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雑兵編
幽霊を怖がってたらドラゴンが出てきた。
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「姉御! マジっすか! マジであの炭鉱に行っちゃうんすか!?」
「耳がはえーよ」
王との謁見の後、タカシは自宅で炭鉱をへいく準備をしていた。
「あとな、ごく自然に女子の部屋に入ってくるな。オレの宿主さんがドン引きしてるぞ」
「あんなとこ、命がいくらあっても足りないっすよ!」
「無視かよ……。命がいくつあっても……というか、全員無傷で帰ってきてるんだろ? なら大丈夫だろ」
「あ、もしかして聞いてないんすか?」
「なにをだよ」
「やっぱり聞いてなかったんすね……」
「だから、なにをだよ」
「全員無傷で帰ってきたってことは正しいんです。……正しいんですけど、その任務に就いた騎士全員、その日のうちに騎士団をやめているんです」
「はぁ? どういうことだよ」
「オレにもよくわかっていないんですけど、なんというか……心神喪失っていうんですかね。みんな怖がってその出来事を語ろうとしないんすよ」
「ますます意味わかんねえよ」
「こっからはオレの推理なんですけど、たぶんみんな、お化けを見たんじゃないかと……」
しばらくの沈黙のあと、急にルーシーが噴き出した。
『ぷっ、お化けですってタカシさん。子供だましにもほどがありませんか。ちょっと心配してましたけど、これなら……って、なんで泡吹きながら白目剥いてるんですか!』
「ばばば、バカヤロウ! お化けなんてないさ。非科学的さ。非営利的さ」
『なんで膝が震えてるんですか。なんでちょっと涙目なんですか。なんで唇が青くなってんですか。……もしかして――』
「こ……怖くない! 怖いわけないだろ!」
『そ、そうですか……極端にわかりやすいですね。……それでも行くんですか?』
「……行くしかないんだろ?」
『王様もそう言ってましたね……』
「こんなことになるならやめときゃよかった……」
「姉御、いまからなら取りやめれるかもしれませんよ」
「まじかよ」
「……でもそうなると、昇進の話はなくなるかも……」
「うう……だよなぁ……」
『あ、でもシノさんなら手伝ってくれるって言ってましたよね?』
「相手は実体のないお化けだぞ。あの人に何ができるってんだよ! てかあの人は何ができるんだよ!」
『そ、そんなにブチギレなくても……』
「うう……、なにかいい案は……」
『あのタカシさん、今更なんですけどわたしはここで辞めても、べつにタカシさんを責めたりしませんからね!』
「そ、そうだ! 魔石の炭鉱って、火気は厳禁だったりするのか?」
「えっと……そっすね。埋まっている魔石の種類によりけりですけど、炭坑内は原則火気は厳禁ですね。爆破魔法系の魔石にもし衝撃なんて与えた日には、悲惨なことに……」
『ん? ちょ……タカシさん? 何を考えているんですか?』
「汚物は消毒だ」
◇
エストリア王都から歩いて、三時間ほどの場所にその炭鉱はあった。
炭鉱はもはや廃坑化しており、人の気配どころか、生き物の気配すらなかった。
風が吹けば炭坑内でそれが反響し合い、ヒューという音が鳴っていた。
タカシは眉をひくひくと動かしながら、炭坑の入り口をにらみつけている。
「ちっ、ヘンリーめ……。途中で逃げやがって……」
『さてさて、なにから取り掛かりましょうか』
「とりあえず、爆破すっか!」
『ダメですよ! ほんとうに廃坑にしてどうるんですか!』
「ちっ」
『舌打ちしてもダメです。さあ、まずは実地調査です。ずずいっと入っていきましょうよ』
タカシはルーシーに促されると、しぶしぶ炭鉱の内部へと入っていった。
「……なあ、気のせいだとは思うんだけど、おまえなんか、楽しんでないか?」
『気のせいじゃないです。本来、こういうのとはちょっと違うんですが、探索みたいでワクワクしませんか?』
「まぁ、そうだな」
『でしょ? タカシさんは男の子なんですから、ほんとはワクワクしてるんじゃないですか?』
「……お化けさえ出なければな!」
『ま、まあまあ、そんなお化けみたいな顔しなくても……。それよりも、なんでタカシさんってそんなにお化けが怖いんですか?』
「怖いんじゃねえって! 嫌いなんだよ!」
『な、なんで嫌いなんですか?』
「それを言わせるかね」
『聞きたいです』
「いやですぅ!」
『なんでですか』
「恥ずかしいからですぅ!」
『じゃあもう聞きませんぅ!』
「よし!」
『……タチサレ……』
「はぁ?」
『どうかしましたか?』
