな感じでフウカと二人で楽しく過ごしていた。
 だがここに影がさす。中間テストだ。

「勉強したくない」
「そうでしょうが頑張りましょ?」
「頑張った方がいいとはわかっているんだけどね」

 どうしてもやる気を削ぐ存在が一匹いる。
 うざったらしい影を封印したくともこの戦いにHPゲージはない。

「いっぱい勉強して、いい成績とったら彼はまた私を見てくれるかな」

 無意識のうちに口から言葉が流れでた。
 出てきたものを見てようやく正気に戻り驚いた。

「彼は今までもこれからもさやかお嬢様のことを見ることはありません」

 キッパリハッキリ言われた。
 威力を増した言葉が私の心にしっかりと刺さった。

「わかってる。わかってるよ。でも、やっぱり私はこの心を無視できないくらいには彼が好きなんだよ」

 どれだけ視界から掻き消しても、どれだけ勇者になって封印しようとも、私の内側を好きが蝕んでいく。
 彼への愛が、私の行動を鈍らせる。
 そうしてできた隙にまた彼からの毒が打たれる。

「どうしても、彼を嫌いになれないの」

 今ここで大嫌いと叫べたらどんなによかっただろうか。
 どんなに「き」の形に口を開いても声にならず、ただ息の音が漏れるだけに終わってしまう。
 叫べずとも一度呟くことさえできれば二回目には二倍も三倍も大きな声で、三回目にはさらに何倍も大きな声で言えるのに。
 最初の一回がどうしても言えない。
 彼を嫌いになれないのだ。

「人間とは難しいものですね」
「そうだね」
「機械なら簡単に記憶を消せます。機械なら簡単に好きを嫌いへと書き換えることができます」
「ほんとそうだよ。人間の脳は融通が効かないから、簡単に記憶を消せないし好きを嫌いへと書き換えられない」

 もし私が機械なら、あいつのことなどサクッと忘れて幸せになれていたのだろうか。
 ちょっとフウカが羨ましい。

「でもお嬢様。機械は恋をしませんよ」
「そうなの?」
「はい。機械は効率的に作られています。なので、トラブルしか生まない恋愛感情は組み込まれていません」

 確かに機械は恋愛の必要性がない。
 人間は種の保存という観点からみて長時間共にいて苦にならない相手を探す恋愛に意味はある。
 しかし機械は動物でないのでまず種を保存しようとすることがない。それに恋愛して種の保存から考えて利点がない。

「もし私たちのような機械が恋をするとしたら、それはバグですね」
「そのときは修理してあげるよ」
「お願いしますね」

 フウカは妙に丁寧に頭を下げた。
 その様子が少し気になったが、今はそれどころではない。
 テスト勉強という大敵が目の前にいるのだ。

「どうすればよかったんだろうな」

 私は逃げられなくなりつつある彼に想いを馳せつつ勉強した。
 どうすれば彼は私をみてくれたのだろうか。
 どうすれば彼は私のことを愛してくれるだろうか。
 美味しいお菓子をプレゼントする? 彼の部活動を応援する?

 考えはフウカの言葉とぶつかっては砕けて消えた。
 それでも考えるのをやめられなかった。
 やっぱり彼が愛おしい。
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