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魔法少女派遣会社
先輩☆後輩 ※百合描写有
しおりを挟む突然の耐え難い頭痛に襲われた私は、とりあえずクロマさんの許しを得ると、事務所を出て、その下のエントランスを抜けたその先、雑居ビルの玄関口で、コーヒーカップ片手に夜空を見上げていた。
「豆の香りが頭に染みる……」
淹れる直前に豆を挽いてあるので、豆本来の香りがいい感じに鼻から抜けて、頭痛が和らいでいく。
やはりコーヒーはブラックに限る。(ただし、あのファミレスのバカみたいに長い名前のコーヒーは除く)
無駄に本格的だった、S.A.M.T.のコーヒーメイカーのコーヒーに舌鼓を打ちつつ、私はふと、この場所から、今まで私たちの居た部屋を見てみた。が、何も見えなかった。
おそらく、外からでは中の様子が見えないようになっているのだろう。
くすんだ白色の外壁に、ところどころ、老朽によるヒビが入っている。
たしかに、改めて見てみると、本当にただの雑居ビルにしか見えない。少なくとも、ここで足を止めるような人はいないだろう。
カムフラージュ。
木を隠すなら森の中。魔法少女の本拠地を隠すなら、雑居ビルの中。
クロマさんも言っていたけど、これはこれでいい考えなのかもしれない。
──グイイ。
私は適当に思考を切り上げると、カップに残っていたコーヒーを飲み干した。
「──あ、アネさん!」
私が事務所に戻ろうとすると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
声の方向を見ると、そこには黒と金のジャージを着たツカサが立っていた。私はツカサに軽く手を振ると、ツカサは嬉しそうに、私のところまで駆け寄ってきた。
「アネさーーーーーーーん!」
「おお、どうしたの? 今日も非番なんでしょ? ……てか、なんか顔赤くない? 大丈夫?」
会っていきなり会話を畳み掛ける私。
「す、すんません……なんか昨日の酒がまだ残ってるみたいで……」
「酒って……も、もしかして私、知らないうちにツカサにも飲ませてたの……?」
「いえいえ、そうじゃなくて、アネさんの飲んでた酒のニオイにあてられたみたいで……気が付いたら、ベッドの上だったっス」
「お酒の匂いだけで!?」
びっくり。
そういう、極端にお酒に弱い人もいる──とは聞いたことがあるけど、まさかツカサがそうだったなんて……完全に私の監督不行き届きだ。大人として情けない。
「あー……ごめん、ツカサ。これからは気を付けるよ」
「いやいや! こんなの屁でもないっス! ウチはアネさんが楽しそうにしてるだけで十分っスから!」
なんていい子なんだ。感動した。
私はツカサに近づくと、つま先立ちで背伸びをし、ワシワシと頭を撫でまわした。
「な、なんスかー! もおー! やめてくださいっスー!」
〝やめてください〟と言っている割に、ツカサからは私を振りほどこうとする意思も、怒る気配も感じられない。
しかも撫でるたびに、現役の美人JKのいいかほりがふんわりと鼻を刺激してくる。
やばい。止まらん。
「ここかー! ここがええのんかー!」
「く、くすぐったいっスよー!」
なおも嫌がる気配はなし。
むしろなんか、目がとろんとして来てませんか、ツカサさん。
まずい。
このままだと最後までヤってしまいそうだ。間違いを犯してしまいそうだ。
……すでに色々間違っているかもしれないけど。
私は僅かに残っていた自制心をフル稼働させると、手を止め、指を止め、なんとかツカサから離れた。危険だ、この子は。色々と。
「ハァハァ……あ、そうだ。なんか目的が合ってここに来たんでしょ? どうしたの?」
息を整え、必死に取り繕う私。
たぶん今の私の顔、すっげえキモいと思う。
「そ、そうだったっス! ……とりあえず、頭痛が収まったからアネさんの様子を見に、それと──」
──バッ!
ツカサは私から一歩退くと、腰を九十度に曲げて頭を下げた。
「え? なになに? なんかごめん」
「──昨日は、迷惑かけてすんませんでした!」
「き、昨日……?」
ツカサに言われ、昨日の夜、ツカサと飲んでいた事を思い出す。
……恐らくあの、ツカサにキスをされそうになった事だろう。
「あ、ああ……昨日のアレ? わ、私はべつに気にしてないからさ、初めてってワケでもないし(嘘)、顔上げて? ね?」
「いえ、アネさんに楽しんでもらうつもりが、逆に迷惑かけちゃうなんて、舎弟失格っス!」
「いやいや、舎弟ってのはちょっと……。でも、本当に気にしてないから。たしかに、キスされそうになったのは、ちょっとビビったけど……」
「キス……?」
ツカサは顔を上げると、ぽかんと口を開けた。
え? 何?
その事について謝ってるんじゃないの!?
「あ、ごめん。なんでもない、なんでもない」
「きすってなんの事っスか?」
「えっと……魚?」
「ああ、〝鱚〟のことっスか! ビビっちゃったっス……それで、その魚がどうしたんスか?」
「あ、うん、ちょっと食べたいなって……」
「へぇ……なら今度釣りにでも行きますか?」
「え、釣り出来るの? ツカサ?」
「いいえ、ちょっとだけっスけどね。でもアネさんがやりたいってなら、勉強しますよ!」
「そ、そう? じゃあまた今度ね……」
「了解っス! じゃあウチ、竿買っとくんで!」
なんか変なことになったな。
お給料が出たら竿代返そう。
「……まあ、とにかくさ、勝手にお酒をがぶがぶ飲んでた私のほうが悪いんだから、あんまり気にしないで」
「で、でも、それじゃウチの気持ちが──あ! じゃあ今度、鱚釣ってアネさんにプレゼントするっス!」
「いやいや、それはもういいから……。ていうかツカサ、私に謝るためだけにここまで来たの?」
「いえ、じつはもうひとつあって……」
「そうなんだ? じゃあとりあえず、中入る? 私も戻ろうとしてたところだし」
「いえ、なんというか……アネさんに伝えておきたい事っつーか……ウチ、昼間の中継見たんスけど……テレビに映ってたあの魔法少女って、ひろみっスよね……?」
「あー……うん。ツカサもわかった?」
「やっぱりかー……」
ツカサはそう言うと、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「ん、どうかしたの?」
「いえ、なんつーか……ウチ、今怪我してて、前線から外されてるじゃないっスか」
「そうだね。……て、それならなおさらこんな所に来たらダメなんじゃ……」
「ああ、怪我のほうは全然大したことないんス。全然動けますし、なんなら戦えるんスけど、大事を取って……みたいな感じっスね」
「そうだったんだ。でも、無茶しちゃだめだよ?」
「はい、ありがとうございます。……それで、肝心のこの怪我なんスけど、じつは、インベーダーにやられたんじゃないんス」
「そうなの?」
「はい。あれは間違いなく、ひろみだったっス」
「……マジ?」
「はい。もしかして……とは思ってたんスけど、今日のを見て、やっぱりな、て。たぶん、向こうはウチの事には気づいてないと思うんスけど……」
そりゃ気付かないよ。変わり過ぎなんだから。
「相変わらず、あんな女子ぽい顔してるっスけど、さすがはアネさんの弟で、戦闘に関してはいえば、ウチなんかじゃ手も足も出せなかったっス」
「え、そうなの!?」
「はい。……そもそも、ウチはあんまり前に出てバチバチやるタイプじゃないんスけど、ひろみは完全に前線向きで、たぶん、あの感じだとスピードタイプっスね」
「そうなんだ……」
たしかに今日のお昼、私から逃げた時はほんとに一瞬で消えちゃったからな……。
あまり考えたくはないけど、魔遣社が宣戦布告してきたという事は、もしかしたらひろみとも戦うかもしれないって事。武力を行使しないなんて言ってはいるけど、どこまで本気かわからないし、現にツカサは怪我をしてる。
もしもの時は、きちんとお姉ちゃんとして教育しなきゃならない、て事か。
「──そうだ。いま、事務所で緊急会議してるんだけど、ツカサも参加してく?」
「あ、いえ、ウチはもう目的は果たせたっスから。それに会議の内容は追って連絡が来ると思いますし……ウチはひろみの件と、昨日の件をアネさんに謝りたかっただけなんで……」
「でも結構距離あったでしょ? 送ってこうか?」
「いえいえ! そんな! 悪いっスよ!」
「そう? じゃあほんと、気を付けて帰ってね?」
「は、はい! ……あ、それと、いまジュリがそっちにいるっスよね?」
「ジュリ? ……ああ、霧須手さんね! うん、いるよ、霧須手さん。たぶん、今も妄想中だと思うけど……」
「妄想中? ……まあ、あいつ、変なヤツっスけど、悪いヤツではないんで、あんまりいじめないでやってくださいっス」
「い、イジメてないよ!? 何言ってんの!?」
「あ、そ、そうなんスか? なんかすんません……」
「はぁ……あのねツカサ、どんな風に私の事見てんのさ……」
「す、すんません! てっきりもうシメてるのかと……」
「いやいや……、勘弁してよ」
「……でも、仲良くやってるなら良かったっス。──じゃ、ウチはこれで! アネさんも気ィつけてくださいっス!」
「ああ、うん。バイバ──」
──あれ?
何か、ツカサに伝え忘れていた事があるような気が──
「──あ、そうだ。ちょっといい? ツカサ?」
「え? はい。全然大丈夫っスよ」
「ちょっとツカサに話したいことがあるんだけど、いい?」
「いいっスよ、聞かせてください」
「うん。ありがとう」
「それで、どんな話っスか?」
「えー……と、まあ、なんていうのかな、私が人を殺した時の話?」
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