現実世界に魔物が現れたのでブラック会社を辞めて魔法少女になりました~PCをカタカタするよりも魔物をボコボコにするほうが性に合っていた私、今

枯井戸

文字の大きさ
51 / 61
魔法少女派遣会社

コント☆さくらとレンジ

しおりを挟む

「──でりゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 私は、突然聞こえてきたレンジの声をかき消すようにして、魔遣社のビル全体を揺らすほどの奇声をあげた。その結果、そこにいた全員が、私に注目してしまう羽目になってしまった。


「な、なんですの、いきなり!? 気でも触れましたの!? ちょっとおかしいですわよ、あなた!? マジで!」


 振り向くと、そこにはやっぱりレンジが立っていた。レンジは両手で両耳を塞ぎ、鬱陶しそうに私を見ている。さっきまで全く気配がなかったのに、こいつ、どこから出てきたんだ。
 ここでドンパチやるつもりがなかった私は、穏便に済まそうとした私は、目の前に現れた最強の敵をどう処理するかを考えた。そして──


「ちょ、ちょっと待って……!」


 何を思ったか、私はレンジの手首を掴むと、そのままグイっと引っ張った。
『とにかく、このインベーダーをここから遠くへ……』
 私の頭の中にあるのは、それだけだった。
 でも、どこへ……?
 きょろきょろと辺りを見回す私の視界に、〝W〟と〝C〟の文字が。
 あそこしかない。


「ちょっと、来て!」


 私はレンジの手首を掴んだまま、トイレへ駆け込もうとした。


「ちょ、なんなんですの!? 離しなさい! あたくし、ブチ切れますわよ!?」

「あ、キューブロ殿!? 何をするつもりにござる!?」


 後ろから霧須手さんが声を投げかけてくる。


「ごめん、霧須手さん! ちょっとコレどうにかするから、誤魔化しといて」

「ご、誤魔化せって言ったって……この状況はヤバいでござるよ……!」

「そこをなんとか……! あとで何か好きなの買ってあげるから!」


 これで釣れるとは思ってないけど、私は霧須手さんに雑な交換条件を提示した。


「わかったでござる。何とかしてみるでござる」

「いいんだ、それで……」


 霧須手さんはそこにいる人たちに対して「はい、みんな注目! これを見てください!」と後ろで言い始めた。
 いや、何を始めるつもりなんだ。と気にはなったが、今はレンジの事にだけ──
 ──ピカ!
 背後から強い閃光が放たれ、一瞬だけ私たちのいる空間が光に包まれる。
 いや、マジで何してるんだ。と思ったけど、結局私は振り返ることなく、レンジを連れ、なんとか女子トイレの中に駆け込んだ。


「〝ツレション〟……ってヤツでして?」

「いや、まあ、違くもない、のかな? てか、なんで私、こいつをトイレに連れてきちゃったんだろう……」


 今更である。


「なるほど、これがこの世界の文化、ツレションというモノですのね! あたくし、受けて立ちますわよ! かかってらっしゃいな!」

「あんたはツレションをなんだと思ってるんだ。……て、そうじゃなくて……」


 ここで──洗面台の前で話してるのもアレだと思った私は、いまさら外に出て行く勇気も失せてしまい、レンジを個室の中へと連れ込んだ。


「これはもしや〝ツレベン〟……ってヤツでして?」

「いや、なんだよツレベンって」

「あら、違いますのね」

「それよりも、レンジ、あんたなんで今更魔法少女なんかに!?」

「もちろん決まっていますわ! お給金が良いから、ですの!」

「……私をぶちのめしたいからじゃないの?」

「あ」

「え?」

「……もう一度質問していただけるかしら?」

「はあ? 何言って……」

「もう一度お願いします」

「はぁ、わかったよ。『それよりも、レンジ、あんたなんで今更魔法少女なんかに!?』」

「あなたをぶちのめすため、ですわ!」

「もういいわ! 本心透けて見えてるわ!」

「あたくしが、あなたをぶちのめす、という本心がですか?」

「給料いっぱいもらえるから、という下心だろうが!」

「くっ、よくぞ見破りましたわね……!」

「バレバレだっての。というか、この建物を見る限り、そうとう積まれたんでしょ、お金。今朝のトリュフを買えるくらい」

「……ザッツライト、ですわ。せいぜいあたくしに高級食材を奢られた、という屈辱を、老衰でおっ死ぬその時まで、覚えておくといいんですの!」

「なんで敵に天寿を全うさせるんだよ……」

「うおンォおおおおおおおおおっほっほっほっほ!!」

「──すみませーん! 隣、入ってるんで静かにしてもらえませんかー?」


 隣の個室から声が聞こえてくる。
「すみません……」
 私とレンジが示し合わせたように声を合わせ、謝罪した。
 私たちは互いに顔を見合わせると、声を潜めて会話することにした。


