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白銀編
勇者の娘vs主人公
しおりを挟む大広間のホール。
真紅の絨毯の上に、タカシとサキがそれぞれ自分と向き合っていた。
「な、なんだこれ……ルーシー……? ていうか、オレだよな。鏡……でもないし」
「え? なになに? どうなってんの? サキちゃんがふたり……?」
「なあ、あんた。これどうなってん――」
タカシが少女のいた方向を振り向く。
しかし少女の姿は忽然と消えており、タカシとサキ、それとタカシとサキの四人が其処に残されていた。
「なんかあいつ、消えてんだけ――」
「ルーちゃん!」
サキがタカシに抱きつく。
タカシは咄嗟のことに受け身をとることができず、サキと共に絨毯の上へ倒れた。
「な、なにやってんだサキ? そういう場面じゃないだろ! 離れろ!」
「ふふふーん、やだもーん」
サキはそう言うと、猫のように、タカシの胸に頭をこすり付けた。
「ちょっと! ちょっと! サキちゃんのルーちゃんなんだから、偽サキちゃんはさっさと離れてー!」
もうひとりのサキが、タカシに抱きついているサキを引きはがしにかかる。
「偽サキちゃんって、あなたのほうが偽サキちゃんでしょ?」
「何言ってるの! サキちゃんが本物のサキちゃんだもん!」
「つっても、そんなの証拠がないじゃーん? ねえねえルーちゃん、サキちゃんがほんとのサキちゃんだもんね?」
「うそ、嘘だよ。サキちゃんが本物のサキちゃんだよ。解ってくれるよね……?」
「サキちゃんサキちゃんサキちゃんサキちゃんうるせーよ! とりあえず、オレから離れろ!」
タカシはそう怒鳴りつけると、サキを強引に引き剥がそうと試みる。
しかしサキは離れることなく、タカシにまるでセミが樹の樹液を吸うが如く、くっついている
「いや~ん」
「そうだよ! 偽サキちゃんは早くどっか行ってってば!」
タカシに抱きついていたほうのサキは、今度こそ、立っていたほうサキに強引に引き剥がされた。
「……てか、おまえだろ。本物は」
タカシがそう指摘したのは、タカシに抱きついていたほうのサキ。
指摘されたほうのサキは、指摘されていないほうのサキと顔を見合わせると――
「せいか~い」
と、二人一緒に笑顔で答えてみせた。
「ちっ、なんでおまえら仲良くなってんだよ……」
「だってだって、サキちゃんとおなじサキちゃんだよ?」
「こんな機会、滅多にないしぃ、ルーちゃんにイタズラできるしぃ、面白いしぃ、楽しいし!」
「ねー!」
口裏でも合わせているかのように、二人の声がシンクロする。
タカシは頭を抱えると、心底疲弊したような表情を浮かべた。
「つ、疲れる……てか、それだと結局ひとりしか、得しねえじゃねえか」
「あ」
「そういえば」
「そうだよね」
「うっかりうっかり」
ふたりは再度、顔を見合わせる。
そして――
「こんにゃろー」
「あ! やったなー?」
「あっ、いたたた、もう!」
「えいっ、えいっ」
「このこのこのー!」
突然ふたりが絡み合い、もみ合いになった。
「……なんて、不毛な争いなんだ……」
「さぁ――」
突然、二人のサキがピタリと、もみ合いを止めて、横一列に整列する。
「本物はどっちでしょう」
「か?」
「コントかよ! ネタとして昇華してんじゃねえよ!」
「どっちでしょう」
「か?」
「しつけーな……。てか、おまえだろ?」
タカシは、タカシから見て右側のサキを指さした。
サキたちはびっくりしたような顔で、互いの顔を見ると――
「せいか~い」
と、笑顔で答えてみせた。
「ええ~、なんでなんで~?」
「なんでわかったのー?」
「あ……もしかして、これが愛のなせるわざってやつ?」
「うーん、やっぱりルーちゃんとサキちゃんって、運命の赤い糸で結ばれてたんだね。ちょっと妬けちゃう。って、自分なんだけどね」
「ふつうに勘なんだけど……」
「えー?」
「なんか、うそっぽくない?」
「うんうん、目、泳いでっしね~」
「ウソじゃねえし。てか、おいサキ。遊んでる場合じゃないだろうが。さっさとその偽物倒して、このフザケた試練を突破するぞ――て、試練の内容はそれでいいんだよな?」
タカシは偽物のサキのほうに尋ねるが
「うんうん、そういうことだよ」
と、答えたのは本物のサキだった。
「なんでだよ! おまえじゃねえだろ!」
「あ、そだそだ。あのねあのね、ルーちゃん?」
本物のサキがタカシの傍まで行き、耳打ちする。
「サキちゃん、ちょっとあのサキちゃんとは戦い難いっていうか……、どうかな? ここは交互に戦うってことで!」
「は? 大丈夫か? そういう事なら、相手はオレってことになるんだぞ?」
「うんうん。たぶん大丈夫。むしろ、自分と戦うよりもやりやすいかも」
「つっても、本物とそう変わらないんだろ? 勝てんのか?」
「うーん、たぶん? 二割くらい?」
「それって負けるのがか?」
「ううん、勝つのが」
「ダメじゃねえか!」
「だいじょぶだいじょぶ、サキちゃんだってちゃんと強くなってるかんね!」
「ほんとかよ」
「ほんとほんと、マジの大マジよ」
「……まあ、そこまで言うんなら、任せるけどさ」
「そだ。これはちょっと、ズルになるかもしれないけど、一応、注意ね」
「なんだよ」
「……偽サキちゃんの持ってる剣には気をつけてね?」
「? それってどういう――」
「よーし! じゃあ、交渉は決裂ってことで!」
「成立してたじゃねえか!」
そうお道化つつ、タカシとサキの両名は背中合わせに構えた。
タカシは偽サキと、サキは偽タカシと、それぞれ向かい合う。
その手にはそれぞれの得物を握り、互いの敵を静かに睨んでいた。
「おいサキ、オレが加勢にいくまで死ぬなよ?」
「そっちこそ、強くなったサキちゃんにぃ、コ・コ・ロ、奪われんなよ?」
「言っとけ」
その言葉を合図に、タカシとサキがそれぞれの相手に踏み込む。
「おまえが強いってのはわかってるからな。最初からマジでいくぞ!」
タカシは偽サキに向かって、剣を下げたまま、手のひらを突き出してみせた。
「サキちゃんだって、手加減してあげないんだからね!」
ボォ! ボボボォ! ボボォ!!
