【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ

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第十四話 Play

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「僕なりに責任を取ろうとしたつもりだったけど、渚にとっては違うんだね」
「全然違うね」
「そっか……」

 理玖さんは目線を遠くにやってしまった。
 ソファにどっしりともたれかかって呻いて答えてくれない。

「理玖さんって信頼してほしいという割には俺のこと信頼してない」
「……そうかな。いや、渚が言うならそうなんだろう」
「理玖さんが思うように命令しないなら、俺の好みに合わせて命令してよ。そうして、理玖さんをその気にさせる」

 渚は立ち上がり、理玖さんを指さし宣言する。

「日付が変わるまでにわからせてやる」

 渚は日付が変わったその時がタイムリミットだと考えている。
 日付が変われば約束した一週後になる。
 そこで本当に契約するか、パートナーになるかを決めるのだ。
 理玖さんはまるで渚にだけ選択肢があるような言い方をしていた。
 だが渚はお互いに選択権を持っていると考えている。渚が望もうとも理玖さんが拒否すれば終わりだ。
 だからその前に理玖さんから最低限の信頼と、未来への希望を勝ち取らねばならなかった。

「俺はあんたにめちゃくちゃにされたいんだ。嫌な記憶全部貴方の手で全部上書きしてくれよ」
「何言って」
「ここでやらなきゃおさらばなんだろ。なら最後に試してくれよ」

 床に降りて足にしなだれかかる。筋肉のついたがっしりした足が頬に当たる。

「……わかった。それが君の望みなんだね」

 理玖さんが折れてくれた。あとは、どこまでやってくれるか次第だ。

 ひとまず寝室に移動し、ベッドの縁に腰掛ける。
 何からやってくれるのか。

「床、《座って》」
「ん、わかった」

 胡座をかいて座り込むと足で肩を押される。
 抵抗せずに倒れると理玖さんが随分大きく見える。
 位置の差で見下されている感じが強い。

「前に聞いたの頼りにやって見たけどこういうのであってる?」
「うん」
「よかった。続けるよ」

 理玖さんの足が肋骨をなぞり腹に至る。
 おへその下あたりまできて、ギュッと押される。
 足が沈み込み、内臓を圧迫する。
 苦しくて気持ち悪いはずなのに、どこか落ち着く。

「服、邪魔だね。《捲って》」

 理玖さんの足がTシャツの裾を掴む。渚は促されるままにめくっていく。
 肋骨の下あたりまでめくって理玖さんの顔を見ると許しが出た。

「相変わらず細いね」
「これでもマシになったと思うけど」
「まだまだ不健康そう。いっぱい食べてほしい」

 足先が渚の脇腹をなぞる。
 思わず体をよじると理玖さんに咎められた。

「《止まって》僕がOKするまで動いちゃダメだよ」

 渚は両の肩甲骨を床につけ両手も投げ出した状態で静止する。
 今から理玖さんの許しがあるまで動いてはいけない。
 でももし動いてしまったら……何か罰があるのだろうか。
 もしあるとしたらどんな罰があるのだろうか。
 想像すると背中がゾクっした。

「触るよ」

 理玖さんの足がへその辺りへ降ろされる。
 触れるか触れないかの絶妙な感覚でへその周りをなぞられる。
 少しゾワゾワするが、これはまだ耐えられる。

 ゆっくりと足があがってきて、服を捲り上げ、肋骨に当たった。
 足が指先で骨をなぞるように動かされる。
 指の一本一本が順番に触れていく。ブラシで擦られているかのようだ。
 キチンと手入れされているおかげで爪が刺さることはない。
 だがその分くすぐったさが増している。
 さっきよりもくすぐったくて、背中が痒くなる。
 思わず目をつむり、指先を丸めてしまう。

「我慢だよ」

 理玖さんにそう嗜められてしまった。
 渚は気合いを入れ直して手を握りしめ耐えようとする。

 だが足はとうとう脇腹までやってきた。
 ただでさえくすぐられると弱い脇腹。
 そこにへそ周りで使われた少し浮かした、触れるか触れないかの距離。
 そして肋骨で使われた指先でのブラシのようなタッチ。
 その二つの技術が組み合わされ、凶悪さを増して渚の脇腹を襲った。

 渚も最初は手を握り込み、目を逸らし、なんとか耐えようと努力していた。
 だがくすぐったさは蓄積していく。
 次第に笑い声がこぼれだす。
 唇を噛んで声を漏らすまいと渚は努力しているが、どうしても口を開けて笑ってしまう。
 渚が大口を開けて笑っているのはかなりレアな光景だ。
 理玖さんがもっといいものを見ようと本気を出してくる。
 もう、遠慮がない。

 理玖さんは器用に足の指をバラバラに動かして渚の脇腹へ新たな刺激を与えた。
 バラバラに動く指や時折ふれるツルツルとした爪が先ほどまでとは違う感触で非常にくすぐったい。

 思わずひきつった笑い声が出る。
 お腹が縮こまって背中が浮きそうになる。
 指を立て床を押して堪えようとするが上手くいかない。
 渚はとうとう床を転がり丸まってしまった。

