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魔法少女誕生
ブッコ☆ス
しおりを挟む──西日が差し込む雑居ビル内の一室。
そこにスペシャルアサルト魔法少女チーム、縮めて〝S.A.M.T.〟の本部があった。
私はそこで年季の入った事務椅子に腰かけ、これまた年季の入ったブラウン管テレビの画面を見つめていた。
テレビの中では今まさに、ピンキーでフリフリな魔法少女が巨大なカニの怪人と戦っている。……いや、戦っているというよりも、これは──
「く……っ、これはなかなか……」
私の隣で気持ち悪そうに呻いたのは、プリン・ア・ラ・モードの頭部のみを脱衣した玄間さんだった。玄間さんも私と同じように、テレビの画面を真剣に見つめていた。
──そう。
これはもはや戦いではない。ごくごく普通の感性を持っている人間は、日曜日の朝にやっているような、愛と正義の名のもとに怪人を殲滅する、魔法少女のアニメを見て気分を悪くしない(この場合玄間さんが普通かどうかはおいといて)。
これは謂わばドキュメンタリーだ。
なんの台本も、演者も、演出もないただの記録映像。
魔法少女が怪人を惨殺する現場。それを取り扱ったニュースの映像。
私たちはいま、そのニュースをさらに録画したものを見ていた。
『──こちら現場の山之内です! ご覧ください! 新しくS.A.M.T.の所属になった魔法少女〝キューティブロッサム〟が、豊永南小学校のグラウンドでカニ型のインベーダー〝ミスターキャンサー〟と戦っております!』
画面にはレポーターと思われる若い女性がヘリコプターに乗って、上空から私の戦いを見下ろしていた。そういえばインベーダーとの戦闘中、なんとなく上がパタパタと上が騒がしかった覚えがあるけど、上から撮影されていたのか。
『ミス・ストレンジ・シィムレスとの凄まじい戦いが終わり、疲労していたところを卑怯にも狙われたキューティブロッサムですが、その疲労をものともせず、キューティブロッサムはミスターキャンサーを……うぷ……あのカニ型のインベーダー……を……す、すみません……うおえ』
突然レポーターの女性が、口を押さえて軽く嘔吐いた。
『山之内さん!? 山之内さん! 大丈夫ですか?!』
画面がスタジオのほうへに切り替わる。
ニュースキャスターの男性が心配そうに、山之内と呼ばれたレポーターに声をかけると、再びカメラは現場のほうへ切り替わった。
山之内レポーターは大きく深呼吸すると、意を決し、もう一度マイクを構えた。
『……も、申し訳ありません! あまりにも……その……凄惨で……インベーダーが可哀想で……吐き気が……うぷっ!』
「か、可哀想って……それはちょっと……」
山之内レポーターの言葉に、私は眉をひそめる。
今までずっと病院で気絶してて、起きたらすぐ留置場に入れられて、そこから出されたと思ったら恥ずかしい服を着せられて、最強級のインベーダーと戦わされた挙句、全世界にこの映像を放送されている私の身にもなってほしい。
幸い、恥ずかしい服やウィッグをかぶっていたおかげで、キューティブロッサムが誰なのかまでは親族や知り合いにもバレてないみたいだけど、それでも裏でこんなことになっていたなんて思ってもみなかった。
……ただまあ、この山之内レポーターの言いたいこともわかる。
これは……たしかにちょっと、世界中に放送できる内容じゃないよなぁ……。
画面の中の私は、ゾウほどの大きさもあるミスターキャンサーを素手で解体していた。まるで茹でガニ食べる時のようにバキッと脚を折り、私の体よりも大きいハサミを無理やりガバッと開き、胴体に無理やり手を突っ込んでカニみそをズボボッと引きずり出している。
画面内の私がミスターキャンサーに危害を加えるたび、玄間さんと山之内レポーターが嘔吐いていた。
ミスターキャンサーも既に戦意を喪失していたのか、自らの足をちぎって囮にしたり、必死に叫び声をあげて周りに(誰に?)助けを求めたりして、私から逃げようとしていたが、そこにいる私はそれを許さなかった。
私は逃げるミスターキャンサーに追いつくと、トドメといわんばかりにその巨躯を持ち上げ──
『──くたばれェ! パワァァァァボム!!』
という喉が潰れんばかりの雄叫びを上げながら、十点満点中十点のパワーボムをお見舞いしていた。
そしてそこには、私とレンジの衝突で出来たクレーターよりもさらに深く、大きいクレーターが出来上がっていた。
そして私のパワーボムによる余波は空気、大気を震わせると、はるか上空にいたヘリコプターさえも震わせて、そのまま強制的に中継を中断させた。
「──大丈夫なんですかね、あのレポーターさんたちが乗ってたヘリコプター……」
「も、問題ない……みたいです。少し強く揺れただけで、乗っていた人間は全員無事だと聞いております」
「よかった……。で、いつまで気持ち悪そうにしてるんですか……」
「すみません。キューティブロッサムの戦闘スタイルが少し過激だったもので……」
玄間さんはフラフラとテレビのところまで行くと、プツ──とテレビの電源を切った。ブラウン管なので、テレビの前にいる玄間さんの着ぐるみの毛が静電気でワサワサしている。
「……鈴木さん、なにを笑っているのですか?」
「あ、いえ……ぷぷぷ……な、なんでもないです。……ていうか、脱がないんですか、その着ぐるみ」
「後で脱ぎます。……とりあえずは鈴木さん、初のインベーダー討伐、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます。……ん? とりあえず?」
「これから反省会です」
「まあ、そうなりますよね」
「その前に……どこか怪我はありませんか」
「あ、はい、特にないんですけど、服を返り血……もとい返りカニみそでだいぶ汚しちゃいました……。これ、洗ってとれるんですかね」
私は手首を使って、汚れをゴシゴシと拭ってみた。
とれない。
これはかなりガンコだ。
あれほどフリフリで、ヒラヒラで、ピンキーだった魔法少女の服がもうすっかり鼠色に変色していた。甲殻の破片もあちこちに突き刺さっている。
「そうですね。その制服はあとでクリーニングに出しておきましょう」
「せ、制服……ということはやっぱり、この先もずっとこれ着ないと……ダメなんですよね」
「ダメです。鈴木さんは魔法少女なので」
「うぅ……このままじゃ知り合いや親にバレちゃいますよ? そうなったら私……」
「大丈夫です。そのためのウィッグとカラーコンタクトですので」
「コンタクトは怖いけど、つぎからはちゃんとつけますね……」
「それにしても凄まじい戦果でした。ミス・ストレンジ・シィムレスと対等に渡り合うどころか、まさかあそこまでインベーダーを惨殺してしまうとは……」
「惨殺って……まあ、大体そんな感じでしたけど。インベーダー退治はあんな感じでよかったんですか?」
「はい。特に大きな問題はありません」
「でも、こういうのがその……お茶の間に流れたりするんですよね」
茶の間に流れる。
さっきも言ったけど、魔法少女の戦いはそのままテレビ局や動画投稿サイトを通じて全国、全世界へ放送される。その際、出来るだけ魔法少女には迷惑が掛からないように、ドローンや定点カメラ、あるいは今回のようにヘリコプターで撮影されるようだ。でもべつにこんなのを放送する必要ないよね? ──と思うかもしれないが、今の時代、この魔法少女対インベーダーこそが……。
「はい。これが最大の娯楽ですので」
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