「──とにかく、あたくしが訊きたいのは二つだけです。あなたはここへ何をしにやってきたんですの? それと、なんでここに連れ込んだんですの……!」

「女子トイレは……まあ、べつに、近くにそれっぽいスペースが無かったからで、そんな深い意味は……」

「では、なぜここへ? あ、もしかして、あたくしを殴りに……?」

「そ、それは……」

「よろしいですわ……! あたくし、受けて立ちますの……! 今度こそあなたをボコボコにして、あたくしのほうが上であると、人類の皆々様に知らしめて差しあげますわ! おほっおほっおほっおほっ!」

「なんつー下品な笑い方だ。……いや、殴るためでもなくて……」

「なんだ、違いましたの」

「うん、えーっと、お掃除するため、かな?」


 ……ああー!
 レンジが眉をひそめながら私を見とるー!
 というより、さすがにこの言い訳は苦しいか。ライバル会社というか、冷戦関係にある敵の本拠地までやって来て、〝お掃除〟って、むしろ別の意味にとられかねない。でも、特に何も浮かばないしなぁ。


「──あら、そうでしたの?」


 けろり、とレンジが険しかった表情を崩して言ってくる。


「え? 信じてくれるの?」

「もちろん」

「……マジ?」

「マジ」

「りありぃ?」

「いえす、あいあむ」

「……なんで?」

「なんでって、最初はあたくしも、あなたたちがついに、手も足も出せなくなってしまったから、魔法少女としてではなく、身辺を偽って魔遣社に潜入し、あたくしたちにバレないよう、ここで破壊工作をして、物理的にも社会的にも、ここを倒産に追い込むつもりなのではないか、と思っていたのですが……」

「うぐっ!?」

「……なんてことはありませんわね。ただの清掃業者として、ここへやって来ていらしていたなんて……」


 ──ぽろぽろぽろ。
 突然、レンジの目から透明の液体が零れ落ちる。


「……え? ちょ……何泣いてんの!?」

「な、泣いてなんておりません! あたくしがあなたの為に涙を流すはずがありませんわ!」

「さ、さいですか……」

「〝キューティブロッサム〟だけでは、食べていけなくなってしまったから、世界を守るという誇り高い職業についていながら、夜はアルバイトをして、自身の食い扶持を稼ぐだなんて、なんていじらしいのでしょう……などとは思っておりませんわ!」

「そこまで思ってくれてたんですね……」

「こほん。ともかく、敵同士ではありますが、いつでもあたくしの部屋に泊まりに来てもよろしいですわよ。布団……はあげませんけど、ささやかな朝食くらいなら……」

「いや、もう、住む所見つけたし……」

「あらそう? ならもう、お行きなさい。この会社の汚れが、埃が、あなたを待っていますわ」

「汚れが待っててもべつに嬉しくないなぁ……。ていうか、レンジはこれからどうすんの?」

「あたくしはこれから、あなたの仲間が襲ってこないか見張りに戻ります。もし社内で見つけたら、たとえあなたの仲間であろうと、そのまま返り討ちに致しますので」

「……ん?」

「……え?」

「いや、この状況は?」

「ですから、あなたはキューティブロッサムではなく、ただの清掃業者なのでしょう?」

「……本気だったんだ」

「ええ! あたくしはいつでも本気でしてよ! さあ、さっさと消えなさい。あたくしはこれからここでう〇こをしますので」

「……なんで?」

「……トイレに来ると、なぜかしたくなりますのよね、う〇こ。これが条件反射というものなのでしょうか」

「知らんがな」

「あなたはよろしいのですか、う〇こ」

「いや、べつに私は……それにしても、もうちょっと、なんというか、違う言い方なかったの……?」

「う〇こはう〇こでしょう? 他に何か言い方が?」

「いや……本人がそれでいいなら、もういいや。じゃあ、ごゆっくり」


 私はそれだけ言い残すと、レンジを個室に残し、そのままトイレを出──ようとして、自身の手を見た。


「……何も出してないけど、いちおう手は洗っておこう」


 私は洗面台へ歩いていくと──バサッ!!
 何か、袋のような物をかぶらされて、視界を断たれてしまった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。 同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。 仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。 ───────────── ※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。 ※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。 ※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...