悪魔なあなたと結婚させてください!

西羽咲 花月

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様変わり

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「ねぇ、あんな子いたっけ?」
幸が歩いた後方でそんな声が聞こえてきた。

あれからさらに一月が経過して、ジムとランニングを続けた幸は体重が55キロまで落ちていた。

身長が低いからまだちょっと顎のあたりの肉が気になるけれど、それでも見た目は随分と変化していた。

今では2Lサイズの服も大きいくらいだ。
またアレクと一緒に買物へ行く予定にしていた。

今度は大きいサイズ専門のお店でなくてもいいかもしれない。
「ふんっ。まだまだデブじゃん」

和美と朋香は相変わらずそんな嫌味を言ってくるときもあるけれど、幸がどんどん変わっていく様子に焦っているようにも見えた。

吹き出物もなくなり、肉に埋もれていた小さな目はパッチリとしてきて、もうチビデブブスではない。


ダサメガネだけは買い替えていないからどうにもなっていないけれど、顔が変わってきたおかげで、そのメガネがダサ可愛いと思われる程度にはなってきていた。

「キレイになったのに、まだランニングをやめないんだね」
昼休憩の屋上で明里と一緒にランニングする日課も変わらない。

「やめたらすぐにリバンウンドしちゃうから」
一旦痩せたからと言って油断しないようにと、トレーナーの人にも言われている。

体重がキープできるようになるのはダイエットが終わってからまだ先だと。
ダイエットが終わっていない幸からすれば、それは先の先になるはずだった。

「幸ちゃんって意外とストイックだったんだね」
驚きの顔を浮かべる明里に幸はなんとも返事ができなかった。

幸だって、自分がここまで頑張れるなんて思っていなかった。
ここまで頑張れたのはアレクの存在があるからだ。


「ずっと気になってたんだけど。どうしてダイエットするつもりになったの?」

その質問に言葉に詰まってしまった。
好きな人ができたからと言えば、きっと明里は相手が誰か気になるはずだ。

明里になら全部話してもいいかもしれないと思う反面、やっぱり信じてもらえないだろうからという気持ちもある。

「……まぁ、不健康だったしさ」
90キロあった頃の自分を思い出すと、健康診断でことごとくひっかかっていた。

お酒に関しても控えるように注意されていて無視していただけだったのだ。
「そっか。てっきり好きな人でもできたのかと思ってた」

その言葉に吹き出してしまいそうになり、グッとこらえる。
すでにバレていたのだと思うと恥ずかしくて顔が赤くなる。

「そ、そんなんじゃないよ」
と、幸はわかりやすく否定して、明里は大きな声で笑ったのだった。


☆☆☆

痩せたら周りの人まで変わる。

そう気がついたのは上司がグチグチと文句を言ってこなくなったことで気がついた。

他にも幸のミスを養護してくれる社員が増えてきた。

太っていたころには攻撃的だった社員も、今では普通に幸に話しかけてきてくれる。

「本当に、キレイになったな」
仕事が終わって部屋で夕飯の準備をしていると、アレクが後ろから声をかけてきた。

「急になに?」
今日の夕飯も野菜中心のおかずだ。

自炊なんて面倒なことしたくないと思っていたけれど、習慣になってしまうと面倒だとも思わなくなってきた。

今日のご飯は久しぶりに具だくさんの野菜スープを作るつもりだ。
「今、体重は何キロだ?」


「えーっと、この前ジムではかってもらったら48キロだった」
ダイエットを続ける幸のウエストは随分と細くなった。

アレクが選んでくれたTシャツも今ではブカブカだ。
今は休日に買ってきたばかりのMサイズの服を着ている。

Lサイズでもいいかもしれないと思ったのだけれど、デザインやメーカーによってはLでは大きいことがわかった。

Mサイズを手に取り、試着室に入ったときのドキドキ感は忘れられない。
そしてなにより、そのMサイズを着ることができたときの喜びはひとしおだった。

「みんなこのくらいのサイズを当たり前みたいに着てるんだ」
としみじみと思ったものだ。

「本当に、よく頑張った」
アレクが後ろから幸を抱きしめる。

そのまま首筋に顔をうずめてくるので、くすぐったくて身を捩った。
「料理中なんだけど」


と、注意してもアレクは離れてくれなかった。
お玉で鍋をかき回しながら幸の頬は赤くそまる。

どれだけアレクに抱きしめられてもそれは慣れることがなかった。
「できた」

野菜がほどよい柔らかさになったのを確認して火を止める。
これでいつでも夕飯を食べることができる。

そう思って振り向いたとき、アレクが手になにかを持っているのが見えた。
「それって……」

「直したんだ」
アレクが持っていたのは粉々に砕けたはずのバレッタだった。

金具だって曲がってしまっていたはずなのに、今アレクの手の中にあるバレッタは元通りになっている。

「うそ、直してくれたの!?」
「時間がかかったけどな」


アレクは言いながらバレッタを幸の頭につけてくれた。
後頭部でパチンッと音がして、しっかりと髪の毛が束ねられる。

それが再度購入したものではないことは、明白だった。
バレッタのあちこちにヒビが入っていて、それを金粉入りのボンドでつなげていたからだ。

あれだけボロボロになったものを直す手間は相当なものだったに違いない。
ジワリと幸の胸に暖かさが広がっていく。

人の優しさや愛情に触れるたびに、カサついていた心が潤っていくようだった。
「ありがとう」

ポロリと涙がこぼれた。
「また泣いてる」

アレクが苦笑いを浮かべる。
「だって……」

その後は言葉にならず、自分からアレクの胸の顔をうずめた。


人ではないとわかっているのに、どうしてこんなに心惹かれるんだろう。

どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。
「ほら、晩飯が冷めるぞ」

アレクのおかしそうな声が頭上から聞こえてきたのだった。
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