がんじがらめの契約と狂愛〜聖女になれなかった異邦者の唯一〜

く〜いっ

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43 聖者の血族と血族魔法

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「リオ様、手をわたくしの手にあわせて! 両方よ」

 レディ・ピアディは私と掌をあわせると、目を閉じた。

「わたくしの手だけを感じて……」

 目を閉じ、レディ・ピアディの掌だけ感じるようにしていると、私の掌との境目がなくなってくるような……不思議な感覚がしてくる。掌から清涼な水が流れこむような……そんな感覚に驚き、目を開けた。
 レディ・ピアディはイタズラが成功した子供のように笑った。

「ふふ、ジリィは火の魔法。わたくしは水よ。これが血族の力」

 レディ・ピアディが、きゅっと私の指にみずからの指をからめ、しっかり握る。

「体内の血潮に干渉し、魔力の状態をととのえる。これがわたくしの血族魔法。さぁ、感じて! リオ様の不安をとってさしあげる。ちゃんと全身を清々しいものが巡っているのがおわかりになるでしょ? 力強いうねりを感じるでしょ? これがリオ様の魔力よ! リオ様はちゃんとこの世界で生きていらっしゃる。大丈夫よ、わたくしが証明してさしあげる。リオ様の魔力はちゃんとリオ様のなかにあるわ」

 知らず知らずのうちに涙が頬をつたっていた……

 私は不安だったんだ……『順応の義』に失敗し、魔法を使うことができず、魔力を感じることもできない。そんな自分自身が信じられなくて……不安だったんだ。
 アラン様とのキスで魔法をかけてもらっているけれど、アラン様の魔力を私に馴染ませるためだけの行為かもしれない……そう思ったこともあった。
 アラン様は「魔力が高められる」って、言っていたけれど……私に魔力を感じることはできないから、そんなのアラン様の勘違いかも知れない……って、思っていた。
 ――私の体内ここにちゃんとあるのね。私の魔力。
 私は『役立たずの異邦者』じゃなく、ちゃんと『異世界からの来訪者』だったのね。ちゃんとアラン様の魔力を高めるお役にたてているのね!

 ――安堵と、歓喜の涙がとまらない。

 レディ・ピアディが私から手を離すと、体を巡っていた清涼な感覚も一緒に消えた。

「……ごめんなさい。もっと長く感じさせてあげたかったのだけれど、わたくしの力がおよばなくて……わたくしの血族魔法のことは、内緒よ。外に干渉する魔法はこの世界でも、血族だけが使える稀有な魔法なの」

 白い額にうっすら汗をかき、呼吸も乱れている。レディ・ピアディは、さっと手をあげ、護衛を呼びよせた。

「疲れたの。お部屋へ連れて行って。リオ様もお部屋へ送ってさしあげてね」

 レディ・ピアディは護衛に横抱きされながら、邸宅へ消えた。ぐったりしたようすから、血族魔法がとても疲れるものだとわかる。私の不安をとるために、頑張ってくれたんだ……レディ・ピアディが去った方向をじっと見つめた。

「お気にされること、ありませんからね」
「…………えっ?」
「レディ・ピアディは旦那様の正妻の座をリオ様に奪われたと思って、意地悪をされているんですよ。わたくしたちは、ちゃんとリオ様のほうが魔力も高く、正妻にふさわしいとわかっておりますから。
 レディ・ピアディにも来訪者様と消えかけの血族の力、どちらが立場が上か、もっとしっかり理解していただけるよう、旦那様にご報告しておきますので、ご安心なさってくださいね」

 私にハンカチをさしだしながら、いかにも気の毒だ……といわんばかりに眉を下げ、優しげに話しかけるメイド……その言葉の意味が理解できない。
 意地悪? え? 誰が? 誰を? 立場が上……?

