とある学生たちのしょうもない会話

枯井戸

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とりあえずタピオカが流行ってるという理由から、好きでもなんでもないタピオカを買うミーハー系頭脳虚弱体質女子

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 平日の夕方。
 仕事帰りのサラリーマンや部活終わりの学生、誰かと待ち合わせをしている若者。
 そんな人たちでほどほどに賑わう繁華街に、夏服を着た女子高生が二人、楽しそうに駄弁りながら歩いていた。
 二人の名前は「カエデ」と「アイ」。
 二人は都内の高校に通う普通の女子高生で、現在、放課後に寄ったカラオケから帰るところだった。


「――ええ~? あはは、なにそれ、マジうける~」
「マジマジ! でさぁー! それからあの担任、カツラが爆発しないように、毎日つける時に確認するようになったんだって」
「ぷっ、それ想像しただけで笑えるんだけど……!」
「だよね~……だよねー……だよ……」


 突然、今まで愛と楽しそうに話していた楓の顔から、笑みが消えていった。
 愛はそんな楓の様子に気がつくと、楓の視線の先にタピオカミルクティー等を販売している屋台を見つけた。
 愛は再び楓へ視線を戻すと、冗談交じりに楓に近づいていった。


「そういえば楓ってタピオカ好きだったよね? じゃんけんして、負けたほうがおごるってことで――」
「要らない!!」


 愛の言葉を遮るようにして、楓の怒号が辺りに響く。
 その声に周りの人間もビックリしたのか、ちらほらと足を止め、二人の様子を見ている。


「ど、どうしたの、楓? え……と、ごめん。なんか気に障った? タピオカ嫌いだった?」
「ううん……ごめん……タピオカは好きだよ……」
「そ、そうだよね。楓、タピオカ好きだもんね。むしろ好きすぎて粉のまま食べちゃって、お医者さんの世話になったくらいだもんね?」
「うん……」
「あー……う、うーん……えっとえと……そ、そうだ! あたしがタピオカ買ってあげるから、それで機嫌を――」
「ッ!? 要らないって言ってるでしょ!?」


 再び楓が声を張り上げる。


「え? いや、でも……」
「要らないって言ったら要らな――」


 ――バシン!
 愛のスナップのきいた、見事な平手打ちが楓の頬を捉える。
 楓は赤くなった頬を、何が何だかわからないといった表情で押さえていた。周りで足を止めていた人たちはそれを見ると、そそくさと、一斉に歩き出した。


「うるっせえッ!」
「……愛ちゃん?」
「いちいちいちいち、わざわざそんなボルテージ上げて大声出さないで! 迷惑だから!」
「愛ちゃん……」
「どんなにちっちゃい声でも、あたしは拾ってあげるし、気づいてあげるから! ……だから安心してあたしに話してみて。ね?」
「あ゛、愛ぢゃん゛……ッ!」
「わかったら、ほら、ゆっくりでもいいから話してみて」
「んまあ、タピオカの事なんだけどね」
「う、うん……急に普通に戻るんだね……」


 楓はそう切り出すと、引いている愛を尻目に淡々と語り出した。


「あれ、あるじゃん。あれ」


 そう言って楓が中指で指さしたのは、さきほどの屋台だった。


「あれって……タピオカ屋さんの事?」
「うん。あれ流行ってるよね、最近」
「そうだね、流行ってるか流行ってないかで言えば、流行ってるね。可愛いし、映えるし」
「はーあ、それなんだよ。それなんですよ」


 楓は誰にでも聞こえるような大きなため息をつくと、まるで、一昔前のアメリカのコメディアンのような反応をしてみせた。


「楓さん?」
「……愛ちゃんはさ、タピオカ好き?」
「あたし? あたしは……そうだな……べつに好きでもないし嫌いでもないかな……」
「でも愛ちゃん、この前イ〇スタでタピオカの写真上げてたよね?」
「う、うん……」
「しかもクラスメートたちと」
「うん」
「楽しそうだった……」
「……え? なに、行きたかったの?」


