がんじがらめの契約と狂愛〜聖女になれなかった異邦者の唯一〜

く〜いっ

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41 血族の令嬢レディ・ピアディ

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 ドレス選びは疲れたの一言です……

 伯爵邸に呼ばれた仕立て屋は1店舗ではなく、セフィロース領に店を構えるすべての店舗が、私のサイズにあうドレスを大量に抱え集合していた。
 高級ドレスから庶民的なワンピースをあつかう店舗まで、ずらずら~と大広間に並べられたようすは、デパートの婦人服売り場のようだった。高級店舗は個々のブースにドレスにあう靴や小物まで並べ、庶民的な商品をあつかう店舗は、長テーブルの上に合同で商品を並べていて、ワゴンセールのような感じだった。

 ジリオ様の婚約者は、あれこれ物色しながら、私に次々着せるよう指示をだしていく。彼女の指定するドレスの山に目眩がしてくる……

「あの、私はあちらの簡単に着れるドレスのほうが好みです」

 長テーブルのほうを指差し希望を言ってみる。彼女はちらりとそちらに目を向けると、ニッコリ微笑んだ。

「お忍び用を選ぶのはあとよ! まずは普段着を選ばないと!」
「ええ? いえ、あちらのほうを普段着用に数着でかまいません~」

 彼女は目尻をつりあげ、唇を尖らせた。

「意味がわからないわ。でも、そうね……きちんと仕立てたほうがいいわよね。決めたわ! 各店舗から1点ずつ選びましょう! 仕立てたドレスが届くまでは、それでなんとかなるかしら?」

 彼女は楽しそうにドレスの海をただよいながら、仕立て屋たちに宣言する。

「サイズはわかったわよね。1ヶ月以内に仕立てて持ってきてちょうだい! お菓子を用意させたから、受け取って」

 わぁ――――――! と歓声があがる。やっと終わった……こそっとため息をもらした。
 執事と従僕が明細を確認しながら、金貨の積まれたトレーから支払いをしていく……支払われる金貨の量に立ちくらみがしそう……
 そのあとを追うように、大量のクッキーが詰めこまれた手提げ籠を、メイドたちが配って歩いていた。

「夜会用のドレスは、別室にお針子を控えさせていますの。行きますわよ」

 夜会用のドレスのあとは、さらに隣の部屋で下着と夜着の試着になり……もう疲労困憊です。1日にジリオ様に使わせた金額を考えると、ふるえがくる……用意された客室の隣の部屋が私のドレスルームとしてととのえられた。1ヶ月以内には、ここにさらに大量のドレスが運びこまれるのか……
 彼女のセンスは確かで、どれも私によくにあった。リボンやフリルたっぷりの甘すぎるドレスではなく、レースや刺繍をうまくつかった上品な感じで、ドレスに着られてる感がなく、素敵だ。
 ちょっと嬉しくなって鏡の前でくるくるまわってしまった。髪飾りも子供っぽいヘッドドレスではなく、髪にリボンを編みこむ感じに結いなおされている。





「改めて紹介するよ。こちらは僕のウーニャ。婚約者のピアディ・エバンティス・ラズ侯爵令嬢。
 そして聖女として降臨されたリオ。その護衛騎士であり候補者のアランだ」
「ウーニャ?」

 ピアディ・エバンティス・ラズ侯爵令嬢の愛称が、なんでウーニャになるのか? わからなくて、つぶやいてしまった。ジリオ様はニッコリ微笑んで……

「そっくりだろ、白い長い髪もローズピンクの瞳もウーニャに! だから僕のウーニャだよ」
「もう、わたくしは愛玩動物ではなくてよ! ひどいと思いませんこと? わたくしのことはレディ・ピアディとお呼びになって」

