無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸

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第2章 丹梅国グルメ戦記・四象の蛇亀

第150話 気分はダイビング

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「真緒……!」

 隣で紅月が声をあげるが、私はゆっくりと手を引き抜き、改めて観察する。

 本当に濡れていない。
 右手で左手に触れてみたり、左手の指同士をこすり合わせたりしてみるが、一滴も水分は付着していない。
 試しに軽く指先を舐めてみるが、しょっぱさも感じない。でも――

「あの感覚は……間違いなく水に……」
「おどろいた……?」

 ここへきて玄冥が楽しそうに口の端をぐいっと持ち上げる。

「おどろくもなにも……ここ、本当に入れるの?」
「入れる……間違いなく……」
「入れるけど、宝玉までたどり着くかはまた別の問題ってこと?」
「え……?」
「試練はまだ終わってない……とか、そういうノリ?」
「べつに……そんなことはないと思うけど……」

 玄冥にふざけている様子はない。
 だとしたら、本当に……?

『――水じゃねえよ』

 いつの間にか、背後に腕を組んだ呂さんが立っていた。

『入ってみりゃわかる』

 どうやら、それ以外の選択肢はないようだ。
 私は祠の前で決意を固めようとすると――ぐっと後ろから押された。
 勢いそのまま、私はドボン・・・と祠の中に入ってしまう。

 突然のことで少し混乱していたし、驚いてしまった私は、バッと振り向いて呂さんを責め立てようとした。

『な、なにするんで――え!?』

 瞬間、世界がひっくり返る。
 私の口からは大量の泡が吐き出されているのに、呼吸は問題なくできている。
 そして、声も――

『聞こえてるぞ』

 呂さんがしたり顔で答える。

 一体どうなっているのか。
 呂さんと私の間には間違いなく水と空気の仕切りがある。
 これも魔法の一種なのだろうか。

「だ、大丈夫なの?」

 紅月が祠の入り口から心配そうに声をかけてくる。

「問題は……ちょっと動きづらいくらいかな」
「ちょっと?」
「呼吸も会話もできてるけど、体だけは水中……みたいな? とにかく、なんか不思議な感覚。紅月も来なよ。危険はないと思うし」
「わ、わかったわ……」

 紅月はその場でめいいっぱい息を吸い込むと――
 〝ザブン〟
 私の後に続くように、彼女が祠の中へと入ってくる。

「す、すごいわね……これは一体どういう……」

 紅月は目を大きく見開きながら、いたく感動しているようだ。

『ほら、宝玉に触りに行くんだろ』
「わっ」

 フェニ子が私と同じように呂さんに背中を押され、ザブンと祠へ入ってくる。
 最初は不満そうな表情を浮かべていたフェニ子だったが、次第にその顔はパッとはなやいでいった。

「お、おお……! 嘻嘻ふふ、すごいのう親愛的ますたあ!」

 フェニ子はを見ながらそう言う。
 私もつられて、同じように見てみると――視界いっぱいに水色の揺らめきが広がった。

 揺らめく波間から陽光が微かに差し込んでいる。
 それが水中で複雑に反射しており、とても幻想的な雰囲気を醸し出していた。
 ふと下を見てみると、そこは濃く深い青。
 底は見えないほどに深く、じっと見ていると吸い込まれてしまいそうだった。
 相変わらず、この魔法がどういう原理なのかはわからないが――

 私は宝玉のことも忘れ、しばらくの間、その場から動けずにいた。
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