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40 騒動「このドレスはわたくしのよ!」
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「――というわけで、私はリオ様だけの護衛騎士になり、彼女と一緒に市井にくだるつもりです」
シャルナ王国であった出来事をセフィロース卿に報告する。リオの身におこったことを事細かに説明するのは、己の不甲斐なさを再認識させられ、拷問でも受けている気分になる。だが、彼はリオの降臨に立ちあい、伴侶としての生涯を願いでた候補者だ。彼は真実を知る権利をもっている。
「それで君はシャルナを捨てたのか……理解したよ。他国にも名がとおった騎士を、自国にとどまらせることもできない無能どもめ。狂信的な考えで聖女を壊すなんて、なんて愚かなんだ」
「リオの心は、やっと戻ってきたばかりで揺れている。『約定の証書』をもちだし、リオを苦しめるようなら――私は貴方を斬る」
セフィロース卿は、優雅に紅茶をひと口飲み、ちらりとこちらに視線をむけた。
「怖いこと言うね。リオが私の正妻になるといえば、おまえのことも、私は手に入れられそうだし……諦めきれないね」
「婚約者を捨ててまで、聖女じゃないリオに執着する理由があるのか?」
「さぁ、どうだろうね」
やはりセフィロース卿は、食えない奴だ……リオを気にいっているようだが、俺のように、リオを愛している者の瞳じゃない。彼の瞳には、いつも怒りの炎がくすぶっている。戦場で、敵兵が俺を見る目だ! 何度も目にした仄暗い光を見間違えるはずがない。
この男の持つ地位、権力、血族の力、なにもかもが俺より上だ。
――だが、リオを愛する気持ちは負けない。ギリッと、彼を睨みつけた。
「『聖者の手記』を読ませてほしい。そのために貴方に会いにきた」
「ふふっ、直球できたね。でも残念。『聖者の手記』はエバンティスの血族の直系が管理する秘宝だ。あれの閲覧権限は、まだ私の父、エバンティス侯爵のものだよ。
聖女の力が復活し、シシーリア聖皇国のものになりそうだ……と報告すれば、あっさり許可がおりるかも知れないけれどね」
「リオを国に縛る行為はしたくない」
「まぁ、しばらくこの館に滞在して時機をうかがうことだよ」
そのとき、外が急に騒がしくなった。
「ご歓談中、申し訳ありません! レディ・ピアディが!」
従僕が室内に、叫びながらとびこんくる。嫌な予感がする。
セフィロース卿が、急に走りだしたので、あとを追った。
――リオよりは若干、背が高いが、小柄な白い女がリオに向かってキィーキィー騒ぎたてていた。
手に持つ扇子で、今にも困ったように立ちつくしているリオを打ちそうな雰囲気に、カッと頭に血がのぼる。女の扇子をとりあげようと、伸ばした手をセフィロース卿に弾かれてしまった。やはりこの男の身体強化は、俺より強い。
「僕のウーニャはなにを騒いでいるのかな?」
「ジリィ!」
女がセフィロース卿に駆けよる。そうか、この女が婚約者か……
「だって、だって、このドレスは、わたくしのなのよ! だから脱いでって言っていたの」
「リオのことはあとで紹介してあげるって言ったよね。僕のウーニャは、なんでこの部屋にいるのかな?」
「――だって、ジリィの正妻になるかたが到着したって聞いたから……ご、ご挨拶をしようと思っただけよ!」
セフィロース卿は、ウーニャと呼んだ婚約者の頭を撫で、リオのほうを見る。
「リオ、騒がしくして悪かったね。別のドレスを用意させるから、待ってて」
後ろに控えていた従僕にむかって指示をだす。
「仕立て屋に連絡を、すぐ着れるリオのドレスの用意と、新しいドレスの依頼をする。リオと僕のウーニャのぶんだ」
「かしこまりました」
