猫に生まれ変わったら憧れの上司に飼われることになりました

西羽咲 花月

文字の大きさ
10 / 19

ハトおじさん

しおりを挟む
かくしてミーコが乗った雑誌は翌月に刊行された。

火事から人を救った猫として取り上げられて、ミーコと健一のツーショットが掲載されている。

それを見るとなんだか恥ずかしくなってしまって、尚美は雑誌を踏みつけにしてしまった。

雑誌の取材が終わってからは1度も山内は部屋に来ていない。
本当に多忙の編集者のようで、今は部屋にもおらずあちこちを飛び回っているようだ。

そんな山内から昨日猫用お菓子の詰め合わせが届いた。
それもダンボール一箱分だ。

ミーコは喜びのあまり部屋の中をグルグルと駆け回り、最後には目を回して倒れてしまった。

「ミーコ。お菓子ばかり食べてたら太るから少し外へ出るか」
そう提案されたのはお菓子を食べた直後のことだった。
115 / 219

外という単語に尚美はドキリとする。
自分が猫としてここへ来てから外へ出るのは、買い物についていったあの日だけだった。

猫は基本的に家の中で飼ったほうがいいと言うし、散歩している姿を見るのも珍しい。
けれど健一は用意周到に猫用の散歩リードも購入してくれていた。

前足と胴体に紐を回して健一にリードを握られると、なんだか急にペット感覚が出てきて微妙な気分になる。

けれど首輪はとっくの前に付けられているし、今更感はする。
なによりも外に出られるとうことで少しだけ興奮していた。

「よし行こうか」
健一も準備を終えて一緒に玄関へ向かう。

玄関ドアを開けると外の風を感じて思わず目を細めた。

いつもキャットタワーの最上部から見ている外の世界は夏が近づいてきていた。


今こうして外へ出てみると、その気配を色濃く感じ取ることができた。
あのコートが出る番はもうなさそうだ。

少し切ない気持ちになりながら歩いていると、健一がマンションの近くの公園に連れてきてくれた。

一部が遊具の並んでいる子供向けスペースで半分が広場になっていて、みんなが思い思いに遊んだり休憩したりしている。

休日のいい天気ということで、公園で楽しんでいる人は意外にも多かった。
その中を歩いていると時々珍しげな視線を向けられて尚美は自然と背筋を伸ばしていた。

「ここで休憩しようか」
健一が木の下のベンチに腰を下ろしたので、尚美はベンチに飛び乗ってその横に座り込んだ。

今は足裏が汚れているので、健一の膝に乗ることはできない。


ぽかぽかと心地酔いようきについ目が細くなってきたとき、5羽ほどのハトがバタバタと音を立てて飛んできた。

咄嗟に身構えて威嚇する。
猫の本能に従って鳥を取りたいという気持ちがムクムクと膨らんでくる。

よく太ったハトたちはそんなミーコには見向きもせずに地面に落ちているなにかをついばみはじめた。

「やぁ、こんにちは」

そんな声が聞こえてきて健一と一緒に視線を向けると、そこには頭と両肩にハトを乗せた60代くらいの男性が立っていた。

男性は右手にハトの餌の入った袋を持っている。
なるほど、この人が木多からハトがいきなり近づいてきたようだ。

「こんにちは、餌やりですか?」


健一が愛想よく返すと男性は健一の隣に座って「そうです」と、目尻にシワを寄せて微笑み、さっそくハトに餌をやり始めた。

さっき5羽だったのがあっという間に20羽近くになって、さすがのミーコも少し引き気味だ。

「僕はハトと会話ができるんだよ」
男性が突然そんなことを言い出したのは、餌を半分ほどやり終えたところだった。

ハトが餌をついばんでいるところをボーッと見つめていたミーコは驚いて男性へ視線を向ける。

「どんな会話をするんですか?」
「他愛もない話だよ。今日は天気がいいねぇとか」

本当だろうか。
半信半疑でミーコはハトへ視線を向けた。


「ミャアミャア」
ねぇ、あんなこと言っているけど、本当なの?

「ポッポーポッポー」

まぁ、意思疎通が全くできないわけじゃないよ。会話はできないけど、ほら、顔色とかでわかることってあるし。

ミーコの言葉はハトに通じるし、ハトの言葉もミーコに通じるようだ。
ダメ元で話しかけてみただけの尚美は驚いてベンチの上で立ち上がっていた。

「ポッポー」
そんなに驚いた顔してどうしたんだよ。

「ミ、ミャア」
だ、だって、言葉が通じてるから。

「ポッポー」
動物同士なんだからわかるに決まってるだろ。

そう返事をされたかと思うと、あちこちから笑い声が聞こえてきた。


どれもハトの仲間たちの笑い声だ。

ミーコは自分がハトにバカにされたのだとわかっていながらも、衝撃を受けていた。

動物相手なら話ができる。
それはもう孤独ではないことを意味している。

いや、もしかしたら大きな前進につながるかもしれないんだ。
もう1人で思い悩んで、妙な勘違いをしなくてもすむかもしれない!

「ミャアミャア」
私、あそこに暮らしているの。今度遊びにおいでよ。

「ポッポー」

マンション? あそこはハトの侵入は難しいよ。でもまぁ、気分が乗れば行ってやらなくもないかもな!

ハトはそう言い残すと餌を食べ終えてさっさと飛んでいってしまった。
「ミーコ。俺たちもそろそろ帰ろうか」


健一に言われて我に返ると、いつの間にかハトおじさんもいなくなっている。
あの人は毎日ここでハトに餌をやっているんだろうか。

気になったけれど、聞けずじまいだ。
まぁいい。

また今度外へ出たときに聞いてみよう。
尚美はそう思い、歩き出したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
【全16話+後日談5話:日月水金20:00更新】 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日7時•19時に更新予定です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

処理中です...