『タチサレ……タチサレ……』
「おまえ、こんなときに悪ふざけするなよ」
『え? なにがですか?』
『タチサレ……』
「おい、まじでやめろよ。いい加減にしないと怒るぞ。怒髪天だぞ」
『ちょ、わたしじゃないですって!』
「じゃあほかにだれがいる――」
『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
腹の底にずしんと来るような唸り声が、タカシの鼓膜を震わせる。
炭坑内は地震のようにガタガタと揺れ始め、パラパラと天井から小石や砂などが降った。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
タカシは腰を抜かすと、四つん這いになりながら、ゴキブリのようにシャカシャカと炭坑内から出ていった。
炭鉱から出ると、タカシは目を白黒させながら入り口を見つめた。
「なんかでた! なんかでた! なんかでたァ!!」
『落ち着いてください! なにも出てません! 声だけです!』
「もういやだ! もうダメ! もう焼き払うもんね!」
『そ、それだけはダメです!』
タカシは山賊のアジトから持ってきていた手袋を右手にはめると、それを坑内へと向けた。
手袋からは、山賊が出していた火の玉とは、全く規模の違う火球が精製された。
大玉の火球が、次第に手のひらを中心に収束していく。
火球の熱気は周囲の空気を焦げつかせながら収束していくと、ビー玉のようなサイズとなった。
「消しとべ!」
タカシがそう言うと、火球は銃弾のようにまっすぐに飛んでいった。
炭坑内に火球が侵入すると、バチバチという音が鳴った。
ドグォォォォオオン!
すこし遅れてから、地面を揺らすほどの大きな地鳴りが轟く。
やがて炭坑の入り口からは、もうもうと黒煙が立ち昇ってきた。
そのころにはすでに地鳴りは止み、炭坑内から断続的に火が弾けるような音が続いた。
『ちょ、タカシさん……』
「……なにも言うな。もう終わったんだ。お化けは消し炭なった。オレたちの戦いはもう続かない……」
『せめて内部は確認しておきたいですね。まだここが、採掘場として機能するかどうかくらいは――』
「ゴホッ、ゲエッホ、エホ、オホ、オエエエエエエエ!!」
ルーシーが言い終える前に、炭坑内から激しく咳込む声が聞こえてきた。
「ころ……、ウォッホ、ゴホッ、殺す気なのかぁー! おまえらー!」
炭坑内から出てきたのは少女だった。
日を照り返すほど輝く金髪に、透き通った琥珀のような眼。
着用しているものは服というよりも、もはやビニール袋のようなものに近かった。
年のころはルーシーよりひと回り小さいほど。
頭からは鹿の角のようなものが、二本にょっきり生えていた。
「せっかく寝てたのに、おま、ゲエッホ、エホ、エホ、おまえらー! 許さ――」
「悪霊退散!!」
少女が言い終えるよりもはやく、タカシは腰に差していた剣を抜き、少女の首めがけて剣を振りぬいた。
ガキン!
と、およそ肌と剣が接触したとは思えない音が響いた。
剣は少女の皮膚にはじかれると、ぽっきりと折れてしまった。
しかし衝撃までは吸収できなかったのか、剣で切られた方向へと吹き飛んでいった。
「……あれ? お化けなのに手ごたえがある……?」
『ちょ、なにやってんですかー! 信じられない! この人でなし!』
「え? や、やば!」
我に返ったタカシは、吹き飛ばした少女のほうへ駆け寄っていった。
「だ、大丈――うわ」
少女は滝のような涙を流し、うつぶせでシクシクと泣いていた。
「う、うう……寝てただけなのに……」
「えと……てことは、キミが炭鉱の化け物の正体……?」
「バケモノちゃうわ! あたしからしたら、あんたのほうがバケモノじゃ!」
「ご、ごめん。けど、なんであんなとこに……」
「行くところがなかったんじゃ! 文句あるか!?」
「う、うーん。……まあとりあえず、家に帰ったほうがいいんじゃないか?」
「家なんてないわ!」
「孤児か?」
「孤児ちゃうわ!」
「じゃあなんなんだ」
「リューじゃ!」
「え?」
「おまえら人間からしたら、トカゲみたいなもんじゃ!」
「リュー……って、竜!? ドラゴンか!? もしかして?」
タカシは少女を頭のてっぺんからから、つま先まで見まわした。
「じゃあこれは……」
タカシは少女の頭に生えている角を引っ張った。
「いだだだだ! 痛いわぁ!」
少女はタカシを突き飛ばすと、自らの角を優しくさすった。
「じゃあ、あの爆発のなか生き残ったのも、剣が折れたのも……」
「全部あたしの鱗のおかげじゃ!」
『……なんかすごいことになってきましたね。炭坑内に巣食ってた怪物は少女で、しかもその少女はドラゴンだったなんて……』
