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自分の部屋でベッドに潜り込んでいると、何度も何度もピエロが見せてきた映像が思い出された。
幸せな飯島家。
女の子に気に入られていたピエロ。
それから年月がたって家族は全員あの家からいなくなり、なぜかピエロが公園のゴミ箱に捨てられていた。
「美月ちゃんはピエロを持って行かなかったってことだよね……」
私は暗い部屋の中で呟く。
成長した美月ちゃんはピエロを家に置いて出た。
大人になったからピエロが不必要になったのかもしれない。
私だって、大人になってずっと持ち続けている人形やおもちゃがあるかわからない。
でも、もし美月ちゃんがピエロを持って行ってくれていれば、こんなことにはならなかったんじゃないかと考えてしまう。
映像の中の美月ちゃんを憎んだって仕方ないことなのに。
「もう、やめやめ! 明日は学校だし、もう寝なきゃ」
私は自分自身にそう言って無理やり目を閉じたのだった。
☆☆☆
翌日の学校も昼間は何事もなく過ごすことができた。
竜二の昨日の怪我も大したことはなく、絆創膏が貼ってあるだけで本人は至って元気そうだ。
「千夏の怪我は?」
竜二に聞かれて私は自分の右足を見つめた。
上履きに隠れているから見えにくいけれど、まだ少し腫れている。
「かなりよくなってきたから大丈夫だよ」
それに、ピエロが現れているときは足の痛みのことなんて忘れて走っている。
そのせいで少し治りも遅くなっているかもしれないけれど。
「そっか。でも無理はするなよ? 走って逃げることが難しかったら、うまく隠れれば俺た囮になるからな」
「うん、ありがとう」
竜二のたくましい言葉に胸がキュンッとする。
このピエロ騒動が収まったら、竜二に今の気持ちを伝えてもいいかもしれない。
そういう日が来てくれるように今を頑張らないと!
それから放課後になるまではあっという間だった。
いつもどおり4人で図書室へ向かうと、今日は図書室の利用者が少ないことに気がついた。
「今日は暇だから、ふたりだけ残ってくれればいいから」
と、先生に言われてしまった。
「それなら綾と健太は帰れよ。俺と千夏が残るから」
「そうだね。私もそれがいいと思う」
私と竜二ならピエロが来ても撃退できる。
ふたりには安全な場所にいてもらいたかった。
「いや、仕事がないなら僕と綾は幽霊屋敷について調べようと思うんだ」
健太の言葉に私は目を見開いた。
「帰らないつもり!?」
家に戻れば絶対に安全だとわかっているのに、健太も綾も帰ろうとしない。
「この時間に少しでもなにかの手がかりを見つけることができれば、前進できるでしょう?」
「でも……」
「私達のことは心配しないで。昨日みたいにうまく隠れるから」
綾はそう言い、健太と共にパソコンスペースへと向かったのだった。
☆☆☆
私と竜二はふたりでカウンターの仕事をしながら、綾たちが探してくれた情報を聞いていた。
「本当に幽霊屋敷って呼ばれてるみたいだ」
竜二は地名と飯島家で検索をかけて、その結果を教えてくれた。
ネット上では結構有名な心霊スポットになっているみたいだ。
【誰もいない家の中から音楽が聞こえてくる。その音声がこちら】
そう書かれている動画をクリックしてみると、薄暗い部屋の様子が映されていた。
それは自分たちが見た部屋かどうかはよくわからない。
部屋の中はガランとしていて、蜘蛛の巣が張り、ホコリが積もっている。
そのホコリにはところどころ足跡がついていて、誰かが侵入していることを示していた。
「この音楽、ピエロから流れる音楽と同じだ!」
もう何度も聞いたことのある音楽に私は心臓が跳ねあがる。
まるで今すぐ近くにあのピエロがいるような感覚になってしまう。
「だけどこの人はピエロに襲われたわけじゃなさそうなんだ。ただ、音楽が聞こえてきて怖いっていうだけで」
健太が言う。
「ピエロは姿を見せてないってことか……」
竜二も腕組みをして考え込んでいる。
ピエロは襲う人間と、襲わない人間を選別しているんだろうか?
