現実世界に魔物が現れたのでブラック会社を辞めて魔法少女になりました~PCをカタカタするよりも魔物をボコボコにするほうが性に合っていた私、今

枯井戸

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魔法少女誕生

恐怖!☆巨大カニ男!?

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 何?
 もしかしてこのインベーダー、魔法少女になるとかなんとか言わなかった?
 ……うん、たしかにそう言ってた。
 顔見て本気なのか冗談なのか確認したいけど、手の拘束を解いてくれる様子はない。


「いかがでしょう、キューティブロッサム。あたくしが魔法少女になるというのは」

「いかがでしょうも何も……、まずは手、離してくれませんか」

「あら、これは失礼」


 レンジの手が緩み、拘束が解かれる。
 私は体を起こすと、レンジの体の上から素早く退いた。……その時、私はレンジの顔を一瞥したが、レンジは何やら物思いに耽っているようだった。
 どうやらレンジには、これ以上戦闘を続行する意思はないようだ。
 かく言う私もすでに毒気は抜けており、仰向けで寝転がっているレンジに追撃する気すらなくなっていた。


「いたた……」


 レンジに掴まれていた手を見る。手のひらは完全に鬱血していて紫色に変色している。手の甲はというと、くっきりとレンジの手の形の痣が付いていた。
 私はとりあえず(私とレンジの衝突で出来た)クレーターから這い出ると、投げ捨ててあったインカムを拾い上げた。


「──もしもし? 聞こえてますか、玄間さん」


 私の声が校内のスピーカーを通じて届いてこない。という事は、玄間は接続を切ったのだろう。


『プリン・ア・ラ・モード聞こえてるきゃと。……まずはミス・ストレンジ・シィムレスを止めてくれた事に感謝するきゃと』

「あ、はい。どうも」

『……なんかサッパリしてるきゃとね。S.A.M.T.としても、戦闘力の高い魔法少女が仲間になってくれて、嬉しいってのはあるんきゃとが──』

「──いや、それよりもさっきの話、聞いてました? 彼女、魔法少女になるとかなんとか……」

『聞いてたきゃと』

「これ、玄間さんはどう思います?」

『プリン・ア・ラ・モードきゃと。……うーん、いつもみたいにおちょくられているだけ、の可能性もあるきゃとが……』

「あるきゃとが……?」

『……これも初めてのパターンだから何とも。なにせ今までインベーダー側から魔法少女になりたいなんて言われたことも、聞いたこともなかったきゃとからねぇ……。とりあえず、いま、ミス・ストレンジ・シィムレスはどんなかんじきゃと?』

「えっと……」


 玄間さんに言われ、私はクレーターの中を覗いてみた。


「えと……、仰向けのまま、腕組みをしながらうんうん唸ってます」

『そうきゃとか……』

「あの、たぶんもうレンジ──ミス・ストレンジ・シィムレスに戦闘意思はなさそうなので、こちらへ来てもらっても大丈夫だと思いますよ? そのほうが色々とスムーズにいくと思いますし、なにより私、いきなり魔法少女になるとか言われても、新人なのでうまく対応できませんし……そもそも私自身、魔法少女の事をよくしりませんから……」

『……そうきゃとね。たしかにミス・ストレンジ・シィムレスをこちら側に引き入れることが出来れば、これ以上ない収穫になるきゃと。うーん……じゃあ、僕がそこに着くまで現場を──』


 ──ズドォォォォオオオオオン!!


 お腹の底まで響いてくるような大きな地鳴りと共に、地面がグラグラと揺れる。


『ど、どうしたきゃと!? キューティブロッサム!』

「いや、私もよくわからないんですが、いまなにか上から降ってきたような……」


 音のした方向──なにかが落ちてきた方向を見ると、大量に巻き上がった砂煙に交じって、大きな影が浮かび上がっていた。


「……カニ?」


 私の口をついて出たのはその二文字。蟹。
 やがて砂煙が晴れると、その中から本当にカニが現れた。──が、かなり大きい。これはクマ……サイ……いや、ゾウくらいの体高はある。口からはぶくぶくと泡を吐いていて、私の身長よりもずっと大きなハサミを振り回している。
 なんだあのカニ?!


「く、玄間さん! カニ! カニがいます! しかもなんかめちゃデカい……何ですかアレ!?」

『だからプリン・ア・ラ・モードきゃと!』

「え? じゃあアレが玄間さんの本体なんですか!?」

『いや、玄間じゃなくて……て、今はそんなのどうでもいいのきゃと!』


 すごい。あの玄間さんが冷静に、自分でツッコんでる。


『あれは〝ミスターキャンサー〟。ミス・ストレンジ・シィムレスがインベーダーの幹部なら、アレはその下っ端のザコきゃと』

「なんでそのザコがこんなところに!?」

『わからんきゃと。でも──』

「──キューティブロッサム!」


 不意に私のコードネームを呼ばれ、肩がビクッと上下する。誰かと思ってその声の発生源を見ると、レンジが腕組みをしながら立っていた。


「どうやら、制限時間が来てしまったようですわね」

「え? 制限時間って、何……? このカニは? どうするの?」

「『遊んでないで帰ってこい』と言われましたので、あたくしもう帰らなくてはいけませんの」

「誰に?」

「キューティブロッサム! 此度の力比べ、大変に楽しめましたわ。特別にあなたをあたくしのライバルと認めて差し上げます」

「いや、カニは? あと、レンジに命令を下したの誰なの?」

「魔法少女の件、大変魅力的な申し出ではありましたが、今回は見送らせていただきます。ですが、前向きに検討させていただきますので……、あたくしはこれにて」


 それだけを言い残し、レンジは高笑いをしながら現場からダッシュ・・・・で消えてった。


「ま、待って! なんでそんな思わせぶりな事しか話さないの! もうちょっと情報くれても──」


 すかさずレンジの後を追おうとした私の前に、ミスターキャンサーと呼ばれていたカニが立ち塞がった。


「──カニカニカニ……! ミス・ストレンジ・シィムレス様は忙しいお方なんだカニ!」

「しゃ、しゃべる……カニ……?!」


 思わず私の声が裏返る。
 目の前の巨大なカニが、突然、流ちょうな日本語を話してきたのだ。
 そりゃビックリもします。


「〝ミスターキャンサー〟さん、そこをどいてください。いますぐミス・ストレンジ・シィムレスの後を追わないと……!」

「ククク……いや、カニカニカニ……ここはミスターキャンサー様が死んでも通さないカニよー!」

「よりにもよって口癖が〝カニ〟って……玄間さんといい、あんたら皆、そんな雑なキャラ付けばっかりですか! もっと設定練り直してこい!」

「カニカニ……何を言っているかわからんが、ここを通りたくばワシ……いや、オレ? ボク? を倒してからにするんだゼ……いや、カニな!」

「いや、キャラもぶれぶれじゃないですか。せめて一人称はしっかり決めて来てくださいよ……」

「う、うるさい! おまえだって、いい歳して変な服着て、恥ずかしくないんカニ? 人間の事にはあまり詳しくないカニが、おまえ、どう見たって少女って歳じゃないカニ! 身の程をわきまえるカニよ! この、ババ──」


 ──ブチ。
 その時、私の中で何かが切れた。
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