従僕は、頭を下げ、退室していった。
「ジリィ! 嬉しいわ! もちろんドレスは、わたくしに見繕わせてくれるわよね。このメイドたちセンス悪いわ」
女はセフィロース卿の首に抱きつき、チラリと少し吊りあがった赤い目を意地悪そうに細め、リオの後ろに控えるメイドたちを見た。メイドたちは全員、青い顔をして下を向いている。
「そうだね。僕のウーニャが選んでくれると助かるよ。――ところで、リオにわざわざ僕のウーニャのドレスを着せたのはなぜ?」
セフィロース卿のメイドたちを見る目が、冷たくなった。
「騒ぎはおこすなって言っておいたよね。リオにも、僕のウーニャにも気持ちよく滞在してもらうようにって、言っておいたよね」
メイドたちはカタカタとふるえだした。そのなかのひとりが、おそるおそる顔をあげる。
「申し訳ありませんでした。リオ様は……その、ずいぶん小柄なかただったので、衣装部屋にある女性用のドレスはどれも大きすぎたので……レディ・ピアディのもう着られなくなった昔のドレスなら、ちょうどよいと思い……あの……」
「はぁ……君たちなら、ドレスの調整ぐらいすぐできたはずだよね。君たちの所属を別邸に移す。使えないものは私のまわりにはいらないんだよ」
セフィロース卿が手を振り、メイドたちは頭を下げ退室していった。
「ジリィは優しいわね。わたくしだったら鞭打ちしたあと、屋敷を追いだすわ。まぁ、ドレスをわたくしに選ばせてくださるから、今回は許してさしあげるわ」
リオをセフィロース卿の正妻と言いながら、自分が彼に愛されていると疑わない傲慢な態度。『聖者の手記』を読むための対策を練らないといけないのに、面倒ごとに巻きこまれそうな予感にげんなりする……
俺はリオの背中をトントンとなだめるように叩き、耳元にそっと口をよせた。
「そのドレス、リオのほうがにあっていると思う。でも、俺もあの女のお古は嫌だ。リオには、もっと華やかな赤とか、青色を着てほしいな」
リオは真っ赤な顔をして、俺を睨みつけた。――俺の髪色と瞳の色だとバレただろうか?
シャルナ王国であった出来事をセフィロース卿に報告する。リオの身におこったことを事細かに説明するのは、己の不甲斐なさを再認識させられ、拷問でも受けている気分になる。だが、彼はリオの降臨に立ちあい、伴侶としての生涯を願いでた候補者だ。彼は真実を知る権利をもっている。
「それで君はシャルナを捨てたのか……理解したよ。他国にも名がとおった騎士を、自国にとどまらせることもできない無能どもめ。狂信的な考えで聖女を壊すなんて、なんて愚かなんだ」
「リオの心は、やっと戻ってきたばかりで揺れている。『約定の証書』をもちだし、リオを苦しめるようなら――私は貴方を斬る」
セフィロース卿は、優雅に紅茶をひと口飲み、ちらりとこちらに視線をむけた。
「怖いこと言うね。リオが私の正妻になるといえば、おまえのことも、私は手に入れられそうだし……諦めきれないね」
「婚約者を捨ててまで、聖女じゃないリオに執着する理由があるのか?」
「さぁ、どうだろうね」
やはりセフィロース卿は、食えない奴だ……リオを気にいっているようだが、俺のように、リオを愛している者の瞳じゃない。彼の瞳には、いつも怒りの炎がくすぶっている。戦場で、敵兵が俺を見る目だ! 何度も目にした仄暗い光を見間違えるはずがない。
この男の持つ地位、権力、血族の力、なにもかもが俺より上だ。
――だが、リオを愛する気持ちは負けない。ギリッと、彼を睨みつけた。
「『聖者の手記』を読ませてほしい。そのために貴方に会いにきた」
「ふふっ、直球できたね。でも残念。『聖者の手記』はエバンティスの血族の直系が管理する秘宝だ。あれの閲覧権限は、まだ私の父、エバンティス侯爵のものだよ。
聖女の力が復活し、シシーリア聖皇国のものになりそうだ……と報告すれば、あっさり許可がおりるかも知れないけれどね」
