叔父にできること

すいすい

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1.叔父、病む

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 最近甥の様子が変だ。

 会えば軽く挨拶を交わすだけで話を振っても素っ気ない。以前までならよく懐く犬のように俺の周りをうろちょろしては暑苦しいぐらいくっついていたのに。
 いや、今思えばそっちの方が異常だったのかもしれない……。

 最初はとうとうあきらにも思春期がやって来たのだと軽く捉えていた。晃ももう高校生だ。そういう年頃なんだと思ってもおかしくないだろう。だから俺は微笑ましく見守っていた。
 だけどその期間もそう長くは続かなかった。情けないことに、俺の軟弱すぎる心が耐えられなかったんだ。それとなく話しかけても軽くあしらわれたり、なんなら無視されることもある。もう俺の心はズタボロだった。堪らず俺は姉に縋った。この状況が終わるならそれぐらい恥とも思わない。まあニートの俺からしてみれば恥なんてものは無いに等しいがなっ!
だけど姉の口からは予想もしない答えが返ってきた。

『晃は態度がおかしい』

あまりのショックに言葉が出なかった。俺以外には普通に接してる?それってどういうことなんだ?え、俺嫌われた?いやそんなはずない、嘘だ。

「あんたたち喧嘩でもしたの?晃が優一に冷たいとかよっぽどでしょ。早く仲直りしなさいよ」

 現実を受け入れられずに放心状態になる俺に姉は子どもに言い聞かせるように忠告した。
 姉とは歳が十個以上も離れているせいか、俺のことを弟と言うより晃と同じように息子と思っている節がある。今回の件が起こるまで引きこもってろくに人と関わろうとしない俺が晃と仲良くしていることに一番泣いて喜んでいたのは姉だったし、聡い姉は俺が落ち込んでいることも察したのだろう。
 だけど今の俺には姉の気遣いに感謝する余裕もない。姉達家族が帰った後、俺は布団の中で一人大量の涙と鼻水を垂れ流していた……。

 今まで俺はどれだけ辛いことや悲しいことがあってもほとんど泣いたことがなかった。
 それなのに晃に嫌われたと分かった途端怖くて仕方がなくて、自分でもよく分からない恐怖が押し寄せて来た。

 晃に嫌われたら俺は生きていけない。

 何も持っていない俺にとって晃は希望だった。あの日晃が勝手に俺の部屋に入ってきて「ゆうくんあそぼ」と俺の手を取った時から救われたんだ。
 だから今更手を離されても俺は生きていけない。

 どうにかして晃を取り戻さなければ……!!

 だけど勉強を教えようと思っても晃は優秀だしそもそも俺はあんぽんたんだ。それなら他に何ができるんだ?そうだ、物で釣ってしまえばいいじゃないか!腐っても俺は晃の叔父だし、晃が以前いいなと言っていたブランド物のスニーカーでも買ってやれば少しは俺のことを見直してくれるだろう。
 俺は慌てて財布を開いた。
 が、案の定その中は数枚の小銭が寂しい音を立てるだけだった。……まぁニートの財力なんてこんなもんですよ。ははっははは……。よし、父さんに小遣いをせびろう。
    そう思って直ぐに俺は頭を抱えた。俺のバカタレ!そもそもそんなお金でスニーカーを買ったとバレたらもっと幻滅されるに決まってんだろ!?晃に親のスネかじりニートなんて言われたら俺はもう......うぅ、もう、こうなったら働くしかない。どう考えてもこの状況を打破するには働かざるをえないだろう。
    そうは思うものの嫌すぎる。あー働くなんてクソ喰らえだ……。
    これまでぐうたら過ごして記憶の奥底に沈んでいたはずの苦い記憶が思い出されて変な汗まで出てきた。人と関わるのは極力避けたい。

    あーでもないこーでもないと悩んだ末に、俺は意を決して求人サイトを開いた。
 だがしかし当然俺にできそうな仕事なんかある訳もない。詰んでるマジで、撃沈だ……。
    無理だ、やっぱり俺が働くとか絶対に無理だったんだ。自分が情けなくて再びじわじわと目に涙の膜が張られていく。

    俺はやけくそになって検索ワードを打ち始めた。

『接客なし ニートでもできる  高収入バイト』

 そんな上手い仕事あるはずないと分かっているのに、どうすることも出来ずに仕事を探す手は止まらない。視界が涙で歪んで見えにくくなってもかまわない。
 社会はそんなに甘くない。お前みたいなゴミにできる仕事なんかあるわけない。ろくでなし。社会のお荷物。
 聞こえないはずの罵詈雑言が頭の中に響く。そしてとうとう堪えきれずに俺の目からぽたぽたと涙がこぼれ落ちた――。

 もう、諦めよう。

 そもそも今まで懐いてくれていたのがおかしかったんだ。叔父がニートとか普通に考えて嫌だろ。どうせ晃は賢いし顔もいいし、おまけにコミュ力も高いから友だちもたくさんいて可愛い彼女もいて後数年もしたら結婚して子供も作って俺のことなんか忘れて幸せに暮らすんだ。血が繋がっていなかったら一生無縁だったはずの人種が今まで叔父と言うだけで俺を慕ってくれていたんだ。そうだよ、そう思ったらなんかラッキーじゃん。
 笑おうとするのにヒックヒックと情けないしゃっくりが出てくる。なんかもう死にたいっていうより俺の存在を丸ごと消してしまいたい......。

 そんなことを考えながら顔を枕に埋めた俺はそのまま眠りに落ちてしまったのだった――。



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