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媚びる
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次の出勤日、幸はさっそくアレクからもらったバレッタをつけて部屋を出た。
空はよく晴れていて心地よく、深呼吸するとなんだか自分まで生まれ変われる気がする。
新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ幸は笑みを浮かべて「なんだか今日はいいことがありそうな気がする」と、つぶやいたのだった。
☆☆☆
「佐藤せんぱぁい♪」
そんな声が聞こえてきて会社の廊下で振り向くとそこには朋香と和美のふたりがいた。
ニコニコとつくりものみたいな笑顔を浮かべて近づいてくるふたりに自然と警戒してしまう。
最近は表立った嫌がらせはなくなったとはいえ、このふたりは散々幸を目の敵にしてきたのだ。
一度など、トイレの個室に閉じ込めて水をかけようとした。
そんなふたりに簡単に心を許すつもりはなかった。
「なにか用事?」
自然と表情も険しくなってしまう。
だけど無理に微笑むこともできなかった。
「そんなに怖い顔しないでよぉ。私たちぃ、謝りたくて来たんですから」
朋香が普段は使わない敬語で話しかけてくるから余計に怖い。
幸はふたりとの間に十分な距離を置いた。
「謝る?」
「そうですよぉ。私達、あんまり先輩のこと先輩と思ってなかったっていうかぁ。でもぉ、そうじゃないよなって最近気がついたんですぅ」
和美も同じような話し方をしていて、頭がクラクラしてきた。
幸のことを先輩と思わずにばかにしてきたことを謝る?
どうして今頃?
謝る気があるのならもっと早くに行動に移すことがきたはずだ。
このタイミングで急にこんなことを言い始めたということは、きっと裏になにかある。
警戒心を緩ませない幸に、朋香が一歩近づいた。
そして耳打ちするように小声でささやきかけてくる。
「だから、紹介してくださいよぉ」
「紹介?」
本当になんのことだかわからなくて首をかしげる。
「先輩の兄弟か、いとこか、そんなところなんでしょう? この人」
そういった和美がスマホを取り出して画面を幸へ見せてきた。
そこに映っていたのはカフェで人休みしている幸と、アレクの姿だったのだ。
幸の頭にはすでにバレッタがある。
幸はハッと息を飲んで和美を見た。
和美は微笑んで「ねぇ、紹介してださいよ」と、続ける。
「そ、その人とは別になんでもなくて」
咄嗟に嘘をつくが、もちろん通用しない。
「この人先輩の親戚なんでしょう? だからこんなに馴れ馴れしくしていたんでしょう?」
実際に目撃していた和美の目つきが怖い。
口元は笑っているのに、目は怒りでつり上がっている。
幸がこれだけのイケメンと一緒にいたことが気に入らないのだ。
だけどアレクと自分の関係を話すわけにはいかない。
話せばきっと、邪魔をしてくるに決まっているのだから。
「……教えない」
幸はふたりを睨み返して言った。
ふたりは驚いたように目を見開いて幸を見つめる。
まさか幸が自分たちに反抗してくるとは思ってもいなかったんだろう。
今までどれだけ仕事を押し付けられても、ミスを被せられても黙って受け入れてきた幸だ。
今度もきっと無条件で言うことを聞くと思っていたに違いない。
ここ数ヶ月で幸はこれほど変化したというのに、このふたりはまるで変化していなかったことになる。
「教えてって言ってんだろ」
和美が敬語を辞めて詰め寄る。
幸は後ずさりをして距離を置いた。
どれだけ威圧的な態度を取られても、絶対に話すわけにはいかなかった。
ふたりにアレクを紹介するなんて、もってのほかだ。
「できない」
「うぜぇ」
頑なな幸に朋香がつぶやく。
その顔にはすでに笑みはなく、幸を見下したような表情に変わっていた。
「もしかしてこの人のことが好きとか? そんなん無理に決まってんじゃん。ちょっと痩せたって、デブとブスには違いないんだからさ!」
和美が怒鳴り声を上げるので幸は思わず体を震わせる。
ここでビクついていちゃダメだ。
