【第1部完結】暫定聖女とダメ王子

ねこたま本店

文字の大きさ
20 / 55
第2章

11話 続・ダメ王子VSバカ王子

しおりを挟む
 
 バカ王子の言動に振り回されていたあの日から時は流れ、私とシアは本日、16歳の誕生日を迎えた。
 創世聖教会の中には、質素倹約を美徳とする風潮がある為、料理はここぞとばかりに奮発されていても、誕生日を祝うパーティー自体は、規模の小さいものになったけど、不満はない。
 不満なんてある訳がない。
 むしろ、こぢんまりとした、どこかアットホームな雰囲気の中で祝ってもらえる事が、とても嬉しかったくらいだ。
 取り立てて縁もゆかりもないような、身分が高くて偉い人達から贈られる、打算という名の隠し味が入った『おめでとう』なんて、私もシアも欲しくないから。

 神殿や大聖堂で仕事をしている人達が用意してくれた、誕生日のプレゼントは花やお菓子、香りがついた石鹸といった、消え物中心の気安い品が大半。
 おかげで気楽に受け取る事ができて、これまたとても嬉しかった。
 パーティーには、平民枠に収まってる相手なら各方面からの文句も出ないだろうって事で、本当に友達だと言い切れる、クラスの子達数人を招待している。
 シアも、隣のクラスの子達を何人か招待したようで、今もその子達と、少し離れた場所で楽しそうに話している所だ。私もちょっと話してみたけど、シアと似たタイプの穏やかな子達で、なんか好感が持てる。
 ついでに、一応平民枠に収まってる友達という事でエドガーも招待してみた所、奴はバイキング形式で並べられている、滅多に食べられないご馳走を前に、だいぶはしゃいでいるように見受けられた。
 正直な奴め。


「よ。お前とシアの誕生日プレゼント、別個に預かってきたから教えておくぜ」
 パーティーが始まってしばらく後。
 クラスの友達であるニーナとティナ――どっちも結構大きな商会のお嬢さんだ――の3人で話していた所に、突然エドガーが割って入ってそんな事を言い出した。
「プレゼントを別個に? なにそれ、どういう事?」
「メルとユリ達から預かってたって事。いやあ、すっかり忘れてたぜ」
 おい。人様から預かった物の存在を忘れんな。
 この無神経さ、やっぱりどことなく大介を思い出すわ。
 ニーナとティナも苦笑いしてんぞ。

「……あんたねえ……」
「悪かったって。今取ってくるから待ってろ」
 エドガーは、全く悪いと思っていなさそうな口調で、大変軽い謝罪の言葉を述べ、部屋の隅に仮設されている来客用の荷物置き場へ小走りで向かう。走るなって。
 するとニーナとティナが急に顔を見合わせてニッコリ笑い、2人揃って「休憩室を借りたい」と言い出した。
 今日はちょっとだけ化粧してきたから、変に化粧崩れしないうちにチェックしておきたいのだそうで。
 女の子だねえ。前世から引き続き、プライベートでは全く化粧っ気のない私とは大違いだぜ……。

「そういう事なら、会場にいる神殿女官に声かけて、一緒について行ってもらった方がいいと思う。ここからだと、ちょっとややこしい場所にあるから。今誰か呼ぶよ」
「ありがとうアル。でもいいわ。私達でお願いするから気にしないで。ね? ティナ」
「ええ。あなたは今日お誕生日で、パーティーの主役なんだから、細かい事は気にしないの」
「そう? ありがとう、2人共。行ってらっしゃい。また後でね」
「うん。また後で」
 2人がニコニコしながら離れていくのと同時に、エドガーが戻ってきた。

