90 / 140
小競り合い
しおりを挟む「おまえなあ……、勝手に何やってん――」
俺はユウに声をかけようとして、口をつぐんだ。
ユウの体から溢れ出んばかりの……というかもう、少し漏れ出している負のオーラが、辺りを包んでいたからだ。
ちらりと騎士団の二人を見ると、顔が強張っているのがわかる。
それでもなお、その二人が臨戦態勢をとっているのは、無知ゆえか、はたまた、この状態のユウに勝てると自負しているからか……とりあえず今は、戦況の把握に努めたほうがよさそうだ。
敵の観察。
魔法が使えない以上、実際に肉眼で観察するほかない。
それに、こうやって姿を晒した以上、こいつらを避けて通れるとも思えないし、後々対峙するであろうネトリール騎士団とやらの実力も、ここで計っておきたい。
だから、こいつらはここで処理する。
「ごめん、おにいちゃん。でも、すぐに片付けるから」
「いや、おまえがやらなくても、俺が何かしら行動していた。……それで、どうだ? 魔力や何かは?」
「……感じない。でも、たぶん何かあると思う」
「だろうな」
案の定、こいつらは魔法を使えない。
だとすれば、飛行船を攻撃した時みたいな光の兵器……まではいかなくても、ヴィクトーリアが所有していた銃火器や、その類を持っていても不思議じゃない。
というか、曲がりなりにもこの目の前の二人はネトリールの平和を守る者。騎士団員なわけだ。自衛にせよ、敵の鎮圧にせよ、武器を持っていないわけがない。
そこだけは、警戒は怠れない。
一度、俺たち冒険者に蹂躙されていたとはいえ、それはあくまで昔の話。
今は何をしてくるかすら、見当もつかない。したがって、敵の戦力は未知数。下手をすれば、魔法を使えないとはいえ、一方的にやられてしまう場合もある。決してユウが魔法を使えるからといって、楽観視できる状態ではない。
それほどまでに、ネトリールの技術は日進月歩。
元々、このような都市を浮かせるほどの技術はあったのだ。
いままではその技術を、軍事力に力を注いでこなかっただけだが、今は違う。
この前の経験があるがゆえに、そう悠長に事を構えてられない。
やるなら一瞬。それも不意を突いて……が理想だったが、そういうわけにもいかなくなった。だからここは冷静に、物事を推し進めていく必要がある。
……俺の隣にいるケダモノを宥めながら。
「おまえら……、もしかして、ヴィクトーリアが連れてきた……?」
二人のうち、一人にそう尋ねられ、俺は再び視線を二人へと戻す。
騎士団と呼ばれているからには、ゴツイ甲冑や盾、剣なんかを装備しているのかと思ったが、その外見は俺たちが着用している憲兵服に近い。
というか、それの色違いだった。
憲兵服が深緑色であれば、騎士団服は鮮やかな赤色。
その他に目立った違いは見当たらない。
「……ああ、そうだ。こちらとしても事を荒げたくない。用が済めば、このままあんたたちに害を加えるつもりもない。……それに、さきほどの話を聞いた限りだと、おまえたちもヴィクトーリアに不満があるんだろ? なら、俺たちが連れて帰ってもいいんじゃないのか?」
これはもちろん嘘だ。
こいつらはここで処理する。
それは揺るがないし、俺の隣のやつはそれをたぶん……いや、絶対に許さない。
ただ、ここはあちらの出方を伺う必要があり、油断させる必要もある。それと、わざわざ敵のペースに合わせてやる必要もない。
「……もちろん、あのボンクラが欲しいってんなら、やっても構わねえぜ。俺たちだって、喜んで厄介払いができるからな。……けど、それはあいつが事件を起こしてなかったらって話だ」
「地上人だって、ガキの頃悪いことをすれば親に叱られただろ?」
「それの延長線だよ。悪いことをした。……だったら、その落とし前はきっちりつけないとダメだろってな」
「まあそうだな。悪いことをすれば、怒られたり、殴られたりはあるかもしれない。……けど、殺されたりはなかったよな」
「だから、それほどの事をしたんだろうが。おまえらみたいな野蛮人が住んでいる地上では、バンバン姫を連れ出してるのかもしれないが、ここ、ネトリールでは姫を誘拐するなんて、重罪なんだぜ?」
「アホか! 地上世界でも普通に姫を連れ出すのはダメだわ! ……てか、そんなことは知ってんだよ。俺が言ってんのは、アーニャが同意したうえでついて行った場合のことを言ってんだ。その場合、ただの小旅行だろうが。多少、大目に見てやったって――」
「アーニャ……だと?」
片方の男の声が一層低くなる。
しかし、それから間髪を入れずに、もう片方の男が諌めるように前へ出た。
「……その認識の甘さだな。姫様をはじめ、王族というのはネトリールという国家の象徴。つまり、いなくなればこの国は立ち行かなくなる。地上人たちに迫害され、搾取され、蹂躙され……、そして身勝手にも解放された時、それでも道を見失わなかったのは、歯を食いしばって頑張ってこれたのは、あの方たちがいてくれたお陰だ。自ら光となって、道標となっていてくれたからだ。つまり、あのボンクラは俺たちから希望を奪ったんだ。これが重罪でなければなんなんだってんだ? 姫様があのボンクラに同意の上でついていっただと? わかってんだよ。あの二人がどれだけ仲がいいかなんてな。だからこそ許せねえ。そう言ってんだ。俺は……、俺たちは、あの浅慮さが赦せない」
「だから殺すって? アホか。バカバカしい。程度を知れ。いくら道標がないからって暴走すんな。イノシシかお前らは! だいいちおまえ、騎士団とか呼ばれてる割に、落とし前とか……言葉のチョイスが穏やかじゃねえんだよ」
「心配すんな。ネトリールの人たちの前じゃこんな感じで話さねえよ。……それで?」
「あ?」
「それで、そんな憲兵服を着ている地上人が、俺たちに何か用かって聞いてんだ? 頑張って脱獄して、ここまで説教でもしに来たのか? ……悪いけど、俺たちはこう見えて忙しいんだよ。用がないならさっさと牢屋に戻ってくれねえか?」
「なんだ、いまここで殺さねえのか?」
「殺すさ。地上人は全員殺す。俺たちにした仕打ち、忘れたとは言わせねえよ。……ただ、それは俺たちがやることじゃないって話だ。……もうすぐ。もうすぐだ。天罰がここから降り注ぎ、地上全てを焼く。そのあとにおまえらも殺す。だからそのまま来た道を戻れ。牢屋に入って、殺される時まで震えてろ」
「はは、天罰ときたか。そうか、ならあんたらが神様なワケだ。……で、そうそう、用事のことだけど、あんたらが道標を失ったように、俺たちもいま道に迷っててな。なんせ、複雑すぎて帰り道がわからねえんだ。それに、このまま帰ろうにしても、まだ忘れ物とかもあるしさ。帰るわけにもいかないじゃん」
「忘れ物……だと……?」
「そう。そこで神様におねがいしたいんだけど、忘れ物……つまり、アーニャとヴィクトーリアの居場所を教えてほしいんだよね」
「ぶっ殺す!」
相手の言葉が引き金となり、諌められていたほうの男が目の色を変え、飛びかかってきた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー
すもも太郎
ファンタジー
この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)
主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)
しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。
命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥
※1話1500文字くらいで書いております
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
1000年生きてる気功の達人異世界に行って神になる
まったりー
ファンタジー
主人公は気功を極め人間の限界を超えた強さを持っていた、更に大気中の気を集め若返ることも出来た、それによって1000年以上の月日を過ごし普通にひっそりと暮らしていた。
そんなある時、教師として新任で向かった学校のクラスが異世界召喚され、別の世界に行ってしまった、そこで主人公が色々します。
【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる
雨野
恋愛
難病に罹り、15歳で人生を終えた私。
だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?
でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!
ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?
1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。
ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!
主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!
愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。
予告なく痛々しい、残酷な描写あり。
サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。
小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。
こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。
本編完結。番外編を順次公開していきます。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる