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65 ある護衛の後悔
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まさか1ヶ月も皇宮で待機させられるとは思わなかった……
途中、レディ・ピアディが泣きながら「帰りたい……」と、言ってきたことがあった。いくら血族の仕事中だからといっても、頭からシーツを1枚かぶっただけの姿であらわれた彼女に怒りがわいた。
「レディ・ピアディ、しっかり血族の仕事をお努めください」
「でも、魔力を高める行為は、ジリィと婚姻後にする行為と同じなのでしょ。愛する気持ちが大切な行為なのでしょ」
「今さらなにを夢見る少女のようなことを言っているのですか。それがどうしたというのです。もうあなたはエバンティス血族の仕事を始められた。ジリオーラ様の無垢な花嫁になど戻れない。血族の仕事まで放棄して、ジリオーラ様の顔に泥を塗るおつもりですか!」
彼女はビクリッ! と、肩をふるわせ、室内へ泣きながら消えた。まったく、あんなだらしのない格好で人前に出るなんて、嘆かわしい。なにがファリアーナ神の似姿だ! 神にたいしての冒涜だ!
――エバンティスのなかでも特に淫らな女だ
数日後、聞こえてきた噂に、苛立をつのらせた。裸で皇宮内を走りまわっている……だと? そんな下品な行動、とてもジリオーラ様に報告できない……彼女はエバンティス血族を繁栄に導く、ジリオーラ様にふさわしくない! ファリアーナ神の御名を使うのも、やめてもらいたい!
ジリオーラ様の和平交渉がうまくいき、戦地から戻られる日が決まると、レディ・ピアディはラズ侯爵家へ戻された。
「……もう護衛はいらないわ……わたくしはジリィにふさわしくないから、お別れするの。手紙を書くから届けてくださる?」
そう言って、うつろな瞳を馬車の窓から後方に流れる皇都の喧騒に向けていた。やっと自分が当主夫人にふさわしくないことに気がついたようだ……
私はセフィロース領の伯爵邸に戻り、ジリオーラ様の帰りを待つことにした。
帰りを待ちわびていたジリオーラ様は驚いたことに、髪が真っ白に変わったレディ・ピアディを抱きかかえて帰ってきた。レディ・ピアディは、まだ当主夫人の座にしがみつくというのか? その強欲さに呆れる。
エバンティス侯爵は、レディ・ピアディの本性を見破ったのか? ジリオーラ様との婚姻を認めなかった。
レディ・ピアディは女主人気取りで、伯爵邸に居座っている。
そんなおり、彩雲が輝き来訪者様が降臨された。ジリオーラ様が候補者になられたのだ! すばらしい! 今度こそ偽物ではないファリアーナ神の愛し子が、ジリオーラ様の伴侶になってくださる!
来訪者様の来臨を楽しみに待った。
そして、いよいよジリオーラ様と来訪者様の婚約のお披露目の夜会だ! ジリオーラ様はレディ・ピアディと最後のダンスを、来訪者様は護衛騎士とのダンスを楽しまれた。
私がジリオーラ様の婚約者としてのレディ・ピアディを護衛するのも、今晩が最後だろう……
レディ・ピアディも帝国の王太子に気にいられ、エバンティス血族でも引いてしまうぐらい淫らな閨事を見世物にするという。裸で皇宮内を走りまわるなどという、下品な行動をするレディ・ピアディには、お似合いの相手かも知れない。
「おい! そこのおまえ! これの髪を切れ! ファリアーナ神の似姿といわれている髪はこれだろ? 自国で待つ妃の土産にちょうどよい。この髪でつくったカツラをかぶせた妃と楽しむのは、愉快そうだ!」
レディ・ピアディの髪を切る? この髪がなければ、ファリアーナ神を真似ることはできない……それは、とてもよい考えだ。
レディ・ピアディの真っ白い髪を掴み、首のあたりでバサリと切り落とした。髪飾りがバラバラと音を立て、足元に散らばる……このとき、初めて彼女の髪飾りが紫水晶で、彼女の纏っているドレスがジリオーラ様の色だということに気がついた。
そのあとのことは、正直よく覚えていない。泣きながら助けを呼ぶレディ・ピアディが、初めてただの少女だと実感できていた。
手に握りしめていたはずの真っ白い髪は、いつのまにか風にあおられ、私の手のなかからサラサラとすべてこぼれ落ち、夜の闇に消えていってしまった。
――白い髪の夫人を腕に抱き、白い髪の子供たちに囲まれて幸せそうに笑う……あれは私が守りたかった、エバンティス侯爵家の未来の姿……私が、みずから切り捨てた……私の手からこぼれ落ちた……幸せのかたち……
ガクリッと膝をつき、顔をふせた……
私はなにもしなかった……あれほど誇りに思っていた護衛の仕事もせず、ただ見ていた……護衛対象は、ジリオーラ様の愛する婚約者、レディ・ピアディだったのに……「女神と同一視しないで、私の婚約者、ひとりの少女として守って!」と、懇願されたのに……誰よりも女神とレディ・ピアディを同一視していたのは私だ!
