転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店

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第5章

5話 精霊王の領域へ

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 バルダーナ大荒野の入り口に到達した翌日。
 早速朝食に出した、ハムチーズ目玉焼き・オープンサンド風でしっかり腹ごしらえした私達は、予定通り朝っぱらから車で荒野の中を爆走し始めた。

 荒野というからには、そこかしこがでこぼこしている、典型的なオフロードを想像してたんだけど、思ったより平坦だ。
 ただ、やっぱり地表は見渡す限りカラカラに乾燥してて、草木がほとんど生えてないし、生き物らしいものの姿も見当たらない。

 当然、目印になるようなものもないので、念の為、後部座席のリトスとアンさんにコンパスを渡し、間違いなく南に向かって進めるよう、最低限のガイドをお願いしている。

 うーん。しかしまあ、本当になんもないな。この辺。
 見渡す限り黄土色と茶色が入り交じった、乾いた地面が延々と広がるばっかだよ。これはよっぽどしっかり長距離移動の準備をしてても、踏破するのはかなり難しいんじゃなかろうか。

 そりゃ誰も足を踏み入れないよねえ、こんな場所。
 車出せてよかった。
 こんな所を1人で車運転して進んでたら、不安で心細くなる事請け合いだったろうけど。

 どっちにしても、こんな不毛の大地としか言いようのない所に長居なんてしたくないので、草原では60キロに抑えていた速度を80キロまで上げる。
 クリスはともかく、リトスとアンさんとしては、精神的について来れなくて負担かな、とも思ったが、初日よりは慣れたようで、2人で「速いね」とか「凄いわね」とか話をしているようだった。

 しかしながら、比較的平坦だとはいえ、それでもやはり荒野は荒野。
 多少ボコボコしてる所もあるから、時々車体が揺れたり軽く跳ねたりする事もあるが、リトスもアンさんも、今はちょっとしたアトラクションのような感覚で受け入れている模様。
 うん、実に順応が早い。

 この調子なら、予定通りに走行し続けても問題なさそうだ。
 一刻も早く精霊王様の所へ着けるよう、張り切って運転を続けましょうかね。信号機もなければカーブも交差点も存在しない、道なき道をただただ真っ直ぐ走るのは、短い期間なら非日常感満載でそれなりに楽しいし。
 私は今にも鼻歌を歌いそうになるくらい、ゴキゲンな気分で車を走らせる。

 ……あ、そうだ。お昼ご飯どうしよう。
 こういう、ひとつ所に腰を落ち着けてられない環境だと、食べる物も結構限られてくるんだよねえ。
 ご飯のたびに、スキルでテーブルと椅子を出しては消して、なんてやるのも面倒だし、長期間旅する予定も今の所ないから、やっぱここは、サンドイッチ系のご飯とハンバーガー類、あとはおにぎりのローテーションでやりくりしようかな。



 数時間おきに車を停め、1時間程度の休憩を挟みながら先へ進む事2日。
 いい加減、代わり映えのない土色の荒野を進むのにも飽きてきた頃、突如視界の先に青々とした緑が姿を現した。恐らくあの場所こそが、精霊の生まれる地と呼ばれる場所、ユークエンデなのだろう。

 この場所のどこか……多分最奥かそれに準ずる場所に、土の精霊王レフ、レフコ……えー、うーん……。なんだっけ……。
 あ、思い出した! レフコクリソス様! ……がいるんだと思う。

 しかし――近くに車を停めて見てみると、ユークエンデは緑地なんて可愛いモンじゃなかった。人が通れそうな場所すらろくに見当たらないほど、多種多様な植物や木々が、みっしり生えて地面を覆い尽くしている。
 こりゃ森という表現も生温いな。もはや密林のジャングルだ。
 パッと見はもう、元いた世界にあったアマゾンみたいな感じ。

 つーかこれ、どっから中に入ればいいんだろ。
 あと、マジモンのアマゾンみたいに、デカい吸血ヒルとか軍隊アリとか、そういうヤバい虫がいっぱいいたらどうしよう。
 うう、今更だって分かってても、想像したら怖くなってきた……。
 私が思わず二の足を踏んでいると、リトスが「ねえ」と声をかけてくる。

「? なに、リトス?」

「見て、プリムのスカートのポケット、光ってるよ」

「えっ? ――あっ、ホントだ……」

 確かに、リトスに指摘されたポケットからは、布地を透過するように淡い光が零れ出していた。
 そういやこのポケットには、モーリンからもらった精霊の琥珀を入れてたっけ。もしかして、精霊王様の魔力に反応してるのかな。

 不思議に思いつつ、精霊の琥珀をポケットから取り出して見れば、案の定精霊の琥珀は柔らかな光を放っていた。なんか、掌に乗せるとほんのりあったかい。
 もしかして、この琥珀の光が集束するなりなんなりして、行くべき道を指し示してくれるのかな、と思ってたら、目の前に広がる密林の風景が、突然グニャリと歪んだ。

 やがて、目の前の木々が全て、あるべき形を失って一緒くたに混ざり合い――
 ふと気付けば、道を塞ぐ木々は全て消え失せ、奥まで一直線に伸びている、綺麗に舗装された石畳の道が出現していた。

 もしかして……今まで目の前に見えてた密林って、よくできた幻覚だったのかな……。
 でも、出現した道は道幅が狭いし、道の両脇もずっと先まで柵で挟まれてるから、並んで歩くのは無理っぽい。進む順番を決めて、一列に並んで歩くしかなさそうだ。

「……な、成程……。精霊の琥珀ってのは、いわゆる道しるべみたいなものなんだろうな、なんて勝手に思ってたけど、実際にはモーリンが言ってた通り、精霊王様がいる場所へ続く道を開く為の……文字通りカギの役割をする石だったんだ……」

「そうだったみたいだね。――じゃあ行こうか、精霊王様の所に。順番はどうする?」

「そうね……先頭は精霊の琥珀を持っているプリム、そのすぐ後ろがプリムの護衛役のリトス、真ん中に非戦闘員のクリスを挟んで、殿しんがりは人生経験豊富な私、という事でどうかしら?」

「そうね。私も、アンさんの言う通りの形で進むのがいいと思う。リトスとクリスはどう? これでいい?」

「うんいいよ。プリムのすぐ後ろなら、何かあった時素早くプリムを助けに入れそうだし」

「……俺もそれでいい」

「よし、じゃあ決まりね。……ふう、ちょっとドキドキしてきたわ」

 土の精霊王、レフコクリソスってどんな精霊なんだろう。
 ちゃんと話を聞いてくれるかな。
 村を守る為の知恵を、ちゃんともらえるといいけど。

 内心で渦巻く不安を強引に押し込め、私は意を決して出現した道へ足を踏み入れた。

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