転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店

文字の大きさ
46 / 124
第4章

2話 8年越しの再会へ・2

しおりを挟む


 翌朝の早朝、私とリトス、シエルとシエラは、ジェスさんから借りた幌付き荷車に乗り込み、ザルツ村を出発した。
 目指すは北の隣国、カスタニア王国の街・メリーディエ。到着までの旅程は片道2日だ。
 まず1日目は、リトスとジャンケンして負けたシエルが御者台で荷車を動かし、日が沈む前に適当な所へ荷車を止めて野宿。
 2日目は、そのままリトスがメリーディエまで荷車を動かす事になっている。

 昔、前王が死んで間もない頃に(アレに『崩御』なんて言葉使いたくねえ)国境で行われていた、一部出国者への締め付けも今はなくなっているので、1人につき大銅貨6枚の出国通行税を支払い、一般出国証明書を受け取れば、普通に関所を通過してメリーディエへ行ける。
 これが大量の商品を持って移動する商人ともなると、1人銀貨1枚+物品移送税(荷の量が多いほど税額も増える)を支払って、行商出国証明書をもらう必要があるらしいけど。

 ちなみに、他国からレカニス王国へ入国する際に支払う入国通行税は、1年以内に発行された出国証明書を提示した者に限り、出国時の半額で入国できるのだそうな。
 国外に出る時は割高な税金払わされるが、他所から早期に戻って来る場合は半額になるって辺りが、微妙に上手いというか、いやらしい金額設定になってるなと個人的に思う。

 つか、こんな偏った税金の徴収法採用して、よく他所の国からイチャモン付けられずに済んでるよな。こういうやり方されると、必然的に自国での輸入品の売値が上がるから、普通はどこも嫌がるはずなんだけど。

 まあいい。今は目先の税金よりも、行き先の事を考える方が重要だ。
 しばらく前までメリーディエは、広大な森から採れる材木を活用した木工細工や林業の他、細々と酪農を続けて街を維持していたらしいが、今ではクリフさん夫妻とエフィーメラが盛り立てている、乳製品を中心に扱う商会の規模と販路拡大により、酪農業が大変盛んになっているそうだ。

 それすなわち――ミルクや、チーズなどを中心とした乳製品を使った料理が、大変バリエーション豊かで美味しいという事!

 フフフ。今からもう既に楽しみで仕方ない。
 お土産も沢山買って帰らねば。
 今日まで頑張って貯めたお金、こんな時じゃなければいつ使うってなモンですよ!
 いや勿論、妹の晴れ姿を見るのだって、物凄く楽しみだけどね。
 ホントだよ?

「なんだか嬉しそうだね? プリム」

「そりゃあもう!」

 幌付きに馬車の中、綿や使い道のない端切れなどを大量に詰めて作ったクッションに座り、笑って訊いてくるリトスに、私も笑って答える。

「妹に8年ぶりに会える上、会いに行く理由が結婚よ? 嬉しくならない方がどうかしてるでしょ? おまけに、美味しい名物料理を堪能できる、絶好の機会でもあるんだから!」

「あらそう? あんたの場合、食べ物の方が楽しみの比重大きいんじゃない?」

「違いますぅ! ちゃんと妹を祝福する気持ちの方が大きいですから! 勘違いしないでよねっ!」

 私は、同じくふかふかのクッションに座って、によによ笑いながら突っ込みを入れてくるシエラにそう反論した。そんな私に、シエラが軽い調子で「ハイハイ」と雑な返事をする。

 自分の膝の上に肘を置き、頬杖つきながらこっちを見つめて笑うシエラは、とても美人だ。どことなく気品があって、お姫様みたいに見える。
 仕草や言動はどこを取っても普通の平民の女の子だし、綺麗にまとめて結い上げられた金髪を飾ってるのは、貴金属性のティアラじゃなくて、木工細工のバレッタだけど、それでもシエラには、内側から滲み出る美しさみたいなものが確かにあって、それがシエラを一層綺麗に見せているように、私には思えるのだ。

 モーリンと一緒に山ん中を歩き回るたび、木に登ってアケビやら何やらを採って歩き食いしたり、その辺でいい感じの棒切れ見付けて拾っては、近所のガキンチョ共とチャンバラして遊んだりしてる、野生児丸出しな私とは大違いだ。
 全く、如何ともしがたい格差もあったもんだわ。

