無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸

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第2章 丹梅国グルメ戦記・四象の虎

第119話 異国の勇者

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 祠から戻った私たちは、いつものように梁さんの診療所へと帰ってきていた。
 外はすっかり夕闇。
 風はどこか湿り気を帯び、いつもの薬品類のツンとしたにおいが薄れているように感じるが――

「ヴォエッ!? ……なんじゃこれ……」

 隣にいたフェニ子が鼻をつまみながら言う。
 たしかに、いつもはあまり感じない種類の臭いが診療所内には漂っていた。

 これは……煙草のにおいだろう。
 白雉国ではなぜか周りに吸う人間が多かったため、これも煙草それであることがすぐにわかった。

 臭いの正体はだいたいわかった。
 それなら次に考えるべきは、この臭いの出どころがなのかだ。
 梁さんは私たちがここに来てから、一度たりとも煙草を吸ってはいなかった。
 私たちに遠慮して、今まで吸っていなかったとも考えられるが――

 私は後ろにいた紅月にそれとなく視線を送る。
 彼女も私と同じ考え・・・・だったのか、しっかりと頷き返してきた。

 〝この診療所に梁さん以外の存在がいる〟
 そう仮定して動く。
 それが梁さんの客かどうかはわからない。
 しかし、梁さんはここへは滅多に客はこないと言っていた。
 だったら用心するに越したことはないだろう。

 私はすっかり緩んでいた気を引き締める。
 〝ステータス・オープン〟
 心の中でそう唱え、いつものように指で虚空をなぞると――

『お帰りなさい』

 見ると、梁さんが相変わらずの笑顔で出迎えに来てくれていた。
 まだ丹梅国に来て数日だが、私はすでに、この診療所には実家のような安心感を勝手に感じている。
 だから、まずは梁さんが無事でいてくれたことに、私は胸をなでおろした。

『ちょうど今、おさんが来ていてねえ』
『お客さん……ですか?』

 私は梁さんと会話しながら、横目でちらりと先ほど開いたステータス画面を見た。
 〝黄嘉偉〟
 見知った名前の他に、そんな名前が映し出されていた。

『あ、お客様と言っても魔物とかじゃないよ。この丹梅国の勇者様だねえ』
『勇者……?』
「――なんて、付けないでくださいよ、梁さん。畏まっちゃうんで」

 そう言って、私と同じ自動翻訳機能を携え現れたのは、細身で、おそらくこの世界でも平均身長である私より、少し身長が高い男性だった。
 その目は半分ほどしか開いておらず、陸に打ち上げられた魚の、濁った目を彷彿とさせた。

「どうも。ご紹介にあずかった丹梅国の勇者だ。名は黄嘉偉ホアンジャーウェイ。どう見ても俺のほうが年上だが……まぁ、気軽にホアンって呼んでくれて構わない」

 一方的にそう告げてくると、黄さんはずいっと手を差し出してきた。

 勇者。勇者と名乗ったのか、この人は。
 白雉国以外にも勇者がいる。……ということにも驚きだが、なにより彼の威圧感がすごい。
 こんな上背のない、くたびれた、人生に絶望してそうな表情の男性なのに、差し出された手から目を逸らすことが出来ない。
 これまでの誰とも違った、まさに歴戦の勇者と呼ぶべき雰囲気だ。

「くさっ!? くっっっさ! なにやってんじゃ、おぬし!」

 私が握手それに応じようとすると、フェニ子は鼻をつまみながら黄さんに突っかかった。

「ん? 俺?」
「そうじゃ! なにをスパスパスパスパ……!」
「煙草だよ、煙草。吸うと頭がさわさわして、スッキリするんだよ」
「ふがっ!? その白いモノの名前とかどうでもよいが、臭くてたまらんぞ!」

 蛇蝎の如くフェニ子に嫌われる黄さん。
 しかし私は、そんな理由で黄さんに突っかかるフェニ子に少し違和感を覚えた。

 たしかに目の前でスパスパやられたら嫌な気にもなる。
 ……でも、そこまで気になるものだろうか。
 たしかにこの空気をずっと吸っていたくないのはわかるけど、他の煙草のように、鼻の奥にくるツンとした刺激臭や、息苦しくなるような感じはない。
 個人的に嫌悪感だけでいえば、須貝組の連中が吸っていたもののほうがずっと嫌だった。

 そのうえフェニ子は基本、人当たり自体は悪くはない。
 だから初対面の人間にここまで嫌悪感丸出しで、ずけずけと言うような感じではない。

「この臭いが嫌いってことは……なるほど。お嬢ちゃんが残響種・・・だったか」

 残響種。
 黄さんの口からその単語が出た瞬間、私はフェニ子の襟首を掴み、無理やり後ろへ下がらせた。

「おっとと……どうしたどうした」

 それを見ていた黄さんは煙草を口に咥えながら、こちらに害意はないと示すように両手のひらを見せてきた。

「……この子に何か用ですか」
「その残響種にっていうか、おまえさんがたにかな。……白雉国の勇者殿」
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