11 / 39
リンチオンザリング
しおりを挟む「ここだ、入れ」
そう言って三柳たちに連れてこられたのはボクシング部の練習場。
中央にはそれなりに立派な正方形のリングが備え付けられており、その周囲にはサンドバッグやパンチングボールなどが置かれていた。
ここにいる全員で俺を袋叩きにでもするのだろうか。
なんて考えがよぎるが、取り巻きのやつらはただニヤニヤしているだけ。
三柳にいたっては教室の時から薄々感じてはいたが、襲い掛かってくる気配も闘争の意思も感じられない。
なんなんだ。
今から何が始まるんだ。
「オオシマさん! 連れてきました!」
突然、三柳が大声で〝オオシマ〟なる人物を呼ぶ。
オオシマ。
決して珍しくはない名前だけど、すこし嫌な予感がする。
「……ん、おー、寝てたわ」
リングの上からしゃがれた声が聞こえてくる。
見ると、スキンヘッドでガタイの良い男が、いつのまにかリングのロープに体重を預けた状態でこちらを見下ろしていた。
「お、リュウ! そいつか! シメてほしいヤツって!」
思い出した。
大島大樹。
中学時代にボクシングで全国へいき、鳴り物入りで才帝学園に推薦入学したものの、すぐに傷害事件を起こし出場停止になった札付きの不良。
普通なら停学か退学処分になるはずだが、本人はこのとおり、何食わぬ顔で学校に通い続けている。
噂では裏で相当あくどいことをやっているのではないかと言われている。
「はい、こいつがそうです」
三柳がそう答えると、大島は意外そうな目で俺を見たが――
「へえ……こんな弱そうな野郎がリュウをね……」
それもほんの数秒だけ。
すぐに自分よりも生物として劣っているモノを見るような目に変わった。
またあの目だ。
あの冷めきった、人を人として見ていないような目。
あの目を見ているだけで、これまでのトラウマが思い起こされる。
「……あぁ、たしかにムカつくなぁ、こいつ」
「へへへ、いっちょ前に大島さんにガン飛ばしてやがるぜ」
他の取り巻きに言われ、俺が大島の顔をじろじろ見ていたことに気づく。
しまった。以前の俺を演じようと決めた途端にこれだ。
俺はすぐさま大島の顔から目を逸らすが、今度は〝フン〟と鼻で笑われた。
「おいおい、ほんとにこんなのに負けたんかあ? リュウよお!」
「い、いや、負けてはないんスけど、こいつ武器かなんか隠してたみたいで……」
「なるほどなあ、卑怯モンってワケか……」
まぁ武器なんて持ってなかったが、ここでそれを弁明しても無駄なのだろう。
それにしても俺自身、今回のことで三柳にはすこし失望してしまった。
〝昨日の今日で俺に突っかかってくるなんてすごいガッツだな〟
……なんて思っていたが、蓋を開けてみたらコレである。
〝ポスン〟
そんなことを考えていると、大島が何かを俺の足元に投げつけてきた。
見るとボクシングで使うようなヘッドギアとグローブが転がっていた。
……なるほど、そういうことか。
制裁はあくまで部活動という体裁で行うつもりなのだろう。
さしずめ俺は体験に来た入部希望者といったところか。
さすがは問題児。こういうときには頭が回る。
「おう、卑怯モン! 上がってこいよ! その根性、叩き直してやるよ!」
こいつらの目的はわかったが……さて、どうしたものか。
昨晩の三柳のようにここで大島を無効化するのは容易い。
だがそうなってくると、またこのような状況に陥ってしまう可能性がある。
つまり、大島もまた俺を制裁するために別の人間を呼びだす可能性だ。
そうなってしまうと、俺が不良共のトップに立つまで延々とこの状況が続きかねない。
それに今回は昨晩とは違い、明るい場所かつ四方八方から視線が注がれている。
つまり俺が大島を倒してしまえば、もう誤魔化しが効かないのだ。
本気なのか口から出まかせなのかはわからないが、三柳は俺が昨晩なんらかの道具を使用したと思い込んでいる。
だが実際に俺がこの不正の入る余地のない場所で大島を倒してしまえば、多かれ少なかれ、それなりの騒ぎになってしまうことは必至。
こうなってくると、もはや採れる選択肢は限られてくる。
有無を言わさぬ圧倒的な暴力で、ここにいる全員に二度と歯向かえないほどの恐怖を植え付ける。
……なんて、出来るはずないか。
いくら相手が不良とはいえ、俺には今後他人の人生を左右するほどのトラウマを残す度胸も、その責任を負う覚悟もない。
だったらもう俺のとれる手段はひとつしかないワケで――
俺は足元に落ちていたヘッドギアを震えながら拾い上げると、追いつめられた小動物のように大島を見上げた。
「こ、これ……どうするんですか……?」
そう、こいつらが満足するまで、ボコられるしかない。
それもなるべく、ワザとらしくない感じで。
それに今の俺なら頑張れば致命傷は外せる……はずだ。
「へへ……、おいリュウ! そいつにギア着けてやれ!」
「いや、そのままでも……」
「リュウ! 二度言わせんな」
「……はい」
