番が逃げました、ただ今修羅場中〜羊獣人リノの執着と婚約破壊劇〜

く〜いっ

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6・エピローグそれって新婚旅行だよね

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「じゃあわたくしは、ガラッド様の番じゃないってことよね?」

クラリーチェが、バッと顔を上げた。

「……探しに行ってみようかしら。そうよ、決めたわ! 番を探す旅に出てみるのもおもしろいわ!」

「新婚旅行だね」

「リノに同行は許してないわ! わたくしは怒っているんですからね!」

「えへへ。荷物持ちは必要でしょ?」

満面の笑みで、当たり前のようにリノがぴったりくっついてくる。

「……ッ、めっ!」

(もう一度、盛大にしかってあげたわ!)

リノは「怒ったお姉様もかわいいなぁ」とご機嫌で、ずっと微笑んでいる。


◆◆◆

会場の隅で密談中なのは、両家の親たち……。

「狼獣人の結束が……」「家の名誉が……」

「まあ、リノの様子なら、後継者の子供は期待できるんじゃないか? 今のご時世、混血でもいいよな。リノは優秀だし、婿にしても……ぶつぶつ」

クラリーチェの父、エデルシア伯爵は混血OKの結論を出した。

「ああ~番が男なんて……結婚……無理だろ……子供……絶対無理だろう……どうしたらいいんだ……」

ガラッドの父、ミナ公爵は絶望に尻尾の毛をむしっている。

「……僕、ミナ家の婿養子になります。フリーナエ様と結婚します。」

「「!?!?」」

――空気のようになっていたウルトゥムが、ついに宣言した。

気づけば、ウルトゥムとフリーナエは、フラワーシャワー用の花かごを持ったまま、ぼーっと祭壇前に立っていた。

(その場にいた唯一の平和主義者が、新しい道を開いた瞬間だった。)

「「花嫁、花婿! 交代で!!!」」


◆◆◆

旅に出て数日。
クラリーチェは、いまだにプリプリ怒っていた。

「リノ! リノの匂いは常にそばにあったから、気がつかなかったわたくしの落ち度は認めるわ、でも勝手にマーキングするなんてダメよ!」

「えへへ、愛だからね。あっ、お姉様じゃなくて“リーリー”って呼んでいい?」

「だ、ダメよ! お姉様って呼びなさい!」

「リーリー。」

「……ッ、めっ!」

(おはようのキス、おやすみのキスは、普通に続けている。)

立派に狼の心を成長させていたリノは、いつのまにか羊の皮を脱ぎ捨てていた。
狼全開だ。

宿の荷物を軽々と肩に担ぐリノのたくましい二の腕を、クラリーチェはふいに視線で追い――

(ちょ、ちょっと……なんで……リノに……ドキッってするの……?)

「ねえ、リーリー。そんなに見られると、恥ずかしいな。」

「み、見てなんかいませんわ!」

「じゃあ、もっとちゃんと見せてあげるよ?」

「ちょっ、ちょっと待ちなさいリノ!? そ、それ以上近付いたら――ッ」

リノは、甘く低い声で囁く。

「……僕、もう弟じゃなくても、いいんだよ?」

「だ、ダメよ……ダメですったら! わたくしたち、ふれあうの禁止!」

「でも、今朝は“おはようのキス”……素直にしてくれたよね?」

「それは……毎日の習慣で……えっ? 挨拶ってやめることもあるの?……うぅー……」

クラリーチェは、ツンツンしながらも、リノの甘い攻勢にどんどん押されていく。

旅の間、
マーキング→怒る→誘惑→ドキドキ→めっ!→でもキスは続行

この甘いループを延々繰り返しているのだった。


◆◆◆

一方、ミナ公爵家は、すっかり穏健派に様変わりしていた。

「最近、戦の話も減ってきたね。」

「ええ、門番もメイドも昼寝してるし、ふふっ、池のアヒルもお昼寝中なのよ。」

「ミナ家、強硬派から、完全にお昼寝派になっちゃったね~」

ウルトゥムとフリーナエは、のんびりお茶を飲みながら笑いあう。

ミナ公爵家の噂は貴族社会に瞬く間に広がり、

『ミナ公爵家、ついにお昼寝党に鞍替え』
『強硬派崩壊、のほほん革命勃発』

とまで囁かれた。

「まあ、肉食獣獣人の権力争いが戦に発展しなければ、穏健派大賛成だよね。」

そんなのんきな会話をしていると、今日も叫び声が響いた。

「真の番はきっといる!! 真実の愛は絶対見つかるはずだ!! 信じてるぞーーー!! 番ーー!! できれば美少女でーー!!」

その声に、静寂だった屋敷が一瞬震える。

門番「……うるさいっスね。」

庭師「またか……。」

アヒル「……クワァ。」

「……義兄さん、元気で何よりだね。」ウルトゥムが笑った。

「ねぇ、今日はアップルパイ焼きましょうか。」フリーナエは兄の雄叫びを無視した。

そんな夫婦のささやかな日常は、静かで、暖かくて――
どこまでも平和だった。

「番に執着するの、時代遅れだよね。」

「ええ、自由恋愛が流行りですもの。」

「僕はね、番より愛した人と一緒になるほうがいいと思っているんだ。お姉様とリノを見て育ったから、余計にね」

「ふふっ、わたくしも相手を知って、好きになった方と一緒になりたかったの。」

二人はまた、のんびりとティータイムに戻っていく。
二人にお茶の給仕をしていたメイドは、ひっそり心ま中でつぶやいた。

(お二人は、おだやかな番だと思いますがねぇ……)

その間も、ガラッドの魂の叫びは響き続けた――。

「番ーーー!! 絶対に見つけてやるーーー!! 美少女ーーーー!!」
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