いぢわる王子様

西羽咲 花月

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みぞ

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月曜日、私の気分とは裏腹に空はとてもよく晴れ渡っていた。


痛いくらいの日差しで目が覚めて、少しすると土曜日の出来事を思い出す。


寝ている間は何もかも忘れられるのに、起きた瞬間厳しい現実が目の前に立ちはだかる。


「嫌だなぁ……」


ベッドの中で寝返りをうち、これからのことを考えた。


今日学校に行って、律にあったら何て言おう?


学校へ行くまでに誠先輩がいたら、どんな顔をすればいい?


昨日、丸一日暗い気持ちで考え込んでいたのに、結局答えはみつからなかった。


律のことだ。


きっと、私が素直に謝れば許してくれるだろう。


けど……。


私は、手を伸ばして携帯電話を取った。


昨日、律からメールがきていた。


《先輩とのデート、どうだったのか聞かせてね》


このメールには、返信していない。


たったこれだけの文章の中に、


『私のことは気にしなくていいからね。先輩との事も、隠さず話してね』


という、律の気持ちがギュッと込められていることが、わかったから。


私だったら、きっとこんなメールを送る事はできない。


好きな人と、他の女の子との話しなんて、絶対に聞きたくない。


律は、メールの最後をこう締めくくっていた。


《親友の、律より》


「親友……」


その言葉を声に出して言ってみる。


確かに、私と律は親友だ。


もしかしたら律は、それを確認するためにこんなメールを送ってきたのかもしれない。


「律……」


私は、重い体を起こす。


もし、律が私との関係を確認するためにメールを送ってきてくれたなら、このまま隠しているワケにはいかない。


本当は気が重すぎて休もうと思っていたが、私はノソノソと着替えを始めた。


着替えながらも、真っ黒なため息が出る。


目に見えない黒い息は空中に溶けることなく、その場にとどまり私を更に憂鬱な気持ちへ追い込んでいく。


自業自得だろ。


その黒い塊が、私にそう話しかけてくる。


自分でやったことだろう。


被害者はお前じゃない。


お前は裏切り者だ。


私の中の、罪悪感にまみれた私が、そう言っている。


「だからよ……」


私は、自分自身に言い聞かせる。


「だから、今日学校に行って律にちゃんと伝えるの」


すぐるの事で傷つくのがこわくて逃げたこと。


誠先輩を好きになったと思い込んでいたこと。


まだ……。


まだ……。


「まだ、すぐるを好きなこと……」


イイナズケという存在がいても、好きな気持ちをとめられないこと……。


ズキン。


また、胸が痛む。


きっと、私のこの恋は実らないだろう。


もう、恋愛へ発展することもないだろう。


すぐるの手も。


すぐるの笑顔も。


すぐるのキスも。


すぐるの意地悪も。


すぐるのぬくもりも。


すぐるのすべて――。


私のものには、ならない……。



それでも、私には今、あの人しかいないの――。


ギュッと両手で胸元の服を握り締める。


あの時、出会わなければ、こんなに苦しいことはなかったのにね……。



☆☆☆

教室のドアを開けると、いつものように律の笑顔がそこにあった。


「あ……おはよう」


私も、なんとか笑顔を作る。


けれど、いつものようには笑えない。


「碧、先輩とはどうだったのよ?」


さっそく、律がそう言って私をつついてくる。


本当に聞きたくてしかたないって事、ないハズだ。


耳をふさいでしまいたいハズだ。


なのに、律は私をせかす。


「律……」


「なになに?」


身を乗り出して、聞く体制に入る律。


「無理、しないでよ」


「……え?」


「本当は、聞きたくないんでしょ?」


私は、思わずそう言っていた。


律が、少し驚いたように目をパチクリしている。


「自分の好きな人が、自分の親友とデートしてるんだよ? そんな話し、聞きたいワケないじゃん!」


律は、何も悪くない。


わかっているのに私はそう怒鳴り、机を両手でバンッと叩いた。


「碧? どうしたの?」


「いい人ぶらないでって言ってるのよ!」


違う。こんなことが言いたいんじゃない。


でも、とまらない。



「いつでも『私は平気だから』って顔してさぁ。

平気じゃないくせに! 律ってさ、見てて感情がないんじゃないかって思うくらい、いつも笑ってる。おかしいよ!」


……律が、無言のまま私を見ている。


ジッと、目をそらさずに。


私は、下唇をかみ締めた。


「碧がそう言うなら、そうなんじゃない?」


いつもの律じゃない。


冷たい声で、そう言った。


「律――」


「私、ロボットじゃないわよ」


私の言葉をさえぎって言う。


ロボット……?



律の言葉にハッとする。


そういえば、今日の律は少しだけ目が腫れているように見える。


もしかして……昨日泣いてた?


私にあんなメールを送りながらも、影では泣いていたのかもしれない。


「ごめっ……私、こんな事いうつもりじゃっ」


「もういいよ。どうせ、誠先輩のことも本気じゃなかったんでしょ?」


え!?


なんで?


なんで知ってるの?


困惑する私に、律が目を細める。


「やっぱり、図星だ」


「律……っ」


「碧、本心突かれて困ったときは目が細くなって、黒目がウロウロするの。知ってた?」


律が、いっそう冷たい目で私を見る。


どうしようっ!


「違うの、私今日そのことをちゃんと言おうと思って!」


「ちゃんと言おうとして、なんでこうなるのよ」


「それはっ……」


それは……。


「自分が素直になれないからって、人に八つ当たりしないでよ!」


八つ当たり……。


そうかも、しれない。


律に何て言えばいいか、誠先輩に何て言えばいいか。
考えても考えてもわからなくて。


私の頭の中はグチャグチャなのに、律はいつでも明るくて……。



「誠先輩の事、もっとちゃんと、碧の口から聞きたかったよ……」





律はそう言い、もう口を開いてはくれなかった――。



☆☆☆

それから一日は、ほとんど机に突っ伏した状態で過ごしていた。


少しでも顔を上げたら、涙が出そうだったから。


お昼になっても、食欲がわかない。


大好きなメロンクリームパンも、食べたいと思えない。


律……ごめんね。


本人を目の前にして言えたら、どれだけ楽だろう。


けど、律はあれから私と目もあわせてはくれなかった。


「碧さん」


そんな私に、後ろから誰かが背中をつついてきた。


「……なに?」


少しだけ涙に濡れた顔で、振り向く。


清子さんだ。



清子さんはフワリと咲いた花のように笑い、「あなた、他の人と付き合い始めたのね」と言った。


すぐると別れたことが、さも嬉しそうだ。


「先輩とも、もうダメ……」


呟く私に、清子さんは軽く声を出して笑った。


「そう。すぐる以外の男性の事なら、いつでも相談に乗るから。元気だしてね」


表面上だけの、なんの感情もこもらない言葉。


その言葉に、まるで心の中がカラッポになってしまったような気さえする。


すぐるがいなくなった、誠先輩も、律も。


みんな、私から離れていった。


私が、みんなを傷つけた――。

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