日々「血族魔法をあたえて欲しい」と、祈りつづけていたファリアーナ神への強い思いが、ひとりの少女を闇へ突き落とした。
ただの恋する少女だ! と、言っておきながら……レディ・ピアディに、誰よりも全能なファリアーナ神でいてほしいと願っていたのは……私だった……
途中、レディ・ピアディが泣きながら「帰りたい……」と、言ってきたことがあった。いくら血族の仕事中だからといっても、頭からシーツを1枚かぶっただけの姿であらわれた彼女に怒りがわいた。
「レディ・ピアディ、しっかり血族の仕事をお努めください」
「でも、魔力を高める行為は、ジリィと婚姻後にする行為と同じなのでしょ。愛する気持ちが大切な行為なのでしょ」
「今さらなにを夢見る少女のようなことを言っているのですか。それがどうしたというのです。もうあなたはエバンティス血族の仕事を始められた。ジリオーラ様の無垢な花嫁になど戻れない。血族の仕事まで放棄して、ジリオーラ様の顔に泥を塗るおつもりですか!」
彼女はビクリッ! と、肩をふるわせ、室内へ泣きながら消えた。まったく、あんなだらしのない格好で人前に出るなんて、嘆かわしい。なにがファリアーナ神の似姿だ! 神にたいしての冒涜だ!
――エバンティスのなかでも特に淫らな女だ
数日後、聞こえてきた噂に、苛立をつのらせた。裸で皇宮内を走りまわっている……だと? そんな下品な行動、とてもジリオーラ様に報告できない……彼女はエバンティス血族を繁栄に導く、ジリオーラ様にふさわしくない! ファリアーナ神の御名を使うのも、やめてもらいたい!
ジリオーラ様の和平交渉がうまくいき、戦地から戻られる日が決まると、レディ・ピアディはラズ侯爵家へ戻された。
「……もう護衛はいらないわ……わたくしはジリィにふさわしくないから、お別れするの。手紙を書くから届けてくださる?」
そう言って、うつろな瞳を馬車の窓から後方に流れる皇都の喧騒に向けていた。やっと自分が当主夫人にふさわしくないことに気がついたようだ……
私はセフィロース領の伯爵邸に戻り、ジリオーラ様の帰りを待つことにした。
帰りを待ちわびていたジリオーラ様は驚いたことに、髪が真っ白に変わったレディ・ピアディを抱きかかえて帰ってきた。レディ・ピアディは、まだ当主夫人の座にしがみつくというのか? その強欲さに呆れる。
エバンティス侯爵は、レディ・ピアディの本性を見破ったのか? ジリオーラ様との婚姻を認めなかった。
レディ・ピアディは女主人気取りで、伯爵邸に居座っている。
そんなおり、彩雲が輝き来訪者様が降臨された。ジリオーラ様が候補者になられたのだ! すばらしい! 今度こそ偽物ではないファリアーナ神の愛し子が、ジリオーラ様の伴侶になってくださる!
来訪者様の来臨を楽しみに待った。
そして、いよいよジリオーラ様と来訪者様の婚約のお披露目の夜会だ! ジリオーラ様はレディ・ピアディと最後のダンスを、来訪者様は護衛騎士とのダンスを楽しまれた。
私がジリオーラ様の婚約者としてのレディ・ピアディを護衛するのも、今晩が最後だろう……
レディ・ピアディも帝国の王太子に気にいられ、エバンティス血族でも引いてしまうぐらい淫らな閨事を見世物にするという。裸で皇宮内を走りまわるなどという、下品な行動をするレディ・ピアディには、お似合いの相手かも知れない。
「おい! そこのおまえ! これの髪を切れ! ファリアーナ神の似姿といわれている髪はこれだろ? 自国で待つ妃の土産にちょうどよい。この髪でつくったカツラをかぶせた妃と楽しむのは、愉快そうだ!」
レディ・ピアディの髪を切る? この髪がなければ、ファリアーナ神を真似ることはできない……それは、とてもよい考えだ。
レディ・ピアディの真っ白い髪を掴み、首のあたりでバサリと切り落とした。髪飾りがバラバラと音を立て、足元に散らばる……このとき、初めて彼女の髪飾りが紫水晶で、彼女の纏っているドレスがジリオーラ様の色だということに気がついた。
そのあとのことは、正直よく覚えていない。泣きながら助けを呼ぶレディ・ピアディが、初めてただの少女だと実感できていた。
手に握りしめていたはずの真っ白い髪は、いつのまにか風にあおられ、私の手のなかからサラサラとすべてこぼれ落ち、夜の闇に消えていってしまった。
――白い髪の夫人を腕に抱き、白い髪の子供たちに囲まれて幸せそうに笑う……あれは私が守りたかった、エバンティス侯爵家の未来の姿……私が、みずから切り捨てた……私の手からこぼれ落ちた……幸せのかたち……
ガクリッと膝をつき、顔をふせた……
私はなにもしなかった……あれほど誇りに思っていた護衛の仕事もせず、ただ見ていた……護衛対象は、ジリオーラ様の愛する婚約者、レディ・ピアディだったのに……「女神と同一視しないで、私の婚約者、ひとりの少女として守って!」と、懇願されたのに……誰よりも女神とレディ・ピアディを同一視していたのは私だ!
日々「血族魔法をあたえて欲しい」と、祈りつづけていたファリアーナ神への強い思いが、ひとりの少女を闇へ突き落とした。
ただの恋する少女だ! と、言っておきながら……レディ・ピアディに、誰よりも全能なファリアーナ神でいてほしいと願っていたのは……私だった……
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