だとしたら、その基準はなんなのか。
わからなくて重たい沈黙が私達にのしかかる。
「もっと他の情報も見てみようよ」
綾が健太を促すと、健太は他の書き込みページを表示させた。
こっちでも飯島家は幽霊屋敷として書かれていて、同じように不法侵入したのだとわかった。
【ピエロの人形が追いかけてきた!】
という書き込みを見つけて私達は目を見かわせた。
「この人のあのピエロに追いかけられたんだ!」
私の声がつい大きくなる。
少しでも自分たちと同じ現状にいる人を見つけて、気持ちが高ぶっているのを感じる。
「この人になにか聞けば、ヒントがみつかるかもしれない」
健太がそう言い、さっそくSNSのダイレクトメッセージ画面を開く。
ネット上で幽霊探偵と名乗っているその人は、他にも様々な心霊スポットへ行っている、有名人みたいだ。
【幽霊探偵さん。突然のご連絡ですみません。こちらは○○中学校の生徒です。実は少し前から僕たちの周りで奇妙な出来事が起こっていて、幽霊探偵さんにご相談したいことがありまして――】
「そんな回りくどい書き方じゃ伝わらねぇだろ」
健太が丁寧にメッセージを書く横から竜二が手を伸ばした。
そして【ピエロに追いかけられてるから、助けてくれ】と末尾に書いて送信ボタンを押してしまった。
「なにするんだよ! あんな雑な文章じゃ返事をくれないかもしれないだろ!」
せっかく途中まで書いていた文章を台無しにされて健太が怒っている。
「ダラダラ長いダイレクトメールなんて届いても、確認しねぇだろ」
「それは竜二だけだろ。文章を読むのが嫌だから、普段からそういうのが届いても無視してるんだ」
「なんでわかるんだ?」
ふたりがやり取りしている間に、さっそく幽霊探偵さんからの返事があった。
今の時間にSNSを見ていたんだろう。
【こんにちは。ピエロに追いかけられたって本当ですか? あの家に行ったんですか?】
「ほら見ろ。返事だって短くてわかりやすいじゃねぇか」
竜二が勝ち誇ったように言うので健太はムスッとした顔で黙り込んでしまった。
「ふたりとも、こんなところで喧嘩しないで」
綾に言われて健太は渋々表情を緩めている。
【家には行っていません。だけどあのピエロを古物市で購入してしまった友人がいるんです】
その返事に興味をひかれたのか、次のメッセージで相手の電話番号が送られてきた。
「これって電話した大丈夫だと思うか?」
さすがに健太は警戒しているみたいだ。
自分から連絡を取ったものの、ダイレクトメッセージ上の関係から外れてしまうことを気にしている。
「公衆電話からかければ大丈夫だと思う」
私は職員室前に設置されている電話を思い出して言った。
最近ではみんなスマホを持っているし、公衆電話は少なくなってきているけれど、この学校ではもしものときに生徒が使える公衆電話がまだ存在していた。
「それなら電話番号を相手に知られることもないから、安心かも」
綾も同意してくれて、健太と綾はふたりで電話をかけに行ったのだった。
☆☆☆
「綾たち大丈夫かな」
カウンター業務をしながらも気持ちはピエロの問題へと戻っていってしまう。
今日は本当に利用者が少なくて、仕事がないことも原因だった。
「健太がいるから大丈夫だろ。電話でなにか聞けてるかもしれない」
「うん。そうだね」
頷くもののやっぱり気になって落ち着かない。
私はそわそわした気持ちで図書室のドアを見つめる。