「ドラゴン娘かよ。なんでもありだな」
『町にも魔物はいるんですけど、わたしもドラゴンは初めて見ましたよ』
「珍しいのか?」
『はい、ドラゴンなんて個体数は少ないですし。目撃例も極端に少ないんです』
「……それが、こんなところで見つかるとはな」
『行くところがないって言ってましたし、いろいろと苦労してるんですね、この子も……』
「まあ、この世界のことはまだわからんが……、このままここに放っておくわけにもいかないだろうな」
『ですね』
「ぐすっ、おまえ、もう絶対許さないからな! このアホー! 人間―! あほ人間―!」
「……なあ少女よ」
「少女ちゃうわ! 今年で十万とんで九歳じゃ! あんたよりお姉さんぞ!」
「レディよ!」
「な、なんじゃいきなり」
「行くところがないって言ったよな?」
「それがなんだ!」
「なんならオレの家に来るか?」
「え? いいの?」
「ああ、しかも三食寝床つきだ」
「じょ、条件が良すぎる……、もしかして……あたしを捕まえて、切り離したり、くっつけたりしようとするつもりじゃないだろーな!?」
「だれがマッドサイエンティストだ。同情心からくる弱者へと施しの精神だよ」
「……うん、なにを言っているかイマイチよくわからないけど、そこまで言うならついてってやろうではないか」
ドラゴンの少女は高らかに笑ってみせると、王都とは逆方向に歩いていった。
「どうだ、ちょろいだろ」
『いいんですか? こんな、安請け合いしちゃって』
「いんだよ。問題も解決できて、なによりドラゴンって珍しいんだろ? 王様に献上すればなにか褒美があるかもしれないしな」
『うわ、悪魔ですかあなたは! やめてください、あの子が可哀想です』
「ばか言え、社会貢献だよ。オレはあの少女を、もっとみんなの役に立てようとしているだけだ。……それに、最悪殺されはせんだろ」
『ちょ、変なフラグ立てないでください。いやな予感しかしないんですけど』
「おーい、少女よ! そっちは逆だ! こっちだぞ!」
「少女じゃない! あたしはレデーだってば!」
「耳がはえーよ」
王との謁見の後、タカシは自宅で炭鉱をへいく準備をしていた。
「あとな、ごく自然に女子の部屋に入ってくるな。オレの宿主さんがドン引きしてるぞ」
「あんなとこ、命がいくらあっても足りないっすよ!」
「無視かよ……。命がいくつあっても……というか、全員無傷で帰ってきてるんだろ? なら大丈夫だろ」
「あ、もしかして聞いてないんすか?」
「なにをだよ」
「やっぱり聞いてなかったんすね……」
「だから、なにをだよ」
「全員無傷で帰ってきたってことは正しいんです。……正しいんですけど、その任務に就いた騎士全員、その日のうちに騎士団をやめているんです」
「はぁ? どういうことだよ」
「オレにもよくわかっていないんですけど、なんというか……心神喪失っていうんですかね。みんな怖がってその出来事を語ろうとしないんすよ」
「ますます意味わかんねえよ」
「こっからはオレの推理なんですけど、たぶんみんな、お化けを見たんじゃないかと……」
しばらくの沈黙のあと、急にルーシーが噴き出した。
『ぷっ、お化けですってタカシさん。子供だましにもほどがありませんか。ちょっと心配してましたけど、これなら……って、なんで泡吹きながら白目剥いてるんですか!』
「ばばば、バカヤロウ! お化けなんてないさ。非科学的さ。非営利的さ」
『なんで膝が震えてるんですか。なんでちょっと涙目なんですか。なんで唇が青くなってんですか。……もしかして――』
「こ……怖くない! 怖いわけないだろ!」
『そ、そうですか……極端にわかりやすいですね。……それでも行くんですか?』
「……行くしかないんだろ?」
『王様もそう言ってましたね……』
「こんなことになるならやめときゃよかった……」
「姉御、いまからなら取りやめれるかもしれませんよ」
「まじかよ」
「……でもそうなると、昇進の話はなくなるかも……」
「うう……だよなぁ……」
『あ、でもシノさんなら手伝ってくれるって言ってましたよね?』
「相手は実体のないお化けだぞ。あの人に何ができるってんだよ! てかあの人は何ができるんだよ!」
『そ、そんなにブチギレなくても……』
「うう……、なにかいい案は……」
『あのタカシさん、今更なんですけどわたしはここで辞めても、べつにタカシさんを責めたりしませんからね!』
「そ、そうだ! 魔石の炭鉱って、火気は厳禁だったりするのか?」
「えっと……そっすね。埋まっている魔石の種類によりけりですけど、炭坑内は原則火気は厳禁ですね。爆破魔法系の魔石にもし衝撃なんて与えた日には、悲惨なことに……」
