89 / 140
害虫駆除
しおりを挟むやってきたのは服装から見て、憲兵だろうか……一般人ではないと思うが、急いで隠れたせいでよくわからなかった。数は、二人。
ちなみに、俺たちは気づかれないように、近くの茂みへ、あの二人の死角になるように隠れていた。
クソ魔術師の無駄に早い反応のお陰(というには癪だが)で隠れられたので、あいつらが俺たちに気付いた様子はない。
しかし、この時間帯の公園に、どのような用事があるというのだろうか。
すぐにこの場を離れようかと考えたが、俺たちは一旦、ここで様子を見ることにした。
……余談だが、本来は眼鏡をしているこいつが、なぜ俺たちの誰よりもはやく、あの二人を見つけられたのかというと、こいつのメガネが、伊達メガネだからだ。
視力に異常がないのにもかかわらず、眼鏡をかけるのは釈然としないが、こいつの場合、伊達メガネをかけると人格も変わる……眼鏡に何かあるのか、はたまたこいつの脳に異常があるのか……たぶん後者だろうが、改めて、変人だということがわかる。
「ふふ……うふふふふ……」
突然、俺の近くに隠れていたパトリシアが、声を押し殺すように、小さく笑い始めた。
「ど、どうかしたの?」
「も、申し訳ありません……。こういう事は初めてですので、その……私、おかしくて……楽しくて……」
どうやら、パトリシアはこの状況がおかしくてたまらないらしい。
話を聞いている限り、パトリシアは滅多にネトリールの中央から出ないから、こういう事で興奮したりするのは、わからなくもないんだけど……、こういうお転婆なところ見ると、改めてアーニャの妹なんだな、と思ってしまう。
「――まさか、あのヴィクトーリアが戻ってくるとはな」
ここからでは見えないが、どうやら二人はヴィクトーリアについての話をしているようだ。漂ってくる微かな臭いからして、タバコでも吸っているのだろう。
ヴィクトーリアを知っているやつらの会話だ。すこし時間はかかるかもしれないが、なにか貴重な情報が聞けるかもしれない。ここはやはりこのまま、やり過ごすか……。
「ああ、まったくだ。あのボンクラ、いったい何を考えてんのかね。あのまま地上にいれば、地上人たちと仲良く一掃されてたっていうのによ」
「……へへ、地上に行っても、ボンクラはボンクラのままだったってわけだ」
「まあでも、いい気味だよな。俺、アイツ嫌いだったし。死刑になってくれてせいせいしてるよ」
「……まあな。騎士団であいつのことが好きなやつっていないだろうし。でも、ちょっとやりすぎな感じはしなくもないけどな」
「何言ってんだ。この処分で妥当だろう。だっておまえ、アン王女の誘拐だぞ? いくらアン王女の幼馴染で、一度命を救ったからって、それで許されてりゃあ国として機能しなくなるからな。締めるときは締める。たとえそれが、ヴィクトーリアでもな。それにおまえ、いまは大事な時期だろ。王女様も帰ってきたし、この戦いもこれからだろ? そんな時期に、たかが蟻一匹ごときに時間も割いてられない。問答無用で死刑で良いんだよ、死刑で」
会話の内容からして、どうやら、あの二人は憲兵ではなく、騎士団所属のようだ。
処刑を担当している騎士団の連中がここで休憩している……、ということは、処刑場はここからそう遠くないということか……。
――にしても、こいつらの会話の内容……さっきから聞いてて胸糞が悪くなってくるな。
「それもそうだな。――そうだ、蟻といえば、地上から来たやつら脱獄したみたいだぞ」
「マジかよ……。でも、あいつらいま、魔法とか使えないんだろ? どうやったんだ?」
「知らねえよ。ヴィクトーリアのやつはいま、動けねえし……。アン王女も大事な任務に就いておられるし……」
「そうだ。アン王女には侵入者やヴィクトーリアの件は伝えてねえよな?」
「もちろんだ。そんなこと伝えたら、アン王女様だ。いますぐに助けに向かうだろうぜ」
「それもそうだな。じゃあいまアン王女には……?」
「大事なことは伏せてある。まさか、ご自分が地上世界を滅ぼそうと一役買っているなんて、夢にも思ってないだろうな……」
「帰ってきたとき、どうしても自分の仲間たちは見逃してほしいって、王に嘆願してたしな」
「そう考えると、やっぱえげつねえよな」
「同感だが、んなこと言ってる場合でもないからな……」
「……ま、これを機に、アン王女様には目を覚ましてもらいたいもんだ」
アンが騙されて地上世界を滅ぼそうとしている?