またナメられて、同じ毎日が舞い戻ってくるだけだ。
幸は逃げ出してしまいたい気持ちをグッと我慢して和美と朋香を睨みつけた。
「仮にこの人を紹介したとして、どうなるわけでもないと思うけど?」
声を震わせつつ反論する。
「そもそもあんたたちのどっちかしか付き合えないんだよ? 1人は絶対に負けるってことがわかってるの?」
アレクは1人しかいない。
そんな彼を取り合って勝った負けたなんてしていれば、今の和美と朋香の関係はすぐに崩れていくのは目に見えていた。
そもそも和美と朋香は悪友だ。
どっちが先に裏切るかなんて、わかったものではない。
そこを指摘されて和美の顔がカッと赤くなった。
怒りで目がつり上がっている。
「黙れ! 調子に乗りやがっって!」
幸に図星を疲れたことが相当悔しいのか、両手を伸ばしてバレッタを掴んできた。
「やめて!」
咄嗟に身構えるけれど、和美はすでにバレッタを強引に奪い取った後だった。
頭皮に痛みが走り、バレッタに何本か髪の毛がついている。
「こんなもの……!」
怒り狂った和美がバレッタを床に落とす。
「いやっ!」
幸の叫び声を、バレッタが踏んで壊される音が同時に響いた。
パキッと小さな音がしたあと和美が足を浮かせると、無残にも砕けたバレッタだけがのこされた。
おとなになってから初めて異性からもらったプレゼントだったのに……。
幸は愕然としてその場に両膝をつく。
バレッタは真っ二つに割れて、小さな破片も転がっている。
「ふんっ。ざまぁみろ」
ふたりの笑い声が遠ざかっていっても、幸はその場から動くことができなかったのだった。
☆☆☆
壊されたバレッタをすべてかき集めて袋に入れた幸は1日中うつむいて過ごした。
屋上で明里に心配されてもなにも話すことができず、ランニングも休んでしまった。
ダイエットを通して強くなったと思っていた心は、実はこんなにも弱く、もろいものだった。
「なにを落ち込んでいる」
帰宅後すぐにベッドに潜り込んでしまった幸にアレクはいつもどおり話かける。
だけど幸は答えなかった。
昨日もらったばかりのバレッタを壊されたなんて、情けなくて言えない。
今度こそ呆れて出ていかれてしまうかもしれない。
「もしかしてバレッタの件か?」
そう聞かれて幸はベッドから飛び起きていた。
「どうしてそれを」
と、つぶやいた後、アレクには幸がなにをしていたか見ることができるのだと思い出した。
あれを見られていたのかと思うと恥ずかしくてやるせない気分になる。
「見ていたなら、どうして助けてくれなかったの」
トイレに閉じ込められているときにはサッと助けてくれたのに。
恨めしい視線をアレクへ向けると、冷めた視線を返された。
「あれくらいのことは自分でどうにかしろ」
そんな冷たいことを言われるとは思っていなくて傷がグリグリとえぐられる。
「私にとっては大切なものだったの!」
バレッタひとつ壊れたくらいでなにを泣いているのだと思われるかもしれない。
だけど幸にとっては特別なものだった。
するとアレクが呆れ顔のまま壊れたバレッタを手にした。
袋の中に入ったそれは無残にも砕け、もう使い物にはならないだろう。
アレクはそれを握りしめたかと思うと力づくでさらに粉々にしてしまったのだ。
「なにするの!?」
慌てて止めに入るけれど、袋んの中のバレッタはすでに見る影もない。
金具部分も完全に歪んでしまっていた。
ジワリと涙が滲んでくる。
こんなことで泣きたくないと思うのに、悲しくて涙が頬を流れていく。
「俺はお前をダメにするためにこれをプレゼントしたわけじゃない」
アレクの冷たい言葉が振ってくる。
「お前は俺と結婚したいのであって、バレッタと結婚したいわけじゃないはずだ」
その言葉にハッとして顔を上げる。
アレクの表情はいつの間にか緩んでいて、幸を受け入れるような暖かさを持っていた。
「違う……けど……」
どうしてもショックが拭いきれなくて、バレッタを直視することができない。
「大丈夫。お前にはもっといいものを買ってやる。お前の努力次第でな」
アレクが幸の背中に両腕を回す。
最初のころが腕が周り切らないくらい大きかった幸の体が、今ではアレクの腕にちゃんと包み込まれている。
