とある学生たちのしょうもない会話

枯井戸

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メイド喫茶

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「──おい青木、メイド喫茶ってどう思う」


 暮れる夕日。差し込む西日。
 黄昏時。
 昼と夜の境目。橙煌めく、刹那の時間──文学部の部室にて、ひとりヨガに勤しんでいた赤松が、ピンと伸びた片足を抱えながら、傍らにて読書に耽っていた青木に語り掛けた。
 青木は小さく舌打ちをすると、本を閉じることなく、口を開いた。


「いきなりすぎるんだよ、おまえは。たまにはなんでそのトピックに至ったのか、過程から話し始めろ。なんだよメイド喫茶って。べつにどうも思わねえよ。興味もねえ」

「それ本気で言ってるのか」

「なんの確認だよ。俺はいつでも本気だわ。逆におまえの正気を疑うけどな」

「へへ、上手いこと言ったつもりか、青木よ」

「いや、べつにそんなつもりは……」

「俺を見ろ、青木」

「なんだってんだ……って、うわあ!? なんだその格好!? 部室で何やってんだ、おまえ?! Y字バランスとかいうやつか!?」

「違う。よく見ろ。この俺を。……こう、なんか感じないか?」

「……いや、別に何とも。ていうか、その体勢キツくないのか?」

「キツイ」

「なら止めろよ」

「いや、俺は止めん」

「じゃあ、一生やってろ」

「いいか、これは極楽鳥のポーズだ」

「は?」

「ヒンディー語で、スヴァルガドゥヴィジャーサナだ」

「……なんて?」

「スヴァルガドゥヴィジャーサナ」

「そ、そうか……。で?」

「青木、メイド喫茶ってどう思う?」

「いや、たしかに過程を話せって言ったけど、これ、異次元過ぎるだろ! 理解できねえよ、お前の考え! なんでそこからメイド喫茶に至るんだよ!」

「それはな。メイド喫茶の源流が、インドのヨガからヒントを得ているからだ」

「な、なるほど。そんな謂れが……よく知ってたな、そんなこと」

「まあ、嘘だが」

「殺すぞ」

「まあ、待て。俺を殺す前に青木に訊いておきたいことがある」

「どうせ『メイド喫茶をどう思う?』だろ? もういいんだよ、毎回毎回、繰り返し繰り返し訊いてきやがって。おまえはオウムかよ」

「……いや、オウムはないわ。面白くない」

「ウケ狙ってねえわ! なんで強引にスベったようにするんだよ!」

「……俺の聞きたいことはただ一つ。メイド喫茶ニャン×3をどう思う?」

「て、てめぇ……! どこでその名を……!?」

「フ。顔色が変わったぞ、青木」

「いいから言え。おまえ、どこまで知ってるんだ」

「いやなに。先週末、たまたま外へ出たとき、たまたまおまえに似た人間を発見してな。たまたま後をついて行ったってわけだ。そうしたら青木に似たやつが、たまたまメイド喫茶に入って行って、そして、たまたま対面のビルから、撮った写真がこいつだ」

「これは……俺が、〝スペシャルメイドさんコース・マグナムフルハート〟を頼んだ時の写真……! 見たのか? 俺が、会員番号009だという事を!?」

「知らなかったさ。おまえが自ら話すまではな」

「ぐ……ぐはぁあああああああああああああ!!」

「……なあ、青木、最後にひとつだけ質問してやる。とてもシンプルで簡単な質問だ。心して答えてほしい」

「はぁ、はぁ、こ、この期に及んで、まだ俺に質問を投げかけようというのか、赤松ゥ……!」

「──メイド喫茶って、どう思う?」

「ぼ、僕の……家……です……っ!」

「フ。おかえりなさいませ、ご主人様」
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