叔父にできること

すいすい

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2.叔父、決意する

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 どれだけ嫌でも朝はやって来る。それはニートにもしかり。

 あの後結局何も案が出ないまま寝落ちてしまった俺は、今日も怠惰で一日を過ごすことに深い溜息をついた。まあ本当に溜息をつきたいのは家族の方だと思うけど......。

「あ゛ぁぁぁー!!クソッ!もうどうすりゃいいんだよ......」

 ガシガシと寝癖のついた髪を乱暴に掻きむしりながら唸る。このままだと俺は確実にニートのままだ。    晃に見放されないように働こうと決意したのがきっかけだが、これからのこととか親や姉のことを考え出すと、重い現実がのしかかってくる。
 そうは言っても昨日の結果は惨敗だ。考えるのが嫌になった俺は、起こした体をもう一度布団に倒して動画アプリを見ることにした。こうやって時間を無駄にして何も考えないでいるのは楽だ。現実から目を逸らして、今までもこうやって生きてきた。だから今回もまた逃げることしかできない。
 だけどそれも次第に虚しくなってくる。楽に稼げて俺でもできるような仕事があればいいのに......。そんなことを思いながらショート動画を見ていると、パパ活女子やらメンエス女子だののよく分からない流行りの音楽と共にブランド物のバッグや札束をチラつかせる動画が流れてきた。
 ......千円だけでも分けてくれないかな。
 お金のない俺からしたら単純に羨ましかった。俺にも可愛さと巧みな話術があればこんなに稼げたのだろうか。今までそういった世界とは無縁だった俺は、興味本位で検索してみることにした――。

 なるほど風俗と言っても色々あるんだな。彼女いない歴イコール年齢の俺からしたら夢をお金で買うような話で、可愛い女の子とイチャイチャできるなんて控えめに言って最高だと思った。
 ただ一番の問題は女の子と対面して話さなきゃいけないってことなんだよな......って今はそんなことを考えている場合じゃない。そうだ、仕事探さないと。急に現実に戻された俺の気分は地の底に落ちた。気は進まなかったが昨日に引き続き今日も求人サイトを漁るしかない。そう思って今まで見ていたサイトを閉じようとした瞬間、ある広告バナーが目に止まった。
 ゲイ向け風俗――要するに男が男に体を売るサービスってことだよな?言っちゃ悪いがこれって需要あるのか......?
 気になった俺は恐る恐る広告をタップした。そしてホームを開いてすぐに屈強そうなガタイのいい男やアイドルのように顔の整った男が目に飛び込んできたことで、あぁなるほどなと納得した。たしかに男でも美形ならそういう趣向のある人には好ましく思われるのだろう。まあでも底辺レベルの俺には難しそうだ。別に体を売ろうとかそんなことは思っていなかったけど若干残念に思いながら店の概要を見るために下へスクロールしていると、期間限定の求人募集と書かれた項目を見つけた。よく分からずに内容を見てみると、『年齢は問わず顔出しもなし、未経験むしろ大歓迎(その場合時給も上がる)』などと書かれていた。
 俺はその募集要項に釘付けになった。今の自分の条件に当てはまりすぎてもはやこの仕事しかないんじゃないかと思った。体を売ることは怖いけどこんなに上手い話は他にないだろうし、何より一日数時間働くだけで何万も稼げると言うことに手が震えた。

「これだ、これなら俺でも......!」

 気が昂った勢いで俺は連絡フォームに書かれていた電話番号にかけた。

『はい、お電話ありがとうございます。夢見る初恋空間でございます~あ、こちらからかけてくださったってことは求人募集の方ですかね~?』

 明るい若い男性の声が聞こえてきて思わず肩がびくりと跳ねた。その上緊張のせいか心臓がバクバクと音が聞こえそうなぐらい速くなり、額から汗がたらりと垂れてくる。落ち着け、俺。大丈夫だ、普通に穏やかに話すだけだ。俺は深呼吸をして息を整えてから口を開いた。

「あ、そ、そそそうです...あ、あの、募集を見て、れ、れれ連絡を......!」

 だめだやばい全然上手く話せない。シュミレーションはバッチリだったはずなのに何故か吃ってしまう。学生時代や会社員の頃に吃る喋り方を真似されて笑われた記憶がフラッシュバックして顔が熱くなる。きっと笑われる。そう思った俺は電話を切ろうか迷っていた。
 しかし返ってきた言葉は至って普通でむしろ俺の反応に嬉しそうな声色で思わず拍子抜けしてしまう。

『そうなんですね~!失礼ですがこれまでに性交渉などのご経験はありますでしょうか?』

「ひぇ、!?や、えっと、そういうのは全然、全くありませんすみません......」

『いえいえとんでもございませんむしろそういったキャストさんは大歓迎ですよ!もしよろしければこの後事務所の方に来ていただいて説明や見学の方をされませんか?』

「え、え、いいんですか?」

『はいもちろんでございます!なんならそのまま働いてもらっても構わないぐらいですよ~』

「ほ、ほ本当ですか!?す、すすすぐ準備して行きます......!!」

『はーいお待ちしておりますね~』

 電話を切ると俺は嬉しさのあまりベッドの上で飛び跳ねた。

 「やった、やったぞ!俺でもやれば出来るんだ!これで俺も社会の一員になれる......!」

 俺は長年の友とも言える抱き枕を胴上げして共に喜びを分かちあった。

「泣くな友よ、俺は今日からお勤め戦場に行く。自宅警備員は本日をもって卒業する......!それでは行って参る!」

 最後に抱き枕と熱い抱擁を交わしてから、俺は鼻歌を歌いながら準備に取り掛かるために部屋の扉を開けようとした。

 だがしかし何故か扉が何かにつかまれたように開かない。

「ん?立て付けでも悪くなったか?」

 確認するために俺は下を覗いた。その瞬間、体から一気に血の気が引くのを感じた。足元の隙間から見覚えのあるスリッパが見えたからだ。

 そう、俺は興奮のあまり気づいていなかったのだ。一部始終を晃に聞かれていたことに......。

 目が合った晃は綺麗な顔でにこりと微笑んだ――。

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