その分アレクのぬくもりをちゃんと感じることができるようになった。
幸はアレクの腕の中で目を閉じてそのぬくもりをしっかりと受け取ったのだった。
空はよく晴れていて心地よく、深呼吸するとなんだか自分まで生まれ変われる気がする。
新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ幸は笑みを浮かべて「なんだか今日はいいことがありそうな気がする」と、つぶやいたのだった。
☆☆☆
「佐藤せんぱぁい♪」
そんな声が聞こえてきて会社の廊下で振り向くとそこには朋香と和美のふたりがいた。
ニコニコとつくりものみたいな笑顔を浮かべて近づいてくるふたりに自然と警戒してしまう。
最近は表立った嫌がらせはなくなったとはいえ、このふたりは散々幸を目の敵にしてきたのだ。
一度など、トイレの個室に閉じ込めて水をかけようとした。
そんなふたりに簡単に心を許すつもりはなかった。
「なにか用事?」
自然と表情も険しくなってしまう。
だけど無理に微笑むこともできなかった。
「そんなに怖い顔しないでよぉ。私たちぃ、謝りたくて来たんですから」
朋香が普段は使わない敬語で話しかけてくるから余計に怖い。
幸はふたりとの間に十分な距離を置いた。
「謝る?」
「そうですよぉ。私達、あんまり先輩のこと先輩と思ってなかったっていうかぁ。でもぉ、そうじゃないよなって最近気がついたんですぅ」
和美も同じような話し方をしていて、頭がクラクラしてきた。
幸のことを先輩と思わずにばかにしてきたことを謝る?
どうして今頃?
謝る気があるのならもっと早くに行動に移すことがきたはずだ。
このタイミングで急にこんなことを言い始めたということは、きっと裏になにかある。
警戒心を緩ませない幸に、朋香が一歩近づいた。
そして耳打ちするように小声でささやきかけてくる。
「だから、紹介してくださいよぉ」
「紹介?」
本当になんのことだかわからなくて首をかしげる。
「先輩の兄弟か、いとこか、そんなところなんでしょう? この人」
そういった和美がスマホを取り出して画面を幸へ見せてきた。
そこに映っていたのはカフェで人休みしている幸と、アレクの姿だったのだ。
幸の頭にはすでにバレッタがある。
幸はハッと息を飲んで和美を見た。
和美は微笑んで「ねぇ、紹介してださいよ」と、続ける。
「そ、その人とは別になんでもなくて」
咄嗟に嘘をつくが、もちろん通用しない。
「この人先輩の親戚なんでしょう? だからこんなに馴れ馴れしくしていたんでしょう?」
実際に目撃していた和美の目つきが怖い。
口元は笑っているのに、目は怒りでつり上がっている。
幸がこれだけのイケメンと一緒にいたことが気に入らないのだ。
だけどアレクと自分の関係を話すわけにはいかない。
話せばきっと、邪魔をしてくるに決まっているのだから。
「……教えない」
幸はふたりを睨み返して言った。
ふたりは驚いたように目を見開いて幸を見つめる。
まさか幸が自分たちに反抗してくるとは思ってもいなかったんだろう。
今までどれだけ仕事を押し付けられても、ミスを被せられても黙って受け入れてきた幸だ。
今度もきっと無条件で言うことを聞くと思っていたに違いない。
ここ数ヶ月で幸はこれほど変化したというのに、このふたりはまるで変化していなかったことになる。
「教えてって言ってんだろ」
和美が敬語を辞めて詰め寄る。
幸は後ずさりをして距離を置いた。
どれだけ威圧的な態度を取られても、絶対に話すわけにはいかなかった。
ふたりにアレクを紹介するなんて、もってのほかだ。
「できない」
「うぜぇ」
頑なな幸に朋香がつぶやく。
その顔にはすでに笑みはなく、幸を見下したような表情に変わっていた。
「もしかしてこの人のことが好きとか? そんなん無理に決まってんじゃん。ちょっと痩せたって、デブとブスには違いないんだからさ!」
和美が怒鳴り声を上げるので幸は思わず体を震わせる。
ここでビクついていちゃダメだ。
またナメられて、同じ毎日が舞い戻ってくるだけだ。
幸は逃げ出してしまいたい気持ちをグッと我慢して和美と朋香を睨みつけた。
