自殺教室

西羽咲 花月

文字の大きさ
10 / 10

学校

しおりを挟む
元々千秋は弱い子ではなかった。
だからこそ、目覚めた後イジメっ子たちを見てもちゃんと自分の気持を伝えることができたんだろう。

千秋のようにちゃんと『簡単には許せない』と伝えられる子がどれくらいいるだろうか。
ほとんどが、謝罪されればすぐに許してしまうかもしれない。

本心が別のところにあったとしても。


☆☆☆

一週間後、千秋は松葉杖をついて学校の階段を上がっていた。
よこには奈穂と珠美がついている。


「少しずつでいいからね」

「ゆっくりね」


声をかけられるたびに千秋は「うん、うん」と返事をする。
ようやく教室にたどり着くと珠美がドアを開けてくれた。


「ありがとう」

「ううん」


千秋に謝罪した日を堺に4人は毎日お見舞いへ行くようになった。
そこではできるだけ明るい話題をして、学校内での笑い話を聞かせた。

そうすることで少しでも学校へのハードルが低くなればと思ったのだ。
これくらいしか、自分たちにできることはないから。

Bその組の教室へ千秋が入って来た瞬間、すでに登校してきた生徒たちが静かになった。
みんなの視線が千秋へ向かうが、その中の数人は気まずそうに視線をそらした。


そうした反応を見せたのは千秋がイジメられているのを見て率先して笑っていた生徒たちだった。
千秋が戻って来る前に、そういう生徒たちにも謝罪をした。

千秋はなにも悪くないのだと伝えたが、それでもやっぱり関係が簡単に修復されることはないみたいだ。
その反応に悲しさを感じるが、奈穂はすぐにその感情を追い払った。

悲しいのも、辛いのも自分じゃない。
千秋なんだ。

そう言い聞かせて前を向く。


「おはよう」


千秋が誰にともなく声をかける。
瞬時に反応はなかった。
けれど千秋と最も仲が良かった3人の女子生徒たちが立ち上がり、近づいてきた。


「おはよう千秋」


「おはよ!」

「今日からまた復活だね!」


彼女たちの明るい声が教室の雰囲気を変えた。
千秋が入ってきたことで静かに様子を見守っていた生徒たち数人が席をたち、「おかえり」と、声をかけてくれたのだ。
千秋が嬉しそうに「ただいま」と返事をする。

その頬は高揚して赤く染まっている。


「今まで見て見ぬ振りをしてごめんね」

「千秋に直接話しを聞けばカンニングが嘘だってわかったのに、信じなくてごめん」


みんな、それぞれに感じることがあったようで口々に謝罪の言葉を述べる。

千秋はそのすべてに耳を貸して「うん、うん」と頷いて答えた。
それを見ていると、やっぱりイジメはクラス全員がなにかしら関係していたことなんだと、千秋は強く痛感した。
見て見ぬ振りも知らなかったも言い訳にはならない。

自分たちはこれから先全員で償っていく必要がある。
それでも千秋は今笑っていた。
目に涙を浮かべて、みんなの声を聞いて、そして笑っていたのだった。

END
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

静かに壊れていく日常

井浦
ホラー
──違和感から始まる十二の恐怖── いつも通りの朝。 いつも通りの夜。 けれど、ほんの少しだけ、何かがおかしい。 鳴るはずのないインターホン。 いつもと違う帰り道。 知らない誰かの声。 そんな「違和感」に気づいたとき、もう“元の日常”には戻れない。 現実と幻想の境界が曖昧になる、全十二話の短編集。 一話完結で読める、静かな恐怖をあなたへ。 ※表紙は生成AIで作成しております。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

怪異の忘れ物

木全伸治
ホラー
千近くあったショートショートを下記の理由により、ツギクル、ノベルアップ+、カクヨムなどに分散させました。 さて、Webコンテンツより出版申請いただいた 「怪異の忘れ物」につきまして、 審議にお時間をいただいてしまい、申し訳ありませんでした。 ご返信が遅くなりましたことをお詫びいたします。 さて、御著につきまして編集部にて出版化を検討してまいりましたが、 出版化は難しいという結論に至りました。 私どもはこのような結論となりましたが、 当然、出版社により見解は異なります。 是非、他の出版社などに挑戦され、 「怪異の忘れ物」の出版化を 実現されることをお祈りしております。 以上ご連絡申し上げます。 アルファポリス編集部 というお返事をいただいたので、本作品は、一気に全削除はしませんが、ある程度別の投稿サイトに移行しました。 www.youtube.com/@sinzikimata 私、俺、どこかの誰かが体験する怪奇なお話。バットエンド多め。少し不思議な物語もあり。ショートショート集。 いつか、茶風林さんが、主催されていた「大人が楽しむ朗読会」の怪し会みたいに、自分の作品を声優さんに朗読してもらうのが夢。

処理中です...