妃候補なんて興味ありません!

西羽咲 花月

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気味悪がられる

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「あの子、異能使いだったんですって」
「まぁ、どうりで妙な姫だと思ってたのよ」
「異能使いじゃダメね。妃には選ばれないわよきっと」

ひそひそ、くすくす。

シーラがやったことはまたたく間に城中に広まり、それは高貴な姫君たちの暇つぶしの話題として使われ続けていた。

「シーラ様、今回は本当にありがとうございました」

どれもこれもシーラを蔑み笑う噂ばかりなの中、懇切丁寧に頭を下げてきたのはフィリップの側室であるアルバンだった。

アルバンはフィリップと同年代で、幼い頃から遊び相手として城で働いていた。
「いえ、私はなにも」

シーラは自分に与えられた部屋の中にいるというのに居心地の悪さを感じてみじろぎをした。

そんなシーラをリュナはそっと見守っている。
「これはせめてものお礼です」


そうやってうやうやしく差し出されたのはトレーだった。
トレーの上には白い布がかけられていて、そこになにがあるのかは見ることができない。

お礼なんてと断ろうと思ったシーラだけれど、ものを見ずして断るのも失礼だと思い、白い布を片手で外した。

そこに出てきたは真っ白な真珠のネックレスだったのだ。
ひとつひとつの玉はとても大きくてキラキラと輝いている。

「まぁ、素敵!」
思わず本音が漏れてリュナに睨まれてしまった。

シーラはこほんと咳払いをして「こんな高価なものを受け取ることはできません」と、一歩後へ下がった。

国としてひとまず誠意を見せなければならないから、格好だけでも贈り物をしたことはシーラだってわかっている。

今や世界を探してみても希少になっている異能持ちへの今度の処遇は、追って聞かされるはずだった。

「さようですか」
案の定、アルバンは素直に引き下がった。


きっとシーラの自国にも使いのものが手配られて、今回の件がバレるのも時間の問題だろう。
どんな処遇が待っているのか、今は考えたくもないけれど。

フィリップ王子の側室が部屋を出てからシーラは大きく息を吐き出してベッドにダイブした。

キラキラと輝いていた真珠が目の裏でチラチラしている。
「とても素敵な真珠だったわね、リュナ?」

「えぇ、そうですねシーラ様」
リュナはあの出来事があってから毎日落ち着かない様子をしている。
いつ、どんな処遇が下るか不安なのだろう。

「リュナこっちへ」
手招きするとリュナがおずおずと近づいてくる。

ベッドの隣に座るように言うと、「失礼します」と一言言ってからシーラの隣に腰をおろした。

「リュナ、あなた随分大きくなったわね」
隣に座るリュナの赤毛を指先で撫でてシーラは言った。


10歳で侍女としてシーラの元へやってきたときは、こうして隣り合って座っても随分と小さく見えたものなのに。

「えぇ、月日は流れていますよシーラ様」
髪をなでらるのがくすぐったいのか、少し頬を赤らめて答える。

「そうね。あなたも大人になった。きっとこれから1人でも平気ね」
シーラのその言葉にリュナがハッとしたように目を見開いてシーラを見つめる。

「私になにがあっても、あなたのせいじゃない。それはみんなわかってくれていることよ」

「シーラ様……」
「大丈夫。次の仕事だってきっとすぐに見つけられるから」

「そんな!」
あまりに悲しい言葉に何かを言い返そうと思ったとき、ドアをノックする音が響いた。

リュナが条件反射のように立ち上がり、ドアへと急ぐ。
少し開いたドアから外を確認し、それから大きく開かれた。

「シーラ様!」
部屋に入ってきたのはリディアだ。
「リディア! 怪我はなかったの?」


あの出来事があってからリディアに会うのはこれが初めてだった。

倒れた敵軍の始末やらなんやらで城の中は騒がしく、フィリップ王子との夕食会も中止が続いていたので会う機会がなかったのだ。

「えぇ、大丈夫よ。 シーラ様、あなたは命の恩人よ!」
言いながらリディアはシーラに抱きついた。

ふたりとも自然と敬語が抜けているが、互いに気がついていない。
窮地を経験した者同士、距離感は自然と近くなっていた。

「そんなことないわ。私はなにも」
「いいえ。今度私の国からあなたへ贈り物をするから待っていてね」

飛び跳ねて言うリディアを見ているとシーラも自然と笑顔になれる。
「わかった。楽しみにしているわね」
だけどシーラの処遇はまだ決まっていない。

その贈り物を受取るときにはどうなっているのか、誰もわからないのだった。
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