「待たせたな。これがお前の分だ。……えー、確かこいつがメルからで、こっちがヴィーとユリからな。おめでとうっつってたよ。パーティーに顔出せないの、残念がってたぜ。ま、仕方ねえけどさ」
「うん、まあ、そうよね。下手にこっちのパーティーに顔出して、それを周りに嗅ぎ付けられたら、聖女に媚び売ってるって誤解されちゃうもんね……」
 分かっちゃいるけど、この世界の身分制度と立場の違いというのは、やっぱりとても重くて世知辛い。
 折角仲良くなれたのになぁ。
「気持ちは分かるけどヘコむなよ。誕生日パーティーに顔出す事だけが友情の証じゃねえだろ?」
「分かってます。……。ねえ。あんたに確認取るのもおかしな話だけど……メル様達と、私とシア。友達って事でいいのかな?」
「何言ってんだ。あいつらもう完璧に、お前とシアの事友達だと思ってんぞ。そうじゃなかったら、月イチの礼拝にかこつけて、お前らと茶を飲んだりなんかしねえっつの。貴族が平民の流儀に合わせた茶会に付き合うなんざ、普通あり得ねえからな」
「……。うん。そっか。……へへ。なんか嬉しい。中身、見てもいいかな」
「そりゃ当然。つか、見ない方がおかしいだろ」

 この世界では、プレゼントを頂戴した時――特に、親しい相手からもらった物に関しては、その場で開けるのがある種のマナーとなっているので、早速、綺麗にラッピングされた小箱を近くのテーブルに置き、1つずつ丁寧に開封していく事にする。

 メルローズ様からのプレゼントは、ユリの花の刺繍が入ったシルク製のハンカチ。ヴィクトリア様とユリウス様が連名でくれたプレゼントは、グランドピアノの形をした小さなオルゴールだった。
 黒が使えないせいなのか、ピアノの色が淡いピンクなのはご愛敬といった所か。
 でも……うん。これはこれで可愛らしくていいな。
 ハンカチといいオルゴールといい、こんな綺麗で可愛いプレゼントもらったの、初めてだ。
 前世でも経験ないわ。うん。とってもいいな、これ。嬉しい。

 ついつい頬が緩んでしまった所に、エドガーから「頬が緩みまくってんぞー」という、そのまんまな突っ込みを入れられ、反射で「うっさい」と文句を言う。
「あー、それとな? これもやるわ。俺からプレゼント」
「え? あんたも持って来てくれてたんだ? 意外~」
「おいコラ、人の事なんだと思ってんだ。……俺だって、一応お前らの友達だろーが」
「冗談だって。拗ねない拗ねない」
「拗ねてねえし。いいからさっさと開けろって」
「はいはーい。……って、ちょっ、これ……!」
 エドガーから渡された小箱の中に入っていたのは、なんと金色に輝く懐中時計だった。

 つーかこの時計、カバーガラスの色がなんか普通と違う!
 光の加減で虹色っぽく光るぞ!? もしかしてこれ、動力部だけじゃなくてカバーガラスにも魔石使ってんじゃないのか!?
 私は思わず硬直した。多分、顔も引きつってる。

 まず、時計自体がお高い品だし、そのお高い品を小型化するとなると、もっと値段は高くなる。
 手にした時の重量感から言って、ガワの金属は金メッキで確定だと思う。
 だけど、時計盤のカバーガラスがガラスじゃなくて、透明な魔石を削り出してガラス代わりにしているのだとしたら、それこそ、本気で洒落にならないお値段になってるはずだ。
 ちょ、おま、友達の誕プレになんつーモン持って来やがんだ!

 どうやら私は、傍から見てもだいぶうろたえた顔をしていたらしい。
 エドガーが「まあ落ち着けって。こいつは3人分のプレゼントだからよ」と、笑って言う。
「さんにんぶん?」
「おう。3人分だ。俺と、母上と父上。特に母上は、お前が王都に来てから身内がしょうもねえ事ばっかやってるから、頭と胃が痛くて仕方ねえみてぇでさ。前から、なんかお詫びの品でも贈りたいって思ってたらしいんだよな。
 一応俺は、気にし過ぎだって言ったんだぜ? ……いやまあ、最初にやらかしたのは俺だから、あんまデカい口叩けねえけど」
 話しているうち、過去のやらかしをあれこれ思い出したか、だんだんバツの悪そうな顔になってくるエドガー。

