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44 肖像画の謎
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絵画の回廊の再奥――ひときわ目立つ位置にその絵はあった。
絵のなかでフリルたっぷりのヘッドドレスをかぶり、幸せそうに微笑むレディ・ピアディは今より若干若い。そのドレスは白に近い薄いピンクのプリンセスライン。重ねられたレースの濃淡が美しく、彼女の瞳の色と同色のローズピンクのリボンがドレープを強調している。
このドレスは、伯爵邸到着時に私が着せられたドレス……レディ・ピアディが、脱いで! と、怒ったあのドレスだ。
呆然と絵の前に立ちつくしていると、べらべら絵のエピソードを語っていたジリオ様が私のようすに気づき、ちかよってきた。
「ああ、この絵は僕のウーニャの『成人の義』の記念の肖像画だね。彼女の『成人の義』に参加したかったのだけど、父の名代で戦場へ行くことになってねぇ……本当にあのときは宰相補佐なんて辞めてやる! って、真剣に考えたよ」
「……このドレスは……」
「僕のウーニャは可愛いでしょ。作らせたんだ。こんな形のドレスは作ったことないって針子に泣かれたけれど、ゆずれないよね。こればっかりは」
この世界の貴族令嬢を見たのは、シャルナ国王陛下との謁見のときと、『順応の義』のときだけだ。整列している姿をちらりと見ただけだったけれど、ここまでフリル、リボン、レースたっぷりのゴスロリ調のドレスはいなかった……
ざっと、回廊の絵に目を走らせる。最近の絵は、すべてウーニャを抱いたゴスロリ調ドレス。だけれど小さい頃のドレスは、可愛らしいが、ここまで細部までこだわった感じではない。
ジリオ様の趣味はおいておいて、あのドレスは、ジリオ様のこだわりが生みだしたレディ・ピアディのためだけのデザインなんだ。
「当時の予定では、『成人の義』が終わったあとすぐ『婚姻の署名』を交わすことになっていたから、特別なドレスを着てもらいたくて奮闘したよ。父には、おまえはいつから仕立て屋になったんだ! って、怒鳴られるし」
ジリオ様は、そのときのことを思いだしたのか? ぷりぷり怒りながら話しはじめた。
レディ・ピアディは言っていた……成人を待って、婚姻する予定だった……と、戦場に行ったジリオ様は1ヶ月後、帰ってきた……と、それから2年婚姻は延期になっている……と。
――花嫁衣装だ……あのドレスはレディ・ピアディのウエディングドレス!
目の前が真っ暗になる。怒るのは当たり前だ……もう今は小さくなって着られなくなっていたとしても、結婚式で着るはずだったドレス……ジリオ様が自分のために作らせた特別な思い出……
ジリオ様の好みのドレスを私に着せようとしたのは、わかる。でも、よりにもよってなぜ婚姻用に作られたドレスを選んだ? メイドたちは、特別なドレスだって知らなかったの? 彼女たちの悪意の影が伯爵邸に充満しているようで……吐き気がする。
「……レディ・ピアディを……守ってあげて……」
思わず、そうつぶやいていた。
「ジリオ様は私とレディ・ピアディ、どちらと婚姻を結びたいのですか?」
「それはどちらが正妻でどちらが側室になるか? って、意味?」
「いえ、私が婚姻を結ぶ相手は、唯一だけです。私以外も求めるかたとは、婚姻は結べません」
「ふ~ん、そう……それがリオの考えなんだね。私は僕のウーニャを手放す気はないよ」
彼女の愛称を呼ぶとき、かならず『僕の』とつける、今までの言動。この回廊を見れば、レディ・ピアディにたいする執着がわかる。ここはしっかりと「私とは婚姻しない」と、言質をとっておきたい。
「でも、リオには私の子供を産んでもらいたいんだけどなぁ」
ザッ! と、ジリオ様から距離をとってしまった。
「婚姻相手の子供しか産みません! レディ・ピアディに頼んでください!」
腰が引けた私を見て、ジリオ様はくすくす笑いだした。からかわれたのかな? 彼が笑うたび、光源の少ない回廊に彼の髪だけがキラキラ光る。
ふと、なにか違和感を感じて絵を見つめる……なんだろう……この違和感……絵のなかのレディ・ピアディは幸せそうに微笑んでいる。輝くような笑顔……輝く……?
「……銀髪?」
回廊の絵をもう一度、見まわす。銀髪だ! 幼い頃の絵はどれも隣に描かれているジリオ様と同じ銀髪をしている。『成人の義』を境に、レディ・ピアディの髪色が銀髪から真っ白に変わっていた。
「ああ、僕のウーニャは成人してから髪色が変わったんだ」
ジリオ様の顔には、感情の読めない微笑みがうかんでいた。
絵のなかでフリルたっぷりのヘッドドレスをかぶり、幸せそうに微笑むレディ・ピアディは今より若干若い。そのドレスは白に近い薄いピンクのプリンセスライン。重ねられたレースの濃淡が美しく、彼女の瞳の色と同色のローズピンクのリボンがドレープを強調している。
このドレスは、伯爵邸到着時に私が着せられたドレス……レディ・ピアディが、脱いで! と、怒ったあのドレスだ。
呆然と絵の前に立ちつくしていると、べらべら絵のエピソードを語っていたジリオ様が私のようすに気づき、ちかよってきた。
「ああ、この絵は僕のウーニャの『成人の義』の記念の肖像画だね。彼女の『成人の義』に参加したかったのだけど、父の名代で戦場へ行くことになってねぇ……本当にあのときは宰相補佐なんて辞めてやる! って、真剣に考えたよ」
「……このドレスは……」
「僕のウーニャは可愛いでしょ。作らせたんだ。こんな形のドレスは作ったことないって針子に泣かれたけれど、ゆずれないよね。こればっかりは」
この世界の貴族令嬢を見たのは、シャルナ国王陛下との謁見のときと、『順応の義』のときだけだ。整列している姿をちらりと見ただけだったけれど、ここまでフリル、リボン、レースたっぷりのゴスロリ調のドレスはいなかった……
ざっと、回廊の絵に目を走らせる。最近の絵は、すべてウーニャを抱いたゴスロリ調ドレス。だけれど小さい頃のドレスは、可愛らしいが、ここまで細部までこだわった感じではない。
ジリオ様の趣味はおいておいて、あのドレスは、ジリオ様のこだわりが生みだしたレディ・ピアディのためだけのデザインなんだ。
「当時の予定では、『成人の義』が終わったあとすぐ『婚姻の署名』を交わすことになっていたから、特別なドレスを着てもらいたくて奮闘したよ。父には、おまえはいつから仕立て屋になったんだ! って、怒鳴られるし」
ジリオ様は、そのときのことを思いだしたのか? ぷりぷり怒りながら話しはじめた。
レディ・ピアディは言っていた……成人を待って、婚姻する予定だった……と、戦場に行ったジリオ様は1ヶ月後、帰ってきた……と、それから2年婚姻は延期になっている……と。
――花嫁衣装だ……あのドレスはレディ・ピアディのウエディングドレス!
目の前が真っ暗になる。怒るのは当たり前だ……もう今は小さくなって着られなくなっていたとしても、結婚式で着るはずだったドレス……ジリオ様が自分のために作らせた特別な思い出……
ジリオ様の好みのドレスを私に着せようとしたのは、わかる。でも、よりにもよってなぜ婚姻用に作られたドレスを選んだ? メイドたちは、特別なドレスだって知らなかったの? 彼女たちの悪意の影が伯爵邸に充満しているようで……吐き気がする。
「……レディ・ピアディを……守ってあげて……」
思わず、そうつぶやいていた。
「ジリオ様は私とレディ・ピアディ、どちらと婚姻を結びたいのですか?」
「それはどちらが正妻でどちらが側室になるか? って、意味?」
「いえ、私が婚姻を結ぶ相手は、唯一だけです。私以外も求めるかたとは、婚姻は結べません」
「ふ~ん、そう……それがリオの考えなんだね。私は僕のウーニャを手放す気はないよ」
彼女の愛称を呼ぶとき、かならず『僕の』とつける、今までの言動。この回廊を見れば、レディ・ピアディにたいする執着がわかる。ここはしっかりと「私とは婚姻しない」と、言質をとっておきたい。
「でも、リオには私の子供を産んでもらいたいんだけどなぁ」
ザッ! と、ジリオ様から距離をとってしまった。
「婚姻相手の子供しか産みません! レディ・ピアディに頼んでください!」
腰が引けた私を見て、ジリオ様はくすくす笑いだした。からかわれたのかな? 彼が笑うたび、光源の少ない回廊に彼の髪だけがキラキラ光る。
ふと、なにか違和感を感じて絵を見つめる……なんだろう……この違和感……絵のなかのレディ・ピアディは幸せそうに微笑んでいる。輝くような笑顔……輝く……?
「……銀髪?」
回廊の絵をもう一度、見まわす。銀髪だ! 幼い頃の絵はどれも隣に描かれているジリオ様と同じ銀髪をしている。『成人の義』を境に、レディ・ピアディの髪色が銀髪から真っ白に変わっていた。
「ああ、僕のウーニャは成人してから髪色が変わったんだ」
ジリオ様の顔には、感情の読めない微笑みがうかんでいた。
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