「リオを国に縛る行為はしたくない」
「まぁ、しばらくこの館に滞在して時機をうかがうことだよ」
そのとき、外が急に騒がしくなった。
「ご歓談中、申し訳ありません! レディ・ピアディが!」
従僕が室内に、叫びながらとびこんくる。嫌な予感がする。
セフィロース卿が、急に走りだしたので、あとを追った。
――リオよりは若干、背が高いが、小柄な白い女がリオに向かってキィーキィー騒ぎたてていた。
手に持つ扇子で、今にも困ったように立ちつくしているリオを打ちそうな雰囲気に、カッと頭に血がのぼる。女の扇子をとりあげようと、伸ばした手をセフィロース卿に弾かれてしまった。やはりこの男の身体強化は、俺より強い。
「僕のウーニャはなにを騒いでいるのかな?」
「ジリィ!」
女がセフィロース卿に駆けよる。そうか、この女が婚約者か……
「だって、だって、このドレスは、わたくしのなのよ! だから脱いでって言っていたの」
「リオのことはあとで紹介してあげるって言ったよね。僕のウーニャは、なんでこの部屋にいるのかな?」
「――だって、ジリィの正妻になるかたが到着したって聞いたから……ご、ご挨拶をしようと思っただけよ!」
セフィロース卿は、ウーニャと呼んだ婚約者の頭を撫で、リオのほうを見る。
「リオ、騒がしくして悪かったね。別のドレスを用意させるから、待ってて」
後ろに控えていた従僕にむかって指示をだす。
「仕立て屋に連絡を、すぐ着れるリオのドレスの用意と、新しいドレスの依頼をする。リオと僕のウーニャのぶんだ」
「かしこまりました」
従僕は、頭を下げ、退室していった。
「ジリィ! 嬉しいわ! もちろんドレスは、わたくしに見繕わせてくれるわよね。このメイドたちセンス悪いわ」
女はセフィロース卿の首に抱きつき、チラリと少し吊りあがった赤い目を意地悪そうに細め、リオの後ろに控えるメイドたちを見た。メイドたちは全員、青い顔をして下を向いている。
「そうだね。僕のウーニャが選んでくれると助かるよ。――ところで、リオにわざわざ僕のウーニャのドレスを着せたのはなぜ?」
セフィロース卿のメイドたちを見る目が、冷たくなった。
「騒ぎはおこすなって言っておいたよね。リオにも、僕のウーニャにも気持ちよく滞在してもらうようにって、言っておいたよね」
メイドたちはカタカタとふるえだした。そのなかのひとりが、おそるおそる顔をあげる。
「申し訳ありませんでした。リオ様は……その、ずいぶん小柄なかただったので、衣装部屋にある女性用のドレスはどれも大きすぎたので……レディ・ピアディのもう着られなくなった昔のドレスなら、ちょうどよいと思い……あの……」
「はぁ……君たちなら、ドレスの調整ぐらいすぐできたはずだよね。君たちの所属を別邸に移す。使えないものは私のまわりにはいらないんだよ」
セフィロース卿が手を振り、メイドたちは頭を下げ退室していった。
「ジリィは優しいわね。わたくしだったら鞭打ちしたあと、屋敷を追いだすわ。まぁ、ドレスをわたくしに選ばせてくださるから、今回は許してさしあげるわ」
リオをセフィロース卿の正妻と言いながら、自分が彼に愛されていると疑わない傲慢な態度。『聖者の手記』を読むための対策を練らないといけないのに、面倒ごとに巻きこまれそうな予感にげんなりする……
俺はリオの背中をトントンとなだめるように叩き、耳元にそっと口をよせた。
「そのドレス、リオのほうがにあっていると思う。でも、俺もあの女のお古は嫌だ。リオには、もっと華やかな赤とか、青色を着てほしいな」
リオは真っ赤な顔をして、俺を睨みつけた。――俺の髪色と瞳の色だとバレただろうか?
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