がんじがらめの契約と狂愛〜聖女になれなかった異邦者の唯一〜

く〜いっ

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64 ある護衛の信仰

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 ジリオーラ・エバンティス・セフィロース伯爵。27歳の若さでシシーリア聖皇国の宰相補佐を勤め、自領を急発展させている私の雇い主。聖者の末裔、エバンティス血族の次期当主。
 私は、同じエバンティス血族ながら血族魔法が使えなかった。だが、一般人より強くかけられる身体強化で体を鍛え、血族を護衛することを仕事に選んだ。
 エバンティスの栄華を約束してくれる、若き次期当主に仕え、守ることに誇りを持っていた。

 ――その敬愛するジリオーラ様が、死んだ女を腕に抱き、楽しそうにしている……

「愛しいピジュ、子供たちにおはようの挨拶をしに行こう!」
「子供? 子供がいるのか? 産まれているのか?」

 楽しそうなジリオーラ様の声に、ラズ侯爵と殴りあっていたエバンティス侯爵が、いろめきたつ。

 ジリオーラ様がやってきたのは、ウーニャの庭園……真っ白い毛をもつ愛玩動物たちのところだった。
 レディ・ピアディのために、ジリオーラ様が用意した庭園には、20匹ほどのウーニャが放し飼いされている。

「子供はどこだ? ちゃんとおまえの子か? 相手は?」

 子供を探して視線をさまよわせるエバンティス侯爵のようすを、ジリオーラ様は不思議そうに首をかしげながら観察していた。かたちのよい唇が、ぽそり……とつげる。

「ここに、こんなに沢山いるじゃないですか。私と愛しいピジュの可愛い子供たちが!」

 ジリオーラ様は、レディ・ピアディとまるでダンスを踊っているかのように……くるくるとまわりながら……ウーニャたちの群れのなかで、幸せそうに笑った。

「これは……動物だ……おまえの子では……ない」
「子供たちよ! さぁ、お母様とお父様と一緒に遊ぼう!」

 ――『僕のウーニャ』……ジリオーラ様はレディ・ピアディを、そう呼んでいた。ジリオーラ様は、いつからウーニャたちが、自分たちの子供に見えていたのだろうか?
 ウーニャの庭園に作られたものは……どれも子供のための遊具のようだった……





 私はレディ・ピアディという少女が好きではなかった。唯一神ファリアーナ様の似姿を持つと言われているのも気にいらなかったし、ジリオーラ様の横でただ笑っている姿も不快だった。
 私の信仰するファリアーナ神は、こんなどこにでもいるような普通の少女が、似ているといわれるような存在ではないはずだ!
 ファリアーナ神を敬愛する信仰心が、とくに拒絶したのが、あの長い髪だった。銀色の髪は、彩雲のように輝く虹色の髪のファリアーナ神と似ても似つかない。それなのに、あの髪がとくに似ているとセフィロース領の領民は口々に讃えていたからだ。

 そんな私がレディ・ピアディの護衛のひとりに選ばれた。ジリオーラ様が『成人の義』を終えられ、伯爵位を授かり最初にくだした命令だった。

「君たちの仕事ぶりは真面目だし、腕もたつ。私は自分の婚約者の護衛がほしい。ピジュを女神と同一視しないで、私の婚約者、ひとりの少女として守ってほしい」

 さすがジリオーラ様だ! ファリアーナ神は、なにものとも同一視されてはならない至高の存在だということを、よくわかっていらっしゃる。
 この日から、月の半分は伯爵邸でジリオーラ様とすごすレディ・ピアディの警護をし、ジリオーラ様が皇都へ行くあいだは、レディ・ピアディの護衛として、ラズ侯爵邸へお供した。

 レディ・ピアディは学園にかよわず、ラズ侯爵邸で家庭教師から教養、礼儀作法を学んでいる。

「ジリィを支えられるよう、たくさん学ばないといけないの」いつも、そう言っていた。

 妹君と楽しそうにジリオーラ様から送られた本を読んでいる姿は、ただの恋する少女だった。

 ラズ侯爵邸の教育方針は変わっていて、エバンティス血族なのに閨教育がない。だから、いつまでも血族の使命感を持たない夢見る少女のままなのかも知れない……ジリオーラ様のところへ嫁がれたら、しっかり血族の重みを知っていただきたいものだ。

 シシーリア聖皇国を狙う周辺国の動きは不穏で、いつ大きな戦闘が始まるか、油断ならない状況だった。我が国の軍事力はあまりにも脆弱だ……
 そんなおり、ジリオーラ様がエバンティス侯爵の名代で戦場へ行くことが決まった。

「ジリオーラ様、私も戦場へお供させてください。私の身体強化は、かならずお役にたてるはずです」
「いや、君には私のピジュを守っていてほしい」
「『成人の義』がおこなわれるシシーリア大聖堂には、皇族の近衛騎士団が護衛につきます。レディ・ピアディに危険がおよぶ可能性はありません。ジリオーラ様が行かれる戦場のほうが危険です」

 ジリオーラ様は、ゆるゆると首を横に振り、拒絶をしめす。

「ピジュをしっかり見ていてほしいんだ……君の目から見たピジュの『成人の義』のようすを聞きたいんだ」
「なぜ、私なのですか? 護衛ならほかにも……」
「君だからだよ! ピジュは成人するんだ。その……君はピジュに『女』を見ていないだろ」
「ジリオーラ様のご婚約者様ですよ! なにを言っているのですか!」
「それ! それだよ! 他の護衛の目には、少なからずピジュが女性とうつっている。心配なんだ。だから君がピジュをしっかり見守っていてくれ」

 ジリオーラ様は、一体なにを言っているのだろう? あんな普通の少女に『女』を見る? 

 閨教育をせず学園にかよわせない特殊な教育方針。セフィロース領の伯爵邸に日々ふえていく、レディ・ピアディをファリアーナ神と同一視させたような絵画の数々。
 これはエバンティスの血族として、レディ・ピアディは、なにか特別な役目をになっているのかも知れない……『成人の義』まで人目にふれぬよう、神と同一視するように人びとを誘導し、神秘性を高める。そのため生臭い性の知識にはふれないようにしたのか!? 護衛たちは、女神と同一視しないよう……ファリアーナ神の信仰を見失わいように、注意されている。
 私なら大丈夫だ! レディ・ピアディは普通の少女にしか思えないし、ファリアーナ神への信仰心はゆるがない。

 ジリオーラ様に、レディ・ピアディを見ていることを約束した。

 ――予想していたとおり、レディ・ピアディの『成人の義』は、『ファリアーナ神がシシーリア大聖堂に来臨された』と、大騒ぎになった。
 エバンティス血族の威光をしめす思惑は大成功といえる。さっそくジリオーラ様に報告書をしたためた。

 その夜、レディ・ピアディは皇宮から一夜の魔力の高めあいのため、呼びだしを受けた。閨教育を受けていない彼女に勤まるのだろうか? と、悩みもしたが、当主のエバンティス侯爵とレディ・ピアディの父親、ラズ侯爵が了承したことなのだから、大丈夫なのだろう……

「皇族のかたがたに、血族魔法をかけてさしあげることになったの」

 レディ・ピアディは、ニコニコと微笑みながら、そう言った。本人も理解しているのなら、問題ないだろう……私は護衛として、皇宮まで同行した。閨の部屋に護衛といえど同席はできないので、別室で待機する。レディ・ピアディには、皇宮で用意された守役がついた。
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