どういうことだ、話が見えてこない。もうすこし話を聞きたいが、出ていくわけにもいかない。俺はパトリシアを見るが、パトリシアはすこし伏し目がちに、首を横に振った。
わからない。もしくは知らなかったという事だろう。
「まったくだ。……話は戻るけどよ、もしかして、脱獄を手伝ったのは憲兵のやつらってセンはねえか?」
「ないない。それこそありえねーだろ。そんなことするメリットもねーし、なによりそんなことすれば、十中八九首が飛ぶ。立場的にも、物理的にもな」
「だったら、誰が……?」
「さあな。……やれやれ、次から次に面倒くせーな。聞くところによると、脱獄したそいつらも、もともとはヴィクトーリアが連れてきたみたいじゃねえか」
「はーあ……、こりゃヴィクトーリアだけの責任問題じゃなくなってくるかもな……」
「なんだよ。てことは、アン王女も……?」
「それなりの罰は受けそうだな。あとは――」
「団長か?」
「まあな……、団長からしたら、たまったもんじゃねえわな」
「だな。団長、団のなかで一番ヴィクトーリア嫌ってたもんな」
「あれ? 団長はそうでもなかったような気はするけどな……」
「そうかあ? 団長が一番、あいつに厳しく接してたろ。何かにつけて、雑用とか稽古とかで、ビシビシしごいてたじゃん」
「うーん、まあ、そうだったっけ……」
「まあ、でも惜しいっちゃあ、惜しいよな」
「……なにがだよ?」
「いや、ホラ、あいつ、顔はよかったろ?」
「なんだよおまえ。もしかして――」
「んなワケねえだろ。……ただまあ、あいつが死ぬ前にやることはやっておきたかったよな?」
「だははははは! ゲスいねえ! だが、言いたいことはわかる。あいつ、ポンコツのボンクラだけど、たしかに顔だけは良かったからな」
「だろ? ……いや、でもよ。アイツの今の状態だ。うまくやれば、死ぬ前に一発――」
さすがに我慢の限界だった。
この言われようから察するに、ヴィクトーリアが騎士団に所属していた時からこんな感じだったのだろう。あいつはただ、アーニャと一緒にいたかっただけのはずだ。たしかに、そのためだけに、コネで騎士団に所属したのは良くなかっただろう。
しかし、俺はヴィクトーリアの性格を知っている。
あいつはあいつなりに、精一杯、慣れないことながらも歯を食いしばって勤め上げていたはずだ。
それをあんなやつらに――元同僚に、そして何より、俺たちの仲間に、そんなことを言われて黙っていられるわけがない。
俺は怒りにまかせて、そのまま茂みから立ち上がろうとするが――
「……?」
妙に体が軽くなっていることに、違和感をおぼえた。
俺にしがみついていたはずのユウがいない。
一体、この一瞬でどこへ行ったのか、俺は急いで周囲を見回すが、その瞬間――
「だ、だれだ!? おまえは!?」
と、少し離れたほうで、男たちがいた方向から声が上がった。
見ると、ユウはすでに二人の前で、警棒を手に戦闘態勢をとっていた。
「こんばんは。通りすがりの憲兵です。害虫を駆除しにきました」
「憲兵……だと? おまえ、こんなところで何してる!?」
「いや、よく見ろ。こいつ、憲兵じゃねえ! ……てか、おまえのような、殺気丸出しの憲兵がいるか!」
「もちろん、この殺気はあなた達に向けてのものです」
あほか、あいつは……!
わざわざ正面から突っ込まなくても、いくらでもやりようはあっただろうが。
でも、あいつがそうしていなければ、俺がしていたかもしれない。
ヘンな言い方だが、そのおかげですこしだけ冷静になれた。
俺は不安そうに、俺を見てくるパトリシアの頭に手を置くと、小声で『すこしだけ待ってて』とだけ言い残した。
0
あなたにおすすめの小説
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる
まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。
そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる