無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸

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第2章 丹梅国グルメ戦記・四象の蛇亀

第152話 呂式体験型水族館

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 私たちを飲み込むかのように一直線に迫ってきた……と、思ったが――

「……あれ?」

 直前で速度を緩め、こちらに一切の興味を示すことなく、悠然と私たちの真上を通り抜けていった。
 相変わらずぼんやりと光る巨躯が、ゆっくりと遠ざかり……鯤は……そのまま深海の奥に消えていく。
 そして思い出す

 〝ま、あとのお楽しみだ〟
 〝なあに、すぐにわかる〟

 呂さんが言っていたのは、これのことだと。
 鯤が遠ざかっていく余韻が残るなか、私たちは呆然と、ゆるやかに光を揺らす空間を見回していた。
 すると――

『どうだ。悪くねえだろ』

 背後から声が聞こえ、私たちは揃って振り返った。

『――え?』

 自動翻訳機能が発動し、言葉より先に驚きが口から漏れる。
 そこには呂さんが、何食わぬ顔で立っていた。

『あれ、なんでここに……?』
『おまえさんがたの、その顔を見にな』

 呂さんはそう言って、ニヤニヤと笑いながらその長い顎ひげを撫でる。
 玄冥は……さすがにいないようだ。

『あの、さっきの鯤って……』
『おう。おまえさんらが釣り上げたのと同じ個体だ』
『なんでその鯤がここに……?』
『聞きてえか』

 瞬間、私の眉尻がピクリと動く。
 めんどくせえ。

 いつもなら真っ先にツッコミそうな紅月も動く気配もない。
 私は一度、肺にある空気を吐き出し、呂さんの顔を見て頷いた。
 呂さんは腕を組むと、そのまま人差し指の先をピッと上へ向ける。

『ここは、いわば神様の祠だが、同時に俺の趣味の領域でもある』
『しゅ、趣味……?』

 もしかして――

『見てみろ』

 呂さんが顎で指す先。
 そこにいるのは、なんてことのない普通の魚だった。

『ここにいる魚は、全部、俺と玄冥とで釣った魚なんだよ』
『え……』
『言うなれば、でけえ生簀いけすだな。たまにこうやって中に入って、釣った魚たちと同じ視点で、一杯やりながら、ぼーっと眺めるんだ』
『そ、そうなんですか……つまり、この祠を改造したのは――』
『俺だ。……どうだ。すげえだろ』

 さらりと言うその声音に、妙な誇りと子供っぽさが混じる。
 たしかにここまで趣味に全振りできるのは凄いと思う。

 いや、それよりも何者なんだこの人。

『すげえと思います!』

 紅月は相変わらず全肯定のようだ。
 拳を握り固め、はないきを荒くしている。

『……で、改めて礼を言いたくてな』
『お礼……ですか?』
『そうだ。半分趣味みてえなもんだが、手を貸してくれて助かったよ』
『半分……?』

 全部趣味だと思ってたんだけど。

『……あの、鯤はどうなるんですか?』
『さあな。それを決めるのはヤツだ。俺じゃあねえ。……ただ、これで幾分かの時間は稼げるだろ』
『時間……?』
『おう。あとはあいつが、ビアーゼボがやる気を出してくれりゃあな』
『びあー……っ!?』

 復唱しそうになって口を噤む。
 紅月は私の顔を見ると、言っていないと言わんばかりに首を横に振った。

 紅月を疑ってはいない。
 釣りの時の会話は私も一緒に聞いていたが、彼女はそのことについては一度も話さなかった。
 なのになぜその名前がここで出してきたのか。
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