がんじがらめの契約と狂愛〜聖女になれなかった異邦者の唯一〜

く〜いっ

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39 ジリオの婚約者

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 シシーリア聖皇国、セフィロース領に到着して2日後、ジリオ様からの迎えの馬車が『聖水の庵』にやってきた。
 追っ手から逃れ、魔獣を警戒し、シノアの森を抜けるのは、想像以上に体力、精神力を疲れさせたのか? この2日間、熱をだして寝こんでしまったため、記憶はあいまいだ――アラン様に治癒魔法をかけてもらえるとはいえ、削られた体力だけは戻らない。

 馬車で連れてこられたセフィロース領の伯爵邸は、お城だった。門をくぐった先には、館だとは思えない規模の広い庭園。その奥に白銀に輝く大邸宅があらわれた。街全体が濃い茶色の外壁だったので、ひときわ輝いて見える。

「やぁ、リオ、ロズベルトよく来てくれた」

 にこやかに、ジリオ様は私たちを出迎えてくれた。『約定の証書』の件があるので、完全に彼を信じることはできないけれど、見知った顔を見ると、ほっとする。

「ロズベルトの名は爵位と共に返上しました。私のことはアランとお呼びください」
「そう、シャルナの軍神を手放したか……シャルナ王国は、よっぽど君を怒らせたみたいだね。改めてよろしくアラン」

 ジリオ様は私をメイドたちに預け、アラン様と応接室に消えた。きっと私が聖女になれなかったことを話しあうのだろう……
 メイドたちに預けられること、アラン様から離れることを極端に怖がった私に、ジリオ様は「ここには、リオを害するものは存在しないよ」と、誓ってくれた。

 通された客室は、淡い緑を基調に白い花のモチーフが散りばめられた、落ちついた雰囲気の部屋だった。
 メイドたちの手によってドレスを剥ぎ取られ、浴槽にほおりこまれる。この他人の手によって磨かれる感覚、ひさしぶりで忘れていたわ……伯爵邸のメイドたちの手も魔法の手だった。香油を隅々まですりこまれ、トロンと眠くなってきたとき――部屋の外から騒ぎ声が聞こえてきた。

「あなた邪魔をするつもり! ここにいることは知っていてよ! 扉を開けなさい!」

 若い女性の声? 私がなにごとか? とメイドの顔を見つめると、メイドたちはあからさまに視線をさまよわせる。

「いることはわかっていてよ! この扉を開けさせなさい!」

 扉を開けようとしている音。それをやめさせようと、制止する人の声……誰かがとびこんできたら……全裸で浴槽につかっている状態では、逃げようがない……だんだん血の気が失せていく。

「話を聞くから、入浴が終わるまで待っていてもらえるかしら? 伝えてくれる?」

 伝言を頼むと、扉を叩く音はピタリととまった。しばらくすると、室内から楽しそうに会話する声が聞こえた。
 ――えっ、室内で待っているの? 一体、誰なんだろうか? 予備知識だけでもいれておきたい。

「一体どなたが、こられたの?」

 私の身支度をととのえながら、メイドたちは複雑そうな顔をしている。

「あのかたは、旦那様のご婚約者様です」

 旦那様? 婚約者? そういえば、門番も「領主の婚約者様が滞在している」と言っていた……え? 領主って、旦那様ってジリオ様のこと?

「ジリオ様の婚約者?」
「――はい」

 ええ――――――! 婚約、決まったの? なら、『約定の証書』の件、ナシにならないかしら?
 ジリオ様は「婚姻を結んで私の花嫁になる? それともロズベルトの妻になりながら、私に抱かれる?」と、私に問いかけた。
 婚約が決まったのなら、私が花嫁に選ばれることはない……よね? 私を抱くっていうのも、婚約者の存在を盾に断固拒否できる……よね? 不安な気持ちは残りつつも、全力で婚約者さんを応援するぞ! と、心に決める。

 ――ガラナミア伯爵夫人がくださったドレスも、よいものだったけれど……この着せられたワンピースドレスは、レベルが桁違いかも? 肌触りから、上質の布地とわかる。白に近い薄いピンクのプリンセスライン。パニエで膨らませているスカートに、何重にも重ねられたレースが濃淡の違う影をスカートに落としている。
 ローズピンクのリボンが全体を引き締めるように配置されていた……ゴスロリ? 21歳でこれは……ちょっとキツすぎないか?
 フリルたっぷりのヘッドドレスまでつけられると……さらに甘さが加速する。

 メイドに連れられて、隣室のジリオ様の婚約者の前にでると、優雅にソファに座り、お茶を楽しんでいた彼女は、持っていた扇子をパッっと広げ、私を睨みつけた。

「まぁ、あなた! そのドレスは、わたくしのだわ! お脱ぎになって!」

 ゆるく波打つ長い真っ白い髪が、白い顔のまわりで光を反射している。白いプリンセスラインのドレスは黒のレースでいろどられ、紫のリボンがドレープをとめるように飾られている。ヘッドドレスの下からのぞくその表情は、怒りをあらわにしていた。
 たしかに、私の着せられたこのドレスは、彼女なら間違いなくにあうだろう。

 怒る美少女が目の前にいた。
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