「ピエロは空き家に入った人を脅かしていただけなのかな? それが、誰かの手によって捨てられて、豹変したとか?」
「誰かがピエロをゴミ箱に捨てたことは間違いねぇよな。それが肝試しに行った誰かなのか、それとも身内なのかはわからねぇけど」
竜二は両腕を天井へ伸ばしながら言う。
あの家にいたピエロはなぜ家に戻ろうとしないんだろうか。
そのこともわからなかった。
「自分で動けるんだから、思い出のある家に帰ればいいのに」
と、つい愚痴ってしまう。
「家に帰ったってもう誰もいねぇから、帰っても意味ないんじゃねぇか?」
「ひとりぼっちってこと?」
ただの人形が寂しがっているなんて思えないけれど、あのピエロならありえることかもしれない。
誰もいない家に戻るくらいなら、購入者につきまとう。
そう考えているのかもしれない。
「私を攻撃してきたって昔には戻れないのに」
「あのピエロがそんなこと考えて動くと思うか?」
「それは……ないかも」
私は小さくため息を吐き出した。
ピエロがもう少し知能的なら会話だって成立していたかもしれない。
だけど今の所そんな様子はなかった。
そうしてしばらく仕事をしていると、ようやく綾と健太のふたりが図書室へ戻ってきてくれた。
「どうだった?」
カウンターから身を乗り出して聞くと、健太が少しだけ明るい表情を見せた。
「色々聞くことができたよ。幽霊探偵さんはあの家に行ってピエロに追いかけられた。それは本当のことみたいだ」
電話で聞いた話はかなり信憑性があるものらしく、家の場所や間取りもはっきりしていたらしい。
「この動画をもう一回確認してみて」
綾がパソコン画面へ向かい、さっき流れた動作を再生させた。
廃墟の部屋が写っていて、そこに音楽が聞こえ始める。
「この動画をよく聞いてたら人を呼ぶ声が入ってるんだって」
「人を呼ぶ声?」
聞き返し、耳をすませる。
すると聞き慣れたピエロの音楽の途中で『美月ちゃん』と呼ぶ声が聞こえてきたのだ。
「これって!!」
私は後ろに立っていた竜二へ視線を向ける。
竜二も気がついたようで目を丸くしている。
「あぁ。あの映像で聞いたのと同じ名前だ」
「この美月ちゃんっていうのは、飯島家にいた女の子で間違いないらしい。幽霊探偵さんは家の中で偶然家族写真を見つけて、そこに名前が書いてあったのを確認したんだって」
と、健太が早口に説明した。
「だけどこの動画が撮影されたのって、1年くらい前だよね? もう家には誰もいないし、どうして名前を呼ぶ声が入ってるの?」
私は首をかしげる。
動画が撮影された日時は画面の右下に表示されているが、1年以上前のもので間違いなかったのだ。
「この声は映像で見た女の人の声とは違う。つまり、美月ちゃんの母親のものじゃないってことだ」
「それってどういうこと?」
健太の説明で余計に頭が混乱してきた。
この家に暮らしていた人の声ではないということだろうか?
「幽霊探偵さんの憶測だけど、おそらくこの声はあのピエロの声なんじゃないかって」
「ピエロの声だと!?」
竜二が大きな声で聞き返して周囲を気にしている。
図書館を利用していた数人の生徒たちからの視線が痛い。
「それ、どういうこと? ピエロはしゃべるってこと?」
「幽霊探偵さんの憶測が正しければそういうことになる。つまり、頑張れば僕たちも意思疎通ができるかもしれないってことなんだ」
ついさっき考えていたことが急に現実味を帯びてきてとまどう。
ピエロと会話するなんて、本当にできるだろうか?