「仮にこの人を紹介したとして、どうなるわけでもないと思うけど?」
声を震わせつつ反論する。
「そもそもあんたたちのどっちかしか付き合えないんだよ? 1人は絶対に負けるってことがわかってるの?」
アレクは1人しかいない。
そんな彼を取り合って勝った負けたなんてしていれば、今の和美と朋香の関係はすぐに崩れていくのは目に見えていた。
そもそも和美と朋香は悪友だ。
どっちが先に裏切るかなんて、わかったものではない。
そこを指摘されて和美の顔がカッと赤くなった。
怒りで目がつり上がっている。
「黙れ! 調子に乗りやがっって!」
幸に図星を疲れたことが相当悔しいのか、両手を伸ばしてバレッタを掴んできた。
「やめて!」
咄嗟に身構えるけれど、和美はすでにバレッタを強引に奪い取った後だった。
頭皮に痛みが走り、バレッタに何本か髪の毛がついている。
「こんなもの……!」
怒り狂った和美がバレッタを床に落とす。
「いやっ!」
幸の叫び声を、バレッタが踏んで壊される音が同時に響いた。
パキッと小さな音がしたあと和美が足を浮かせると、無残にも砕けたバレッタだけがのこされた。
おとなになってから初めて異性からもらったプレゼントだったのに……。
幸は愕然としてその場に両膝をつく。
バレッタは真っ二つに割れて、小さな破片も転がっている。
「ふんっ。ざまぁみろ」
ふたりの笑い声が遠ざかっていっても、幸はその場から動くことができなかったのだった。
☆☆☆
壊されたバレッタをすべてかき集めて袋に入れた幸は1日中うつむいて過ごした。
屋上で明里に心配されてもなにも話すことができず、ランニングも休んでしまった。
ダイエットを通して強くなったと思っていた心は、実はこんなにも弱く、もろいものだった。
「なにを落ち込んでいる」
帰宅後すぐにベッドに潜り込んでしまった幸にアレクはいつもどおり話かける。
だけど幸は答えなかった。
昨日もらったばかりのバレッタを壊されたなんて、情けなくて言えない。
今度こそ呆れて出ていかれてしまうかもしれない。
「もしかしてバレッタの件か?」
そう聞かれて幸はベッドから飛び起きていた。
「どうしてそれを」
と、つぶやいた後、アレクには幸がなにをしていたか見ることができるのだと思い出した。
あれを見られていたのかと思うと恥ずかしくてやるせない気分になる。
「見ていたなら、どうして助けてくれなかったの」
トイレに閉じ込められているときにはサッと助けてくれたのに。
恨めしい視線をアレクへ向けると、冷めた視線を返された。
「あれくらいのことは自分でどうにかしろ」
そんな冷たいことを言われるとは思っていなくて傷がグリグリとえぐられる。
「私にとっては大切なものだったの!」
バレッタひとつ壊れたくらいでなにを泣いているのだと思われるかもしれない。
だけど幸にとっては特別なものだった。
するとアレクが呆れ顔のまま壊れたバレッタを手にした。
袋の中に入ったそれは無残にも砕け、もう使い物にはならないだろう。
アレクはそれを握りしめたかと思うと力づくでさらに粉々にしてしまったのだ。
「なにするの!?」
慌てて止めに入るけれど、袋んの中のバレッタはすでに見る影もない。
金具部分も完全に歪んでしまっていた。
ジワリと涙が滲んでくる。
こんなことで泣きたくないと思うのに、悲しくて涙が頬を流れていく。
「俺はお前をダメにするためにこれをプレゼントしたわけじゃない」
アレクの冷たい言葉が振ってくる。
「お前は俺と結婚したいのであって、バレッタと結婚したいわけじゃないはずだ」
その言葉にハッとして顔を上げる。
アレクの表情はいつの間にか緩んでいて、幸を受け入れるような暖かさを持っていた。
「違う……けど……」
どうしてもショックが拭いきれなくて、バレッタを直視することができない。
「大丈夫。お前にはもっといいものを買ってやる。お前の努力次第でな」
アレクが幸の背中に両腕を回す。
最初のころが腕が周り切らないくらい大きかった幸の体が、今ではアレクの腕にちゃんと包み込まれている。
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