憑依転生~女最弱騎士になった『俺』が最強に成り上がるまで

枯井戸

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白銀編

鳥羽皇と鳥羽姫とエストリア騎士

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「ナァッハッハッハ! そうか! そんなことがあったか! よい、許そう。エストリアの白銀少女よ。余は寛大であるからな。ではここに終戦を言い渡す! 甘んじて受けるがよい! ……そもそも、開戦すらしていたかどうか怪しいものだがな! ナァッハーッハッハッハ!」


 トバ城大広間。
 そこにトバの皇、シノの父親の豪胆な笑い声が響き渡る。
 父親という割には外見は老いておらず、むしろシノの兄と言われても、なんら驚かないほどに、トバ皇は若々しかった。
 タカシは皇に『エストリアには戦争する意思がない』ことと『そうなった経緯』を端的に簡潔に伝えていた。


「えっと……、それであとはロンガさんを――」

「よいよい! あやつに関してはそもそも、拘束すらしておらぬ。今頃はどこかで剣の稽古にでも明け暮れておるだろう。ただ、やはりひと言くらい声はかけておいたほうがいいのかもしれぬがな。おまえの上司なのだろう」

「そ、そうですね。そうします……。では、特に用事もないので、これで自分は……」

「まあ待て、そう急くなエストリアの白銀少女よ。……ふむ、エストリアの白銀少女……、なんと冗長かつ不便で不毛な響きであろうか。――そこな少女よ」

「は、はい……」

「余の御前にて名を名乗る栄誉を与えようではないか。名乗りを上げよ」

「る、ルーシーです」

「そうか、ではルルーシーよ」

「あの、ルルーシーではなくて、ルーシーです。『ル』はひとつです」

「そうだったか。ではルルーシーよ」

「なにこれ? 無限ループ?」

「長きにわたる船旅、誠に大儀であった。聞けば道中、チンケな海賊共の襲撃に遭いながらも、これを見事退けたと聞く」

「まあ、撃退したのはシノさんなんですけどね……」

「その労いと、余の娘を守ってくれた感謝とトバ国への歓迎の意を込めて、今宵はトバ城にて宴を開こうではないか。なあに、心配することはない。エストリア人である、ルルーシーの口に合ったものを提供しよう。おまえも存分に羽を伸ばすがよい」

「えっと……、お気持ちは嬉しいのですが皇よ、自分は長旅で疲れているので……、宴っていうよりも、どちらかというといまは拠点に帰りたいなー……なんて。……そもそも宴とかいう飲み会みたいなのって苦手だし……」

「ほう。これがジェネレーションギャップというやつか」

「違うと思いますが」

「なんということだ。よもや、余の誘いを断る者が現れようとはな。余の言葉はトバの総意。よって、余の誘いはトバの誘い。どうやらルルーシーは、このトバを気に入らなかったと見てとれる」

「え? いえ。そんなわけじゃ――」

「ふむ、これはアレだな。戦争に発展しかねん由々しき事態である、とトバ陣営は捉えてもよいのだな? 皆の者、武器を取れ! エストリアに攻め入るぞ!」

「ええ!? なんでそうなるんですか!」

「いやなに、無論、ここでルルーシーがさきほどの痴れ言を取り下げると言うのであれば、踏みとどまることもやぶさかではないが……?」

「ちょっと、お父さんやめたげてよ。ルーシーちゃんが嫌がってるじゃん」

「わ、わかりました。……宴へお招きいただき、誠にありがとうございます」

「ふむ。快く参加してくれるか。では存分に楽しんでいくがよい。おまえはこのトバにとって大切な客人なのだ」

「ごめんね、ルーシーちゃん。うちのお父さん、お酒飲んだりどんちゃん騒ぎしたりするのが好きで……、何かにつけてそういうの開きたがるんだ……許してね」

「は、はぁ。大変すね」

「……して、我が娘よ」

「はい」

「よく戻った。此度の帰還は一時的なものか? それとも余の後を継――」

「一時的な帰還です」

「え? なに? 聞こえな――」

「一・時・的・な・帰・還・で・す。ことが終わればすぐにでも、エストリアへ戻る準備をしております」

「く……、そうか。そんなにもエストリアを気に入ってしまったのか。……どうだ? マーレーの大猩猩ゴリラは、あやつは元気にしておるか?」

「はぁ、まあ、相変わらずです」

「そうか。色々あってくたばったと聞き及んでいたが……、まあ、あのようなやつがそう簡単に死ぬとは誰も思うまい。カタチはどうあれ、生きておるのならそれでよい! なんならくたばっていても目を瞑ろう! ナァッハッハハハ! では今度友好の証として、大猩猩らしく船いっぱいの香蕉バナナを送ってやろうとするか」

「そうですね。エストリア王も喜ぶとおもいます」

「だろう? 余からのサプラーイズプレゼントだ」

「いやいや、それってただの嫌がらせですよね?」

「嫌がらせだな」
「嫌がらせだね」

「……父娘でなんつー性格してんだ」

「ふむ、では大儀であった。下がってよいぞ。そうだ、宴までは時間がある。城下町でも観光でもするがよい。エストリアとは違い、トバにもいろいろと名所があるからな」

「エストリアにも観光名所はあるんですけど……」

「あ、次はわたしから。……よろしいでしょうか」

「おまえは隠密の伯斎と言ったな。いまの余は気分が良い。なんでも申してみよ」

「はい。じつはわたしのお給料を上げ――じゃなかった。あの、トバ国城下町にて祀られている神龍像の様子がなにやらおかしいのですが……、それのご報告をと」

「神龍像ときたか……。おかしいとは、どのようになっているのだ?」

「はい。それがなにやら、ボゥ……と、淡く発光しておりまして……じつはこれが起きたのは二週間ほど前からでして。最初はどうせ、なんということはないだろう……と考えていたのですが、それが二週間も続いていて、さすがにこれを気味悪がる民も出てきまして……なにせ、あの神龍像ですから……」

『タカシさんタカシさん、二週間前というと、わたしたちがちょうどエストリアを発った頃でしたよね?』

「そうだっけ?」

『そうですよ。忘れちゃったんですか?』

「いや、えらく早く着いたな……、とは思ってたけど、じつはそんなに経ってたとはな」

「……神龍像の光……、ふむ、それはたしかに妙ではあるな……」

「…………」

「これでは民草も不安で、夜も眠ることができないだろう……」

「…………」

「あれは神聖なものだ。だが、ある一方で反対の性質をも併せ持つ。もし、なにか良くないものに憑りつかれでもされたら……」

「…………」

「むぅ、どこぞに異変を解決してくれる御仁はおらぬものか……嗚呼、おらぬものか!」

「……あの、自分が行きましょうか……?」

「おお! 行ってくれるか、ルルーシーよ!」

「さっきからずっとチラチラ見られてましたし……。それに、どうせ城下町に行く予定なので、簡単なことでしたら、そのままなんとかします」

「ほう、頼もしい限りである。こちらとしても礼節の限りを尽くそう。今宵の宴は期待してもよいぞ」

「は、はぁ……」

「では頼んだぞ、ルルーシーよ。見事神龍像を討ち倒し、このトバに平和と安寧をもたらすのだ!」

「そんな話でしたっけ? というか、神聖なものなんですよね?」

「なに、気にするな! 場合によってはぶっ壊してしまっても構わん! 余が許す!」

「もう、お父さん。あれはかなり昔に造られた由緒正しい神龍像なんだから壊したらダメでしょ」

「なぁに! そのときはまた税金を使って造り直せばよい! ルルーシーよ、おまえが気にする問題でないぞ! ガァッハッハッハッハ!!」

「はぁ、失脚したらいいのに……」

「姫!?」





「ふぁぁぁ……」

「お。嬢ちゃん、やっと起きたか?」


 マジェスティックマディソンマルドゥークマゼンタ號倉庫。
 そこで眠っていたドーラが目を覚ました。
 まだすこし眠っていたかったのか、まぶたは半分しか開いていない。

 そこでたまたま作業をしていた船員が、ドーラに声をかけた。


「うーん……」

「ああ、それはそうとルーシーさんはもういっちまったぞ」

「……え!? なんでおこしてくれなかったんだ!」

「いや、ぐっすり寝てたから悪いと思ってよ」

「むー。それで、ルーシーたちはいつかえってくるんだ?」

「たぶん、当分先だな……。俺たちも船の整備が終わり次第、適当な宿をとるつもりだ。嬢ちゃんもきちんとルーシーさんに事情を話したほうがいいぞ。さすがに、ここから嬢ちゃんだけをエストリアに返すことはしないだろうからな」

「そうかな……、ルーシーならふつうにいいそうだけど……」

「そ、そうか……、そう言われれば確かに、あの人なら言いかねないな……」

「そうなんだ。あいつはああみえて、アクマだからな……ヒトのカワをかぶった。でも、それだったら、これからどうしよう……」

「そうだな。……でも、とりあえずはやっぱり言っておくべきだったと思うけどな。実際、密航なわけじゃねえんだし。王様から許しはあったんだろ?」

「うん」

「なら別に、航海中も隠れておく必要はなかったと思うけどな」

「そうなんだけど……、でも、それがフネにのるジョーケンだって、おっさんがいってたからな」

「そうだったのか……、ったく、あの王様も何考えてんだかわかんねえな」

「……うん、やっぱりとりあえず。ルーシーたちとごうりゅうする。それで、きちんとはなす」

「それが一番いいかもしれねえな。……なあに、帰れって言われたなら、きちんと帰してやるさ。安心しな」

「うん、ありがと。……それで、ルーシーたちは?」

「あー……たしか……、城へ行くって言ってたな」

「シロ……どこだ」

「まあ、詳しい場所は俺も良くわからんがな。なんせ、はじめての国だ」

「むぅ。そうか。じゃあ、テキトーにいってみる」

「なんなら城まで付いてってやろうか?」

「ううん。いい。あたしだってオトナだ。ひとりでもだいじょうぶだ」

「そうか、ならいいさ。ただ無理だけはするなよな。道が分からなくなったら、そこらへんの人に訊いたらいい。噂に聞く限りだと、ここの人間は親切らしいからな。嬢ちゃんなら嫌な顔せず教えてもらえると思うぞ」

「うん、わかった」

「とまあ、こんなもんかね。……じゃあ気をつけてな」

「うん、ばいばいおっさん」


 ドーラはそう言うと、いそいそと倉庫から出ていった。


「おっさん……俺、まだ二十五なんだけどな……」
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