力は弱くて魔法も使えないけど強化なら出来る。~俺を散々こき使ってきたパーティの人間に復讐しながら美少女ハーレムを作って魔王をぶっ倒します

枯井戸

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害虫駆除

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 やってきたのは服装から見て、憲兵だろうか……一般人ではないと思うが、急いで隠れたせいでよくわからなかった。数は、二人。
 ちなみに、俺たちは気づかれないように、近くの茂みへ、あの二人の死角になるように隠れていた。
 クソ魔術師の無駄に早い反応のお陰(というには癪だが)で隠れられたので、あいつらが俺たちに気付いた様子はない。
 しかし、この時間帯の公園に、どのような用事があるというのだろうか。
 すぐにこの場を離れようかと考えたが、俺たちは一旦、ここで様子を見ることにした。
 ……余談だが、本来は眼鏡をしているこいつクソ魔術師が、なぜ俺たちの誰よりもはやく、あの二人を見つけられたのかというと、こいつのメガネが、伊達メガネだからだ。
 視力に異常がないのにもかかわらず、眼鏡をかけるのは釈然としないが、こいつの場合、伊達メガネをかけると人格も変わる……眼鏡に何かあるのか、はたまたこいつの脳に異常があるのか……たぶん後者だろうが、改めて、変人だということがわかる。


「ふふ……うふふふふ……」


 突然、俺の近くに隠れていたパトリシアが、声を押し殺すように、小さく笑い始めた。


「ど、どうかしたの?」

「も、申し訳ありません……。こういう事は初めてですので、その……私、おかしくて……楽しくて……」


 どうやら、パトリシアはこの状況がおかしくてたまらないらしい。
 話を聞いている限り、パトリシアは滅多にネトリールの中央から出ないから、こういう事で興奮したりするのは、わからなくもないんだけど……、こういうお転婆なところ見ると、改めてアーニャの妹なんだな、と思ってしまう。


「――まさか、あのヴィクトーリアが戻ってくるとはな」


 ここからでは見えないが、どうやら二人はヴィクトーリアについての話をしているようだ。漂ってくる微かな臭いからして、タバコでも吸っているのだろう。
 ヴィクトーリアを知っているやつらの会話だ。すこし時間はかかるかもしれないが、なにか貴重な情報が聞けるかもしれない。ここはやはりこのまま、やり過ごすか……。


「ああ、まったくだ。あのボンクラ、いったい何を考えてんのかね。あのまま地上にいれば、地上人たちと仲良く一掃されてたっていうのによ」

「……へへ、地上に行っても、ボンクラはボンクラのままだったってわけだ」

「まあでも、いい気味だよな。俺、アイツ嫌いだったし。死刑になってくれてせいせいしてるよ」

「……まあな。騎士団であいつのことが好きなやつっていないだろうし。でも、ちょっとやりすぎな感じはしなくもないけどな」

「何言ってんだ。この処分で妥当だろう。だっておまえ、アン王女の誘拐だぞ? いくらアン王女の幼馴染で、一度命を救ったからって、それで許されてりゃあとして機能しなくなるからな。締めるときは締める。たとえそれが、ヴィクトーリアでもな。それにおまえ、いまは大事な時期だろ。王女様も帰ってきたし、この戦いもこれからだろ? そんな時期に、たかが蟻一匹ごときに時間も割いてられない。問答無用で死刑で良いんだよ、死刑で」


 会話の内容からして、どうやら、あの二人は憲兵ではなく、騎士団所属のようだ。
 処刑を担当している騎士団の連中がここで休憩している……、ということは、処刑場はここからそう遠くないということか……。
 ――にしても、こいつらの会話の内容……さっきから聞いてて胸糞が悪くなってくるな。