 それから――取って付けたみたいな言い方になるけど、シエルも滅茶苦茶イケメンになった。シエラがお姫様なら、シエルはさしずめ王子様といった所だろうか。
 でも、王子様っていうのは単純な見た目の話。雰囲気的には、騎士と評した方が近いかも知れない。相変わらず口悪いし、振る舞いもガキっぽい奴だけど。

 つーかさあ、シエルが事あるごとに私の食いしん坊属性を強調するもんだから、今じゃすっかり私は村で、食いしん坊巫女扱いされるようになっちゃったんだよね。

 なんか思い出したらイラッとしてきた。
 やっぱあいつの評価なんざ、村のガキ大将で十分だ。
 まあ、リトスと2人で張り合うように磨いた剣の腕は、今では相当なものらしいので、おまけで騎士だと思ってやってもいいけどさ。

「あれ? どうしたの、プリム。ぼんやりして。もしかしてお腹空いた?」

「ち・が・い・ま・す。リトスまで私を食いしん坊キャラ扱いするつもり?」

「そ、そんな事ないよ。僕はちゃんと、プリムが妹思いで面倒見のいい、優しいお姉ちゃんだって分かってるよ。でも、それはそれとして、ちょっと僕が作ったクッキーの味見はして欲しいかな」

「え? クッキー? いつの間にそんなの作ったの?」

「昨日の夕飯の後、プリムが荷造りしに部屋に戻ってから。……実は、君の妹の結婚祝いに、何か贈ろうと思って色々と考えたんだけど、あんまりいいものが思い浮かばなかったんだ。
 そもそも僕は男だし、花嫁に贈り物をするなら消え物じゃないと、花婿の手前カドが立つかな、と思って、それで迷った末に、クッキー焼いてみたんだよ。焼き菓子なら一緒に仲良く分けて食べられるし、丁度いいよね」

 リトスはニコニコ笑いながら言う。
 おっと。ついに普通の料理だけじゃなく、お菓子まで作るようになったのか。
 まあそれも、元はと言えば私がメシマズ女で全然料理ができなくて、スキルで食べ物出すしか能がなかったせいなんだが、必要に駆られてやってるうちに、すっかり料理好きになったらしい。

 顔よし、スタイルよし、性格よし。その上剣の腕も立ち、更には料理もできちゃうなんて、いよいよスパダリ要素が揃ってきたな、リトス君よ。
 元からモテモテだったのに、もっとモテモテになっちゃうな。こりゃ。

「そうね。私もそれ、いい考えだと思う。エフィの為に色々考えてくれてありがとう、リトス」

「どういたしまして。じゃあそういう訳だから、早速味見よろしく。これなんだけど」

 リトスが巾着タイプの袋の口を開け、取り出したのは丸い形のクッキー。
 笑顔で差し出されたそれを掌でもらい受け、一口齧れば、途端にかぐわしいバターの風味が口いっぱいに広がった。絶妙な甘さと口の中の水分を奪わないしっとり感を持ちながら、それでいてサクサクとした軽やかな歯触りも楽しめる。
 最の高ですリトスさん!

「美味しい! すっごく美味しいわ! こんな美味しいクッキーがお店で売ってたら、並んででも買っちゃう!」

「そ、そう? ありがとうプリム。……それ、贈り物用に、いい材料使って作ったから……」

「またまた。謙遜しちゃって。いい材料使ってても、それを生かす腕がなくちゃ、こんな美味しいものできないわよ。あーでも、食べててあと引くわ、これ! 今度材料出すから、沢山作って欲しいなぁ……!」

「……っ、う、うん、い、いいよ! き、君が、美味しいって言ってくれるなら、いつだって、どれだけだって作るよ!」

「ホント? ありがとうリトス! 楽しみにしてるわね!」

 私のリクエストに、リトスは赤くなった顔で何度もこくこくうなづいた。
 昔から褒められるとすぐ赤くなるんだよね。リトスは。
 いつまで経っても褒められるのに慣れないって言うか、なんて言うか。
 要するに、根本的に照れ屋なんだろう。

 でも、そういう所も可愛くて好感度高いよな。
 ほら、シエラも微笑ましそうな目で君を見てるぞ? このワンコ系男子め。
 全く参るね。どこまでモテ要素満載なんだ、この子は。
 御者台で話を聞いてたのか、こっちに向かって「そんな菓子ばっか食ってたら太るぞ~」とか言ってくる、デリカシーに欠けたガキ大将とは大違いだ。

 お前あとで後頭部どついてやるからな。シエル。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って…。 その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た。 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す。 そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を。 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を。 その数日後王家から正式な手紙がくる。 ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する。 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ! ※ざまぁ要素はあると思います。 ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております。

処理中です...