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魔法少女派遣会社
そんなぁ☆住所不定の魔法少女
しおりを挟む──ゴク、ゴク、ゴク……。
レンジは運ばれてきた〝なんちゃらコーヒー〟を、大きく喉を鳴らしながら飲み下した。
「ふぅ……相変わらずクソ美味ぇですの」
「いや、だからそれ安物の……。はぁ、よかったですね……」
もはや何も言うまい。いや、言えない。今日一日、散々ツッコミし疲れている。
そんな私は、もうすでに気力、体力共に枯れ果てていた。
けど、これだけは譲れないのだ。私は意地でも、今日、自分の家のベッドで寝るんだ。こんなバカインベーダーに邪魔されてなるものか。
「……あのさ、レンジ。ほんと嫌がらせとかどうでもいいから、明日になったらまた付き合ってあげるから、とにかく私の家から出てってくれない?」
「見くびらないでくださる? 何度もおっしゃいましたが、あの部屋は、あたくしの住居。あたくしの居城。あなたのものでは決して……あら?」
「なに?」
「もしかしてあなた……、疲れてらっしゃる? 昼間の時のあなたに比べて、心なしか……老けたような印象が……」
「余計なお世話です!」
「こちらの世界の人間って、年を取るのも早いようね」
「んなワケないでしょ。たしかにレンジみたいに長い時間生きることは出来ないけど……ていうか、誰のせいで私が老け込んでると思ってるんですか」
「あたくしのせい、とおっしゃいたいようですわね」
「レンジだけのせいでもないですけどね。今日一日、色々なことがあり過ぎて、今も変なのに絡まれてるし……」
「ま! もしかしてあなた、いまあたくしの事を〝変なの〟と申しました? もう一度おっしゃってごらんなさい!」
「変なの」
「二度も!? も、もう許せませんわ! 徹底的にやってやりますわ!」
「……徹底的に、ね。悪いけど、いまの私は手加減できるくらい心に余裕なんて──」
──突然、レンジがガバッと自分のポケットに手を突っ込んだ。
こんなところでやるつもりなの!?
と、思っていると、取り出したのは何か、よくわからない機器だった。手のひらサイズで、長方形で、黒くって、レンジはそれを指で操ると、自分の耳へ押し当てた。
『もしかして……』私がそんな事を考えていると、レンジは「もしもし」と切り出し、そのまま誰かと通話を開始した。
──スマートフォンだ、アレ!
「もしもし、あたくしです。202号室のビューティ高島田です」
「ビューティ高島田!?」
あまりにも素っ頓狂な名前に、あまりにも素っ頓狂な声が出る。
気が付くと、ファミレスの店員も、客も、この空間にいる全員が私のほうを見ていた。
私は慌てて立ち上がると、周りの人にペコペコと、お辞儀をして、着席した。
「やかましいですの。……ビューティ高島田とは、この世界での偽名ですわ」
「偽名って、もうちょっとなんかあるでしょうよ」
「……ああ、いえ、何でもありませんの、大家様」
「お、大家様……!?」
もしかしてこのインベーダー、今、大家さんに電話してるの?
「夜分遅くに失礼します。……はい、ありがとうございます。あの、急ぎ、確認していただきたい事柄がありまして、お電話させて頂いたのですが……はい、じつはですね。キューティブロッサムと名乗る痴女に、あたくしの住居からの不当な退去勧告を申し付けられまして……」
「誰が痴女だ……! 誰が……! あと、キューティブロッサムじゃありません、契約上では、鈴木桜です……!」
口に手を当てて筒状にし、レンジにだけ聞こえるような音量でツッコんだ。
「……ああ、申し訳ありません。キューティブロッサムではなく、鈴木桜と名乗る痴女です」
「だから、痴女じゃねえってば……!」
「はい。その方がですね、この夜更けに202号室に住んでいるあたくしに、出て行けと……ええ、はい、あたくしも突然の痴女の来訪に、心臓が口から飛び出るかと……」
「だからさぁ……」
このインベーダーは、悉く私をこき下ろしたい所存のようだ。
「ええ、ええ……ん? はい? 何をおっしゃっているのかしら? 大家様? 手違い? 何を……え? ちょ、ま……!」
通話が一方的に切られたようだ。レンジは恨めしそうに、手にしたスマートフォンみたいな機器を見つめている。
ふふん、これは……勝ったな。
今、私が住んでいるアパート〝物恐礼荘〟の大家さんは、私のおじいちゃんに負けず劣らず、かなりボケているのだ。
おそらく、レンジが直接大家さんに抗議したのを見るに、レンジも本当に家賃を払って202号室に住んでいたのだろう。が、大家さんが私の存在を失念して、勝手に二重契約にした可能性が高い。この場合、なんらかの手続きで、私の契約が反故にされていなければ、先に契約していた私のほうに正当性があるから、したがって、この場合、出て行くのはレンジのほうという事になる。勝った。
それはそれとして、大家さん、そろそろ変わったほうがいいんじゃね?