「あーあ。動いちゃったね」

 理玖さんはあたかも落胆しているかのようなことを言っているが、声から興奮が隠しきれていない。
 いったいどんな仕置きをするつもりなのか。

 渚は暫く丸まって息を整えていたが。やがて落ち着きゆっくりと身体を戻した。
 両手を後ろの方で床につき、理玖さんを見上げるようにして座る。

「ごめん。動いた」
「命令守れなかったね」
「悪かった。どんな仕置きでも受ける」
「お仕置きされたいだけじゃないの?」
「違う。俺のことなんて考えず、理玖さんの思うように仕置きして、躾けてほしい」

 今の理玖さんは興奮で少し判断力が落ちている。
 俺を苦しめることに対しての遠慮がない。
 きっと、これで理玖さんの思うように動いてくれるはずだ。

「ふーん。わかった。じゃあお言葉に甘えて、僕の好きなようにさせてもらうね」

 理玖さんは立ち上がり、渚の前へくると両脇を掴んで持ち上げた。
 ちょうど猫なんかを運ぶときのような状態だ。

「は?」
「よいしょっと」

 理玖さんはそのままベッドへ座り渚を自らの膝の上へ乗せた。そのままだと落ちそうなので慌てて理玖さんの背中に手を回す。

 膝に乗せるとはかなりの猫扱いだと思う。本当にペットにされている。
 渚としては悪い気こそしないがここからどう仕置きに繋がるかは想像できない。

「改めて確認するけど、俺の好きなようにして良いんだよね」
「うん。好き勝手に踏み躙って壊しておかしくして」
「わかった。殺すつもりはないから死にそうだったらどこかを三回叩いて」
わかった」
「よし。じゃあ少し口を開けて」

 渚が少し口を開くと理玖さんの人差し指が侵入してきた。
 細いけれど白魚のようというにはゴツゴツと骨ばった指が口内を好き勝手に荒らしていく。
 歯列をなぞり、上顎をくすぐり、舌の付け根までやってくる。舌と口の繋ぎ目にある舌小帯を押されるとひきつった感じがした。

 理玖さんの指が入っているせいでずっと口を閉じれない。
 唾液が溜まっても飲み込めず、唇の両端からこぼれていく。
 渚の口はぐちゃぐちゃだ。
 もしかしたら垂れて理玖さんの服についているかもしれない。申し訳なさもさながら、なんとなく恥ずかしい。
 目線で理玖さんに訴えかけてみるが、気にした様子はない。
 それどころが指を増やしてきた。

 中指を加えて口の中をくすぐったり、撫でたり、押したり。ほんと好き放題だ。
 二本の指で口の中をぐるっとかき混ぜられて、舌を軽く押されて、そのまま喉の奥まで触られた。
 抵抗しまいと思っていたが、反射的に喉の奥が閉まり吐き出そうとえずいてしまう。
 喉がきゅっとしまって息ができない。身体が好き勝手に跳ねる。目尻に涙が滲む。

 理玖さんはそんなことを気にせず、左手で渚の背を支え、右手を口の中に突っ込む。
 幾度か喉の奥を指で突いて、そうしてひとまず指が抜かれた。
 理玖さんの指は唾液でてらてらとぬめっている。

「大丈夫そうかな。もっかい指入れるけど、死にそうだったら合図してね」

 理玖さんは言うだけ言って、全くもって容赦はしない。
 いつも通りの優しい口調だが声に気持ちがこもってない。
 渚が望んで仕向けたことでなければ許されていなかっただろう。

 理玖さんな今度はゆっくりと口の中に触れないように指を入れる。
 そうすると、不思議なことに異物があるときの身体の反射として喉は閉まるものの先ほどのように身体が跳ねることはない。ただ自然体のまま受け入れられる。
 理玖さんに触れられている、という感じ。不快感はなく、むしろ心地よさまである。
 理玖さんにこんなところまで触れられている。理玖さんにここまで求められている。
 そういう安心が心地よい。

「こうやって君の全てに触れて、僕で上書きしてしまいたい」

 理玖さんの表情はまさに恍惚、といった感じで元の顔の良さも相まって凄まじい迫力があった。
 丸呑みにされそう。取り込まれそう。という表現が近い。蛇に睨まれた蛙と仲良くなれるだろう。

 理玖さんの指は閉じた喉の奥をこじ開けて侵入してきた。
 しかし人体はそこに触れられることに対応していなかったらしい。
 渚はえづき、うめき、とうとう吐いてしまった。
 ほとんど胃液しかない吐瀉物がピチャピチャと床へ飛び散る。
 渚だけでなく理玖さんの服まで汚れてしまった。幸いなのはベッドが無事だったことくらいか。

 フローリングに液体が散る音と、鼻につく吐瀉物の刺激臭のせいで理玖さんはいくらか正気を取り戻してしまったらしい。
 呆然と手元を見つめている。顔にやらかした、と書いてあるのが見えそうだ。

「ごめ、」
「謝らないで。それよりちゃんと仕置きを受けたから、褒めて」
「……わかった。《よくできました》」

 汚れていない左手で頭をぽんぽんと撫でられた。
 理玖さんの手が温かくて、いつも通りで安心して。それと同時にあの手が自分の中に入っていたのだと思うと興奮して。
 吐いたことの疲れもあり酷く頭の中がぐちゃぐちゃで眠くなってしまった。

「ごめん。片付け、お願い」

 それだけなんとか絞り出して、渚は理玖さんごとベッドに倒れ込んだ。
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