「昨日みたいに映像でなにかを教えてくるくらいだから、伝えたいことがあることは確実なんだ」
「そうだよね……!」
急に視界が開けた気がした。
ピエロと対話ができるのなら、きっと問題解決はすぐ目の前だ。
「でも気をつけないと、ピエロは昨日よりも更に強くなってるはずだからな」
健太は用心しながらもその声は明るい。
「わかってる」
私は大きく頷いたのだった。
幸せな飯島家。
女の子に気に入られていたピエロ。
それから年月がたって家族は全員あの家からいなくなり、なぜかピエロが公園のゴミ箱に捨てられていた。
「美月ちゃんはピエロを持って行かなかったってことだよね……」
私は暗い部屋の中で呟く。
成長した美月ちゃんはピエロを家に置いて出た。
大人になったからピエロが不必要になったのかもしれない。
私だって、大人になってずっと持ち続けている人形やおもちゃがあるかわからない。
でも、もし美月ちゃんがピエロを持って行ってくれていれば、こんなことにはならなかったんじゃないかと考えてしまう。
映像の中の美月ちゃんを憎んだって仕方ないことなのに。
「もう、やめやめ! 明日は学校だし、もう寝なきゃ」
私は自分自身にそう言って無理やり目を閉じたのだった。
☆☆☆
翌日の学校も昼間は何事もなく過ごすことができた。
竜二の昨日の怪我も大したことはなく、絆創膏が貼ってあるだけで本人は至って元気そうだ。
「千夏の怪我は?」
竜二に聞かれて私は自分の右足を見つめた。
上履きに隠れているから見えにくいけれど、まだ少し腫れている。
「かなりよくなってきたから大丈夫だよ」
それに、ピエロが現れているときは足の痛みのことなんて忘れて走っている。
そのせいで少し治りも遅くなっているかもしれないけれど。
「そっか。でも無理はするなよ? 走って逃げることが難しかったら、うまく隠れれば俺た囮になるからな」
「うん、ありがとう」
竜二のたくましい言葉に胸がキュンッとする。
このピエロ騒動が収まったら、竜二に今の気持ちを伝えてもいいかもしれない。
そういう日が来てくれるように今を頑張らないと!
それから放課後になるまではあっという間だった。
いつもどおり4人で図書室へ向かうと、今日は図書室の利用者が少ないことに気がついた。
「今日は暇だから、ふたりだけ残ってくれればいいから」
と、先生に言われてしまった。
「それなら綾と健太は帰れよ。俺と千夏が残るから」
「そうだね。私もそれがいいと思う」
私と竜二ならピエロが来ても撃退できる。
ふたりには安全な場所にいてもらいたかった。
「いや、仕事がないなら僕と綾は幽霊屋敷について調べようと思うんだ」
健太の言葉に私は目を見開いた。
「帰らないつもり!?」
家に戻れば絶対に安全だとわかっているのに、健太も綾も帰ろうとしない。
「この時間に少しでもなにかの手がかりを見つけることができれば、前進できるでしょう?」
「でも……」
「私達のことは心配しないで。昨日みたいにうまく隠れるから」
綾はそう言い、健太と共にパソコンスペースへと向かったのだった。
☆☆☆
私と竜二はふたりでカウンターの仕事をしながら、綾たちが探してくれた情報を聞いていた。
「本当に幽霊屋敷って呼ばれてるみたいだ」
竜二は地名と飯島家で検索をかけて、その結果を教えてくれた。
ネット上では結構有名な心霊スポットになっているみたいだ。
【誰もいない家の中から音楽が聞こえてくる。その音声がこちら】
そう書かれている動画をクリックしてみると、薄暗い部屋の様子が映されていた。
それは自分たちが見た部屋かどうかはよくわからない。
部屋の中はガランとしていて、蜘蛛の巣が張り、ホコリが積もっている。
そのホコリにはところどころ足跡がついていて、誰かが侵入していることを示していた。
「この音楽、ピエロから流れる音楽と同じだ!」
もう何度も聞いたことのある音楽に私は心臓が跳ねあがる。
まるで今すぐ近くにあのピエロがいるような感覚になってしまう。
「だけどこの人はピエロに襲われたわけじゃなさそうなんだ。ただ、音楽が聞こえてきて怖いっていうだけで」
健太が言う。
「ピエロは姿を見せてないってことか……」
竜二も腕組みをして考え込んでいる。
ピエロは襲う人間と、襲わない人間を選別しているんだろうか?