「……で、どうだったんですか? ボンジュール萩原さん?」
もはや勝ちを確信した私は、腕組みまでして、上体を後ろに逸らしながらレンジを見下ろした。
「ビューティ高島田です! ……たしかにあなたの言う通り、202号室はあなたが借りていた物件でした……」
「ふっふっふ……、そーら見た事か! さ、出てってください! あの家には、いえ、この世界には、あなたの居場所なんてないんですから! ふふふ……はーっはっはっはっは! ……あ、すみません」
ぺこぺこ。
私はまた大声を出してしまったお詫びとして、何度もお辞儀をした。
──プルルルル。
テーブルが震え、レンジの機器が振動する。その画面には……全く読めない、蛇が死ぬ間際に、のたうち回っているような文字が浮かび上がっていた。
レンジはおもむろに機器を取り上げると、ちょろっとだけ操作して、再びテーブルの上へ置いた。
「ウケケのケ、誰からですか? もしかして警察? 残念でしたね。あなた、住居不法侵入罪で捕まりますよ、うぷぷ」
「し! ……お静かに」
ふん、な~にがお静かに、だ。この期に及んで──
『ああ、わしじゃよ。みんなの大家さんじゃよ』
聞こえてきたのは大家さんのしゃがれた声。レンジがスピーカー設定にしたのだろう。
『そこに鈴木くんはおるかい?』
「あ、はい、います! それで大家さん、さっさとこの変なのを叩き出しちゃってくださいよ。いきなり私の家に押し入って──」
『あー……あの部屋202号室の件についてだが、現在の正式な所有者はビューティ高島田さんじゃ』
「……なんですと?」
『ここ数か月、鈴木さんは家賃を滞納しておったじゃろ?』
「あ、はい……でも、それにはやんごとなき理由があって……あとでまとめて──」
『そんな折に、202号室に住みたいと言う子がおってじゃな、その子が、いま鈴木さんの目の前にいるビューティ高島田さんなのじゃ』
「いや、でも私は……」
『じゃから、正式な手続きを踏んで、鈴木さんの家、つまり部屋の中にある荷物や家具の全てを処分し、新しくビューティ高島田さんに提供したというわけじゃな』
「え、えええええ!? もう家具全部ポイしちゃったんですか? パソコンとか服とかお酒も!?」
『全部じゃの』
「ちょ、ちょちょちょ! で、ですが、大家さん! あなたのほうに立ち退きの強制力はないはずです! こんなの、不当ですよ! 訴えますからね! マジで! 覚悟してろよ、ジジイ!」
『訴えるってどこに?』
「……へ?」
『どのみち、世の中半分終わってるし、わしももうじきお迎えが来る。じゃから、この話も終わり!』
「いや、終わりって……今すぐお迎えに上がってもいいんですよ!?」
『ははは! もうわし、寝るから! お休み!』
──プツ。
一方的にそう告げられ、一方的に通話を切られた。
「そ、そんな、アホな……」
なんてこったい。
じゃあ私、今、もしかして住所不定なの?
少なくとも今夜は野宿になっちゃうじゃないか。
「──キューティブロッサム」
レンジに名前を呼ばれ、ハッとなって顔を上げる。
しまった。
ボロクソに言い過ぎた。絶対死ぬまで罵倒される。言葉の暴力で殴殺される……!
私はそう思い、目をギュッと閉じ、プルプルと肩を震わせていると、レンジの口から衝撃の一言が放たれた。
「あ、あの……なんか可哀想ですし、今日の所は、あたくしの部屋に泊まっていきまして?」
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