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第7章
4話 1週間ぶりの再会
しおりを挟む黒ずくめの仲間に中にいた、女性らしき誰かによって、荷物どころかポケットの中身まで取り上げられた私は、手足をグルグル巻きに縛り上げられた上、目隠しと猿轡までされた格好で、荷車のようなものに乗せられた。
お陰でこっそりポケットに入れてきてた、スキルで出したはちみつレモンキャンディまでボッシュートだよ、クソ! 私のおやつを返せ!
オイお前ら! せめて取り上げたキャンディちゃんと食えよ! 捨てるなんて勿体ない事したら半殺すからな!
……といった意味合いの言葉を、塞がれた口でフガフガ言いつつ、荷車で運ばれて行く事しばし。
拘束を解かれた私が押し込まれたのは、やたらとだだっ広くて天井の高い、妙に小奇麗な牢屋だった。
換気口とおぼしき、小さな長方形の窓っぽいものが、天井近くに等間隔で設置されている所から察するに、ここは地下牢なのかも知れない。
上下左右と背面はがっちりした石壁。前面は全て間隔の狭い格子で仕切られていて、窓は見当たらない。まさにザ・牢屋といった見てくれだ。
ただし、床には厚手の絨毯が隙間なく敷かれているし、よく見れば壁際には割としっかりした造りの、3段ベッドがズラッと並んでいた。何とも変な牢屋だと思う。
でもって、その変な牢屋には、既に先客がいた。
優に10人を超えるであろう数の、若くて綺麗なお姉さん達が、揃いも揃って意気消沈した表情で、絨毯の上に直座りしていたのである。
お姉さん達の大半は茶系の色味の髪をしていて、服装はてんでバラバラ。多分みんな平民なんだと思うが、中には金髪の人も何人か――
「プリム! プリムよね!? あんたまで捕まったの!?」
「え? ――あっ! シエラ! トリアにモアナも! よかった、無事だったんだ!」
「ええ、なんとかね……。ここへ来るまでには、ふん縛られたりとか結構雑に扱われたけど、今は割と丁重に扱われてると思うわ。量は少ないけど、ちゃんと3食食事も出されてるし。
ていうか、それよりあんたの事よ、あんたの! なんで捕まってんのよ!」
「え、なんでって、そりゃわざと捕まったに決まってるでしょ。私を捕まえに来た連中も、シエラ達の事よく知ってるみたいだったし、安否を直に確認するなら、こうするのが一番手っ取り早いじゃない」
「わざとって……あ、あんたねえ……!」
「……ごめんなさい! あたしが人質に取られたりしてなければ、こんな事には……!」
ケロッとした顔で言う私にシエラが突っかかろうとした所で、しょげ返った顔のトリアが頭を下げながら割って入ってくる。
ああ、成程。それでシエルも、ろくに抵抗できなかったって訳か。納得だ。
だけどね。
「悪いのはトリアじゃなくて、あの黒ずくめの連中でしょ。そこん所はき違えちゃダメよ、トリア。そういう、不必要な謝罪は受けつけません。却下よ、却下。……それはそうと、シエルは?」
「……。ごめん。分からないの。連行される時点で、違う所荷車に乗せられてたみたいだから。……あのバカ、捕まった先で変に反抗して、痛め付けられたりしてなきゃいいけど」
「流石にそれはないんじゃない? 幾らシエルが単細胞のおバカだからって、そんな無鉄砲な事はしない……と思いたいよね、うん」
顔をしかめるシエラに、私も複雑な気分でそう口にする。
そうだよねえ。心配だよねえ。
あいつ、パッと見はだいぶ賢そうな感じなんだけど、中身は結構脳筋だし、自分の置かれた状況や立場を鑑みずに行動して、痛い目見るんじゃないかって言うシエラの懸念も、一概に否定し切れないというか……。短気で口も悪いしなぁ。
それに、中身の粗野さと反比例するかのように、見てくれはめっちゃいいから、そっち関係のトラブルに遭う可能性も懸念される。取っ捕まってる先で、女性向けのBでLな展開に巻き込まれてなきゃいいが。
もし仮に、あいつがお婿に行く気力をへし折られて帰って来るような事があったとしても、何も言わず温かく出迎えてやろう。
私が友人としてあいつにしてやれる事なんて、そのくらいしかないしな。
私が斜めにずれた心配をしていると、私とシエラの話を聞いていたモアナが、分かりやすく眉尻を下げた。
「えぇ……。単細胞のおバカって……。シエルって普段そんな感じなんだ……。私は普段シエルとは、精々村の寄り合いとか、ご近所づきあい程度でしか顔を合わせないから、知らなかったわ」
「ええ、実はそうなのよ。姉の私が言うのもなんだけど、幻滅しない? そういうの」
「あ、うん……。ごめん。確かにちょっと幻滅したかも……」
「あんたって結構正直者よね、モアナ。まあ私も、今日び頭の足りない男なんてノーサンキューって気持ちは、よく分かるけど」
「あーあ。プリムにまで言われたらおしまいよねえ、あいつも」
「ねえシエラちゃん、それどういう意味? 私もシエルと類友だって言いたいのかな?」
「いいええ。そんな事ないわよ? あんたはシエルと違って、ちゃあんと頭が回る子よ。でもまあ、こうやって向う見ずにも自分から捕まるような真似する辺り、危機感てのが欠落してるとしか言いようがないし、あんまり人の事どうこう言えないんじゃないかなあー、とは、チラッとだけ思ったり思わなかったりするけども」
「それはそれは。持って回った言い回しどうもありがとう。……で? 今の発言を端的に言い直すと?」
「もっと自分を大事にしなさい、このイノシシ娘。あんたになんかあったら私泣くからね」
「……あ、ハイ……。ごめんなさい……」
あまりにストレートな心配の言葉を投げかけられて、私は矢も楯も堪らず、シエラに深々と頭を下げて謝った。
直前まであんなノリで喋っておいて、いきなりそういう事言うのはずるいよ、シエラ。
でも、そうさせたのは私か。
ホントごめん。心配させるような真似して申し訳ない。
それに関しては心から謝罪します。すいませんでした。
「――あの。先程そちらの方が、村の寄り合いがどうとか、仰られておりましたけど……。もしかして皆様は、ザルツ村の関係者の方々でしょうか?」
申し訳なさから項垂れて反省していると、横からやおら、そんな風に呼びかけられる。
項垂れた顔を上げ、声の聞こえた方に目を向ければ、綺麗な黒髪を腰まで伸ばした青い瞳の美女が、こちらに不安気な眼差しを向けていた。
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