大島がそう凄むと三柳は俺の手からヘッドギアを半ば強引に取り上げ、そのままグイグイと装着してきた。
着け心地は……意外と悪くない。
多少頭と顔に圧迫感はあるが、動いているうちに慣れてくるだろう。
カイゼルフィールでたまにかぶっていた兜と比べると断然動きやすい。
それにもともと素で拳を受けるのは心配だったが、これならひとまず安心だ。
……まあ、使い込んでいるせいかちょっと臭いのが難点だけど。
「……チ! グローブは適当に自分ではめとけ。どうせオマエのパンチ当たんねーからよ」
「おう。……じゃなくて、うん」
俺はグローブを拾い上げると、適当に手にハメて手首のテープをギュッと締めた。
表面はすこし固めの合成皮革だが、中には十分綿が詰まっている。
これならすこし反撃してもいいかも……なんて考えてしまうが、素手に比べて裂傷が起きる可能性は低くなる分、拳に重みが増す。
もちろん俺自身本気で振り抜くつもりはないが、これが万が一急所にヒットしようものなら、逆上した大島がガチで打ち込んでくるかもしれない。
舐められてる今の状況なら……まぁ痛いだけだろうし、数発受けたら適当にダウンしよう。
ちなみにこれも少し臭う。
そして、俺の傍で終始不機嫌そうな三柳を見るに、おそらくこれらはこいつのお古なのだろう。
そういえばこいつも大島のように、前はボクシングに真剣に打ち込んでたんだっけか。
そりゃ俺なんかに使われるのは癪に障るわな。
「昨日はどんなセコいカラクリ使ったか知らねえけどな、あの人は俺の何倍も強ェ」
「え?」
「せいぜい派手に胃液ぶちまけてノックアウトされとけな」
案の定、三柳は昨日の一件で俺が本気でなんらかのトリックを使っていると思い込んでいるらしい。
まぁ、そうじゃないと上級生に仇討ち頼んでるようなヤツが、昨日の今日で仕返しに来るわけないもんな。
「へへ、クセーか? 卑怯モン」
大島がリングの上からニタニタと笑いながら俺に話しかけてくる。
それにしてもそんなに顔に出てたのだろうか。
「材質が材質だからな、洗濯出来ねンだわ。……悪ィけど我慢してもらうぜ」
「は、はぁ……」
「それとも、防具は無しのほうがいいか?」
「あ、いや……我慢します……」
「だよなァ! 下手したら殺しちまうからなァ!」
大島はそう言って〝ケケケ〟と楽しそうに笑った。
これから人を殴れるというのはそんなに楽しいものなのだろうか。
やはりわからんし、わかり合えそうもないなこの人種とは。
それにしても、さきほどから大島がなにも準備していない。
ヘッドギアどころかグローブすら着けていない。
個人的に肌をパックリいかれると困るから、俺と同じようなグローブを付けてほしいんだけど――
「……オラ、卑怯モン、そろそろ上がってこいよ!」
どうやら本人にその気はないらしい。
俺は口をきゅっと結ぶと無駄に視線をキョロキョロさせて、なるべく怯えているような感じを装いながらリングへと上がって――
「えっと、上履きってどうすれば……」
「はあ? そのまま上がって来いよ」
13
あなたにおすすめの小説
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜
東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。
ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。
「おい雑魚、これを持っていけ」
ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。
ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。
怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。
いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。
だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。
ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。
勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。
自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。
今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。
だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。
その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる