初恋婚〜幼馴染のエリート同期と離れられなくなりました~

西羽咲 花月

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景色が変わる

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翌日自分のベッドで目覚めた優莉奈はやはりスッキリとした気持ちだった。
昨日の移動で体は疲れているはずなのに、動きは軽快だ。

「あれれ、先輩今日もお肌ツヤツヤですよぉ?」
先に出勤してきていたマイちゃんが優莉奈の肌チェックをしてそう言った。

これはもうすでに恒例行事になっている。
だけど残念。
男性とどうこうあったわけじゃない。
もちろん、わざわざその説明をする気はないけれど。

「そう? 気のせいじゃない?」
軽く受け流すとつまらなさそうに頬をふくらませる。

「ぜぇったいにツヤツヤですって! 私なんて昨日は彼氏に会えなくてボロボロなのにぃ」
「マイちゃんはまだ若いから、彼氏に会わなくたって大丈夫よ」

「本当ですかぁ? 嬉しい!」
座ったまま飛び跳ねそうな勢いで喜ぶマイちゃん。

いつも元気で健康的なマイちゃんは落ち込んでいる姿は今の所みたことがない。
「おはよう」

それから少しして俊介が出勤してきた。


俊介もどこかスッキリとした表情だ。
「あれれ、谷川さんもなにかありましたぁ? 今日はやけに爽やかイケメンじゃないですかぁ」

マイちゃんの鋭さには毎回ドキッとさせられる。
なにか感づかれやしないかとヒヤヒヤしながらふたりの様子を横目で確認した。

「なんだよそれ」
俊介が明るい笑い声を上げる。
やけに爽やかな声色だけれど、まぁこれなら変に勘ぐられることもないだろう。

でも確かに今日の私達は一味違う。
見た目よりも内面的な問題が大きいことは一目瞭然だった。

「いいなぁ、ふたりとも恋人とラブラブってことなんですね」
「そうだといいんだけど」

残念ながら今日はまだ一樹と連絡を取っていない。
いつも、おはよう、おはすみのメッセージが届くのに、私が部屋を掃除をした日以来途絶えてしまっている。

気になるのなら自分からメッセージを送ればいいのだけれど、あんな扱いを受けた後だからそれも気に入らなかった。


「大人の恋愛ってどうして簡単じゃないんだろうな」
不意に俊介がそんなことを言うので吹き出してしまいそうになった。

「どうしたんですか谷川さん。やっぱり、恋人と上手く行ってないんですかぁ?」
「なかなか難しいよな、大人になると好きってだけじゃダメになってくるの、なんでだろうなぁ」