「それもそうだな。――そうだ、蟻といえば、地上から来たやつら脱獄したみたいだぞ」

「マジかよ……。でも、あいつらいま、魔法とか使えないんだろ? どうやったんだ?」

「知らねえよ。ヴィクトーリアのやつはいま、動けねえし……。アン王女も大事な任務に就いておられるし……」

「そうだ。アン王女には侵入者やヴィクトーリアの件は伝えてねえよな?」

「もちろんだ。そんなこと伝えたら、アン王女様だ。いますぐに助けに向かうだろうぜ」

「それもそうだな。じゃあいまアン王女には……?」

「大事なことは伏せてある。まさか、ご自分が地上世界を滅ぼそうと一役買っているなんて、夢にも思ってないだろうな……」

「帰ってきたとき、どうしても自分の仲間たちは見逃してほしいって、王に嘆願してたしな」

「そう考えると、やっぱえげつねえよな」

「同感だが、んなこと言ってる場合でもないからな……」

「……ま、これを機に、アン王女様には目を覚ましてもらいたいもんだ」


 アンが騙されて地上世界を滅ぼそうとしている?
 どういうことだ、話が見えてこない。もうすこし話を聞きたいが、出ていくわけにもいかない。俺はパトリシアを見るが、パトリシアはすこし伏し目がちに、首を横に振った。
 わからない。もしくは知らなかったという事だろう。


「まったくだ。……話は戻るけどよ、もしかして、脱獄を手伝ったのは憲兵のやつらってセンはねえか?」

「ないない。それこそありえねーだろ。そんなことするメリットもねーし、なによりそんなことすれば、十中八九首が飛ぶ。立場的にも、物理的にもな」

「だったら、誰が……?」

「さあな。……やれやれ、次から次に面倒くせーな。聞くところによると、脱獄したそいつらも、もともとはヴィクトーリアが連れてきたみたいじゃねえか」

「はーあ……、こりゃヴィクトーリアだけの責任問題じゃなくなってくるかもな……」

「なんだよ。てことは、アン王女も……?」

「それなりの罰は受けそうだな。あとは――」

「団長か?」

「まあな……、団長からしたら、たまったもんじゃねえわな」

「だな。団長、団のなかで一番ヴィクトーリア嫌ってたもんな」

「あれ? 団長はそうでもなかったような気はするけどな……」

「そうかあ? 団長が一番、あいつに厳しく接してたろ。何かにつけて、雑用とか稽古とかで、ビシビシしごいてたじゃん」

「うーん、まあ、そうだったっけ……」

「まあ、でも惜しいっちゃあ、惜しいよな」

「……なにがだよ?」

「いや、ホラ、あいつ、顔はよかったろ?」

「なんだよおまえ。もしかして――」

「んなワケねえだろ。……ただまあ、あいつが死ぬ前にやることはやっておきたかったよな?」

「だははははは! ゲスいねえ! だが、言いたいことはわかる。あいつ、ポンコツのボンクラだけど、たしかに顔だけは良かったからな」

「だろ? ……いや、でもよ。アイツの今の状態だ。うまくやれば、死ぬ前に一発――」


 さすがに我慢の限界だった。
 この言われようから察するに、ヴィクトーリアが騎士団に所属していた時からこんな感じだったのだろう。あいつはただ、アーニャと一緒にいたかっただけのはずだ。たしかに、そのためだけに、コネで騎士団に所属したのは良くなかっただろう。
 しかし、俺はヴィクトーリアの性格を知っている。
 あいつはあいつなりに、精一杯、慣れないことながらも歯を食いしばって勤め上げていたはずだ。
 それをあんなやつらに――元同僚に、そして何より、俺たちの仲間に、そんなことを言われて黙っていられるわけがない。
 俺は怒りにまかせて、そのまま茂みから立ち上がろうとするが――


「……?」


 妙に体が軽くなっていることに、違和感をおぼえた。
 俺にしがみついていたはずのユウがいない。
 一体、この一瞬でどこへ行ったのか、俺は急いで周囲を見回すが、その瞬間――


「だ、だれだ!? おまえは!?」


 と、少し離れたほうで、男たちがいた方向から声が上がった。
 見ると、ユウはすでに二人の前で、警棒を手に戦闘態勢をとっていた。


「こんばんは。通りすがりの憲兵です。害虫を駆除しにきました」

「憲兵……だと? おまえ、こんなところで何してる!?」

「いや、よく見ろ。こいつ、憲兵じゃねえ! ……てか、おまえのような、殺気丸出しの憲兵がいるか!」

「もちろん、この殺気はあなた達に向けてのものです」


 あほか、あいつは……!
 わざわざ正面から突っ込まなくても、いくらでもやりようはあっただろうが。
 でも、あいつがそうしていなければ、俺がしていたかもしれない。
 ヘンな言い方だが、そのおかげですこしだけ冷静になれた。
 俺は不安そうに、俺を見てくるパトリシアの頭に手を置くと、小声で『すこしだけ待ってて』とだけ言い残した。
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