だとしたら、その基準はなんなのか。
わからなくて重たい沈黙が私達にのしかかる。
「もっと他の情報も見てみようよ」
綾が健太を促すと、健太は他の書き込みページを表示させた。
こっちでも飯島家は幽霊屋敷として書かれていて、同じように不法侵入したのだとわかった。
【ピエロの人形が追いかけてきた!】
という書き込みを見つけて私達は目を見かわせた。
「この人のあのピエロに追いかけられたんだ!」
私の声がつい大きくなる。
少しでも自分たちと同じ現状にいる人を見つけて、気持ちが高ぶっているのを感じる。
「この人になにか聞けば、ヒントがみつかるかもしれない」
健太がそう言い、さっそくSNSのダイレクトメッセージ画面を開く。
ネット上で幽霊探偵と名乗っているその人は、他にも様々な心霊スポットへ行っている、有名人みたいだ。
【幽霊探偵さん。突然のご連絡ですみません。こちらは○○中学校の生徒です。実は少し前から僕たちの周りで奇妙な出来事が起こっていて、幽霊探偵さんにご相談したいことがありまして――】
「そんな回りくどい書き方じゃ伝わらねぇだろ」
健太が丁寧にメッセージを書く横から竜二が手を伸ばした。
そして【ピエロに追いかけられてるから、助けてくれ】と末尾に書いて送信ボタンを押してしまった。
「なにするんだよ! あんな雑な文章じゃ返事をくれないかもしれないだろ!」
せっかく途中まで書いていた文章を台無しにされて健太が怒っている。
「ダラダラ長いダイレクトメールなんて届いても、確認しねぇだろ」
「それは竜二だけだろ。文章を読むのが嫌だから、普段からそういうのが届いても無視してるんだ」
「なんでわかるんだ?」
ふたりがやり取りしている間に、さっそく幽霊探偵さんからの返事があった。
今の時間にSNSを見ていたんだろう。
【こんにちは。ピエロに追いかけられたって本当ですか? あの家に行ったんですか?】
「ほら見ろ。返事だって短くてわかりやすいじゃねぇか」
竜二が勝ち誇ったように言うので健太はムスッとした顔で黙り込んでしまった。
「ふたりとも、こんなところで喧嘩しないで」
綾に言われて健太は渋々表情を緩めている。
【家には行っていません。だけどあのピエロを古物市で購入してしまった友人がいるんです】
その返事に興味をひかれたのか、次のメッセージで相手の電話番号が送られてきた。
「これって電話した大丈夫だと思うか?」
さすがに健太は警戒しているみたいだ。
自分から連絡を取ったものの、ダイレクトメッセージ上の関係から外れてしまうことを気にしている。
「公衆電話からかければ大丈夫だと思う」
私は職員室前に設置されている電話を思い出して言った。
最近ではみんなスマホを持っているし、公衆電話は少なくなってきているけれど、この学校ではもしものときに生徒が使える公衆電話がまだ存在していた。
「それなら電話番号を相手に知られることもないから、安心かも」
綾も同意してくれて、健太と綾はふたりで電話をかけに行ったのだった。
☆☆☆
「綾たち大丈夫かな」
カウンター業務をしながらも気持ちはピエロの問題へと戻っていってしまう。
今日は本当に利用者が少なくて、仕事がないことも原因だった。
「健太がいるから大丈夫だろ。電話でなにか聞けてるかもしれない」
「うん。そうだね」
頷くもののやっぱり気になって落ち着かない。
私はそわそわした気持ちで図書室のドアを見つめる。
「ピエロは空き家に入った人を脅かしていただけなのかな? それが、誰かの手によって捨てられて、豹変したとか?」
「誰かがピエロをゴミ箱に捨てたことは間違いねぇよな。それが肝試しに行った誰かなのか、それとも身内なのかはわからねぇけど」
竜二は両腕を天井へ伸ばしながら言う。