『ん? ちょ……タカシさん? 何を考えているんですか?』
「汚物は消毒だ」
◇
エストリア王都から歩いて、三時間ほどの場所にその炭鉱はあった。
炭鉱はもはや廃坑化しており、人の気配どころか、生き物の気配すらなかった。
風が吹けば炭坑内でそれが反響し合い、ヒューという音が鳴っていた。
タカシは眉をひくひくと動かしながら、炭坑の入り口をにらみつけている。
「ちっ、ヘンリーめ……。途中で逃げやがって……」
『さてさて、なにから取り掛かりましょうか』
「とりあえず、爆破すっか!」
『ダメですよ! ほんとうに廃坑にしてどうるんですか!』
「ちっ」
『舌打ちしてもダメです。さあ、まずは実地調査です。ずずいっと入っていきましょうよ』
タカシはルーシーに促されると、しぶしぶ炭鉱の内部へと入っていった。
「……なあ、気のせいだとは思うんだけど、おまえなんか、楽しんでないか?」
『気のせいじゃないです。本来、こういうのとはちょっと違うんですが、探索みたいでワクワクしませんか?』
「まぁ、そうだな」
『でしょ? タカシさんは男の子なんですから、ほんとはワクワクしてるんじゃないですか?』
「……お化けさえ出なければな!」
『ま、まあまあ、そんなお化けみたいな顔しなくても……。それよりも、なんでタカシさんってそんなにお化けが怖いんですか?』
「怖いんじゃねえって! 嫌いなんだよ!」
『な、なんで嫌いなんですか?』
「それを言わせるかね」
『聞きたいです』
「いやですぅ!」
『なんでですか』
「恥ずかしいからですぅ!」
『じゃあもう聞きませんぅ!』
「よし!」
『……タチサレ……』
「はぁ?」
『どうかしましたか?』
『タチサレ……タチサレ……』
「おまえ、こんなときに悪ふざけするなよ」
『え? なにがですか?』
『タチサレ……』
「おい、まじでやめろよ。いい加減にしないと怒るぞ。怒髪天だぞ」
『ちょ、わたしじゃないですって!』
「じゃあほかにだれがいる――」
『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
腹の底にずしんと来るような唸り声が、タカシの鼓膜を震わせる。
炭坑内は地震のようにガタガタと揺れ始め、パラパラと天井から小石や砂などが降った。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
タカシは腰を抜かすと、四つん這いになりながら、ゴキブリのようにシャカシャカと炭坑内から出ていった。
炭鉱から出ると、タカシは目を白黒させながら入り口を見つめた。
「なんかでた! なんかでた! なんかでたァ!!」
『落ち着いてください! なにも出てません! 声だけです!』
「もういやだ! もうダメ! もう焼き払うもんね!」
『そ、それだけはダメです!』
タカシは山賊のアジトから持ってきていた手袋を右手にはめると、それを坑内へと向けた。
手袋からは、山賊が出していた火の玉とは、全く規模の違う火球が精製された。
大玉の火球が、次第に手のひらを中心に収束していく。
火球の熱気は周囲の空気を焦げつかせながら収束していくと、ビー玉のようなサイズとなった。
「消しとべ!」
タカシがそう言うと、火球は銃弾のようにまっすぐに飛んでいった。
炭坑内に火球が侵入すると、バチバチという音が鳴った。
ドグォォォォオオン!
すこし遅れてから、地面を揺らすほどの大きな地鳴りが轟く。
やがて炭坑の入り口からは、もうもうと黒煙が立ち昇ってきた。
そのころにはすでに地鳴りは止み、炭坑内から断続的に火が弾けるような音が続いた。
『ちょ、タカシさん……』
「……なにも言うな。もう終わったんだ。お化けは消し炭なった。オレたちの戦いはもう続かない……」
『せめて内部は確認しておきたいですね。まだここが、採掘場として機能するかどうかくらいは――』
「ゴホッ、ゲエッホ、エホ、オホ、オエエエエエエエ!!」
ルーシーが言い終える前に、炭坑内から激しく咳込む声が聞こえてきた。
「ころ……、ウォッホ、ゴホッ、殺す気なのかぁー! おまえらー!」
炭坑内から出てきたのは少女だった。
日を照り返すほど輝く金髪に、透き通った琥珀のような眼。
着用しているものは服というよりも、もはやビニール袋のようなものに近かった。
年のころはルーシーよりひと回り小さいほど。
頭からは鹿の角のようなものが、二本にょっきり生えていた。
「せっかく寝てたのに、おま、ゲエッホ、エホ、エホ、おまえらー! 許さ――」
「悪霊退散!!」
少女が言い終えるよりもはやく、タカシは腰に差していた剣を抜き、少女の首めがけて剣を振りぬいた。
ガキン!