「なんか難しいですねぇ? 哲学みたいで」
マイちゃんは真剣な表情で答えているけれど、実際はなにも考えていなさそうだ。

「頭で恋愛するからじゃない? 結局損得勘定とかしちゃってるのかも」
そう言ってから優莉奈は自分もそうかもしれないと思い当たる。

一樹の部屋を掃除したときだって、掃除しただけで帰されたことに憤りを感じた。
その扱いはないんじゃないかと思った。

それは結局、自分にとってメリットがあるかどうかで物事を見ていたからだろう。
「でも、損得考えて動かないと相手のいいように扱われて終わるんだよな」


「そうなんだよね」
俊介と優莉奈はふたり同時にため息を吐き出した。

神様へのお願いを取り下げたとはいいえ、ここから先は自分たちの問題だ。
なにもせずに今の恋愛がうまく進んでいくとは思えない。

「そういうときはとことん会話するといいですよぉ?」
不覚にもマイちゃんはいいアドバイスをくれた。

「相手に不満があるたら、とりえあず言ってみなきゃ。相手がなにも気がついてない状態じゃなにも変わりませんしぃ?」
「マイちゃんってたまにはいいこと言うね」

「たまにってなんですかぁ!?」
怒ったふりして手を上げてくるマイちゃんをたしなめながら、今日は自分から一樹に連絡を入れてみようと思うのだった。


☆☆☆

「この前は掃除だけさせちゃってごめん」
昼休憩で食堂へ来たときだった。

自分から一樹に連絡を取るつもりでいたけれど、当人がそこで優莉奈のことを待っていた。
そして開口一番申し訳なさそうに頭を下げてきたのだ。

優莉奈は目の前の光景が信じられずに固まってしまう。
「思い返してみたら、あれはなかったよな。本当、ごめん」

頭をかいてうつむくその姿は怒られている子供みたいだ。
「あ、いえ……。まぁ、ちょっとは嫌でしたけど、頭をさげてもらうほどじゃないし」

「休みの日に母親が来るっていい出して、どうしようって焦って。その時に優莉奈ちゃんの顔が浮かんできたんだ。掃除を手伝ってくれるかなって」
「はい」


「でもそういうのも事前に説明するべきだったと思ってる」
一樹なりにあのあと色々と考えて反省したらしい。

だから、朝と夜のメッセージを送るのも気が引けていたのだそうだ。
「確かに、あの日は怒ってました。掃除だけして帰るのも、正直嫌でした」

優莉奈はキッパリといい切った。
相手がイケメンでも、社内のエースでも関係ない。

交際しているのは自分なのだから、ハッキリしなきゃいけない。
それに、マイちゃんがさっきから隣でジッと見てきている。

ここは先輩らしくビシッとしなきゃという気持ちもあった。
「本当にごめん」

「掃除をするならするでいいです。だけど一樹さんだけテレビを見ているのはおかしいです」
「うん。俺も手伝うべきだった」

「それで、お母さんは無事に呼べたんですか?」
「あぁ。優莉奈ちゃんのお陰で部屋に泊まってもらえたよ」


それを聞いてホッとした。
メインの部屋とお風呂場は掃除したけれど、他の部屋は手つかずのまま帰ったことが少し気になっていたのだ。

リビングで寝てもらうにしても、トイレが汚いかもしれないと。
「それなら良かったです。今度は一緒に掃除しましょう」

そう言うと一樹がパッと顔を上げた。
「いいのか……?」

「一樹さんは掃除が苦手なんですよね? それなら部屋が汚れるのだって仕方ないです。だから、一緒に掃除をしましょう」
優莉奈の言葉に一樹の表情はみるみる明るくなっていく。

一樹は勢いよく優莉奈の右手を両手で握りしめると「ありがとう!」と、泣きそうな声で言った。
「許してもらえないかと思った。優莉奈ちゃんとの関係も、もう終わりかと」

「大げさですよ」


なによりも一樹との関係はまだ始まってもいない。
お互いのことをまだ知らなさすぎる。

「本当にありがとう! 今度、母親が来たときにはちゃんと紹介するよ」
「え、それは……はい」

母親に紹介と言われて急に緊張してしまう。
そういうのはまだまだ先でいいと思うのだけれど、今それを伝えるのはやめておいた。

「よかったですね先輩! 小野木さんも、先輩がいい人じゃなかったらとっくに振られてますよ!?」
マイちゃんが一樹の背中をバンバン叩いて言う。

せっかくの仲直りムードが台無しだけれど、これでよかった。
優莉奈はマイちゃんを見て声を上げて笑ったのだった。


☆☆☆

「優莉奈! 梓ちゃんからメールが来たんだ!」
食堂から戻って仕事を再開したところで、俊介もデスクへ戻ってきた。

そして開口一番にそう伝えてきた。
俊介は頬を少し赤らめて嬉しそうにしている。

その様子からいい内容のメールだったのだということがわかった。

少し時間に遅れて戻ってきたのは梓ちゃんとメールのやりとりをしていたからのようだ。
「なんて書いてあったの?」

聞くと俊介はスマホ画面を直接見せてきた。
そこには《今度のデートでは私がおごります》と絵文字つきで書かれている。

これで仲直りできたみたいだ。
「よかったね、それで今度はいつデートなの?」

「次の休みかな。その前に食事くらいは行くかもしれないけど」
「そっか、楽しみだね」

答えながら優莉奈は自分の言葉に心が入っていないことに気がついた。
さっきから表面上だけで返事をしている。

自分も俊介もうまくいきはじめている。


それなのに、どうしてか心が沈んでいくような気がする。
嬉しいはずなのに、なんだかモヤモヤっとするような……。

でもきっとそれは気のせいだ。
すぐに、そう思い直した。

今までの恋愛がことごとく失敗続きだったから、うまくいくことに慣れていないのが原因だろう。

きっと、心の奥底では恋愛が上手くいくことが怖いんだ。
上手くいけばその先にプロポーズや結婚生活が待っている。

それは自分にとって元彼を思い出すトラウマになっているからだ。

怖がってちゃいけない。
とにかく、今を楽しまなくちゃ!

そう考えて優莉奈は深く考えないようにしたのだった。
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