現実世界に魔物が現れたのでブラック会社を辞めて魔法少女になりました~PCをカタカタするよりも魔物をボコボコにするほうが性に合っていた私、今

枯井戸

文字の大きさ
50 / 61
魔法少女派遣会社

ミッション☆スタート

しおりを挟む

「──しっかし、ほんと、なんでこんなとこに……」


 作戦はすでに開始している。
 私と霧須手さんはマスクをつけ、ゴム手袋をはめ、清掃用の黒色のつなぎを着用し、帽子をかぶってサングラスをかけた格好で、ここ、魔法少女派遣会社の本社(といっても、ここにしかないが)へとやってきていた。

〝なんでここに〟
 と私が言ったのは、その立地について。
 S.A.M.T.の本拠地が街の外れというか、比較的郊外にあるのに対し、魔遣社のビルはなんと街のど真ん中にあるのだ。しかも、この街のランドマークである痛点閣ツウテンカクというタワーの真横。
 挙句の果てに、そのタワーよりも大きい。
 よくこんなところに、30階はありそうな高層ビルを建設出来たな。と思う反面、これも魔遣社の作戦なのだろう、という考えが頭をよぎる。

 魔法少女の拠点とはつまり、インベーダーたちにとって狙うべき的、本丸。いつそこが戦場になるかわからない、といった場所。
 それをこんなに大々的にかつ、デカデカと街のど真ん中に建設するという事は、街や周辺住民に被害が及ぶことなど、全く考えてもいない、もしくは屁でもないという事。むしろ、盾として考えてるんじゃないの?
 ムカムカムカ。
 二つの意味で私の怒りのボルテージが上がっていく。
 ひとつはさっき言った、住民の事を屁でもないと思っている事、そしてもうひとつが、何も知らないひろみを騙して、その行為に加担させているという事。
 どうやら、このキューティブロッサムが、直々にキツイお灸を据えてやらなければいけないみたいだ。


「キューブロ殿……と呼んではダメでしたな。鈴木殿、そろそろビル内に侵入するでござる」


 黒く、大きなカバンを持った清掃のおばちゃん、お姉さん……もとい、霧須手さんが私に話しかけてきた。ちなみに、霧須手さんが持っているカバンの中身は、清掃用のモップと、白鞘の太刀が入っている。モップはカムフラージュ用なんだとか。


「了解。でも、霧須手さんに名前を呼ばれるのって、なんか新鮮」

「デュフフ、そういう拙者も、じつはこそばゆいでござる」

「私は、そのまま霧須手さんは〝霧須手さん〟で良いんだよね?」

「然り。霧須手なんて名前は掃いて捨てるほどおりますゆえ、誰も私だとわからないと思うでござる」

「いや、たぶん全然いないと思うよ、〝霧須手〟なんて名前……」

「デュフフ、まあ、冗談にござる。ほんとのところは拙者、クリスティという芸名で活動していたゆえ、そうとう熱心なファンじゃないと、ピンと来ないかと」

「まあ、私も最初、〝霧須手〟て言われてもわからなかったしね……」

「それに今の拙者は白鞘之紅姫。向こうの方々もただの珍しい苗字の清掃の人、ぐらいにしか思わんでござろうな」

「そういうもんかなぁ……」

「そういうもんにござる。我々が思っているほど、人とは他人に興味を持てぬものでござるから」

「……それ、人気アイドルが言うと、言葉の重みが違うね」

「まあ、そのような方々を振り向かせるのが、拙者らの仕事にござるからな」

「うーん、深い! もう一杯!」

「……それ、拙者以外の若人には通用しないネタにござるぞ」

「マジで!? なんかショック……じゃあ、気を取り直して、作戦開始しますか」

「応」


 私は小さく掛け声をあげると、霧須手さんもそれに小さく答えてくれた。


 ◇


「ほえ~、でけぇ~……」


 魔遣社の本社ビルの一階ホール。
 高級ホテルのように、エントランスの左右には、車が出入りするための緩やかなスロープがあり、そこを抜け、当然のように設置されている巨大な回転扉をくぐると、いよいよビル内へと入ることが出来る。
 ビル内の一階は、とても広々とした造りになっており、たぶん5階くらいまで吹き抜けになっていて、なんか屋内なのに、滝が流れていた。

 会社員時代、事務をやる前は色々な会社に営業に回った事はあるけれど、こんなに立派な建物は見たことが無い。まあ、そんな大口の取引があった会社ってワケでもなかったけど。


「……鈴木殿、何をボーっとしてるでござる」

「あ、ご、ごめん、ちょっと面食らってて……て、あんまり霧須手さんはビビってないね……おっきくない? すごくない? ちょっとうらやましい」

「拙者は特には。……たぶん、アイドル時代、色々なところに営業やらドサ周りやらで行ったでござるからな。たしかに豪華ではござるが、ビビるほどでは……」


 そりゃそうか。
 霧須手さんは現役時代、あの国民的アイドルグループに所属していたんだから、ここよりも豪華な建物はいっぱい知ってるんだよな。こんな、私みたいな田舎のヤンキー上がりのボンクラなんかが想像できるような、貧相な世界にはいなかったんだ。
 そう考えるとなんか凹んできた。
 帰りたくなった。やる気が薄れてきた。
 まあ、帰る家もないんだけど。……あ、なんかまた凹んできた。
 無限ループじゃない? これ?