と、およそ肌と剣が接触したとは思えない音が響いた。
剣は少女の皮膚にはじかれると、ぽっきりと折れてしまった。
しかし衝撃までは吸収できなかったのか、剣で切られた方向へと吹き飛んでいった。
「……あれ? お化けなのに手ごたえがある……?」
『ちょ、なにやってんですかー! 信じられない! この人でなし!』
「え? や、やば!」
我に返ったタカシは、吹き飛ばした少女のほうへ駆け寄っていった。
「だ、大丈――うわ」
少女は滝のような涙を流し、うつぶせでシクシクと泣いていた。
「う、うう……寝てただけなのに……」
「えと……てことは、キミが炭鉱の化け物の正体……?」
「バケモノちゃうわ! あたしからしたら、あんたのほうがバケモノじゃ!」
「ご、ごめん。けど、なんであんなとこに……」
「行くところがなかったんじゃ! 文句あるか!?」
「う、うーん。……まあとりあえず、家に帰ったほうがいいんじゃないか?」
「家なんてないわ!」
「孤児か?」
「孤児ちゃうわ!」
「じゃあなんなんだ」
「リューじゃ!」
「え?」
「おまえら人間からしたら、トカゲみたいなもんじゃ!」
「リュー……って、竜!? ドラゴンか!? もしかして?」
タカシは少女を頭のてっぺんからから、つま先まで見まわした。
「じゃあこれは……」
タカシは少女の頭に生えている角を引っ張った。
「いだだだだ! 痛いわぁ!」
少女はタカシを突き飛ばすと、自らの角を優しくさすった。
「じゃあ、あの爆発のなか生き残ったのも、剣が折れたのも……」
「全部あたしの鱗のおかげじゃ!」
『……なんかすごいことになってきましたね。炭坑内に巣食ってた怪物は少女で、しかもその少女はドラゴンだったなんて……』
「ドラゴン娘かよ。なんでもありだな」
『町にも魔物はいるんですけど、わたしもドラゴンは初めて見ましたよ』
「珍しいのか?」
『はい、ドラゴンなんて個体数は少ないですし。目撃例も極端に少ないんです』
「……それが、こんなところで見つかるとはな」
『行くところがないって言ってましたし、いろいろと苦労してるんですね、この子も……』
「まあ、この世界のことはまだわからんが……、このままここに放っておくわけにもいかないだろうな」
『ですね』
「ぐすっ、おまえ、もう絶対許さないからな! このアホー! 人間―! あほ人間―!」
「……なあ少女よ」
「少女ちゃうわ! 今年で十万とんで九歳じゃ! あんたよりお姉さんぞ!」
「レディよ!」
「な、なんじゃいきなり」
「行くところがないって言ったよな?」
「それがなんだ!」
「なんならオレの家に来るか?」
「え? いいの?」
「ああ、しかも三食寝床つきだ」
「じょ、条件が良すぎる……、もしかして……あたしを捕まえて、切り離したり、くっつけたりしようとするつもりじゃないだろーな!?」
「だれがマッドサイエンティストだ。同情心からくる弱者へと施しの精神だよ」
「……うん、なにを言っているかイマイチよくわからないけど、そこまで言うならついてってやろうではないか」
ドラゴンの少女は高らかに笑ってみせると、王都とは逆方向に歩いていった。
「どうだ、ちょろいだろ」
『いいんですか? こんな、安請け合いしちゃって』
「いんだよ。問題も解決できて、なによりドラゴンって珍しいんだろ? 王様に献上すればなにか褒美があるかもしれないしな」
『うわ、悪魔ですかあなたは! やめてください、あの子が可哀想です』
「ばか言え、社会貢献だよ。オレはあの少女を、もっとみんなの役に立てようとしているだけだ。……それに、最悪殺されはせんだろ」
『ちょ、変なフラグ立てないでください。いやな予感しかしないんですけど』
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「少女じゃない! あたしはレデーだってば!」
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追記:2025/09/20
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