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母になる
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縁切り神社には今日も沢山の村人たちが集まってくる。
子供から大人まで、その神様はみんなに愛され大切にされていた。
その奥まった菜園でもまた賑やかさは変わらなかった。
ふたりの兄弟はガリガリだった体に筋肉がつき、たどたどしいながら菜園を手伝うようになっていた。
それに口を挟んでいるのは菊乃だ。
菊乃は大きなカゴを抱えるように両手で持ち、兄弟がもいだ作物を入れていく。
縁側に座ってそれを見ているのはお腹が大きく膨らんだ薫子だった。
このお腹のせいでしばらく菜園仕事は休んでいる。
こうしてみんなの様子をみることが今の楽しみだった。
「大丈夫か?」
切神が全員分のお茶を用意して薫子の隣に座った。
お茶くらい自分で煎れるというのだけれど、切神は妊娠した薫子を甘やかしっぱなしだった。
「私は大丈夫です。みんな! 切神さまがお茶を準備してくださったわよ」
薫子の言葉に子どもたちは大喜びで屋敷へと戻ってくる。
そんなふたりを見て菊乃は呆れ顔だけれど、ふたりはまだまだ遊びたい盛なんだから仕方がない。
そろそろ読み書きを教えてあげるべきだろうとも考えていた。
「もうすぐ出てくる?」
勇が興味津々に薫子のお腹を見つめる。
お腹が膨らみ始めてから毎日のように質問してくることだった。
お腹の中になにが入っているのか、なんとなくわかっているみたいだ。
「そうね。もうすぐ出てくるわよ」
そうすればもっともっと、この屋敷はにぎやかになる。
「勇はお兄ちゃんになるんだよ」
大志がお茶菓子を口一杯に頬張って言う。
「お兄ちゃん?」
「そう。お兄ちゃん!」
理解しているのかしていないのか、勇は嬉しそうに庭へと飛び出して言ってしまった。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
と、何度も叫んで喜んでいる。
「この子たちの世話は私にまかせて、薫子はゆっくりしていてね」
菊乃は重たいカゴを土間へ置いて戻ってきた。
「ありがとう菊乃」
「神様の子だもの。大切にしなきゃ」
そう言われて頬がポッと赤く染まる。
神様の子供を身ごもることなるなんて、自分でも信じられない。
だけどお腹の膨らみを見るたびに本当のことなのだと実感できた。
そのときだった。
ふわふわ飛んでいた火が不意に薫子のお腹に近づいてきた。
そしてせわしなく動き回る。
「どうしたの?」
薫子が火に質問したその瞬間だった。
激しい痛みが腹部を襲い、顔をしかめた。
「痛っ……」
ズキズキと全身を貫くような痛みに、そのまま廊下に横になった。
「薫子!?」
動揺する神様に「神様、お湯を!」と、菊乃が叫ぶ。
菊乃は薫子を支えて寝室へと移動した。
そこにはいつなにが起きてもいいように布団がひかれている。
薫子はその布団に横になるまでにすでに額に冷や汗を浮かべていた。
「大丈夫よ薫子。安心してお産するといいからね。なにせ神様の子だもの。きっと安産よ」
菊乃に手を握りしめられて薫子は頷いた。
苦しい、痛い。
だけどこんなにも愛しい。
屋敷内に元気な赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのは、それから数時間後のことだった。
END
子供から大人まで、その神様はみんなに愛され大切にされていた。
その奥まった菜園でもまた賑やかさは変わらなかった。
ふたりの兄弟はガリガリだった体に筋肉がつき、たどたどしいながら菜園を手伝うようになっていた。
それに口を挟んでいるのは菊乃だ。
菊乃は大きなカゴを抱えるように両手で持ち、兄弟がもいだ作物を入れていく。
縁側に座ってそれを見ているのはお腹が大きく膨らんだ薫子だった。
このお腹のせいでしばらく菜園仕事は休んでいる。
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そろそろ読み書きを教えてあげるべきだろうとも考えていた。
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勇が興味津々に薫子のお腹を見つめる。
お腹が膨らみ始めてから毎日のように質問してくることだった。
お腹の中になにが入っているのか、なんとなくわかっているみたいだ。
「そうね。もうすぐ出てくるわよ」
そうすればもっともっと、この屋敷はにぎやかになる。
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と、何度も叫んで喜んでいる。
「この子たちの世話は私にまかせて、薫子はゆっくりしていてね」
菊乃は重たいカゴを土間へ置いて戻ってきた。
「ありがとう菊乃」
「神様の子だもの。大切にしなきゃ」
そう言われて頬がポッと赤く染まる。
神様の子供を身ごもることなるなんて、自分でも信じられない。
だけどお腹の膨らみを見るたびに本当のことなのだと実感できた。
そのときだった。
ふわふわ飛んでいた火が不意に薫子のお腹に近づいてきた。
そしてせわしなく動き回る。
「どうしたの?」
薫子が火に質問したその瞬間だった。
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「痛っ……」
ズキズキと全身を貫くような痛みに、そのまま廊下に横になった。
「薫子!?」
動揺する神様に「神様、お湯を!」と、菊乃が叫ぶ。
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薫子はその布団に横になるまでにすでに額に冷や汗を浮かべていた。
「大丈夫よ薫子。安心してお産するといいからね。なにせ神様の子だもの。きっと安産よ」
菊乃に手を握りしめられて薫子は頷いた。
苦しい、痛い。
だけどこんなにも愛しい。
屋敷内に元気な赤ん坊の泣き声が聞こえてきたのは、それから数時間後のことだった。
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