54 / 92
白銀編
破滅の序曲
しおりを挟む「ほうほう、なるほどなるほど」
サキは団子屋にて、湯呑のお茶をすすりながらタカシの話を聞いていた。
「つまりはあれだ。それはそれで、今日もお茶が美味しいというわけだ! 違うか!?」
「違う」
「うそうそ、冗談だってば。とりあえずアレっしょ? その像をぶっ潰せばいんだよね?」
「違う」
「サキ殿……、おおまかには合ってはいるが、細部がちょっとちがうのじゃ。ぶっ潰すのではなく、ぶっ壊すのじゃ!」
「違う」
「な、なんと!? ドヤ顔で間違えてしまったのか……恥ずかしいのじゃ……」
「だから調べるんだろうが! なんでおまえらはそんなにぶっ壊したがるんだよ! それにテシ、像はおまえの国でも大事な物なんだろ?」
「いや、だって、無駄に大きくて場所とるんじゃもん、広場で遊んでると、邪魔になるし……。こんな機会は滅多にないのじゃ、それにいまなら『仕方がなかったと』理由がつく。……どうじゃろうか、ここで皇に内緒でぶっ壊しておくというのは?」
「……娘が聞いてるんだけど」
「ダメかの?」
「いいよいいよ、おっけーおっけー! 姫が赦す!」
「ダメだろ! アホか!」
「あ、あほ……って、ここ、興奮す――」
「むぅん……、おねえちゃんは意外と真面目なんじゃな」
「そういう問題か? これ?」
「……さて、もう休憩は済んだでしょ。なんか一刀斎師匠もいないみたいだし」
「あの、勝手にお茶とか淹れてよかったんですか?」
「問題ナイナイ! 師匠のものはあたしのもの! あたしのものもあたしのもの、てね」
「どこのタケシくんですか……」
「ささ、ちゃっちゃと行って、ちゃちゃっと解決しよ。それからルーシーちゃんと一緒にトバ観光しないとね。ちなみにルーシーちゃんはどこ行きたいとかある?」
「ダーメだってば。ルーちゃんはサキちゃんのだって言ってんじゃん。だれにも渡さないかんね! もちろん、おねーさんにも!」
「ぐへへぇ……も、もちろん、サキちゃんも一緒だからね! おねーさんと一緒にくんずほぐれつ津々浦々侃侃諤諤楽しもうよ……!」
「ふふん、そんなこと言っていいのかな? おねーさん綺麗だし、サキちゃんのテクで骨抜きにしちゃうぜー?」
「おほー! た、たまらん! う、ううう受けて立とうじゃまいかっ!」
「……だれか、この変態ふたりを止め――て?」
タカシが言いかけて止める。
タカシの視線の先、すこし遠くのほうから大勢の人の声が聞こえてきた。
「おいテシ、あれ……あっちのほう、なんかあったのか?」
「ほむ、なんじゃろな。あれは広場のほうみたいじゃが――」
そこまで言ってタカシとテシが見つめ合う。
ふたりは立ち上がると、シノとサキをおいて、広場へと駆け出した。
◇
「あれは……?」
「なんということじゃ……、神龍像があんなにも光って……これではあの凶兆そのものではないか」
「――おい、ちょっと待て、ウソだろ。なんでアイツがこんなところにいるんだ」
「えっと……、おねえちゃんが言ってるのは、あの芋ジャージの子かの? 知り合いなのか?」
「ああ。あいつはドーラ……、だけど、でも、確かにエストリアに置いてきたはずだ」
『あ! ……いえ、タカシさん。ドーラちゃんはあの時、いませんでした』
「ちっ、そうだった……。……てことは、あの時にはもう――」
『タカシさん、それよりも、ドーラちゃんを止めないと! なんかドーラちゃん、あの像にどんどん近づいていってますよ!』
「くそっ、あとで泣くまで説教だ」
タカシは小さくそう言うと、群衆をかき分け広場の中央へと向かった。
やがてタカシはドーラのところまでたどり着くと、ドーラの腕を掴もうと手を伸ばす。
しかし――
「ッ!?」
ピピッと、タカシの頬に二筋の切り傷がつく。
「な――!?」
「あたしは……あたしはしって――知っている。これはこの光は――」
「ドーラ……! おまえ、何言って……!」
「思い出した。全て。ここにいる理由。そして――」
「ドーラ!!」
ドーラはゆっくりとタカシを振り返ると、一瞬――
ほんの一瞬だけ悲しい顔を見せた。
「さらばだ人の子よ。これよりこの地より地上世界へ、神龍による裁きが下る。――『ケシテ、オイカケテクルナ』」
声は発せられていない。
口の動きだけでドーラはタカシに言葉を伝える。
タカシは何も言わず、何も言えず、ただその場で固まった。
神龍像から放たれている光がドーラを包み込む。
ドーラはその姿をドラゴンに変化させると、眩いほどの光と共に、広場から消え失せた。
「ええい! どかぬか! どかぬと逮捕するぞ!」
放心状態のタカシを引き戻すように、テシが声をあげる。
