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自殺勇者の両刀論法
しおりを挟む「おまえは別に、ついてこなくてもよかったんだぞ」
高速道路にかかっている歩道橋。
その下を、ものすごい速さで、様々な車種が通り過ぎていく。
ぼくは今から、ここから、この高さから、飛び降りる。
まあ普通に飛び降りるだけでも、タダじゃすまないだろう。
が、さらに今回はそこから、車との接触をも試みようとしている。
車といっても、ただの車じゃない。
ダンプカーや大型トラックに狙いを定めている。
なるべく、サッとお湯をくぐるように、サッと死にたいのだ。
「いえ、そういうわけにはまいりません」
風に揺れ、太陽を照り返すような金髪のメガネをかけた女子が答える。
どっからどう見ても美少女だが、胸はペッタンコだ。
さらに、顔に表情筋がついているかどうかも怪しいほどの無表情。
ぼくは彼女の笑顔……というか、真顔以外の表情を見たことがない。
とどのつまり、僕から彼女に思うことはなにもない。
これっぽっちもだ。
「あなた様の無様に、カエルのように潰される様を見届けなくてはなりませんので」
なんていうやつだ。
と、思うかもしれないが、これにはこれで理由がある。
「じゃあ、しかと見届けろよ! ぼくが、無様に、あたかもカエルが如く引き潰される様を!」
「…………」
無視かよ! せっかくノってやったのに!
なんて無粋なツッコミはしない。
こいつはこういうやつで、ぼくもそう理解している。
……ただやはり、ムカつくものはムカつく。
ぼくは息を短く「フッ」と吐くと、橋の欄干に手をかけた。
大きく脚をあげ、欄干をまたぎ、橋の外側に移動した。
両手は欄干を掴んだまま、微妙に出っ張っている足場とは呼ばない足場にのる。
恐る恐る視線を先へと遣るが……ダンプカーや大型トラックの類はまだ見えない。
「なあ、ユーケー。車が見えてきたら、何秒後くらいに飛び降りたらいいんだ?」
ユーケー。
ブリティッシュ・UK・イングランド。
にわかには信じられないが、それが彼女の名前だ。
当然、日本人ではない。
かといって、イギリス人でもないらしい。
それに、とてつもなく偽名くさい。
こいつはぼくに対し、本名を語らないでいるのだ。
こいつはぼくの名前を知っているのに、だ。
こんなことなら、ぼくの名前を自己紹介の時、大和ジャポ太郎とでも名乗ったほうが良かったかもしれない。
というか、いまからでもそう名乗ってやろうか!
……あ、自己紹介が遅れました。
ぼく、里中孝太郎っていいます、
高校二年生です。
「そうですね。衣笠丼、ソースカツ丼、サーモンといくらの親子丼、で飛び降りてください」
「き、きぬ……!? いくらとサーモン?」
「サーモンといくらの親子丼です。二度言わせないでください」
「なんでよりによって、そんな歯切れの悪い……、言いづらいチョイスなんだよ」
「私の好みです」
「な、なるほど……!」
悪くないセンスだ。
「ほら」
ユーケーが遠くの方をヌッと指差した。
「ちょうど、活きのいいダンプカーがきましたよ。数えてください」
活きのいい?
わけの分からないワードに、ぼくは思わず振り返ってヤツの顔を見た。
ユーケーは口の端から、ヨダレのようなものを垂らしていた。
無言で、真顔で。
どうせ、こいつの脳内はいま、いくらとサーモンがのたうち回っているのだろう。
いますぐサーモンでユーケーの頬をビンタしてやりたかったが、ぼくは紳士だ。
いくらぼくが死に瀕しているからといって、その瞬間にサーモンといくら丼のことを考えるな、というほうが酷な話だろう。
耐えろ、ここは耐えるんだ、ぼくの内なる紳士よ。
その手に持っているサーモンは、ノルウェーの海にでも戻しておけ。
これはヤツの精神攻撃であり、ぼくがそれに屈する謂れはないのだ。
ぼくは、大きく息を吸った。
「よ、よし。いくぞ、衣笠丼! ソースカツ――」
――ドン!
な!? 押しやがったコイツ!
よりにもよって「丼」のタイミングで、「ドン」とオレの背中を押しやがった!
「ふざけていないで、はやく飛び降りてください」
「ああああああああああああああああああ!?」
ぼくは体勢を崩し、そのまま頭から垂直落下していく。
そこへちょうど、狙いすましたかのように、ダンプカーが目の前まで迫ってきていた。
目の前の、ガラス越しの運転手の顔が引きつっているのが分かる。
そりゃそうだ。
上から高校生が降ってくるのだから。
そして、いまからフロントにぶち当たるのだから。
タイミングは完璧だった。
ヤツはもしかして、これを狙ってたのかもしれない。
ぼくはすこしばかり感心しながら、全身の力を抜いた。
周囲の物、音、時間がスーッと遠ざかっていく感覚。
衝撃。
◇
「起きましたか?」
「うう……ん……?」
どこだ、ここは?
ぼくはあの後どうにかして、この緑のたくさんある、眼にやさしい場所に来たようだ。
「あのあと、あなた様はダンプカーとディープキスをし、眼球や脳みそ、血液を大量にまき散らしたのち、無残にもその場から逃げ出そうとしたダンプカーに、ゴリゴリに轢かれてしまいました。しかし、その直後体の再生が始まり、飛び散ったものが逆再生されるように体内へと戻っていきました。そして――」
「結果、また、死ねなかったのか」
「はい。満足に死ぬことすらできない勇者なんて、滑稽極まりないですが」
「おまえががんばって、言葉の刃でぼくを殺そうとしてくれることには感謝するが、それでは人間は死なないんだ。悲しくなるだけだ。やめてくれ。お願いだ」
「わかりました。滑者様」
「もしかしてそれは、滑稽な勇者様を略したのか? よくもぼくを、これ以上ないほどに滑稽にしてくれたな! ムキー!」
「それではこれにてお暇させていただきます。今日の晩御飯はサーモンといくらの親子丼ですので……」
「待て、それはもしかして、ぼくのぶんは無いのか?」
「何を言っておられるのですか。もちろん、勇者様のぶんもご用意させていただいております」
「なーんだ。さすがユーケーだな。もしかして嫌われたのかと思っていたが、存外そうでもないようだ」
「サーモンといくらの親子丼……風味のカリカリです」
「カリカリ……って、猫の餌じゃないか!」
「……栄養満点ですが、なにかご不満でも……?」
「味だよ!」
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