あの家にいたピエロはなぜ家に戻ろうとしないんだろうか。
そのこともわからなかった。
「自分で動けるんだから、思い出のある家に帰ればいいのに」
と、つい愚痴ってしまう。
「家に帰ったってもう誰もいねぇから、帰っても意味ないんじゃねぇか?」
「ひとりぼっちってこと?」
ただの人形が寂しがっているなんて思えないけれど、あのピエロならありえることかもしれない。
誰もいない家に戻るくらいなら、購入者につきまとう。
そう考えているのかもしれない。
「私を攻撃してきたって昔には戻れないのに」
「あのピエロがそんなこと考えて動くと思うか?」
「それは……ないかも」
私は小さくため息を吐き出した。
ピエロがもう少し知能的なら会話だって成立していたかもしれない。
だけど今の所そんな様子はなかった。
そうしてしばらく仕事をしていると、ようやく綾と健太のふたりが図書室へ戻ってきてくれた。
「どうだった?」
カウンターから身を乗り出して聞くと、健太が少しだけ明るい表情を見せた。
「色々聞くことができたよ。幽霊探偵さんはあの家に行ってピエロに追いかけられた。それは本当のことみたいだ」
電話で聞いた話はかなり信憑性があるものらしく、家の場所や間取りもはっきりしていたらしい。
「この動画をもう一回確認してみて」
綾がパソコン画面へ向かい、さっき流れた動作を再生させた。
廃墟の部屋が写っていて、そこに音楽が聞こえ始める。
「この動画をよく聞いてたら人を呼ぶ声が入ってるんだって」
「人を呼ぶ声?」
聞き返し、耳をすませる。
すると聞き慣れたピエロの音楽の途中で『美月ちゃん』と呼ぶ声が聞こえてきたのだ。
「これって!!」
私は後ろに立っていた竜二へ視線を向ける。
竜二も気がついたようで目を丸くしている。
「あぁ。あの映像で聞いたのと同じ名前だ」
「この美月ちゃんっていうのは、飯島家にいた女の子で間違いないらしい。幽霊探偵さんは家の中で偶然家族写真を見つけて、そこに名前が書いてあったのを確認したんだって」
と、健太が早口に説明した。
「だけどこの動画が撮影されたのって、1年くらい前だよね? もう家には誰もいないし、どうして名前を呼ぶ声が入ってるの?」
私は首をかしげる。
動画が撮影された日時は画面の右下に表示されているが、1年以上前のもので間違いなかったのだ。
「この声は映像で見た女の人の声とは違う。つまり、美月ちゃんの母親のものじゃないってことだ」
「それってどういうこと?」
健太の説明で余計に頭が混乱してきた。
この家に暮らしていた人の声ではないということだろうか?
「幽霊探偵さんの憶測だけど、おそらくこの声はあのピエロの声なんじゃないかって」
「ピエロの声だと!?」
竜二が大きな声で聞き返して周囲を気にしている。
図書館を利用していた数人の生徒たちからの視線が痛い。
「それ、どういうこと? ピエロはしゃべるってこと?」
「幽霊探偵さんの憶測が正しければそういうことになる。つまり、頑張れば僕たちも意思疎通ができるかもしれないってことなんだ」
ついさっき考えていたことが急に現実味を帯びてきてとまどう。
ピエロと会話するなんて、本当にできるだろうか?
「昨日みたいに映像でなにかを教えてくるくらいだから、伝えたいことがあることは確実なんだ」
「そうだよね……!」
急に視界が開けた気がした。
ピエロと対話ができるのなら、きっと問題解決はすぐ目の前だ。
「でも気をつけないと、ピエロは昨日よりも更に強くなってるはずだからな」
健太は用心しながらもその声は明るい。
「わかってる」
私は大きく頷いたのだった。
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