「……鈴木殿、大丈夫でござるか?」

「なにが?」

「なんというか、サングラスをかけた日本人形みたいな顔になってるでござるが……」

「そう?」


 私は空返事をすると、トボトボとした足取りで、そのまま魔遣社の受付を抜けようとした。


「あ、こ、困ります!」


 不意に背後から、女性に話しかけられる。
 なんだ?
 と思って見てみると、ピンクのスカートスーツを着た出来る風の女性が、カツカツとハイヒールを鳴らしながら、慌ただしく近づいてきた。


「清掃員の方ですよね? 困ります、まずはIDカードをご提示いただかないと……」


 IDカード?
 ああ、そうか。S.A.M.T.を出る前にクロマさんに渡されたやつか。
 私はポケットに手を突っ込むと、ガサゴソとまさぐった。

 ──あった。カードっぽい形状のもの。
 私はそれを取り出すと、目の前にいる受付の女性に見せた。


「──はい、これですよね」

「ありがとうございます。……えーっと、〝魔法少女キューティブロッサム〟……? なんですか、これ?」

「……え? あ! ちょ!」


 そう指摘され、気が付く。
 私の手元を見ると、提示していたのはクロマさんから渡された偽造カードではなく、魔法少女の職員IDカードだった。
 私はすぐにそのカードを引っ込めると、なんとかして誤魔化そうとした。


「アワアワアワ……!」


 こんなところで正体がバレたら、全てが水の泡だ。アワだけに。けど、言葉が浮かんでこない。なんて誤魔化そう。
 どうすれば、どうすれば……!

 ──ス
 私があたふたしていると、私の横からカードが二枚伸びてきた。


「すみません。私たち、本日清掃業務に参らせて頂いた、霧須手と鈴木、でございます」

「……あ、はい。受領しました」


 女性はそう言うと、丁寧に霧須手さんからカードを受け取った。


「お帰りになる際、カードはお返ししますので、どうぞ、そのまま正面のエレベーターからお願いいたします」


 受付の女性は、霧須手さんからカードを受け取ると、微妙そうな顔で私を見てきた。
 ドキドキ。
 バレているのか、バレていないのか。
 その表情からは窺い知ることは出来ないけれど、今のところは騒ぎ立ててくる様子はないみたいだ。


「……あのぅ」


 女性が遠慮がちに私に声をかけてきた。まずい。さすがにバレたか?


「は、はい! な、なんでやんすか?」

「やんす?」

「……鈴木さん、変なキャラ付けはしないでください」

「す、すみません、霧須手さん。……それで、なにか? 用でも?」

「あ、あの……さっきのカードの件なんですが──」


 まずい。バレてる。
 これ絶対バレてるヤツやん。
 どうする?
 このまま周りに気付かれず、首の骨を折るか?
 いやいやいや!
 ダメダメダメ!
 何言ってんの、私!
 頭おかしいんじゃないの!?


「──キューティブロッサム、お好きなんですね?」

「……はい?」

「すこし変わってますね……」


 女性は嫌いな食べ物を出された犬のような顔をする、そのまま受付に戻った。


『どういう意味じゃああああ!! どぅおらあああああ!! きええええい!!』


 と、魔遣社のビルが倒壊しそうなくらい、大声で叫びたかったが、私は骨が軋みそうになるくらいの力で拳を握り、自重した。
 そうだよ。まずはバレなかった事を喜ぼう。


「……ごめん、霧須手さん。助かったよ」

「デュフフ、闘争心ゆえの暴走はですかな?」

「え?」

「気持ちはわかりますが、我々の目的は魔法少女としてではなく、魔法少女とはバレずに・・・・、ここを潰す事、にござる……ゆめゆめ、忘れる事なきよう……」


 何を言われるか身構えちゃったけど、霧須手さんもいい感じに誤解してくれて助かった。
 たぶん霧須手さんは私が、魔遣社を挑発するつもりでIDカードを提示したと思っているのだろう。が、ただ間違えただけ、なんて口が裂けても言えない。

 ──そう。
 今回の私たちの目的はS.A.M.T.として魔遣社の挑発に乗り、正面から魔遣社をぶっ潰す事!
 ……ではなく、こうして変装し、潜入して、魔遣社内部をごちゃごちゃにかき混ぜ、混乱させ、いろんな意味で潰すという作戦なのだ。私たちだって、正面からぶつかっていくほど、お人好しでもおバカさんでもないのだ。

 ぐふふ。
 見てろよ、魔遣社め、それとそこの受付め。
 私を……キューティブロッサムを小ばかにしたからには、それ相応の報いを受けて──


「──あら? あなた、キューティブロッサムじゃないかしら。こんなところに何をしにいらしたの?」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...