タカシは掌から大量の火球を生成し、それを偽サキ目掛けて放った。
偽サキはそれを涼しい顔で、ひとつひとつ、丁寧に、手に持った突剣で突き崩していく。
「いくら放っても無駄だかんね! こんなしょぼい花火、いくら撃ったって、サキちゃんには当たらな――!?」
ニヤリ。
それを見ていたタカシは口角を、グイッと上げてみせる。
堕とされた火球はただでは消滅せず、ひとつひとつ規模の違いはあれど、それぞれが爆弾のように炸裂していった。
「見誤ったな。それの正しい対処法は『躱す』だけだ! ――もらった!」
いつの間にか、偽サキの背後に回り込んでいたタカシが、その手に持った黒剣で鋭い突きを放つ。
――が、黒剣は偽サキに届くことはなかった。
偽サキはタカシに背を向けたまま、まるで其処に剣が通ることを解っていたかのように、柔軟に体の軸をずらし、紙一重で黒剣の切っ先を躱す。
その結果、空を貫いた黒剣は虚しく宙を彷徨った。
偽サキはほんの一瞬の――その隙を見逃さなかった。
偽サキはくるんと、突剣を逆手に持ち替える。
切っ先を変えた突剣は、そのままタカシの手首にズブリと突き刺さった。
タカシはその激痛に顔を歪めるが、先程放った、突き勢いを殺すことなく、偽サキに体当たりを試みた。
しかし――
バリィ! ババリバリバリバリィィィィ!!
偽サキの突剣が形状を崩し、黄色く放電するモノへと形状を変化させる。
突剣はタカシの手首から全身へと、一瞬にして広がっていく。
タカシの体はまるで、雷に打たれたかのように、プスプスと頭から煙を上げた。
その衝撃により、タカシの手からポロっと黒剣がこぼれ落ちる。
「サキちゃんのビリビリに、気絶してる暇なんてないかんね?」
偽サキは体を反転させ、タカシに向かい合うと、空いているほうの手に突剣を出現させた。
自身の魔力を触媒とした、電気剣。
それがサキの出現させた突剣の正体だった。
「いっけー!」
突剣の切っ先はタカシの首――頸動脈に狙いを定め、突き出された。
偽サキは突剣の貫通力をさらに上げるため、腰と腕、手首に捻りを加えた。
ドン――
衝撃。
刹那、偽サキの体が後方へ吹き飛ぶ。
無論、突剣による一撃はタカシには届かなかった。
サキは不思議そうな顔をすると、タカシの姿を見て微笑んだ。
さきほどの、完全に殺されていたと思われていたタカシの突進が、ここにきて、サキを大きくはじき飛ばしたのだ。
魔力により強化された、タカシの生身の体当たりに、偽サキの体はミシミシと音をたてる。
しかし、これでタカシの反撃は終わりではなかった。
タカシは素早く手を伸ばし、偽サキの突剣――その刃部分を握る。
もちろん、魔力によって作られた突剣なので、タカシの手のひらからジュウゥゥゥ!! と、肉の焼けるような音と、煙が迸る。
タカシは構わずそれをグイっと、自分の体に引き寄せた。
当然、吹き飛ばされかけていた偽サキの体も、再度タカシへと引き寄せられる。
タカシは空いている手で、握りこぶしを作り、それを振りかぶった。
「歯ァ、食いしばれよ! 偽モン!!」
「や、やば――」
ド! ゴ! ン!
激しく殴打される音。
砲弾のようなタカシの拳は、確実に偽サキのこめかみを鋭く撃ちぬいた。
しかし、タカシはそれで勢いは落とさない。
むしろ、下への力を加え、そのまま殴りぬけた。
ボゴォォォン!!
偽サキが顔面から、真紅の絨毯に叩きつけられる。
絨毯はおおきくめくられ、大理石の床に、大きな亀裂が入る。
一瞬の静寂――
直後、タカシがドシャッと膝を折る。
タカシの脚が、まるで感電しているように小刻みに震えていた。
事実、タカシはサキの高電圧の電気に充てられ、感電しており、筋繊維等に深刻なダメージを受け、立てなくなっていた。
「くそっ、殴りの威力が……、殺されたか……」
偽サキは両手でグググと、地面を押すと、フラフラになりながら立ち上がる。
タカシの拳が当たった個所は、紅く、血で滲んでいた。
「あたたた……、ほんとにルーちゃんは、手加減ってのを知らないんだから……」
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