「……。そうね。確かに色々あったし、この間も色々ありまくったわね……。つか、今も女王様とやり取りしてるんだ?」
「そりゃそうだろ。大体、3日にいっぺんくらいのペースで連絡してるぜ。多分よそからも定期的に報告が上がってるはずだ。そうじゃねえと、俺がちゃんと反省して盾役こなしてるか、分かんねえじゃねーか」
「ああ、確かに……」
「だからまあ、なんだ。母上の精神的な健康を保つ為にも、黙ってもらってくんねえ? これ。立場的には、お前に対して何かしてやる訳にはいかねえけど、本心ではやっぱ何かしてえんだよ、母上は」

 いやいや。何が「だから」だよ。
 黙ってもらえるような気安い品じゃないから、これ。
 そりゃまあ、これでも私の中身は成熟した大人の女ですし、あんたが本当に言いたい事とか、女王様の気持ちとか、その辺りの事も多少は察しがつきますよ? つきますけどね?
 つーか、なんだその捨てられた犬みてーな目は。
 やめれ。お前がやっても可愛くねえし。
 ……。ああもう、しゃーないなあ!
 分かってるよ! どう考えたって返品できる代物じゃないもんな、これ!

「……くれるって言うならもらうけど、持ち歩かないわよ。こんな、ぱっと見だけでも『大金注ぎ込んでます』って全力で主張してるようなブツ、とても普段使いにはできないから」
「分かってる。……悪いな。誕生日にまで気ィ遣わせて」
「ホントよ。あんたが友達じゃなかったら、絶対受け取り拒否してる所だわ。
 ……あー、それと、ひとつ訊きたいんだけど、今回のプレゼント、懐中時計選んだのはあんた?」
「え? ああ。母上と父上からは追加の代金だけもらって、品物は俺が選んだけど」
 私の質問に、エドガーがキョトン顔で答える。
 案の定、質問の意図も意味も、全く分かってないようだ。
 このアホたれ……。

「そう。だったら今度から、プレゼントを人に贈る時は周りの人に相談して、よーく考えてから贈るようにね? 特に、時計を贈る意味とか」
「あ、ああ……。分かった。そうするわ……」
 半眼で指摘されて、ようやく気付いたらしい。
 非常に気まずそうな顔してやがります。

 実の所、この世界で時計ってのは、指輪に次ぐプロポーズアイテムとして扱われている。
 要するに、「私と同じ時を刻んで下さい」的な意味があるんです。
 元の世界にも似たような話あるでしょ? なかったっけ?
 まあとにかく、気安く友達に贈るような品ではないのだよ。時計ってのは。

 こいつの事だから、実用性と高級さを兼ね備えた一品として選んだだけだろうが――こうもモノを知らんとなると、流石にちょっと心配になる。ホント気を付けろよな。
 でないとそのうち後ろから刺されるぞ。

◆◆◆

 秋のご飯は、旬という意味でも気候的な意味でも、とっても美味く感じるものだ。
 まさに、天高く馬肥ゆる秋、とはよく言ったもの。
 ついでに私も、誕プレにもらったお菓子を食べ過ぎて、秋の馬に追従しないよう気をつけようと思いつつ、学舎内を行く。
 夏の暑さも引いて、めっきり過ごしやすくなった毎日を、今日も私達はつつがなく過ごしています――と、言いたい所なんだけど、最近ちょっとまた、困った事になり始めている気配が。
 何があったのかって? 
 実はあのバカ王子がここしばらくの間、こっそりこっちを窺ってやがるんですよ。

 あれで一応、女王様から下された接触禁止令を守っているつもりなのか、特に何かしてくる訳ではないんだけど、とにかくこっちの視界の中にチラチラ入り込んでくる。
 なんかストーカーにつけ回されてるみたいで、大変気持ち悪いです。
 私と一緒に行動しがちなシアとエドガーも、大変嫌そうな顔をしております。

 つーかお前、共犯やってるアディア嬢のお世話はどうした。『上位貴族の高ビーお嬢様にいじめられてる、可哀想な下位貴族の女の子』をかばってやらなくていいのか。
 つか、メルローズ様のいじめの話題、もう半分以上立ち消えてるって聞いたんですが? ここで踏ん張っておかないと完全に噂消えちゃうぞ。何やってんだ。
 メルローズ様をざまぁするんじゃなかったのか。しっかりせぇ!
 このままだと、こっちが水面下で立ててる『対バカ王子用・逆ざまぁブチかまし作戦』も消えてなくなっちまうだろーが! もっと気合入れて頑張れよ!
 メルローズ様も、こんな調子でお前を無事にざまぁできるのかって、心配してるんだからな!

 内心でイラつきつつ、エドガーと一緒に日直の仕事をこなす。
 学級日誌を職員室の先生に届け終わって、さあ下校しようと校舎の外へ出ると――今日もやっぱりヤツがいた。
 うわ、何あいつ! 正門の柱の影に半端に身体を隠した格好で、じーっとこっち見てるんですけど! てめーは星飛○馬の姉ちゃんか!
 あー、今日シアと一緒じゃなくてよかった!
 あんなキモい奴の姿、シアに見せらんねえわ!

 元々の下校時刻から結構時間が経ってるせいか、周り人がいないから、余計にバカ王子の奇行が目立つ。
 あーもー、ホントやだ……。誰かどうにかしてくれぇ……。
 と思ってたら、エドガーが大股でずかずかバカ王子に近付いていく。
 どうやらあいつも、かなり精神的にキてるらしい。
 そりゃまあ、実の弟が自分の目に付く所で堂々と友達のストーカーしてるなんて、腹立ってしゃーないだろうし、情けない気分にだってなるだろうな……。

 早足で近づいて来るエドガーの剣幕に気圧されたのか、数歩分後ずさったのち、踵を返して逃げようとしたバカ王子だったが、一歩遅かった。あえなくエドガーに腕と胸倉を掴まれ、動けなくなる。
「おい、いい加減にしろよ、お前! 気色悪いやり方でアルエットに付きまといやがって!」
「ぐっ……! つっ、付きまとってなんかいない! 見守ってやっているんだ!」
「はぁ!? 見守ってやってるだと!? 母上や父上に泣きつかねえとなんもできねえ愚図が、偉そうな事ほざきやがって!」
「うるさい! お前だって似たようなものじゃないか! それが生意気にも聖女の盾だと!? お前に何ができるって言うんだ!」
「うるせぇのはてめえだろうが! 俺はもうずっと、何年も真面目に剣の修行してんだ、いつもごちゃごちゃ理由付けて修行から逃げ回ってるてめえと一緒にすんじゃねえ!」
「逃げてなんかないっ!」
 罵られて逆切れしたバカ王子が、顔を真っ赤にしながらエドガーに掴みかかるが、イマイチ迫力がない。

「逃げてなんかいるものか! 本当に、あの時間になると調子が悪くなるんだ!」
「嘘つけ! 具合の悪い奴が、騎士団長の目ぇ盗んで物置に駆け込んで隠れっかよ! みっともねえ!」
「何だよその目は! くそぉっ! どいつもこいつも! 俺は王子なんだぞ! 守られる側なんだ! それがなんで、剣の扱いなんて覚えなくちゃいけないんだよぉっ! 戦うのなんて、下賤な平民にでもやらせとけばいいじゃないか!」
「……っんだと、この野郎!!」
 あ。ついにエドガーキレよった。
 半泣きバカ王子をぶん殴ったぞ。
 結構力が入ってたようで、あえなくその場に引っくり返るひょろっちい身体。
 その場にへたり込んでるバカ王子の、お綺麗なツラの片方だけが赤くなって腫れてます。
 今の発言、よっぽど我慢ならなかったんだな。
 うん。気持ちは分かる。物凄くよく分かる。
 でもあのさ、エドガーお前、バカ王子を追い返しに行ってくれたんじゃなかったんかい。
 あー、騒ぎを聞きつけた人達が集まってきちゃってるよ。一応、エドガーがバカ王子を殴った所は見られてない、みたいだけど……。
 ひょっとしなくても、だんだんマズい状況になってきてないか、これ。

「何するんだ! くそっ、くそっ! お前はいつもそうだ! お前みたいな野蛮人に、聖女の盾なんて務まるもんか! 聖女が好きだから、無理矢理付きまとってるんだろ、どうせ!」
 はい出た。
 ガキンチョが吐く煽り台詞のド定番「お前あいつの事好きなんだろ」攻撃。
 なんで頭の悪いガキってのは、古今東西喧嘩になると、高確率でそういう感じの台詞言うんだろうね。ふっしぎー。
「……はぁ!? だっ、誰があんな奴! ふざけんじゃねえぞこの野郎!!」
 おいエドガー。なに乗せられてんだ。流せ、ンな寝言。
 弟と同レベルに落ちるな…って、よく考えたらあいつら双子で、どっちも同じ14だった。
 つか、今日び田舎の中坊でも、ここまで低レベルでガキ臭い喧嘩なんてしないぞ、お前ら。
 とにかく落ち着けエドガー。
 私は別にお前に好意を寄せられてるなんて思ってないし、動揺もしてないから。
 それともアレか? ここは私もド定番の台詞を吐くべきなのか? 「私の為に争わないで」的な。
 ……うん。ダメだ。1個も面白くないわ。
 ダダ滑る未来しか視えない。

 私の願い(?)も虚しく、まんまと煽られたエドガーは、思い切り頭に血が上ってる様子だ。
 へたり込んでるバカ王子の胸倉をもう一回掴んで引っ張り上げ、更に拳を振り上げて――って、待て! 流石にこれ以上はヤバい!
 私は慌てて2人に駆け寄り、エドガーとバカ王子の間に無理矢理身体を捻じ込んで、引き離しにかかる。
「止めなさいっての、エドガー!」
「なっ……! 邪魔すんなアルエット!」
「邪魔するに決まってんだろこのバカタレッ! ――ここが今どこで、あんたの今の立場はなに! しっかりしろ!」
「ぐ……っ」
 今度は私が胸倉を掴んでどやし付けると、エドガーはふて腐れたような顔をしつつも、振り上げかけていた拳を大人しく下ろした。
 うむ、よし。
 さて、今度はこっちの方だな。

「……は、ははっ、おいどうだ、見ろ、エドガー! アルエットは俺の味方だぞ! ざまあみろ! ははは、ははははっ――!」
 やかましい。誰もてめーの味方なんてしてねえわ。
 私はため息1つついてから、腰を抜かしたみっともないカッコのまんまエドガーを指差して、歪んだ笑みを浮かべているバカ王子の正面に屈み込み――
 素早く鋭く、バカ王子のみぞおちに1発拳を叩き込んだ。

「ふぐっ!?」
 バカ王子は私のパンチをモロに喰らって短く呻き、白目を剥いて引っくり返る。
 この角度なら私とエドガーの陰になって、バカ王子が今何されたのか、周りの人からは見えてないだろう。
 ククク。計算通り。
「王子殿下、どうなさいましたか? 殿下? ――皆さんすみません、お手を貸して下さい。気絶されているみたいです。滑って転んで、頭を打ったのかも知れません!」
 ちょいとばかりわざとらしいような気がしなくもないが、適当な小芝居打って立ち上がった私が困り顔を作って呼びかけると、周りの人達は大変だ、とばかりに動いてくれた。
 みんないい人達ばっかだね……。

「……お前……。ホント、マジでいい性格してるよな……」
 やれ、医者を呼べだの担架持って来いだの騒いでる人達を尻目に見つつ、エドガーが私に半眼を向けてくる。
「あらそう? じゃあ放っておいてもよかった訳? あんた今、平民扱いになってるのに、こいつの事人前で殴るつもりだったの? それ、どういう事か分かってる?」
「…………。悪かったよ。止めてくれて助かった」
「分かればよろしい」

 ちょっと得意げな顔でふふん、と笑ってやると、エドガーが無言で口を尖らせた。
 後は、女王様が今回のこの騒ぎをどういう風に解釈して、どう収めようとするか……だなぁ。はぁ、やれやれ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

華都のローズマリー

みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。 新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

処理中です...