いぢわる王子様

西羽咲 花月

文字の大きさ
3 / 27

幼馴染

しおりを挟む
「碧~、大丈夫だったぁ?」


まだ頭の中が真っ白な私に、律が心配そうに駆け寄ってきた。


けれど、顔には半分好奇心の笑みをたたえている。


「大丈夫なワケないでしょ!」


教室の中、思わず私は大声で怒鳴ってしまった。


律ってば途中から知らん顔するんだもん!


おかげで私は、あんなS男からキスされたんだよ!!


そう思うと、突然涙がこぼれだしてきた。


「碧、どうしたの? マジでなんかあった!?」


その場にしゃがみこんで泣き出す私に、律が困ったように背中をさすってくれる。


クラス内にいた生徒たちが何事かとこちらに視線をうつすが、それにもかまわず私は声を出して泣いた。


「律ぅ~……私、ファーストキス取られちゃったぁ」


そう言い、更に大声を上げて泣き始める私に、律はポカンと口をあけて目を丸くする。


「はぁ!? なにそれ? なんでそうなるわけ!?」


「知らないわよぉ!」


そんなの、私が聞きたいよ!!


強いショックと、森山すぐるの顔が頭の中をグルグルと駆け巡り、体中が熱を出したようにほてってくる。


「碧、あんた顔赤いよ?」


そう言い、涙目の私を律が覗き込んでくる。


当たり前でしょ?


突然あんなことされたんだからっ!


そう思っても、しゃくりあげる喉が声を詰まらせる。


あんな目にあった上に、メロンクリームパンも食べられなかった!!


「メロンクリームパン……」


どうやら、私はパンが食べれなかったことの方がショックだったようで、森山すぐるの顔が一瞬にして頭の中から消え去った。


その代わり、今度はメロンクリームパンが駆け巡る。


甘くて、フワフワで、中には生クリームがたっぷり入ってて……。


ゴクン。


と、喉を鳴らす。


そういえば、お昼を食べてなかった。


パニックしたままの頭でそれを思い出すと、とたんにお腹がグゥ~と悲鳴を上げた。


「はい。メロンクリームパンはもうないけど、焼きそばパンならあるよ」


そう言って、律が私に焼きそばパンを差し出してくれる。


校内で2番目に人気のあるパンだ。


私はそれに飛びつくと、「律……ありがとぅ~」と、律に抱きついたのだった。


☆☆☆

お腹が減っては戦はできぬ。


というけれど、私の場合は違った。


お腹が減って、焼きそばパンを食べて、お腹がいっぱいになると、眠くなる。


つまり、空腹時でも満腹時でも、戦はできぬ。


特に、窓際の私の席は午後からポカポカと日がよく当たる。


これが夏なら厳しいのだけど、今は秋。


ちょうどいい、気持ちのいい日差しが私を夢の中へと誘導する。


うつらうつらする私の耳に聞こえてくるのは、先生の声。


それがちょうど子守唄代わりになって、夢と現実の間を行き来する。


夢の内容は、とある小さな町の教会。


私はクリスチャンでもないし、教会に行ったことも一度もない。


だから、夢の中に出てくるのは何かの映画で見た建物そのものだった。


教会の中にはたくさんの人がいて、真ん中の通路に立つ私へ拍手を送ってくれている。


あぁ、これは私の結婚式だ。


時々見える自分の真っ白なドレスに、これが幸せなワンシーンだと気づく。


協会の扉を開けば、外に私の王子様が待っている。


そんな感じだ。


私は、夢の中にも関わらずはやる気持ちを抑えきれず、小走りにその扉へと向かった。


大きな深呼吸をひとつして、扉へとてをかける。


そして……思いっきり開いたその先にいたのは――。


「お前、今日から俺の女な」


そう言ってニヤニヤと笑う、森山すぐる――!!


目の前の森山すぐるによって、私の夢は崩れ去った。


「いやぁぁっ!!」


すさまじい悲鳴と共に、ガバッ!と飛び起きる。


心臓がバクバクと高鳴り、今にも停止してしまいそうだ。


「……碧?」


そんな私に、隣の席の律が顔を引きつらせながら声をかけてきた。
30 / 403

……え?


ハッと我に返り辺りを見回すと、当然、ここは教室の中。


寝ぼけて悲鳴を上げた私を、クラスメートたちがクスクスと笑う。


黒板の前に立つ先生からは、冷たい視線が突き刺さる。


「ご……ごめんなさい」


恥ずかしい!


顔を真っ赤にしてそっと席に座り、うつむく。

「どうした山本ぉ。なんか嫌な夢でも見たのか?」


先生が、わざとらしく私に聞いてくる。


「いえ……」


フルフルと首を振り、教科書に顔をうずめる。


そんな私に律が小声で、「大丈夫?」と心配してくれる。


「ん……夢の中にまであいつが出てきて……」


「あいつって、昼間の?」


「そう、森山すぐる」


こくこくとうなづく私に、律は目を丸くした。


「森山すぐる!? って、あいつが!?」


「律、知ってるの?」


「知ってるも何も、すごく有名だよ? 私も顔は始めてみたけど」


へぇ……?


名前も顔も知らなかったけど?


「気をつけなよぉ碧。S王子に好かれちゃったら、大変だよ」


「S王子……?」


なんだそりゃ?


あまりのネーミングセンスのなさに、プッと笑う。


けど、この律からの忠告は、正しかったんだ。


本当に本当に……正しかったんだ。


☆☆☆

午後の授業も終わり、帰宅の準備をしていると私の後ろの席である北河清子(キタガワ セイコ)さんが声をかけてきた。


清子さんは170センチと背が高く、胸までのストレートヘアでものすごく美人だ。


おまけに勉強もできるから、私なんかが気楽に声をかけられる存在ではない。


そんな清子さんが私に声をかけてきたのだから、それはもう驚いた。


まるで、流れ星が自分に直撃したような驚き。


「碧さん、ちょっといい?」


美人で秀才な清子さんはそうやって私に話しかけてきた。


「はい?」


「あなた、さっきの授業で寝ぼけて『森山すぐる』って言ってなかった?」


そう言って、清子さんは長いまつげの目を細めた。


同姓でも、うっとりするしぐさだ。


「言いましたけど……」


その瞬間。


綺麗で、可愛い清子さんの顔がスッと冷たくなった。


え?何?


「すぐる、今度はあなたにちょっかいを出しはじめたのね」


「『すぐる』……?」


「私、すぐるの幼馴染なの。家が隣同士で、幼稚園から一緒よ」


予想外のその言葉に、私は悲鳴に似た声を上げた。


そんな、清子さんとあの野蛮が幼馴染!?


し……しんじられない。


同じ地域で幼稚園から同じ環境で育ったというのに、どうやったらこんなに差がつくのだろう。


「すぐるの女遊びには本当に困ってるのよ。誰かれかまわず、すぐにキスをするし」


その言葉に、一瞬胸がズキッと痛む。


「そう……なんだ」


それでもなんとか、笑ってみせた。


別に、そんなことどうってことないハズだ。


あいつが勝手に私のファーストキスを奪っただけ。


そう、それだけのこと。


なのに……なんで胸が痛むの?


「だから碧さん」


「え?」


「すぐるにとってあなたが特別なワケじゃないわ。勘違いしないであげてね?」


清子さんはそう言って、美しく……小さな花瓶に立てられた一輪の花のように、微笑んだ――。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな
恋愛
「覚醒しなければ、生きられない———       しかし、覚醒すれば滅びの呪いが発動する」 100年前、ヴァンパイアの王家は滅び、純血種は絶えたはずだった。 しかし、その血を引く最後の姫ルナフィエラは古城の影で静かに息を潜めていた。 戦う術を持たぬ彼女は紅き月の夜に覚醒しなければ命を落とすという宿命を背負っていた。 しかし、覚醒すれば王族を滅ぼした「呪い」が発動するかもしれない———。 そんな彼女の前に現れたのは4人の騎士たち。 「100年間、貴女を探し続けていた——— もう二度と離れない」 ヴィクトル・エーベルヴァイン(ヴァンパイア) ——忠誠と本能の狭間で揺れる、王家の騎士。 「君が目覚めたとき、世界はどう変わるのか......僕はそれを見届けたい」 ユリウス・フォン・エルム(エルフ) ——知的な観察者として接近し、次第に執着を深めていく魔法騎士。 「お前は弱い。だから、俺が守る」 シグ・ヴァルガス(魔族) ——かつてルナフィエラに助けられた恩を返すため、寡黙に寄り添う戦士。 「君が苦しむくらいなら、僕が全部引き受ける」 フィン・ローゼン(人間) ——人間社会を捨てて、彼女のそばにいることを選んだ治癒魔法使い。 それぞれの想いを抱えてルナフィエラの騎士となる彼ら。 忠誠か、執着か。 守護か、支配か。 愛か、呪いか——。 運命の紅き月の夜、ルナフィエラは「覚醒」か「死」かの選択を迫られる。 その先に待つのは、破滅か、それとも奇跡か———。 ——紅き誓いが交わされるとき、彼らの運命は交差する。

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

モテ男とデキ女の奥手な恋

松田丹子(まつだにこ)
恋愛
 来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。  学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。  ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。  そんなじれじれな話です。 *学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記) *エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。 *拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。  ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。 *作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。 関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役) 『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー) 『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル) 『物狂ほしや色と情』(名取葉子) 『さくやこの』(江原あきら) 『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松田丹子(まつだにこ)
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

処理中です...