テシは群衆を押し退けながら、タカシの元へと這い出てきた。
「おねえちゃん……、さきほどのドラゴンとは……?」
「くっ……知り合いだ」
「そうじゃったか……」
「なあ、さっきテシが言いかけてたのは何だったんだ?」
「さっき……? 凶兆のことかの?」
「ああ、それだ」
「……おねえちゃん――いや、ルーシー殿。それは、今はお答えできぬのじゃ」
「は? どういうことだよ」
「あのドラゴンと知り合いとなれば、こちらとしても、拘束しなければいけないのじゃ」
「それってどういう――」
タカシが言い終えるよりも先に、タカシの手首に手錠がかけられる。
「……おい、テシ。これはなんだ……!」
「すまないのじゃ、おねえちゃん。だけど――」
瞬間。
ズ――と、左足を軸とした鋭い蹴りが、テシのこめかみを捉える。
だが――
バチンッ!!
「ぐぅっ……!?」
『え? タカシさん!?』
手錠から劇毒のような電流が発生し、タカシの全身を焼く。
タカシは力なく、その場にガクッと崩れた。
「く……っ、ドー……ラ……!」
タカシの目が次第に閉じていき、そのまま動かなくなった。
「いっちゃん!? なにがあったの? そこで倒れてるルーシーちゃんは?」
やがてシノとサキが遅れて到着する。
シノがテシに駆け寄り、状況の説明を要求する。
しかしサキは、タカシが倒れているのを目にした途端、問答無用でテシに牙をむいた。
サキが突剣を抜く。
突剣はビュンビュンと唸りを上げ、テシに襲い掛かった。
シノとの一件で刀を破壊されていたテシは、懐から十手を取り出して反撃を試みる。
しかし一瞬、反応が遅れてしまったため、サキは難なくテシの十手は弾き飛ばした。
ピタッと、突剣の剣先がテシの喉元で止まる。
「てっちゃん、いちおう理由は訊いとくけど……、なんでこんなことをしたの?」
「それが……ワシの仕事だからじゃ」
「仕事……へぇ、仕事、ね。んじゃ、こっちも仕事しないとね。そこに転がってるの、サキちゃんの上司だし? このままなんもしないで、連行されていくのを見てるだけとか、ありえないじゃん!」
テシは覚悟を決めたのか、キュッと目を瞑った。
その目じりにはきらりと光る涙。
サキはかまわず、そのまま腕に力を込め、剣先をテシの喉めがけて押し込んだ。
しかし――
突然、突剣の刀身が無くなる。
柄だけとなった突剣はおもいきり空振りになり、サキは体勢を崩す。
刹那――
ドス……と、賀茂の柄がサキの頸椎にたたき込まれる。
サキはそのまま、うつ伏せに地面にパタンと倒れた。
「……ごめん、サキちゃん」
シノは賀茂を腰に戻すと、テシに向かい合った。
「いっちゃん、とにかく説明をお願いしてもいいかな? ここでなにがあったか。それと、勅使河原勅使はなにを知ってるか。――これは命令ね。その内容によっては、あたしもこのふたりと同じ行動をとるから……!」
「姫も……もう、立派なエストリア人じゃな……嬉しいような、哀しいような……」
「そういうのはいいから……やっぱり、神龍の件?」
「はい。姫の察しの通り、そうですじゃ……」
「……ということは、ドーラちゃんはやっぱり……」
「――やっぱり? 姫はあのドラゴンを神龍と知っていて……?」
「ううん。だけど、確信がなかった。予兆はあったけど、あの子はとても穏やかで、あたしたちが知っている神龍とは別物だった」
「それはどういうことじゃ。ワシらが知ってる神龍とは――」
「とにかく、場所を変えよう。ここは人目につきすぎる。場所はどこでもいいよ」
「わ、わかったのじゃ。とりあえず、このふたりを運ばなければの……」
テシはそう言うと、タカシとサキを抱え上げると、そのままズルズルと引きずっていった。
0
あなたにおすすめの小説
魔法使いじゃなくて魔弓使いです
カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです
魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。
「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」
「ええっ!?」
いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。
「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」
攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる