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魔法少女派遣会社
セーターサラダ油事件を☆忘れるな
しおりを挟む時刻は夜。
〝魔法少女派遣会社〟略して〝魔遣社〟からの宣戦布告を受けてから、既に数時間が経っていた。
私たちはここ、S.A.M.T.の事務所にて、部屋内にある事務机を円形に並べ、疑似的な円卓会議(笑)を開いていた。出席しているのは、私と霧須手さんにプリン・ア・ラ・モード、そしてここで働いている技術担当の田島 岬さんと広報担当の田島 喜咲さんの、計五人だった。
ていうか、会議室くらいちゃんと作っとけよ。何のためのお金だよ。
「敵は先刻の宣戦布告通り、既に大々的に広報活動を行っています。それがこちらです」
広報担当の喜咲さんがスマホの画面をここに居る全員に見せる、が、その距離が絶妙に遠く、私以外の誰も見えていない。ポンコツなのか、この人は。
「いや、せめてプロジェクターかスクリーンか買いましょうよ。私は、〝ラブリィ・メタモルフォーゼ〟で視力も強化できるから見えますけど……」
隣にいる霧須手さんが「キューブロ殿、マジでラブリィ・メタモルフォーゼを使ってるにござる……」という呟きが聞こえたが、私は無視した。
「申し訳ありません、鈴木さん。現在S.A.M.T.は度重なる出費がかさみ、そこまで手を回せない状況にあります。ですので──」
スマホが喜咲さんの手から、岬さんの手に渡り、私に回ってくる。
「こうして、手渡しでお願いします」
岬さんが淡々とした口調で言った。
どうやら見た感じ、このダブル田島さんは双子の姉妹のようだ。ただ、双子とはいえ、役職も違うので、外見も多少は違っている。
技術担当の田島さんは白衣姿に眼鏡をかけており、広報担当の田島さんがビジネススーツを身に纏っていて、どちらも、髪は後ろで縛っていた。
「わ、わかりました。……ちなみに、なんでそんなにお金がないんですか?」
「この施設への投資と、魔法少女のグッズ作りでほぼ底をつきかけているのです」
「じゃあグッズなんて作らなきゃいいのに……」
「いえ、これは先行投資です。グッズに関してはあとで回収が可能、になる筈なのですが……とはいえ、今は画面を見てください」
「あ、すみません。じゃあ、読みますね。えーっと、『魔法少女派遣会社設立のお知らせ。我々魔法少女派遣会社(以下、魔遣社と呼称)は国政である事に胡坐をかき、インベーダーの強襲に対して後手に回らざるを得ない、S.A.M.T.という軟弱な組織に変わり、民衆に真の安寧と秩序と、娯楽をもたらす民衆の、民衆による民衆の為の組織である。魔遣社の成果、戦力については、すでに魔遣社所属の魔法少女が単独でインベーダーを撃破出来ているものであり、これはS.A.M.T.にも引けを取っていない。むしろ、インベーダーの出現をS.A.M.T.側が事前に検知できない事柄を加味すると、我々魔遣社のその有用性は、遥かにそれを凌いでいると思われる。この国において、同じような組織は二つとして必要ない。従って、我々魔遣社はここに、S.A.M.T.に対して宣戦を布告するものとする。しかし、我々は武力によってこれを訴えず、あくまで組織としての有用性も以て、民衆の方々に判断を仰ぐものとする。民衆の方々には、是非ともその曇りなき眼で、真に、人類にとっての益をもたらす組織を見定めていただきたい』」
「──長ぇ! 長いでござる!」
霧須手さんの言う通り、かなり長いしくどいし、表現もところどころおかしい。要は魔遣社はS.A.M.T.よりも有能だから、みんな魔遣社を応援してくださいね、という事だろう。言いたいことはわかるけど、これって──
「かなり強引ですよね。ここまでグイグイこられたら、さすがに一般の方も引いちゃうんじゃないですか?」
「それが……そうでもないのきゃと」
忌々しい着ぐるみが、真剣な眼差し(?)で私に語り掛けてくる。
「あの……クロマさん、いつ、その着ぐるみを脱ぐんですか」
「これは田島さんたちとのキャラ被りを防ぐため、と言っておくきゃと」
「またわけのわからない事を……。それと、〝そうでもない〟ってどういう事ですか?」
「事実、一般の方々が、魔遣社に傾きかけているという事です」
広報担当の喜咲さんが静かに発言する。
「傾き……って、皆、S.A.M.T.ではなく、魔遣社を支持し始めているって事なんですか?」
「はい。鈴木さん、手に持ったスマートフォンを、下までスライドしていってください」
「わ、わかりました」
私は言われた通り、スマホの画面を下までスライドしていくと、そこには──
「ひ、ひろみ!?」
ひろみの魔法少女姿の写真があった。ひろみはカメラに向かって可愛くウインクしており、その白いおへそや太ももを遺憾なく晒していた。なんてこったい。
「はい。たしかその少女……というか、その少年、鈴木さんの実の弟さんでよろしかったですよね」
「あ、はい。ひろみは男の子です。間違いないと思います。……ちっちゃいけど、ちゃんと付いてます」
「さ、触ったんでござる!?」
なんかひろみの事になると、異様に食いついてくるな、霧須手さん。
「いや、さっきは触れなかったけど、中学校のときは普通に小さかったと思う」
「な、なぜそんな事を知ってるでござる!?」
「なんでそこまで根掘り葉掘り……いや、まあ、色々あったんだよね……」
ほんとは家族で海に行った時に、たまたま着替え中のを見ただけなんだけど。
「く、口では語れぬ情事……な、なんという、禁断の楽園……カリギュラ……パラダイスロスト……!」
「おーい、霧須手さん?」
「……拙者、ちょっと妄想しておくので、話を続けといてください」
霧須手さんはそう言うと、机の上に両肘をつき、両手の甲に顎を置いて「デュフフ……」と唸り始めた。なんか変な誤解を招いている気がするけど、下手に触ると火傷しそうだから放っておこう。
「──こ、こほん」
喜咲さんが、場のよくない流れを払拭するように咳払いをする。
「話を戻しましょう。……現在、その少年が魔遣社の主な広告塔としての役割を担っているのですが……」
「もしかして、ひろみに人気が出ちゃったとか、ですか?」
「その通り、というのは少し語弊がありますね」
「……どういうことですか?」
「魔遣社に所属している魔法少女の方々は……その、どの方も魅力的で、可愛らしいのですが……なんと言いますか……」
「俗に言う無個性な方たちばかりなのです」
「ちょっと岬!」
「いいじゃない。回りくどい表現をするよりも、直接的に伝えたほうが、この場合、スムーズに物事が進むわ。いいから続けなさい、喜咲」
「はぁ……。今まで、いまいち人気が出ていなかったのですが、さきほどの霧須手さん、鈴木さんとの絡みで、弟さんが〝男性〟だと知られてから……その……なんというか……」
「一部の変態の心に火をつけてしまったようです」
「ちょっと岬!」
「へ、変態に……火? はい? どゆこと?」
「つまり、きゃと。有体に言ってしまうと、『男の娘としての人気が、ある層の支持者の性癖をくすぐり、爆発的な人気を生んでしまったのきゃと。その結果、キューティブロッサムの弟、ひろみ君が歪んだ性の対象として晒されているのきゃと』」
「く、クロマさんまで! なんで岬といい、あなたたちはそんな……! もうすこしオブラートに……鈴木さんがいるんですから!」
「……お、女の人からの人気が出たってことですか?」
私がそう尋ねると、クロマさんは着ぐるみの首を横に振った。
「それもあるきゃとが……どちらかというと、男性人気のほうが高いみたいきゃと」
「……はい? みんな、ひろみが男であることを知っているんですよね?」
「はい。昼間の出来事は中継されていましたので……」
なぜか喜咲さんが沈痛な面持ちで言う。
「それなのに、男性人気のほうが高いんですか? どういう事?」
「……そういう性癖を持った人種も多いってこときゃとなぁ」
「いや、そんなしみじみ言われても……え? なに? う、嘘だ! そんな生産性のカケラもない……」
「生産性は重要じゃないきゃと。この際、最も重きを置かれているのが、外見。それが重要なのきゃと」
「じ、じゃあマジで、男はみんな、同性愛者ってことですか!? 目に映る男みんな同性愛者なんですか!?」
その瞬間、学生時代、卒業式のあの悪夢が蘇った。
「ううう……頭が、割れるぅ……!」
「ど、どうしたきゃと、キューティブロッサム!?」
「ううう、肉まん……ダイエット……セーター……ウール、燃やさなきゃ……サラダ油で……!」
「く、クロマさん、鈴木さんがなにか物騒な事を……! だ、大丈夫ですか! 鈴木さん!」
「過去の記憶……トラウマがフラッシュバックしているのでしょうか、じつ興味深い」
「岬!?」
ダブル田島さんが私の身を案じて(?)くれている。そうだ。私はこんなところで、過去の幻影に囚われている場合じゃないんだ。そんな暇はない。前を向くと、そう決心したじゃないか。
「これは……なにやらよくわからんきゃとが、少しまずいきゃとね……。とりあえず、会議はここで中断するきゃと……」
私は手を挙げて、クロマさんの中断に〝待った〟をかけた。
「だ、大丈夫です……まだ自我は保てています。軽い黒歴史に襲われてしまっただけですので……」
「そ、そうきゃとか……。ちなみに補足しておくと、ひろみ君を可愛いと思う男性は、同性愛者ではなく、至って普通な反応だと思うきゃと……! いいきゃとか、キューティブロッサム。男の娘好きは、ホモじゃない!」
「ど、同性愛が……ふふ、普通、ですって!?」
「クロマさん! なんでそんな、余計混乱しそうなことを!?」
「あ……ぐああああ! ダメだ! 私の価値観が崩れていくぅ!」
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