 ――白い長い髪に赤いローズピンクの瞳……耳の長い白いもふもふした毛のぬいぐるみ。赤い瞳もウサギみたいだった……うさピョン! ウーニャってあの生き物のこと?
 確かにレディ・ピアディは、この世界の基準からいくと小柄なほうだし、見た目は小動物系美少女かも? 性格は気まぐれな猫って感じだけれど……でも、なんか別のものに似ていたような気がする? う~ん、思いだせない。なにか引っかかる……

「エバンティスということは……」
「そう、エバンティスの血族だよ。私たちは遠縁にあたるんだ」
「血族の女性……」

 アラン様はなにか難しそうなお顔をしていた。そうか、ジリオ様はジリオーラ・エバンティス・セフィロース伯爵。そして、レディ・ピアディは、ピアディ・エバンティス・ラズ侯爵令嬢。名前に同じ『エバンティス』が入っている。遠縁の親戚が婚約者になったのね……

「殿方たちと話していても退屈だわ。リオ様、庭園に本物のウーニャがいるの! 見に行きましょう!」

 レディ・ピアディが私の手をとった。自分のドレスを脱げ! と、怒っているときとは違い、すっかり機嫌がなおって子供のようにはしゃいでいる。体力あるなぁ……若そうだものね。ドレス選びだけで疲労困憊です。
 生きている、うさピョンは気になるけれど……よし! ことわろう!

「レディ・ピアディ、申し訳ありません。私、疲れてしまって」
「ああ、そうね。わかっていてよ。来訪者は体力ないものね。リオ様に回復魔法をかけているのはアラン様? はやくかけてさしあげて」

 ――ん? この令嬢、今、なんと言いました?

「リオは人前では嫌がるもので、おことわりいたします」
「ことわるというの? ――なら、ジリィかけてあげて」

 ――んんっ? この令嬢、今、なんと言いました?

「しかたがないなぁ」

 やれやれと立ちあがったジリオ様の肩を、ガッ! と、アラン様が掴んでとめた。そんなアラン様を不満そうに見上げたレディ・ピアディが腰に手をあて、怒ったように言う。

「もう~! なんの問題あるというの? いいわ。わたくしが、かけてさしあげますわ」

 両頬に手をそえられ、グイッと、上を向かされる。間近に美少女のつやつやした唇がせまってくる……なにか、みずみずしい果物のような色あいが、おいしそう……思わず、のどが鳴った。

 ガッ!!

 私はアラン様に腰を持ちあげられ、高い高い状態に……レディ・ピアディはジリオ様にソファに押し倒されていた。
 強制的に引き離された女、ふたり……

「もぅ~、なんなんですのぉ!」
「僕のウーニャ、同性同士の魔力の高めあいは、豊穣の女神ファリアーナ神の教えに反するよ」

 レディ・ピアディをソファに縫いつけている、ジリオ様が少し拗ねたように言い聞かせている。

「魔力を高めあうためではありませんわ! 魔法をかけるために必要なことですわ! おふたりが回復魔法をかけないというのであれば、わたくししか、いないではないですか! 疲れているリオ様が気の毒だとは思いませんの?」
「ご心配いただき感謝します。別室で回復魔法をかけてきますので」

 アラン様のいい訳!? 別室で接吻宣言って! やーめーてー! 恥ずかしい~!

「まぁ! 早くしてね! リオ様と一緒にウーニャに餌をあげたいんだから」

 レディ・ピアディが、ジリオ様に押し倒された姿勢のまま、嬉しそうに手を振って、私たちを見送った。

「アラン様……」
「んっ?」
「とめていただいて、ありがとうございます」
「ああ」
「――私、うっかり……別の世界の扉を開いてしまうかと思いました……美少女の唇の魅力、半端ないです……」

 ぼそぼそと表情をなくした私の告白を聞いたアラン様が、私の肩を強く揺さぶる。

「リオ――――――! 正気に戻れ!」

 アラン様は泣きそうな顔をしている。たぶん私の心も泣きそうです。レディ・ピアディ……いろんな意味で怖い。怖すぎる……
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