 楓は愛の質問には答えず、俯いて頬を膨らませている。


「いや、でもさ、あの日誘っても楓来なかったじゃん」
「………よくな……………から……ぴ……」
「……え? ごめん、聞こえないんだけど」
「他の二人とは! べつに仲良くなかったから! 気まずかったから!」
「あー……」
「別にいいよ! 関係ないよ! 今はそんなことは置いておこうよ! 問題なのはタピオカ好きじゃないのに、なんで飲んでるのってことだよ!」
「そっちが掘り起こしてきたんじゃん。……でも、なんで飲んでるかって言われたら……そりゃさっきも言ったけど、流行ってるからじゃない?」
「でました」
「いやいや、でましたって言われても……。なに? 流行りものばっかり追いかけてるから……とか、そういう嫌味?」
「違うよ! あなたたちのせいで、本当に今までタピオカが好きで飲んでた人の肩身が狭くなってるってことだよ!」
「……なんで?」
「なんでって、ほんとうにわかりませんか?」
「はい、わかりません」
「例えば私がさ、タピオカ飲みたくなるとするじゃん?」
「うん」
「それで、買いに行くじゃん?」
「うん」
「そしたら周りにどんな目で見られると思う?」
「どんな目……? いやべつに、タピオカを買ってる女の子……とか?」
「『とりあえずタピオカが流行ってるという理由から、好きでもなんでもないタピオカを買うミーハー系頭脳虚弱体質女子』に見られるんですよ!」
「いや、そこまでは――」
「あるよ! 愛ちゃんはともかく、精神のひん曲がった人たちは少なからずそう思うの!」
「えー……」


 あり得ないといった感じで頭を振る愛に、楓は自身のスマホの画面をずいっと見せつけた。


「……なにこれ」


 プルプルと震えている楓のスマホには『とりあえずタピオカが流行ってるという理由から、好きでもなんでもないタピオカを買うミーハー系頭脳虚弱体質女子』に対しての批判や心無いコメントがずらりと乱立していた。


「たしかに……たしかにさ、タピオカのガワだけ見て、写真だけ撮ったらあとは全部飲まずに、そのまま道端に捨ててるド屑は一定数いるよ?」
「ド屑って……」
「けどね……タピオカが好きで好きで……あの食感とミルクティーのハーモニーを心の底から愛してて、それで飲んでる人だって絶対いるんだよ」
「だろうね」
「私はね、そういう人たちをそんなド屑と一緒くたにしてほしくないだけなんだ……」


 楓は嗚咽をあげながら、時折しゃくり上げながらも懸命に胸中を語った。


「楓……」
「だから私、今は我慢してるんだ。それでタピオカを見ると、興奮して感情が昂っちゃって……ごめんねさっきは。いきなり大声出して」
「ううん、気にしてないよ。楓がおかしくなるのはいつもの事だから」
「……私、いつの日か、そんなことを抜きにして、皆がタピオカを楽しめるようになったらなって、心の底から――」
「でもさ楓、やっぱりそれって勿体ないよ」
「……え?」
「強いタピオカ弱いタピオカ……そんなの人の勝手。ほんとうのタピオカマニアなら好きなタピオカで勝てるように頑張るべき」
「カリンさん……?」
「つまり、人に言われて止めるくらいなら、それは本当に好きなことじゃないんじゃないかって事。……それに、周りを見て楽しめないならさ、周りを見ないで楽しんだほうがお得だよね」
「愛ちゃん……!」
「言いたい人には言わせておこうよ。少なくともあたしは楓の事『とりあえずタピオカが流行ってるという理由から、好きでもなんでもないタピオカを買うミーハー系頭脳虚弱体質女子』なんて思ってないよ。楓はタピオカが好きすぎて、お風呂いっぱいのタピオカを作ったら食べきれなくなって、お母さんに怒られたくらい、タピオカが好きだもんね」
「あ゛、愛ぢゃん゛……ッ! うん、そうだよね! 我慢しなくていいんだよね……!」
「うんうん。……とりあえず、鼻水を制服に擦り付けないでね」
「ありがとう! なんだか私、吹っ切れたよ! そうだよ、他人がどう思ったって、私はただタピオカが飲みたいだけなんだから、遠慮することはないんだよ! ……よおし! じゃあ今から並んで買ってくるよ!」
「うん、いってらっしゃい。あたしはここで待ってるよ」
「はーい! ……あ! そうだ、愛ちゃんも飲む? 今なら私が奢ってあげ――」
「あたしはいいや」
「…………そっか」


 ――その日、意気揚々と、タピオカというタピオカを啜りに啜った楓はSNS上に『とりあえずタピオカが流行ってるという理由から、好きでもなんでもないタピオカを買うミーハー系頭脳虚弱体質女子』として心無い第三者に晒された。楓はそれ以降、タピオカを見るたびに蕁麻疹が出るようになったという。
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