「……なにを、言っているの? レディ・ピアディは私を慰めてくれたのよ。それに彼女はジリオ様の婚約者でしょ」
「リオ様はお優しいですね。さすがエバンティス侯爵家にふさわしい女性です。旦那様がリオ様を選ばれたこと、使用人一同、嬉しく思っております」

 メイドの言っている意味が、本当にわからない……

「……私が……選んだのはアラン様よ」
「シャルナの軍神を虜にされている手腕、本当にすばらしいです。エバンティス侯爵家の力が、さらに高まることでしょう」
「…………部屋へ、戻るわ……」

 レディ・ピアディの清涼で、気持ちいい魔法の感覚が消え失せて、なにかドロッとした汚泥が染みこんできたような……そんな気持ち悪さを感じた。
 少なくともこのメイドとは、もう話をしたくなかった。

 レディ・ピアディの味方が、ちゃんと伯爵邸にいるのか……? ジリオ様の考えが読めないため、不安がつのる……





 ――伯爵邸本邸の玄関ホールで気がついた。邸宅内に飾られている絵画……すべてレディ・ピアディだ! ちらりと目にはいったとき、ファリアーナ神の姿だと思い、怖くてしっかり見ないようにしていた。レディ・ピアディの存在を知った今では、この絵画のモデルが彼女だとわかる。
 レディ・ピアディがもう少し成長した姿を想像すれば、ファリアーナ神像の姿と重なった。

「僕のウーニャをモデルにして、描かれているんだよ」

 耳元でささやかれて、体が跳ねた!

「ジ、ジリオ様!」
「この絵の慈愛の表情も、驚きだよね。本物の彼女は、無邪気な小悪魔なのに。
 彼女の姿が、唯一神ファリアーナ様に似ているから、画家たちがこぞってモデルにするんだよ」
「あ、やはり似てらっしゃいますよね?」

 彼女がなにかに似ていると感じたの……ファリアーナ神だったのね。

「色は全然違うんだよ……女神の似姿を描きたいのなら、ちゃんとリオと同じ濃褐色の瞳で、彩雲のように輝く虹色の髪のファリアーナ神を描けばいいのに……僕のウーニャの色味で描くから、すべて購入するしかないじゃない」

 ん? レディ・ピアディをモデルにして描かれた絵画は、すべて購入しているってこと? それって……

「……ジリオ様がかならず購入してくださるから、画家もレディ・ピアディの色にするのでは?」

 絵を見ていたジリオ様が、ばっと私のほうを振り返った……

「――ああ、言われてみればそうか。失念していた。確かに女神の色味そのままの似姿を持ってきた画家の絵は、買わなかったなぁ~」

 なんだろう、レディ・ピアディにたいする無自覚の執着を感じる……

「リオ、こっちへおいで、こんな彼女の色を真似ただけのものより、ちゃんと私が依頼して描かせた僕のウーニャの絵は、別のところに飾ってあるんだ」

 嬉々として私の手をとり案内されたのは、内装からいってジリオ様のプライベート空間。私に用意された客室とあまりにも違う趣に、ゲスト用とプライベート用の差が歴然とわかる。
 レディ・ピアディの存在が、ジリオ様にたいする警戒心を解いてしまっていたんだ。こんな奥まで黙ってついてきたことを後悔する……

 灯りをすべて遮断するような分厚いカーテンに覆われた薄暗い空間に通され、背筋が凍る。
 その場所は、建物全体を吹き抜けにして作られたような高い天井。複雑な勾配天井は中央部分にだけ明り取りの窓が配置してあった。でもそのかすかな外光は床までは届かない……

「あの、私やっぱり……」
「ほら、これ!」

 戻ると言おうとした言葉は、嬉しそうなジリオ様の声でかき消された。彼は中央に垂れさがる太い紐を引いた。

「僕のウーニャと婚約したときに描かれた絵だ」

 室内を覆っていた厚いカーテンがすべて天井に向かって、巻き上げられる。あらわれたのはおびただしい数の絵画。
 彼が指し示した先に、澄ました表情の美少年が赤ん坊を抱っこしている姿が描かれていた。

 ――絵画の回廊?

 すべての絵にレディ・ピアディが描かれている。邸宅内に飾られているファリアーナ神もどきのレディ・ピアディではなく、本物の姿の彼女がそこにいた。

 ――でも、この数! ちょっとストーカーっぽくて引く!
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